2020年08月12日
日清食品ホールディングス株式会社 CSR推進室 室長 花本 和弦さん
戦後の日本で、食糧難や栄養不足に苦しむ人々を見て食の大切さを痛感し、世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を生み出した日清食品の創業者 安藤百福。"食で人々の健康と平和に貢献したい"という思いは、現在もグループ全体の理念として継承され続けています。そんな同社のSDGsへの取り組みについて、CSR推進室の花本和弦室長にお話を聞きました。
──日清食品グループの創業者・安藤百福さんは、創業時(1948年)から現在の「SDGs」に通じる理念を提唱されています。
花本 はい。安藤百福は、「食足世平」「食創為世」「美健賢食」「食為聖職」という4つの言葉を掲げました。この創業者精神はまさに"SDGsに重なるもの"だと感じています。ですから当社では、そのための特別なアクションというよりも、これまでの活動がSDGsと結びついた、という感覚でさまざまな取り組みを進めています。
──チキンラーメンは発売から今年で62年、カップヌードルは来年50周年を迎えます。半世紀以上も愛され続ける理由は、創業時から"未来"を見据えていたからなのかもしれませんね。
花本 おかげさまで、どちらも半世紀を超えて人々に愛され続け、誰もが商品に関わった思い出を持っているブランドへと成長できました。これはとてもありがたいことです。しかし一方で、ブランドを守っていくためには、時代に合わせて進化することも必要です。そのために、精神はそのままに、「製品は進化し続けている」んです。
──今年6月に「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を発表。「気候変動問題への対策」を重要経営課題と位置づけています。これも進化(変革)のひとつと捉えていいのでしょうか。
花本 はい。もともと、インスタントラーメンはライフサイクルにおけるCO2排出量が少ない製品です。当社では、これからもおいしさはもちろん、「食」の楽しみや喜びを通じて、社会や地球に貢献することを目指して進化し続けていきたいと考えています。
昨今は地球規模で環境問題が顕在化しており、持続的成長を目指す企業の責任としてこれ以上見過ごすわけにはいきません。こうした強い使命感から、CO2排出量削減をはじめとして、気候変動に対する取り組みや資源の有効活用に関する目標を定め、さまざまな取り組みを進めていくことを宣言しました。
「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」は、地球と未来のために取り組む、日清食品グループ全体の環境戦略
花本 同戦略は、地球資源を取り巻く環境の保護や資源の有効活用に挑戦する「資源有効活用へのチャレンジ (EARTH MATERIAL CHALLENGE)」、日清食品グループの事業活動全般におけるCO2排出量削減に挑戦する「気候変動問題へのチャレンジ (GREEN FOOD CHALLENGE)」の2つを柱としています。
EARTH MATERIAL CHALLENGEでは、「地球にやさしい調達」「地球資源の節約」「ごみの無い地球」の3つをテーマに据えて活動。具体的な目標として、持続可能なパーム油の調達比率を100%にする、廃棄物の再資源化率99.5%を目指すなど、具体的な数値を設定しています。またGREEN FOOD CHALLENGEでは、「グリーンな電力で作る」「グリーンな食材で作る」「グリーンな包材で届ける」の3つを活動テーマに据え、自社で排出するCO2の30%削減、自社のバリューチェーンにおけるCO2排出量15%削減を目指します。
またEARTH FOOD CHALLENGE2030とは別に、「地球と人の未来のために、すぐやろう」をキャッチフレーズに、今すべきこと、今できることにすぐに取り組む「カップヌードル DO IT NOW!」プロジェクトもスタートしています。
──「今すべきことを、すぐやろう」「今できることを、すぐやろう」という呼びかけは、非常にシンプルで分かりやすいですね。具体的には、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
花本 "環境"に関しては、「カップヌードル」ブランドの製品で使用する容器を、環境負荷の少ない「バイオマスECOカップ」に切り替えを開始しました。また持続可能なパーム油の調達も進めており、「カップヌードル」を製造する国内全工場でRSPO認証油の調達を開始しています。
