2021年06月30日
オムロン株式会社 サステナビリティ推進室 室長 劉越さん
大手電気機器メーカー「オムロン」は、常に世の中に先駆け、新たな価値を提供し続けています。社員一人ひとりの発案から社会貢献につながる新規事業も生まれているという同社のSDGsへの取り組みについて、サステナビリティ推進室 室長の劉越さんにお聞きしました。
──御社では「事業を通じて解決する社会的課題」と「ステークホルダーの期待に応える課題」の2軸でサステナビリティ課題を設定されています。これについて、具体的に教えてください。
劉 オムロンの創業者・立石一真は、「企業は利潤の追求だけではなく、社会に貢献してこそ存在する意義がある」という考えのもと、社憲(社是)「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」を1959年に制定しました。90年代には社憲を企業理念の中核に据え、「経営の公器性」と「社会の公器性」という二つの公器性の発揮を通じてよりよい社会づくりを実践してきました。
2000年代にCSRの考え方が、一般的になりISO26000が発行され、われわれはCSR活動について、「事業を通じて社会貢献すること」といち早く定義しました。これは今、サステナビリティの推進でいわれていることとまったく同じ思考です。
しかし、オムロンが解決できる社会的課題は限られています。そこで、オムロンが持っている技術や商品で社会的課題の解決を目指し、「ファクトリーオートメーション」「ヘルスケア」「ソーシャルソリューション」を注力分野と定めて、これらの事業を通じて社会的課題を解決することで、SDGsに向けて持続的な社会づくりに貢献し、企業価値を向上していくことを目指しています。
もうひとつの軸に掲げているのが、ステークホルダーからの期待をカタチにする、課題解決策です。ステークホルダーの期待とオムロンの持続的成長との相関関係の中で、最も重要なサステナビリティ課題を設置し、11項目20個の目標を設定して課題解決を進めています。
具体的には、人財マネージメントにおいて、ダイバーシティ推進のために「経営基幹職に占める女性比率を上げる」、離職率の低下、働きやすさの向上のために「従業員エンゲージメントを上げる」など、ステークホルダーから特に関心の高い、バリューチェーンで働く人々の労働安全性や人権の尊重などにも取り組んでいます。
また、気候変動と環境分野の温室効果ガス関連についても、2050年に温室効果ガス排出量ゼロを目指す目標「オムロン カーボンゼロ」を設定し、取り組みを進めています。
──御社では2012年度から「TOGA (The OMRON Global Awards)」という独自の社内表彰を展開しています。このプロジェクトは、SDGs推進にも寄与しているのでしょうか?
劉 はい。「TOGA」は、社員一人ひとりが企業理念の実践として、自らソーシャルニーズ創造につながるチャレンジ目標を宣言し、チームで協力しながら取り組む活動です。毎年2~3月にかけて、エリアごとにプレゼンテーションと選考会を実施し、優れたテーマ(ゴールドテーマ)を選出。5月10日のFounder's Day(創業記念日)に、本社のある京都でゴールドテーマの各取り組みが発表され、その模様がグローバルに配信されます。*1
*1. 新型コロナウイルス対策のため、昨年よりスケジュールを変更して実施。
「社会に対してどう価値を生み出していくのか」「価値の創造に向けていかに発想を変えるか」といったテーマが多く発表され、仲間と企業理念の実践ストーリーを共有しながら、社員一人ひとりが次の行動につなげる活動となっています。
当社はB to Bビジネスを主としているため、これまでいくら「事業を通じてよりよい社会に貢献する」といっても、生み出している社会的価値を"自分ゴト"としてとらえにくいという課題がありました。
しかし、「TOGA」によって、社員自らが目標を立て、企業理念を実践することで、サステナブルを自分ゴト化する機会を生むとともに、仕事に対するモチベーション向上にもつながっていると感じています。
スタート時、2500件程度だったエントリーは、回を追うごとに増え続け、昨年は6000件以上となり、参加総数も5万人以上*2となりました。
*2. TOGAでは複数テーマへのエントリーが可能。参加人数は総数。
「TOGAの取り組みテーマは何らかの形でSDGsの17のゴールと169のターゲットにつながっています。2017年から各発表テーマについてSDGsのどのゴールにつながっているかを社員が投票することでSDGsに対する理解浸透を図っています」(劉さん)
──「TOGA」の取り組みから社会貢献につながる事業に発展した事例もあるそうですね。具体的に、どのようなものがあるか教えてください。
劉 たとえば、インドネシアにあるオムロンの生産工場で働く若いエンジニアたちが、「下肢切断者の同僚の力になりたい」という動機から自発的に取り組み、事業にまで発展させた「動く義足」の開発事例があります。これは、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」社会実現に向けて、すべての人の自由で平等な生活の実現を目指した取り組みです。
世界中で脚を失っている人の数は3500万人以上、インドネシアだけでも300万人にのぼります。多くの人が使用する外観重視の義足は安価ではあるものの、機能性や着け心地に課題がありました。
そこで、部品1つひとつを研究し直し、改良を重ねた結果、機能性を高めながら低価格化を実現した義足「B.L.E.S.S. foot」を作り上げ、脚を失った人々の自尊心や経済的な安定を取り戻すことに大きく貢献しました。
