2020年01月07日
株式会社エイチ・アイ・エス サステナビリティ事業推進デスクの松井健二さん(左)、大符和音さん
──SDGs解決と経済成長を達成している国や地域を訪れるスタディツアーで企業のSDGs事業を支援されていますが、自社でのSDGs推進はどのように行っているのでしょうか?
松井 私たちは、SDGsを、自分たちがどういう仕事をしているのかをふりかえるツールだと思っています。SDGsという概念が出てくる前は、旅行を企画・販売してお客様に喜んでいただくことで完結していましたが、SDGsが掲げられた以降は、自分たちが企画した旅によって、世界各国の地域経済に貢献できたり、国籍や文化、宗教を超えた相互コミュニケーションのお手伝いができたりしていることをより意識するようになったように感じています。それが、仕事のやりがいや誇りにつながり、我々ができるSDGsの取り組みにもつながっていると思っています。
大符 スタディツアーは、10年前は社内で「マニアックなツアー」という位置付けでしたが、今はいろいろな部署から注目を浴びる花形部署(笑)になっています。社内の企業向け旅行担当者からは、「お客様と話をする時のためにSDGsについて教えてほしい」とか「プレゼンに同行してほしい」というリクエストが来たりもします。
社員への共有はまだ始まったばかりですが、いずれは社員全員がSDGsについて語れるようになりたいと頑張っているところです。
「SDGsについて上司から聞かれることも多い」と笑顔で話す大符さん(左)と松井さん
松井 弊社は「世界平和」を企業理念に掲げており、トップダウンで言われなくとも自発的に「世界平和のために自分は何ができるだろう」と社員一人ひとりが考える社風が根付いています。自分たちが旅行の添乗や日常の業務を通して感じたことを、お客様に一緒に体験していただくことも、SDGsの目標達成につながっているのではないかと思っています。
──スタディツアーの添乗で、とくに心がけていらっしゃることなどはありますか?
大符 私は現在、モデルでエシカルファッションプランナーの鎌田安里紗さんと一緒に世界各国を訪ねる「めぐる旅」というツアーを担当しています。通常の観光では訪ねることができない地に足を運び、そこで暮らし、働く人びとの声を聞き、社会のことや地球のことを感じ、考える旅です。毎回多くのお申し込みがありますので、「参加理由」を書いて応募していただいたうえで、参加者を選ばせていただいています。
「『めぐる旅』への参加をきっかけに、SDGsに興味を持つ方もいます」と話す大符さん
昨年の10月には、モンゴルのウランバートルを訪ねました。遊牧生活の暮らしを行う人々と女性活躍が進む国モンゴルで、女性起業家達が活躍するものづくりの現場を訪ね、遊牧民族の暮らしを体感し暮らしのヒントを学ぶツアーを実施しました。
──参加された方からはどんな反響がありましたか?
大符 鎌田安里紗さんのファンで、ツアーに参加した時の体験や、感じたこと、学んだことを、ユーチューバーとして広げようという方がいらっしゃいました。また、エシカルを広めるために、各地で講演会などのイベントを行っているという学生さんもいらっしゃいました。
松井 鎌田安里紗さんのツアー参加をきっかけに、SDGsに興味を持ってほかのツアーにも参加する方がいらっしゃいましたよね。こうしたことは結局、「SDGsを自分ごとにするのに、旅の力が大きく関係している」ということの証明になるのではないかと思います。
──ほかにはどんなSDGs事業の後押しをされていらっしゃるのでしょうか?
松井 三井不動産株式会社様の社員研修旅行として、2017年に「第1回ジャパンSDGsアワード内閣総理大臣賞」を受賞し、SDGsの取り組みが日本で最も進んだ町として知られる、北海道の下川町へのSDGs研修企画があります。下川町は三井不動産様が「持続可能な地域社会創造に係る包括連携協定」を結んでいて、昨年の3月と7月の2回を催行しています。
また、この町の取り組みには個人的にもずっと興味があったので、休暇を取って訪ねて行ったのですが、その時に偶然、『FRaU』のSDGsプロジェクトにも参加している方とお会いしたのです。そこから「一緒にSDGsの取り組みができたら」とご縁が広がり、今年3月の「『FRaU』SDGs下川町ツアー」の企画が生まれています。
こうしたご縁をきっかけに、『FRaU』のSDGsプロジェクトに参加させていただくことになり、今回「メディアアワード2019」も受賞させていただきました。SDGsがつないでくれたご縁だとありがたく思っています。
エイチ・アイ・エスは、『FRaU』のパートナー企業として2019年の「メディアアワード」も受賞した
松井 カンボジアでは、子どもが増えたことにより、学校が足りない、校舎が老朽化しているという現状があります。こうした現実から、社員旅行に社会貢献コンテンツを盛り込み、サステナビリティ事業の一環としてのツアーを企業様にご提案しております。学校設立を通じて継続的な教育支援をすることでカンボジアの未来に貢献できたうえ、現地の子ども達や人々との交流を通じた一歩踏み込んだ体験で社員の意識も高まった、と企業様からも非常に喜ばれました。
大符 カンボジアでの学校設立を通し、会社のCSR事業を動かせたのは、大きな成果となり、今までにない連帯感が芽生えた素晴らしいプロジェクトとなりました。このプロジェクトは、「カンボジアの小学校で子どもたちと学び合う」というテーマで、「スタディツアー」として一般の方向けに展開しています。カンボジアでは体育や音楽、美術などの情操教育が行われていない学校が多く、日本から花火師を同行して現地の子どもたちに本物の花火を見せたり、一緒にスポーツやシャボン玉づくりを行ったりするなかで、子どもたちの未来の可能性を広げるお手伝いをしています。
社内外でSDGsに取り組む松井さん
大符 これらの私たちのスタディツアーは、2018年の「ツアーグランプリ」、2019年の「学生が選ぶジャパン・ツーリズム・アワード」を受賞するなど、高い評価を得ています。未来への取り組みとして、今後も続けていきたいと考えています。
松井 私たちの使命は、SDGs推進の後押しをする「旅」を、「ビジネス」として継続することだと考えています。収益をあげ、事業として継続できなければ、サステナビリティな活動とはいえません。厳しい面もありますが、「旅の力」で日本を、そして世界を変えるお手伝いを目指していきたいと思います。