2020年07月08日
創業以来、感染予防の医薬品メーカーとして、社会的課題の解決に真摯に向き合ってきたサラヤ株式会社。SDGsを企業活動目標に取り入れ、全社員が社章とともにSDGsバッジを着用するなど、徹底した取り組みを続けています。その始まりは、「テレビ番組」から生まれた"誤解"にありました。同社が取り組むSDGs活動、そしてその背景などについて、取締役・コミュニケーション本部長の代島裕世さんに聞きました。
サラヤ株式会社 コミュニケーション本部 取締役本部長 代島裕世さん
──ボルネオの生物多様性の保全、ウガンダの衛生向上、羅漢果の持続可能な調達など、さまざまな取り組みでSDGsの目標達成に貢献しています。こうしたソーシャルビジネスへの取り組みはいつ頃から行っているのでしょうか。
代島 弊社の看板商品でもある「ヤシノミ洗剤」は、環境にも人の肌にも優しい天然の植物油脂を使うことで、排水による河川汚染対策に貢献してきました。しかし2004年に、テレビ番組で「ヤシノミ洗剤の主な原材料であるパーム油・パーム核油を採るためのアブラヤシ栽培プランテーションにより、ボルネオの環境破壊が進んでいる」と紹介され、大きな誤解を生むことになりました。
実際は、パーム油は植物油として世界中で使用され、ヤシノミ洗剤が使用しているのはごくわずか。しかしながら、私たちはこれを機に原料産地での環境問題を知り、以来、パーム油を使う企業として、率先してボルネオの熱帯雨林や生物多様性の保全活動に取り組んでいます。
──戦後間もない日本で、赤痢などの伝染病が多発する中、劣悪な衛生環境が原因で失われる命を守りたいという思いから生まれたサラヤ。SDGs ゴール3の「すべての人に健康と福祉を」の達成にも、非常に注力されている印象です。
代島 はい。1952年、日本ではじめて薬用手洗い石けん液と石けん液容器を開発・事業化したのは弊社です。これまでに、アルコール手指消毒剤の開発など、製品の進化で日本の衛生環境向上に寄与してきました。2009年に新型インフルエンザ・パンデミックを経験した後、ユニセフが2008年から10月15日を正しい手洗い方法を普及する「世界手洗いの日」を制定した世界キャンペーンを知り、サラヤ独自のユニセフ支援活動を計画。2010年に「100万人の手洗いプロジェクト」を立ち上げました。
そこには、世界では、途上国を中心にまだ1日に約16,000人もの5歳未満の子どもたちが劣悪な衛生状態で命を失っている。その現状をなんとかしたいという思いもありました。
現在、国内販売している対象衛生商品の売上1%を寄付し、アフリカ・ウガンダで展開するユニセフ手洗い促進活動を支援しています。ウガンダ現地での簡易手洗い設備(Tippy Tap)の設置や、子どもたちへの教育や自主的な衛生活動のサポート、母親への啓発活動、現地メディアでの手洗いキャンペーンの展開など、住民が石けんを使った正しい手洗いを知り、自ら広めていくことを目指しています。
──SDGsに取り組むには、どんなことが重要だとお考えですか。
代島 ボルネオの環境保全から始まった活動のなかで、私たちは、事態を変えるには、ビジネスを否定するのではなく、ビジネスのチカラで社会課題解決していくことが重要だと学びました。企業の活動は、現地の人にとっては、雇用や経済発展を生み出します。また、環境保全活動は、企業にとってその企業価値を高め、新たな「ファン」獲得にもつながると考えています。
2012年に立ち上げた"水といきものの未来のために"をコンセプトとした、新たなエコ洗剤ブランド「ハッピーエレファント」は、持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO:Roundtable on Sustainable Palm Oil ※1)の認証を得たパーム油を積極的に利用しています。「ヤシノミ洗剤」をはじめ、パーム油関連ブランド「ハッピーエレファント」、「ココパーム」の各製品もRSPO認証油を取得し、さらにボルネオ保全トラスト(BCT ※2)を通じ、売上げの1%がボルネオ島の環境保全活動の支援に使われています。
「サラヤが選ばれるほど、環境保全が広がる」というビジネスの流れを構築できたことで、保全活動も企業経済も順調にまわっています。
ボルネオ保全トラストへの売上1%寄付が付いた『ハッピーエレファント』シリーズ
──利益優先ではなく、環境や自然に配慮した商品を生み出してきたことが、SDGsの目標達成を可能にしているのですね。
代島 ボルネオの保全活動も、ウガンダの衛生活動も、ごく当たり前の感覚で判断し、活動してきたことが自然にビジネスにつながってきただけだと感じています。ウガンダの取り組みをはじめて10年。現在ウガンダでは、手指をアルコール消毒することを「SARAYAする」と言うそうです。これは、大きなご褒美だと、うれしく受け止めています。
──2018年からは全社員がSDGsのバッジを着用するなど、社員一丸となってSDGsに取り組んでいます。社員のSDGsへの意識付けは、どのように進めているのですか。
