モビリティカンパニーへの変革で世界中の人の「幸せを量産」するトヨタ自動車が描く未来 企業のSDGs取り組み事例vol.19

2021年04月07日

トヨタ自動車 Deputy Chief Sustainability Officerの大塚友美さん

「SDGsに取り組んでいる企業イメージ」のアンケートでは、常に首位または上位に位置するトヨタ自動車。SDGs先進企業として、世界初の量産ハイブリッド車を開発するなど、早くから環境問題の解決に向き合ってきたトヨタが「本気で取り組む」SDGsとは? 同社のDeputy Chief Sustainability Officerの大塚友美さんにお聞きしました。

「自分以外の誰かの幸せを願い行動する」トヨタの決意

──豊田章男社長は2020年5月に開かれた決算説明会で「SDGsに本気で取り組む」と宣言されました。御社にとってSDGsはどのような位置づけなのでしょうか。

大塚 当社は2019年6月に「サステナビリティ推進室」を新設し、SDGsに本格的に取り組む体制づくりを進めてきましたが、取り組みの根底にあるのは、創業以来トヨタの経営の「核」として貫かれてきた「豊田綱領」です。

これはトヨタグループの創始者、豊田佐吉の考え方をまとめたもので、トヨタのDNAとなっています。事業活動を通じて世界中の人たちが幸せになるモノやサービスを提供すること、つまり「幸せを量産」することを目指してきた当社にとって、誰一人取り残さない社会を目指しているSDGsは企業理念とも合致します。withコロナ、アフターコロナの時代に向けて、トップ自ら「YOUの視点」、つまり自分以外の誰かの幸せを願い行動することに全力で取り組んでいます。

トヨタの経営理念を示すトヨタフィロソフィーコーン

──御社は"ハイブリッド"という言葉すらなかった時代に「プリウス」を発売、2015年には持続可能な社会の実現に向け「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表するなど、早くからSDGsへの取り組みを進めています。なぜこんなに早くから取り組みを進めることができたのですか。

大塚 当社では、「(環境技術は)普及してこそ社会に貢献できる」という考えのもと、早くから電動車への対応を進めてきました。

プリウスが最初に世の中に登場したのは、1997年です。発売当時は「ハイブリッド」という言葉は世間に全く馴染みもなく、完全に"未知のクルマ"でしたが、クルマ社会が抱える「環境」と「資源」は、いずれ誰かが取り組まなければならない課題として認識されていました。

そこでモノづくりで培った技術を生かし、これまでにない「21世紀のクルマをつくる」ことで持続可能な未来の実現を目指そうと、困難な目標に向かって取り組みを進めました。こうした考えの根底には、会社の姿勢としてもプロジェクトの進め方にしても、当時から現在のSDGsに通じる信念があったからだと思います。

トヨタでは、「トヨタ環境チャレンジ2050」を2015年に公表しました。新車から排出される走行時のCO2だけではなく、ライフサイクルで排出されるCO2にも着目するなど、6つのチャレンジを掲げ、「CO2ゼロ」と「(ゼロにとどまらない)プラスの世界」の実現に取り組んでいます。

人とクルマが心を通わせる、新しいモビリティ価値の創出

──いま、自動車業界は「CASE※」と呼ばれる技術革新を背景に、100年に一度の大変革の時代を迎えています。自動車をつくる会社からモビリティカンパニーへとモデルチェンジを進めている御社への期待がさらに高まるなか、どのように「幸せを量産」していこうとお考えでしょうか。
※Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)といった技術革新が進む新しい領域

大塚 「幸せの量産」を実現するには様々なアプローチが必要だと思いますが、次世代電気自動車「e-Palette(イー・パレット)」もそのひとつだと思っています。

イー・パレットは人の移動を支えるだけでなく、様々なモノやサービスを人のもとまで運ぶことで、"モビリティの未来" を描いています。

コロナウイルスの感染拡大によって、人々の生活様式は変化し、「人と接触せずに移動する」、さらには「人が移動するのではなく、モノやサービスが来る」など、モビリティへのニーズは多様化しています。また少子高齢化の加速により、自動運転による新しいモビリティサービスのニーズも高まってくると考えています。

実用化に向け進化したイー・パレット


イー・パレットが提供する様々なサービスを支える仕組みと技術も必要です。

お客様のモビリティサービスへのご期待は、「必要な時に、必要な場所へ、時間通りにいける」ことや、「必要な時に、必要なサービスやモノが、時間通りに提供される」ことだと思っています。これを実現するためには、ムダの徹底的排除の思想と、造り方の合理性を追い求め、生産全般をその思想で貫き、システム化した「トヨタ生産方式」の考え方を織り込むことがとても重要だと考えています。

