香辛料のトップメーカー、エスビー食品が目指す、持続可能な企業と社会の実現 企業のSDGs取り組み事例vol.23

2021年08月31日

香辛料のトップメーカーとして、「『地の恵み スパイス&ハーブ』の可能性を追求し、おいしく、健やかで、明るい未来をカタチにします。」をビジョンに掲げている「エスビー食品」。SDGs採択以前から「使命感にかられサステナブル推進活動に取り組み続けてきた」という、同 管理サポートグループ 広報・IR室長 兼 サステナビリティ委員会事務局 中島康介さんに、同社の取り組みについてお聞きしました。

エスビー食品株式会社 管理サポートグループ 広報・IR室長 兼 サステナビリティ委員会事務局 中島康介さん

「スパイス先進国」の取り組みに学ぶ

──御社は、SDGsの登場前から「環境」を意識していたとお聞きしています。その理由と、どのような取り組みをされていたかについて教えてください。

中島 天産物であるスパイスやハーブが気候変動によって生産できなくなれば、当社のビジネスは持続できません。ですから、かなり早くから生態系への影響を考えて、安全・安心な原料の調達や持続可能な資源利用を模索してきました。日本国内で初めて有機スパイスに取り組んだのも、こうした背景からです。

今では有機スパイスは「オーガニックスパイス」として市場認知も高まっていますが、当社が有機スパイスに取り組み始めた2005年当時は、有機食品自体が日本国内ではまだ浸透していませんでした。

ですから、原価が高く、消費者の意識関心が低い有機食品に取り組むことは大きな挑戦でした。しかもスパイスはある程度数をそろえないとシリーズとして販売ができませんが、当時は有機栽培を行っている生産者を探すだけでも困難でした。

しかし、その頃「スパイス先進国」であるアメリカでは、比較的生活にゆとりのあるお客様が多く利用するスーパーに限ってではありましたが、有機の生鮮野菜からスパイスまでがすでに多数販売されていました。環境に配慮しようという考え方を持っているお客様が一定数いて、マーケットとして成り立っている"先進国"の現状を目の当たりにして、「この流れはいずれきっと日本にも来る」と確信し、有機スパイス製造・販売に力を入れ始めました。

最初は採算度外視で、「ナンバーワンメーカーだからやらなければいけない」という使命感だけで動いていた部分もありました。「売れないから」と、取り扱いを断られるスーパーや店舗もありましたが、「よくやってくれた! 売れるかはわからないけれど、うちの売場に置きましょう」と積極的に扱ってくれるバイヤーさんもいて、少しずつ「オーガニックスパイス」が市場に広がっていきました。

「持続可能な環境に寄与することは、"地の恵み"を事業の核とする当社にとって持続可能な企業の実現にもつながる」と話す中島さん

──「ナンバーワンメーカーとしての使命感」というのはどのようなものでしょうか? フェアトレードの分野における取り組みについても詳しく教えてください。

中島 そもそもSDGsという言葉が出る以前から、コーヒーやカカオ、スパイスなどの生産においては、児童労働や劣悪な労働環境などが課題とされてきた歴史があります。

スパイスとハーブで日本の食卓を豊かにしていくことを目指している当社にとって、生産者の方との共生は必要不可欠です。日本では、採算が取れないという理由から、フェアトレードや生態系を考えた有機農法に着手するメーカーがありませんでしたが、当社はナンバーワンメーカーとして、採算度外視で生産者の方々や地域の自然との共生という課題解決に取り組む義務があると考えました。

フェアトレード、有機認証香辛料の調達や契約栽培の拡大はもちろんですが、消費者のフェアトレードやオーガニックへの関心を高めるための工夫も行っています。

たとえば、オーガニックスパイスのパッケージをよりナチュラルなイメージにリニューアルしたところ、人気に火がつき、売り上げが200%増加した例もあります。まだファッション的に受け入れられている部分もありますが、今は興味関心を持ってくださる方を増やすことが重要と考え、今後も普及促進には力を入れていきたいと思っています。

パッケージリニューアルしたオーガニックスパイスシリーズ。フェアトレード認証商品にはマークがついている

「情報開示型三方よし」でSDGsを推進

──中期経営計画の中で「ESGやSDGsを取り入れて事業を通じて社会貢献していく」ことを宣言しています。社会貢献とビジネスの両立をどのようにお考えですか?

中島 2020年に発表した第2次中期経営計画では、基本方針に「お客様のしあわせ」「従業員のしあわせ」「未来の人々のしあわせ」を掲げ、環境負荷低減やダイバーシティなどさまざまな社会的課題の解決をエスビー食品グループにとっての経営上の重要な課題として捉え、すべてのステークホルダーの皆様の信頼が得られるように、コーポレート・ガバナンス体制も強化しています。

もはやSDGsに取り組まないことはリスクといわれる時代ですが、気候変動や人権問題への関心の高まりからESG投資も急速に拡大しています。

日本では昔から「売り手によし、買い手によし、世間によし」を示す「三方よし」というSDGsに通ずる経営哲学がありますが、一方でそれを内に秘め、表に出さないことが美徳とされてきました。しかしSDGsにおいては、情報開示が重要といわれています。せっかく持続可能な取り組みをしていても、情報開示しなければ、パートナーシップもグローバルな資金調達も得られません。ですから積極的に情報を開示し、「情報開示型三方よし」を目指していくことがビジネスとの両立においては大事ではないかと思っています。

