2020年04月28日
<連載>サステナブル・マーケティングのすすめ
「サステナブル・マーケティング」をキーワードに、令和におけるマーケティング戦略を考察していく連載コラム。
コロナ禍によってイベントやリアルな集客ができない今、オンラインでどのようなマーケティングアプローチができるのでしょうか。
最近になってアーティストやクリエイターを中心に、新しい表現を模索する活動が増えつつあります。厳しい状況を逆手に取った企画や、SNSを通じて消費者から共感を得ている事例を紹介し、その傾向から今後のマーケティングのヒントを探ります。
新型コロナウイルスの感染リスクを減らすべく、私たちは生活のあらゆる行動を制限されることになりました。 "STAY HOME"が世界共通の合言葉になった今、マーケターが提供し得るコンテンツの条件は限られています。
人々が求めているのは、
●家にいながらどのように働くか?
●家のなかでどんな楽しみ方があるか?
●人と会えなくても、人とつながる方法はあるか?
●正しい情報をどのように得て、どう対処するか?
このような疑問や不安であり、これらを解消しながら共感できる施策や試みです。
今回はこうしたポイントを意識しつつ、コロナ禍における表現手法やコンテンツ制作の事例をまとめます。
テレワークやオンライン飲み会の需要が高まったことで、複数人がビデオ通話をつなぐことのできるオンライン会議ツール「Zoom」が普及しています。
Zoomはコロナ禍以前から利用されていたツールですが、これまでオンライン会議の機会がなかったユーザーへの利用が増え、一般的なツールへと発展しつつあります。このZoomの特性を生かした表現に挑戦する姿が増えてきました。
CHOCOLATE Inc.によるプロジェクト「劇団テレワーク」は、Zoomを利用した即興劇をYouTubeライブで公開しています。演者がそれぞれの部屋から配信し、即興でコミュニケーションを取るからこそ生まれる予想外の展開を楽しむところが、この公演の魅力です。
各回の公演にはテーマが設けられていますが、視聴者が展開に対してコメントを書くとそのコメントによって展開が変わるという参加型コンテンツもあります。
劇場で味わう感動をオンライン上で再現するというよりは、オンラインだからこそ実現可能なエンターテインメントを実現させました。Zoom演劇の可能性を示した取り組みと言えるでしょう。
Zoomを利用した演劇公演をもう一例挙げます。
劇団Pitymanは、コロナ禍で中止となった公演「ぜんぶのあさとよるを」をZoom版に切り替え、新たなシナリオでYouTubeにて発表しました。
本来の公演で登場するはずだった人物たちが、それぞれZoomで会話する短編として再構成した本編は、まったく別の作品として生まれ変わっています。
編み出される会話や視線、呼吸などからそれぞれの人間関係や距離を描き、それを視聴者に想像させるZoom公演は、離れた場所で想い合う人々の現状に迫る作品とも言えます。
その場でしか伝わらない感動があると思い込んできた私たちに、こうしたオンラインを活用した表現方法は、新たな感動の契機をもたらしました。
このような表現を現状の自分たちと重ね、感動する視聴者がいることは、今後こうした表現手法が一層受け入れられていく可能性を示唆しています。
ビデオ通話同様、その価値を再認識され始めているのがVRです。ヘッドマウントディスプレイを装着して楽しむVRは、仮想空間にいるような感覚でコンテンツを享受できます。その没入感は、オフラインでの体験に劣らない、あるいはそれ以上の感動を提供するかもしれません。
VRプラットフォーム「VARK」では、人気Vtuberなどによる仮想空間内でのライブコンテンツを配信しています。チケットを購入して所定の時間にアクセスすると、仮想空間のライブが始まり、ユーザーはその空間や他参加者との一体感を味わいながらライブを観覧できます。
2020年4月、ドリーム・シェアリング・サービス「FiNANCiE」は、新型コロナウイルスの影響でライブや活動を中止せざるを得ないアーティストを支援することを目的に、「VARK」との提携を発表しました。アーティストがファンにトークンを販売し、VRライブプラットフォームでライブ開催するまでのクラウドファンディングというしくみのソリューションを提供します。