また、地方都市の中には、過疎化により公共交通が縮小しており、免許を持たない方や免許返納後の高齢者の方にとって、通学や通院、買い物などの日常生活に支障を来すケースも増加しています。こうした課題を解決すべく、行政などと連携し、事業の枠を超えて地域貢献を目的とした活動や仕組みづくりを目指す事業にも取り組んでいます。

トヨタが描く「2030年の未来像」と実証都市「Woven City」

──SDGsは2030年までの達成目標ですが、御社の考える「2030年の未来像」に向け、モビリティと御社が果たす役割をどのようにお考えですか。

大塚 当社が思い描く未来のモビリティの姿は、すべての人に移動の自由と楽しさをお届けすることです。そのためには、皆様に愛される「愛車」をつくり続けながら、未来に向けて、「移動」に関わるあらゆるサービスを提供していく「モビリティカンパニー」でなければならないと思っています。

トヨタはこれまでも、モノづくりを通じて、社会が抱えるさまざまな課題の解決に取り組んできましたが、モビリティですべての人が自由に楽しく移動できる環境を整えることは、持続可能なまちづくりにおいて、とても大切なことだと私たちは考えています。

2020年に打ち出した「Woven City(ウーブン・シティ)」は、『ヒト中心の街』、『実証実験の街』、『未完成の街』として取り組んでいる次世代技術の実証プロジェクトです。高齢者、子育て世代の家族、発明家の方々が共に暮らす中で、多様性を受け入れ、自分以外の誰かのために働く「YOU」の視点で、社会課題の解決に向けた発明をタイムリーに生み出す場としてのプラットフォームになることを目指しています。

CASE領域をはじめ、ロボットや人工知能など、あらゆる技術を試し、ここで生み出されたものを社会に還元。あらゆるモノ、サービスをつなげることで「幸せを量産」していきたいと思っています。

人、建物、クルマなどが情報でつながる実証都市「Woven City」
 

──「幸せを量産する」ために、これまでにない「新しいクルマ」も開発されています。「MIRAI」など、次世代のモビリティは、SDGsの目標達成にどのように寄与するのでしょうか。

大塚 昨年12月にフルモデルチェンジしたFCV(燃料電池自動車)「MIRAI」は、多様なエネルギーから製造可能で地球環境・エネルギーセキュリティに貢献できる水素を燃料とする環境に配慮したクルマです。2014年に販売開始した初代モデルは、世界に先駆け量産を開始した革新的なモデルでした。


環境に優しいのはもちろん、短い燃料充填時間で長い航続距離を可能とする「究極のエコカー」MIRAI Z<オプション装着車>

導入初期は供給能力に制約があり、乗車定員や長い航続距離などの改善点もありましたが、新型は、まず「このクルマはいい、本当に欲しい」と思っていただけるクルマにすることを目指し、結果としてそれがFCVだったという選ばれ方を目標に開発してきました。

また、かつての私の担当である未来プロジェクト室が開発していたパーソナルモビリティ「TOYOTA i-ROAD」は、都市の移動をより自由に楽しんでいただくための解決手段として考えられたものでした。2週間のモニター試乗では、「乗る度に愛着が湧く」「モニター期間中名前をつけていた」など、楽しみながら乗ってくださった方が多く、あたたかいメッセージもたくさんいただきました。

都市の移動をより自由に楽しめる「TOYOTA i-ROAD」

環境にいいことや便利さはもちろん重要ですが、車に乗る楽しさや、いかに「心を動かす」モビリティであるかも非常に大事だと思っています。これからのクルマのあり方において、「心を動かす」というのはどういうことなのか、あらためて考えていかなければならないと肝に銘じています。

SDGsは共通言語。社会を変革し、成長につなげたい

──SDGsの目標達成を目指し「Mobility for All」を掲げる御社の、今後の展望や目標を教えてください。

大塚 SDGsは社内や他企業・行政の皆様と一緒に「社会課題の解決」という同じミッションに取り組むための共通言語だと思っています。

SDGsの目標達成は、トヨタだけでは実現できません。仲間を募り、それぞれの強みを活かしながら未来に向けた挑戦を続けていくことが我々の決意です。

SDGsの目標達成には、人権やダイバーシティなどの取り組みも必要です。これらの社会課題への対応を強化し、変革の中を生き抜く「人財」の多様化を進め、社会に変化を生み出すとともに、トヨタ自身の成長につなげていきたいと思っています。

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