──御社のビジョンの実現に向け、原料調達を重要課題に掲げ、3つのコミットメントを制定しています。具体的な取り組みと、効果について、教えてください。

中島 1つめは持続可能な主要香辛料調達の取り組みです。
安全・人権・環境・コンプライアンスに配慮した持続可能な調達を目指すほか、フェアトレードや有機認証香辛料の調達や契約栽培の拡大も引き続き進めています。

2つめは持続可能なパーム油調達の取り組みです。
国産初のカレー粉を製造した当社には「カレーのメーカーである」という自負もあります。カレールウの中にはパーム油を使っている商品もあることから、2017年10月に、日本の食品メーカーでは初めてRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に加盟しました。2018年11月からは認証パーム油の使用を開始し、対象商品を増やしながら、2023年までに100%の切り替えを目指しています。

3つめは、持続可能な紙の調達です。
製品に使用する紙の資材を適切な森林資源由来であるFSC認証紙に切り替えることにより、環境負荷を低減させ、持続可能な森林資源の利用を積極的に進めていきます。2023年までにカレーなどのルウ製品、レトルトおよびチューブ入り香辛料に使用しているパッケージを、100%FSC(森林管理協議会)認証紙へと切り替えることを目指しています。

SDGsはトップダウンとボトムダウンの両輪が必要

──SDGsの目標達成には何が重要だと思われますか。

中島 グローバルではすでに、自社のみならず取引先やサプライチェーン全体に持続可能性を求める動きが広がっています。SDGsは1社だけで実現できるものではありません。当社では、世界中のサプライヤー、ビジネスパートナーをはじめ、すべてのステークホルダーの皆様とのパートナーシップ強化にも力を入れています。

当社だけがすばらしいスパイスを入手して利益を回していくだけではなく、サプライヤーやその先の生産者のみなさんも持続可能な状態であるかどうかはとても重要だと考えています。そこでサプライヤーに対して、購買基本方針の5項目に基づいた書面調査を行いました。その調査回答をもとに、強制労働や児童労働が行われていないかなどをオンライン会議で確認し、その課題がある場合にはパートナーとして共に解決策を探る取り組みも始めています。

書面回収率は、1回目で100%、さらに深掘りした2回目の調査でも80%と高水準で、サプライヤーの意識の高さをあらためて実感しています。

──フードロス軽減のためにもさまざまな取り組みをされているそうですね。

中島 コロナ禍で巣ごもり需要が増えたことで、スパイスやハーブの売り上げは増加したのですが、同時に「1回使っただけ」「使い方がわからない」というお声も多く寄せられました。そこで、こうした「休眠スパイス」を最後まで使っていただけるよう、公式サイトで「いつものメニューを大きく変えるスパイスの活用法」の紹介ページを開設しています。

メディアなどにも積極的に出演して、お客様の目に触れる機会が増えるよう、PR活動を行っています。

スパイスをクリックすると、そのスパイスを使って簡単にできるレシピページにジャンプ。テレビでも紹介されて話題となった。

食品ロスの削減や環境への負荷低減という点では、残量が見えやすく絞り出しやすい形状を採用するほか、香りや色が長持ちする容器を開発して賞味期間を伸ばすなど、さまざまな改良を重ねています。

中身が空気に触れにくく、賞味期限の延長も実現した大容量タイプのチューブ(左)と、残量がひと目でわかる窓付きスパイス(右)

社員教育にも力を入れ「自分ゴト」化を促進

──SDGs目標達成のために課題と感じているのはどんなことですか?

中島 サプライヤー教育やお客様への情報発信と合わせて、社員教育も重要と考えています。たとえば、オーガニックとかフェアトレード認証の商品を積極的にお客様に提案することが間接的に自分の部署の成績向上に貢献しているという「腹落ち」がないと、「うちの部には関係ない」となってしまいかねません。

現在、中期経営計画の中に「非財務目標」を掲げていますが、考え方によってはこの「非財務目標」は「超長期視点で見た財務目標」ともいえるのではないでしょうか。この分野も適切に対応していくことが企業の持続性と成長性に重要であるということを社内にも伝えていきたいと思います。

さらに今年3月には、「SDGs推進チーム」を新しく立ち上げました。業界動向や先進企業のSDGsへの取り組みに関する情報収集、更にはeラーニングなどを活用した社員教育の専門チームとして大いに期待しています。

SDGsの実現には、トップダウンとボトムアップの両輪が必要です。全社でひとつのゴールに向かって同じ方向を向いて進んでいくために、しっかりと社員1人ひとりが「腹落ち」できるよう働きかけていく予定です。

──最後に。御社にとって「SDGsとは?」
中島 SDGsは、世界共通の言語だと思っています。この共通言語を使って、関わるすべてのステークホルダーの皆様とコミュニケーションを取り、パートナーシップを結ぶことによって企業と社会の実現を目指していきたいと思っています。

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