「世界のCSV先進企業」を目指す、グローバルカンパニーのキリンが取り組む新たな価値創出 企業のSDGs取り組み事例vol.26

2021年12月03日

SDGsが採択される以前から、本業のビジネスを通じて社会課題を解決していく「CSV」を経営戦略の中心に据えてきたキリングループ。お客様やステークホルダーと協働し、地球環境にも社員にもポジティブな影響を創出してきたキリンのSDGsについてお聞きしました。

写真左から、キリンビバレッジ株式会社 マーケティング部 ブランド担当 加藤麻里子さん、同 CSV戦略部 藤原啓一郎さん、同 草野結子さん

東日本大震災がCSV経営のきっかけ

──御社はSDGsが採択される以前の2013年から、本業のビジネスを通じて社会課題を解決していく「CSV」を経営戦略の中心に据え、2050年を見据えた長期戦略「キリングループ長期環境ビジョン」も策定されています。ビジネスを通じて社会課題を解決していく、という考えに至った経緯とその背景を教えてください。

草野 当社は創業以来、事業を通じて社会課題と向き合い、新たな商品を創造してきました。ですが、CSV経営へと大きく舵を切ったきっかけは、2011年の東日本大震災です。

地震と津波の影響で、長い歴史を持っていた仙台のキリンビールの工場が大きな被害を受けました。当時、復旧は難しいと思われましたし、従業員の中には家族が被災された方もいました。

2011年3月に発生した「東日本大地震」によって、東北は甚大な被害を被った。
当時、日本中の誰もが、「復興までの道のりは果てしなく遠いもの」と悲嘆に暮れていた 写真はイメージ(Adobe Stock)

現地では、「東北からの撤退もやむを得ないのではないか」というムードもありました。しかし当社の経営陣は、重要戦略のひとつとして、震災の復興支援に乗り出しました。

──現地の人ですら絶望する状況の中で、経営陣が工場の再開を重要視した理由は何だったのでしょうか?

草野 ひとつは、当社の東北エリアのサプライチェーンがなくなってしまう危機感が大きかったこと。加えて、東北地方の経済復興や地域の雇用維持、何より工場で働く従業員のことを考えたからです。

そうした思いを形にすべく、"人と人の絆を育む"をテーマに2011年7月に「復興応援 キリン絆プロジェクト」を立ち上げ、グループ一丸となって「東北復興応援」の取り組みをスタートさせました。

2011年からスタートした「復興応援 キリン絆プロジェクト

絶望的な状況の中で、従業員同士で協力して前に進んだ結果、震災から8ヵ月後の11月には岩手県遠野市で収穫したホップを使用した「一番搾り とれたてホップ生ビール」の発売まで漕ぎ着けることができました。

「2011年の東日本大震災がCSV経営への転換につながった」と話す草野さん
写真右は「一番搾り とれたてホップ生ビール」

藤原 義援金や寄付金のような一時的な支援だけだと、使ってしまったら終わりで次につながりません。そのため、長期的な支援持続のために、社会に貢献しながら経済価値を創出していくという戦略に舵を切ったのです。

キリングループは、2011年から、東日本大震災の復興支援を継続的に取り組むべく、3年間で60億円を拠出することを決め、活動を進めた

具体的には、原発事故の風評被害に苦しんでいた福島の生産者と協力して開発した「キリン氷結® 福島産和梨」の発売や、東北のホップ産業支援など、地域発展につながる経済活動を行ってきました。

加藤 2021年に発足した「午後ティーHAPPINESSプロジェクト」は、復興に向けて前へ進む方々の想いと、全国の午後の紅茶を飲んで下さるお客様の応援の気持ちをつなぐ活動です。

当社の代表商品でもある「午後の紅茶」の発売35周年を記念して、2016年の熊本地震で大きな被害を受けた熊本県と共に、「キリン 午後の紅茶for HAPPINESS 熊本県産いちごティー」を発売。商品1本につき3.9円(サンキュー)を熊本県の復興応援のために活用します。

「キリン 午後の紅茶 for HAPPINESS 熊本県産いちごティー」

ほかにもキリングループでは、日本有数の熊本の農業・畜産復興のために、さまざまなサポートを行なった

SDGsで事業拡大と持続可能なまちづくりを

──東北のホップを使った商品開発(ホップ産業支援)も、福島や熊本の復興応援商品の開発・販売なども、まさにSDGs的な「事業と社会課題解決の両立」を実現している取り組みと言えそうです。

藤原 グループのメルシャンの夢は自社のワインが海外で認められ売れることです。しかしそのためにはメルシャンだけでは無理で、ワインの世界ではボルドーやブルゴーニュなどのように地域で認められないといけない。だから、自社ワイナリーのある山梨県甲州市勝沼町にある他のワイナリーにワインの技術を公開し、勝沼のワインすべてを良くしようとしてきました。

勝沼のワインすべてを良くしようとしてきた」と語る藤原さん

現地に足を運び、共に目標達成に向かい歩む

──スリランカでの紅茶農園支援も、2007年から取り組まれています。ここにも「市場を育てていく」という視点があるのでしょうか?