VRプラットフォームを利用したライブ開催がアーティストに浸透すれば、ファンとのコミュニケーションの場であり感動を提供する場であるライブを、オンラインで実施するという選択肢が増えます。新型コロナウイルスの混乱が収束するまでの間に、ライブエンターテインメントの形が大きく変わる可能性があるでしょう。
人々の先行きの不安が高まるなか、"つながり"を可視化するコラボレーション企画がSNS上で流行しています。
その象徴ともいえるのが、アーティスト星野源さんが自身のSNSで投稿したご存じのオリジナルソング「#うちで踊ろう」です。
この投稿は自由に使用することができ、歌を重ねたり、ダンスをしたり、別の楽器でセッションしたりと、多くの人々が星野源さんの想いに共感を示す形でコラボレーション動画を投稿しました。
他にも、オーケストラ演奏までも遠隔で実現したコラボレーション事例があります。
新日本フィルハーモニー交響楽団の有志楽団員は、それぞれの自宅での演奏を撮影し、テレワーク合奏を行いました。YouTubeに公開された質の高い演奏と、最終的に集まった総勢62名による大合奏は、大きな反響を呼びました。
一同に集まることができず活動再開の目途が立たないなかでプロフェッショナルたちが挑んだ試みは、多くの人々に感動をもたらしています。
人々が生活のなかで無意識に享受してきた"つながり"が分断された今だからこそ、オンラインツールを用いて人と人がつながろうと活動を続ける姿は、人々の心に届き共感を得ています。
その共感は参加という主体的な行動を伴いながら更に多くの人々に広がる潜在力を秘めており、同時に多くの人々が求める"つながり"の提供にもなるのです。
アーティストたちが新たな表現方法を模索し、オンラインツールを駆使したコンテンツを生み出すなか、広告業界にもすでに変化が見え始めています。
2020年4月にリリースされたポカリスエットのCMは、それぞれのスマートフォンで自撮りする学生たちがそれぞれの場所で歌う"NEO合唱"を主題にしました。学校生活を舞台にしたCMの多かったポカリスエットが、Zoomのようにそれぞれの画面を並べる構成で各自の部屋にスポットを当てています。
学校生活の定義が激変した現状と、仲間に会えない日々が続く学生のリアルに寄り添った表現と言えるでしょう。
アパレルブランドZARAは、外出自粛中のモデルが自宅で撮影した写真をそのままオンラインストアで起用したことで話題になりました。
外出自粛を求められる人々が増えるなか、ファッションに対するニーズは自宅でおしゃれに着こなすためのイメージへと変わりつつあります。モデル自身が在宅中に撮影するアイデアは、このニーズにうまく応えています。
従来のアプローチが難しくなった昨今、インフルエンサーやクリエイターが関わるプロジェクトは一時的に減少しています。オフラインの現場を中心に活躍してきたカメラマンや、イベント仕事の多かったモデルなどの職種に就く人々は、最も影響を受けているでしょう。
現場で仕事ができないなかで、どのようなサービスプロジェクトを進めることが可能か、それぞれの模索が続いています。
例えば、プロのカメラマンが適切な指示を出しながら遠隔で撮影を行なうオンライン撮影サービスや、インフルエンサーが自宅から商品訴求に資する動画を投稿するサービスなど、さまざまな取り組みが生まれ始めています。
こうした彼らの現状を企業が活かすならば、今までスケジュールを空けるのが難しかった人気クリエイターや、訴求力のあるインフルエンサーと連携するのに絶好のタイミングと考えることもできます。
訴求力の高いインフルエンサーや、クオリティの高い実績を持つクリエイターとの関係性を構築し、将来的に大きな価値をもたらす広告の戦略を共に創り上げていく土台を築くことが、今だからこそできることかもしれません。
多くの人々が不安や混乱の渦中にあるなか、これまで通りにメッセージを伝えることは容易ではありません。しかし一方で、一人ひとりが置かれる現状や変化を考えていけば、それに寄り添った表現方法はおのずと定まってきます。
クリエイターやアーティストが、さまざまな表現手法を模索しながら活動を続けるなかで、新たに見えてきた人々の感動や共感のかたちがあります。
その作品や活動の持つエネルギーを搾取するのではなく、学び、協力する形でマーケティングに活かすことができたならば、今後につながる戦略は一層見えやすくなるでしょう。