巨大インフラに依存しない小規模分散型水循環システムで水の問題の解決に挑戦するWOTAのインパクト 企業のSDGs取り組み事例vol.24

2021年09月22日

「人と水の、あらゆる制約をなくす」存在意義に掲げ、移動ができる小規模分散型水循環システムを開発したWOTA。同社の広報・市川 伸さんは「水の問題を解決し、水による制約をなくしていきたい」と語ります。同社の取り組みや、連携について、お話を聞きました。

「水」はSDGsにおける重要なテーマのひとつ

──いま、水リスクが高まっているといわれています。水資源問題の現状を教えてください。

市川 伸さん(以下、市川) 日本にいると「水不足」を感じる機会は少ないかもしれません。しかしOECD(経済協力開発機構)の報告では、2050年には世界人口の40%以上にあたる39億人が深刻な水不足に見舞われる可能性があると予想されています。なお、2050年には世界の総人口が約97億3,000万人になると言われており、人口が増える=水の使用量が増加するということでもあります。

水不足について補足すると、「人口ひとり当たりの最大利用可能水資源量」が年間ひとり当たり1,700 m3を下回ると日常生活に不便を生じる「水ストレス(水需給が逼迫している状態)下にある」状態とされます。ここ数十年は、気候変動による大雨や干ばつなどの異常気象も発生し、水の利用可能量に大きな影響を及ぼしているといわれています。

つまり、いま水の問題に取り組まなければ、将来日常生活はもちろん、農業用水や工業用水が十分に利用できない状況になりかねません。ですから、当社が水の問題に取り組むことは、持続可能な社会生活に貢献するものだと考えています。

災害時における「水インフラ」の重要性

──世界にはまだ上下水道が未整備の地域がたくさんあります。一方で、インフラが整備されていても、私たちの暮らす日本は地震大国であり、災害時などに上下水道施設が破損し、水道が使えない状態になることがあります。「備え」という視点での水資源問題の解決もあるのでしょうか?

市川 そうですね。実際に大きな災害では、上下水道が破断して水が何週間も使えなくなるケースもあります。

一般的に、生命維持に必要な飲料水は自治体も備蓄しており、また救援物資も迅速に送られる状況にありますが、シャワーとなると、1回あたり40〜50リットルの水が必要となるため、備えができていないのが現状です。「水が自由に使えない」状況は避難生活を送られる方の精神的なストレスになりますし、衛生環境も低下します。

下水道が破損しているときは、排水の処理も問題になります。なぜなら、下水道が破断している状況で排水を流すと下流域のマンホールから汚水が溢れ出て、衛生上大きな問題につながってしまう可能性もあるからです。

当社が開発した自律分散型水循環システム「WOTA BOX」は、いわば小規模な水処理プラントです。水利用における制約をなくすだけでなく、排水が2%しか出ないため、環境への負荷が低いのもポイントです。

──「WOTA BOX」は、100リットルの水で100人が繰り返しきれいな水でシャワーを使用可能です。どのような仕組みになっているのでしょうか?

市川 「WOTA BOX」は、水質センサーとAIで水処理を自律制御する自律分散型水循環システムです。よく「水処理場が10万分の1のサイズになってどこにでも持ち運べるようになった」とご説明しています。一度使った水の98%以上を再生することができるうえ、キャスターがついているので簡単に移動させることができます。

災害現場ではこれまでに13の自治体における20ヵ所の避難場所で2万人以上の方々に利用していただきました。避難所以外では、水道設備がないキャンプ場やイベント会場など、水道設備がない場所などでご利用いただいています。

2019年台風19号被災地(長野県長野市)に設置された「WOTA BOX」。避難所で過ごす人々に、シャワー利用の機会を提供した


「WOTA BOX」でシャワーを浴びた親子。非常時に「日常」を取り戻せる時間があることは、心理的効果も大きい

水循環型手洗い機「WOSH」で公衆衛生に寄与

──新型コロナウイルス感染症対策で政府が手洗いを推奨していた時に、御社は短期間で水循環型手洗い機「WOSH」を開発したそうですね。

市川 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、政府も「30秒間手を洗いましょう」と啓発するなど、手洗いの重要性が高まりました。

ですが、水道設備を急に設置するのは多額の費用もかかることもあり困難です。そこで水道のないところでも設置できる水循環型手洗い機「WOSH」の開発を急ピッチで進めました。

店舗入り口に設置された「WOSH」で手を洗う買い物客

さまざまな効果を生む、水インフラの整備

──「WOSH」は最初、鎌倉市で実証実験を行ったそうですね。鎌倉市と連携したきっかけや反響を教えてください。

市川 鎌倉市とは、災害現場で活躍する「WOTA BOX」がきっかけとなって包括連携協定を締結しておりました。そのご縁から、公衆衛生対策として「WOSH」を設置することになりました。

鎌倉駅前に「WOSH」が設置されたことで、観光客も地元住民も気軽に手を洗えるようになった

JR鎌倉駅前や街の中心部に「WOSH」を設置したところ、観光客はもちろん、地元住民からも喜ばれ、多くの方にご利用いただきました。

──ほかに導入された企業や自治体の事例も教えてください。

市川 2020年の年末には、買い物客が増える築地場外市場に水循環型手洗い機「WOSH」を期間限定で設置し、安心できる"まちづくり"のための公衆衛生対策をサポートしました。

飲食店の入り口付近やマンションの共有部に設置する店舗や企業も増えています。たとえば店の入り口付近に「WOSH」を導入し、入店前に「手を洗って清潔・安心できる」場を設けたことで、お客さまへのおもてなしを提供することができたケースがあります。

また、既設のマンションやオフィスなどに新規で水道配管工事をするには多くのコストがかかりますが、水道配管工事不要ですぐに設置できる「WOSH」なら、従業員や居住者の衛生と安心をすばやく実現することができると、導入いただいたケースもあります。

「小規模分散型の水インフラ」が当たり前の環境を作りたい

──コロナ禍によって、さらに注目度が上昇したWOTA社の製品たち。今後はどこを目指していくのでしょうか。

市川 当社は、小規模分散型の水インフラを今までの土木建築型のバリューチェーンではなく、製造業型で実現しようとしています。そのため、量産効果により、製造量が増えるとコストは減少します。
製品の導入先を増やし、使った水をその場で再生処理し、循環利用することが、上下水道と比べてコストが低い状態を当たり前することを目指します。

──「水インフラ」の整備は、SDGsの目標達成にも寄与します。そのために、いちばん大切なことは何だと思いますか?

市川 創設当時は「なぜ日本で水の問題を?」という質問を多くいただき、日本において水の問題への関心はあまり高くないと感じていました。しかし、最近は「一緒にやりたい」「設備を利用したい」と言ってくださる方が増えました。また、実際にWOTAの製品をお使いいただくことで、これまで見えなかった排水の処理に興味を持つ方もいらっしゃいます。

水の問題はまだまだ課題がたくさんあります。この記事をお読みくださった方が少しでも水の問題に興味を持っていただけるとうれしいです。

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