加藤 はい。午後の紅茶は35年前の発売当時から、スリランカの農園でつくられた紅茶葉を原料にしてきました。しかし、この先も持続的に安心でおいしい紅茶をつくり続けていくためには、原料となる紅茶葉が安定して供給されることが大切です。

そこで、紅茶農園の持続性を高め、将来にわたって良質な茶葉を安定的に供給してもらえるよう、「キリン スリランカフレンドシッププロジェクト」を2007年にスタートしました。

具体的には、スリランカの紅茶農園が、より持続可能な農園認証を取得するための支援と、農園の子供達が通う学校に図書を寄贈する2つの活動を行っています。

キリン スリランカフレンドシッププロジェクト

藤原 同プロジェクトは、スリランカの紅茶農園が「レインフォレスト・アライアンス」という国際的な認証支援を取得できるよう支援する取り組みです。

「レインフォレスト・アライアンス認証※」とは、農園で働く環境や、自然環境の保護、農業経営を続けることのすべてが持続可能であるかどうかを認証する、国際的な制度です。

農薬の適切な使用法や児童労働の禁止、労働者の健康管理などに厳しいチェックが設けられ、労働者の就労環境はもちろん、日常の生活向上や子どもたちの教育環境向上にもつながります。

当社では、年に一度は現地におもむき、農園マネージャーらとともに、ひとつひとつ課題をクリアしていきました。

加藤 2020年2月に発表した「キリングループ環境ビジョン2050」で、持続可能な「生物資源」を真っ先に掲げている理由も、そこにあります。原料がなければ、商品はつくれません。そうなっては、当社の事業自体が持続可能ではなくなってしまいますから。

「キリングループ環境ビジョン2050」では、「生物資源」をキリングループが注力する分野のひとつとして掲げている

※レインフォレスト・アライアンス認証:自然と作り手を守りながら、より持続可能な農法に取り組むと認められた農園に対してあたえられる認証
https://www.rainforest-alliance.org/ja/

ポジティブインパクトで豊かな地球を

──「午後の紅茶」35周年サイトでは、オリジナルアニメの制作もされています。アニメやマンガは、SDGsの推進にどのように有効だと思われますか。反響についても教えてください。

加藤 SDGsの取り組みに賛同してくれるパートナーシップや"ファン"を広げるために、発信はとても重要ですが、アニメやマンガを活用した発信のいちばんの効果は、より多くの人に届けられることだと思います。

当社がスリランカの紅茶農園の認証取得支援をしていることはこれまでほとんど知られていませんでしたが、アニメCMを流したことで、一般消費者の方の認知度が2倍以上になりました。アニメやマンガを使った発信は、共感を生みやすいこともあってか、想像以上に高い効果が得られたと感じています。

──SDGsは届け方も大事な要素なのですね。最後に、SDGsの取り組みで御社が大事にされていることを教えてください。

「手を挙げると認めてもらえる社風。『キリン 午後の紅茶for HAPPINESS熊本県産いちごティー』は私のチームの発案です」(加藤さん)

加藤 「午後の紅茶」は、紅茶市場において約5割を占めるブランドですが、商品にまったく関係のないSDGs的な取り組みを突然はじめても、「午後の紅茶はなぜ急にこんなことを始めたのか」と消費者の方は戸惑ってしまいます。

ですから、SDGsに取り組むうえで、事業の延長にあることは重要な要素のひとつだと感じています。

たとえば、「キリン 午後の紅茶for HAPPINESS熊本県産いちごティー」は、「キリン絆プロジェクト」で培ってきた復興支援の力と、2016年から2018年まで熊本県の南阿蘇で午後の紅茶のCM撮影をしてきたご縁によって生まれた商品です。

こうした商品を通じた社会課題の解決は、消費者の方にとっても受け入れやすいのが特徴だと思います。

草野 当社では、経営戦略の中核としてCSV経営を行っていますが、先ほどのスリランカでの取り組み等、環境テーマで目指しているのはバリューチェーン全体から社会全体に対象を拡大し、これからの世代を担う若者をはじめとする社会とともにこころ豊かな地球を次世代につなげていくことです。

自社で完結するものに限らず、社会全体へポジティブな影響を与えられる取り組みに広げていきたいですね。

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