"防災"に関しては、自然災害など万一のときでも、いつものおいしさを安心して食べられる防災備蓄商品として「カップヌードル ローリングストックセット」を発売しています。"健康"に関しては、カップヌードルの味わいと食べ応えはそのままに、通常の「カップヌードル」に比べて30%の減塩を実現した「カップヌードル ソルトオフ」を発売するなど、これからも「カップヌードル」は社会環境や消費者意識の変化に対応しながら、常に進化を続けていきます。
「カップヌードル」の容器にも、地球環境への配慮がされている
──時代の変化に対応し続ける。そこにはどんな"想い"があるのでしょうか。
花本 昨今、「社会や環境課題の解決につながる製品を購入したい」と考えるお客様が増えてきているように感じます。こうした取り組みを通して、さらにお客様に愛される日清食品グループでありたいと思っています。
──地域や社会への貢献活動という点では、10年以上前から「百福士(ひゃくふくし)プロジェクト」と題して、さまざまな取り組みも行っています。SDGsの先駆けともいえるこのプロジェクトは、どうやって生まれたのですか。
花本 「百福士プロジェクト」は、創業50周年を迎えた2008年にスタートしました。社会貢献活動に情熱を注いだ創業者の志を継ぎ、「創造」「食」「地球」「健康」「子どもたち」という5つの活動テーマで、創業100年までの50年間で100の社会貢献を目標に、「たのしくて世の中のためになる」活動を行っています。
今年2月には、プラスチック廃棄物問題を扱った「みんなで考えよう、プラスチックのこと! 日清"プラ育"プロジェクト」を実施。「チキンラーメン」の包装フィルムを使用したオリジナルポーチ作りを行い、親子で楽しみながら環境について考えてもらう機会を提供しました。
2日間で113組の親子が参加した「"プラ育"プロジェクト」。
「楽しみながら環境意識が向上できた」と参加者から好評を博した
──社会への貢献活動といえば、今回の新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおいても、御社が開発されたインスタントラーメンが大活躍しました。
花本 お湯さえあれば、いつでもどこでもあたたかい食事が食べられるインスタントラーメンは、災害時に非常に役に立つ食品です。海外においても自然災害などの有事の際は、WINA(World Instant Noodles Association:世界ラーメン協会)を通じて、当社は被災地にインスタントラーメンを贈る食糧支援を行っています。
ありがたいことに、そのたびに、うれしいお声が届きます。不安が心に広がるなか、お湯ひとつで"いつもの味"に出会えると、そこに安心感も生まれるのかもしれません。「温かいカップヌードルを食べて元気が出た」というお声をいただくことが多く、そのたびに、当社の製品が日頃から多くの方々に愛されていることを実感します。
今年7月には、新型コロナウイルス感染症による支援を必要とする方々に向けて、日清食品ホールディングス株式会社の米国現地法人である米国日清とWINAの共同で、「カップヌードル」と袋麺合計6万4千食を、現地のFood Bankなどに無償提供しました。
ちょうど昨年の8月に、日常的に消費しながら使った分を買い足していく災害備蓄方法「ローリングストック」の認知向上を目指したイベントを行っていたことも、今回のパンデミックで少しはお役に立てたかもしれません。
同イベントでは、ローリングストックを実践し、周囲にも実践を促す人々を「ローリングストッカーズ」と名付け、全国各地のイベントやスーパーなどで啓発活動を行いました。この取り組みは高く評価され、「第6回 ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)」(※)の「最優秀賞」も受賞しています。
──最後に。御社にとってSDGsとは何かを教えてください。
花本 SDGsは、未来を考えるキーワードだと思っています。社員一人ひとりが通常業務の延長線上に「どんな未来にしたいか」を思い描き、その「ゴール」に向けて取り組むことで、グループ理念の実現とSDGs達成に貢献できると考えています。
これからも創業者精神はそのままに、お客様に愛され続ける日清食品グループとして、さまざまな面で進化し続けていきたいと思います。
半世紀以上にわたり継承される、創業者精神。その心は現代におけるSDGsと共鳴し、同社の歩みをさらに強固なものとしています。「チキンラーメン」、「カップヌードル」を食べることが世界平和や社会貢献につながる。その未来に向かって、進化し続ける同社の取り組みに、今後さらに注目が集まりそうです。
※ジャパン・レジリエンス・アワード:次世代に向けた、気候関連災害や自然災害に対するレジリエンス(強靭性)社会構築への取り組みを発掘・評価・表彰する制度。