また、中国のオムロン メディカル(北京)有限公司チームの発表からは、糖尿病患者情報を各診療科間で共有し、専門医療スタッフによる最適な治療をワンストップで実現する事業が生まれました。患者情報を各診療科間で共有し、専門医療スタッフによる最適な治療をワンストップで実現するMMC(Metabolic Management Center)を設立。現在、484ヵ所の病院に導入され、950以上の病院が導入の意向を示しています。
今後も、より多くの医療パートナーとの連携を広げるとともに、さまざまなチャレンジを続けていきます。
──御社の経営計画には、「業績目標」と「サステナビリティ目標」が掲げられています。どちらかだけでなく、ビジネスとSDGs、双方の両立を目指す姿勢はオムロンらしいと言えそうですね。
劉 ありがとうございます。弊社では、役員の中長期業績連動報酬にサステナビリティ評価を組み込んでおり、「第三者機関のサステナビリティ指標に基づく評価」を採用しています。
第三者評価を入れることによって、評価の客観性が担保され、経営の透明性が高まり、説明責任を果たせることにつながっていると考えます。
SDGsの実践にはトップの力強い推進と実践がとても重要です。SDGsの取り組みがうまくいかない例として、トップの思いは強いけれど、中間管理職が動かず、現場社員は他人事になっているという話をよく聞きますが、当社の場合は、役員報酬連動や第三者機関の評価を取り入れることにより、経営が本気になってサステナブルに取り組んでいます。
こうしたことが、結果としての社員の行動も変わります。
「SDGsの実践には経営の意志と社員の自分ゴト化がとても重要」と語る劉さん
──オムロンは「環境」「社会分野」において、国際的に高い評価を受けています。今年3月、「サステナビリティイヤーブック2021」で発表された、サステナビリティ アワードでは、最高評価である「ゴールドクラス」に認定。こうした国内外の評価は、ビジネス上でどのような効果を生んでいると思いますか?
劉 オムロンのビジネスは、グローバルで展開していますが、もちろん国によって、ブランド認知度が異なります。われわれにとって、ステークホルダーとのエンゲージメントを通じて、グローバルでこのように高い評価をいただくことは、オムロンのブランド認知度だけでなく、ブランドへの信頼度にも大きく寄与していると思います。
例えば、昨年はEcoVadis(エコバディス)社のサステナビリティ調査において、最高ランクである「プラチナ」評価をいただきました。初参加の2018年は「シルバー」、2019年は「ゴールド」、そして昨年2020年にはプラチナ賞をいただきました。この間、われわれはガバナンス、環境、人権などの側面において、地道に取り組みを続け、その結果を適時に情報開示したことで、サプライチェーンに関わる皆さまに高く評価いただいた結果と考えています。このような成果は、ヨーロッパはじめグローバルにおける顧客との信頼関係の構築につながっています。
──国内外から高い評価を受ける御社から見て、SDGsの目標達成のためには、何がいちばん大切だと思いますか?
劉 SDGsで重要なのはDevelopment(開発)の「D」だと思います。Developmentしていかなければ、ゴールはただの数字合わせになってしまいます。
「日経SDGs経営大賞2019」で「SDGs戦略・経済価値賞」をいただいたウェアラブル血圧計は、「どこでも血圧を測って治療につながる」という商品です。高血圧が原因の脳・心血管疾患の発症ゼロを実現する画期的なデバイスとして、米国や日本の医療機器認証も受けて発売していますが、当社ではこの商品を作ったという「ゴール」は新たな「スタート」ととらえています。
すでに、心電、睡眠、活動量など、さまざまなデータと血圧の関係を用いて、脳・心血管疾患の発症リスクを予測する、または小さくする方法に向けた臨床研究も始まっています。
昨年は、コロナで直接医者に行くことが難しい状況のなか、アメリカで遠隔による血圧診断・治療がスタートし、遠隔診療の推進にも寄与しています。ウェアラブル血圧計のデータを随時ドクターが確認して健康に関する助言や治療ができる仕組みについて、ニューヨークの病院と協働し、実証実験を進めています。
今後、世界中に遠隔診療のニーズは高まってくると思いますので、デジタルを駆使したサービスを強化していきたいと考えています。
従来の半分以下の25mmという幅でありながら、測定精度を保証できる「トリプルカフ構造」によって誕生した、ウェアラブル血圧計
──御社では発信にも力を入れているそうですね。
劉 はい。当社のサステナビリティ方針の中に「すべてのステークホルダーと責任ある対話を行い、強固な信頼関係を構築する」と明確に設定しております。情報開示、コーポレートコミュニケーション活動、ステークホルダーエンゲージメントなどを通じて、ステークホルダーの声を取り組みに反映し、サステナビリティ推進をさせています。特に近年デジタルコミュニケーションに注力し、自社ウェブサイトのオウンドメディアを活用した発信強化に取り組んでいます。そのプラットフォームを活用することで、社内外の垣根を超え、グローバルに向けた発信ができるようになり、実際にこの発信から官民を超えた協業や協働につながっているケースもあります。
オムロンの取り組みや最新ニュースを「ストーリー」で届けるコミュニケーションメディア「EDGE&LINK」
社会的課題は1社だけで解決できるものではありません。当社がどんなに社会的課題の解決に取り組んだとしても、お客様が当社の製品を採用してくれなければ成り立ちません。当社の「Development」ストーリーに共感いただける皆さまとともに、これからもSDGsを推進していきたいと思っています。