代島 弊社はオーナー企業ですから、最初はトップコミットメントが強かった部分はあります。しかし原料産地での環境問題を知った時から、「なぜ今、サラヤがボルネオの環境保全をやらなくてはいけないか」ということを肌で感じてもらうために、役員や製品に関わるメンバーを中心に、現在まで100名以上の社員をボルネオ視察に参加させました。
ひとつの事例を知ることで、ほかのことにも興味は広がります。ボルネオの実態を知ることで、たとえば着る服や使う物、車など、選ぶ規準が変わり、ライフスタイルが変わります。SDGsは形だけの理念や、義務感だけでは継続も浸透もできません。自分で使う・見る・体験することで、SDGsを「自分ごと」として受け止められるように心がけています。
──2018年11月にオープンされた、カロリーゼロの自然派甘味料「ラカントS」のコンセプトショップ「神宮前 らかん・果」も、ある意味「SDGsの体験」ができる場所ですよね。
「ラカントS」のコンセプトショップ「神宮前 らかん・果」
代島 カフェ&ダイニング「神宮前 らかん・果」は、SDGsコミュニケーション活動の一環としてオープンしました。
「羅漢果(ラカンカ)」は、中国の桂林に自生する植物で、古くから"長寿の神果"として漢方薬などに使用されてきた植物です。近年、スーパーフードとして欧米を中心に注目を集めていますが、当社は、独自の技術で、砂糖の300倍もの甘さのある高純度の羅漢果エキスの抽出に成功しています。
この羅漢果エキスによるコクのある風味が楽しめるカロリー・糖類ゼロの自然派甘味料「ラカント」シリーズは、1995年発売以来、人工甘味料は使いたくないけれど、摂取カロリーや糖質量を気にする方からライトダイエットユーザーまで幅広い層のお客様にご愛顧いただいています。
「神宮前 らかん・果」では、調理に砂糖は使用せず、羅漢果由来の甘味料「ラカントS」を使用し、実際に羅漢果の甘さで味付けされた体にやさしいオリジナルメニューを食べてもらう体験を通して、「ラカント」を知っていただくのはもちろん、無農薬で丁寧に羅漢果を栽培している桂林の契約農家と、自分が食べているテーブルまでのサプライチェーンが、サラヤの徹底した品質管理でつながっていることを実感してもらうことも、このカフェ&ダイニングの狙いです。まさに、"SDGsレストラン"です。
──SDGsがサラヤとのタッチポイントにもなっているのですね。
代島 SDGsは、同じ目的を持った企業や人が寄り添って、課題を解決するための「共通言語」だと思います。これまでにも、SDGsの取り組みを行うことで、国連機関や政府、NPO、異業種企業など、新しいつながりがたくさん生まれました。ワンテーママガジン『FRaU』とのコラボも、SDGsという共通言語をベースに生まれた新しいつながりのひとつです。
SDGsは、ゴールが設定されているので、企業や団体とのコラボもしやすく、また、協業することで、それまで気づかなかったこと発見があり、新たな取り組みに広がるということが起こりやすくなっていると感じています。おかげさまで、こうした弊社の活動を知り、「憧れて」入社したいと志望してくる新卒学生やキャリア採用も近年は増えています。
今後も、SDGsのゴール17に「パートナーシップで目標を達成しよう」が掲げられているように、同じ思いを抱く仲間を増やしながら、"世界のSARAYA"として、"ビジネスとチャリティの両立"することで、世界の「衛生」「環境」「健康」の社会課題解決に努めていきたいと思っています。
「世界の衛生・環境・健康に貢献したい」という創業者の思いを軸に、医療衛生から食品のサプライチェーンまでさまざまなビジネスに発展させてきたサラヤ。印象的だったのは、SDGsを自分ごととしてとらえるために、「ひとつの現場を知ることが、1人のライフスタイルを変えることにもつながる」と語った代島さんの言葉。そこから、同社の"決意"にも似た強い想いを感じることができました。
※1 RSPO認証
農園や搾油工場がRSPOが定めた判断基準となる原則と基準(Principle & Criteria)に則った「P&C認証」と、上記の認証制度によって生産されたパーム油を使用する製品を取り扱う、製造・加工・流通過程(サプライチェーン)を対象に、RSPOが定める要求事項を満たしていることを認証する「サプライチェーン認証(SCCS認証)」の2種類がある。
※2 ボルネオ保全トラスト(BCT)
「ボルネオ保全トラスト=Borneo Conservation Trust」は、マレーシア・サバ州から認められたトラストで、失われた熱帯雨林だった土地を買い戻し、野生生物が行き来できる「緑の回廊」を回復させる計画などを行っている。本部はサバ州コタキナバル。このトラストを支援する日本国内団体として認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパンがある。