「おいしさと健康」で次の100年も社会に貢献する会社を目指すGlicoのSDGs 企業のSDGs取り組み事例vol.28

2022年02月25日

変わりゆく時代の要請や期待に応え続けながら創意工夫を重ねてきたGlico。「おいしさと健康」を掲げ、食品事業を通じて社会に貢献してきた創立100周年を迎える老舗企業に、持続可能なヒントをお聞きしました。

経営企画本部 コーポレートコミュニケーション部 CSR推進グループ長 楠本恵さん

Glicoがすべきことを言語化した「Glicoグループ環境ビジョン2050」

──御社は2021年3月に、豊かな地球環境を未来につないでいくことを目指し、「Glicoグループ環境ビジョン2050」を策定されました。このビジョンの内容と、策定の経緯について教えてください。

楠本 まず、このビジョンは、SDGsのゴールを達成することを第一の目的として策定された、というわけではありません。

当社は創業者・江崎利一の「食品事業を通じて国民の体位向上に貢献したい」という想いを受け継ぎ、創業時から事業を通じて社会課題の解決に取り組んできました。そのなかで当然、環境課題にも配慮してきましたが、実行して当然の取り組みであるがゆえに、社内外に十分伝えきれずにいました。

Glicoグループでは2018年にCSR委員会を立ち上げ、CSR推進全体の方向性やマテリアリティの策定、取り組み進捗状況の確認などについて話し合うとともに、CSRを経営に反映させながらグループ一体となって推進すべく、自社で実行していることを具体的に数値化して積極的に発信しはじめました。

委員会と関連部会、各グループ部門が中心となって、特に近年大きな課題となっている気候変動への対応において、社会のみなさまに対して、当社がどう取り組みを推進していくかをまとめたものが「Glicoグループ環境ビジョン2050」です。

重要課題に基づいた4つの分野について、2050年をゴールとした中長期ビジョンとKPIを策定しています。具体的には、「温室効果ガスの削減」「水資源の活用」「包装資源の活用」「食品廃棄物の削減」の4つです。

重要課題に基づいた4つの分野について、2050年をゴールとした中長期ビジョンを設定した「Glicoグループ環境ビジョン2050」

目標「100%」を掲げた理由は、社内外に対する意思表明

──「Glicoグループ環境ビジョン2050」で掲げた2050年度の目標値ではいくつかの項目で「100%」という数字が掲げられています。高い目標設定を掲げた理由を教えてください。

楠本 これは、社内外に対する当社の意思表明でもあります。

この環境ビジョン策定以前にも、もちろん、製造現場などではそれぞれCO2排出量や水の使用量削減目標などの数値目標を掲げていました。しかし、それぞれ中長期的に企業理念を実現するためのバックキャスティングした数値化が十分ではなかった、社内全体で「ビジョン(実現したい未来)」として共有できていませんでした。

こうした反省をふまえ、社内外に対しこれまで以上に当社の進むべき方向性を強く示す必要があると考え、「100%」という数字を掲げました。

環境ビジョンをもとに策定した目標・KPIには、「100%」の数値がいくつも見られる

──具体的に強い数字を掲げてコミットメントを出したことで、どのような変化がありましたか?

楠本 まず、社内の意識変容がありました。

当社は食品老舗メーカーとして、できるだけ無駄を出さない、効率的にものをつくるということに対しては、これまでもかなり厳密にやってきました。

しかし具体的に数値を掲げたことで、現場がより経営課題を「自分ゴト」としてとらえるようになったと感じています。工場や事業所の各現場部会やリーダーたちと、いまやっている業務とのバランスや事業の効率性を考えながら、どのように目標達成に向けて、取り組みを進めていこうかということも議論するようになりました。新しい投資をする際にはコストが多少高くとも環境負荷の低いものを選択肢に入れることや、既存の取り組みだけでは到達できない目標に対して新たにチャレンジする意識も高まりつつあると感じています。

また、外部に対しても、ビジョンを宣言したことで「Glicoはこういうことをしているんだ」と伝わりやすくなりました。

ただ、実行を伴わない目標だけをアピールをしすぎることで「SDGsウォッシュ」と受け止められることのないよう、誠実なコミュニケーションを心がけるようにしています。

──「SDGs」という概念が入ったことで、これまで当たり前にやってきたことがきちんと言語化されたということでしょうか。

楠本 そうですね。もともと担当部門が各事業所において目標を立て、粛々と取り組んでいたことです。その取り組みをよりグループ全体、そして社外に対して、よりわかりやすくお伝えしようという意思を持ったコミュニケーションが実施されたということになります。

「SDGs」という世界共通の言語ができたことで、あらためて企業理念を言語化・可視化できる、よいきっかけが得られたと思っています。また、こうした言語化・可視化の動きは今後も増えてくるのではないかと思います。

「SDGsによって、自社の企業理念を言語化・可視化する、よいきっかけになった」と話す楠本さん

創意工夫によって、「食品ロス削減」に貢献

──「Glicoグループ環境ビジョン2050」では、取り組むべきテーマのひとつに食品廃棄物削減も掲げていますよね。具体的な取り組み事例について教えてください。

楠本 サプライチェーンの効率化や需給予測精度の向上など、食品ロスを減らすための取り組みを進めています。

また製造過程で発生した規定より「見た目が基準に適していない」、品質に問題のない商品を「ふぞろい品」としてアウトレット販売するといった取り組みでも食品ロスを削減し、環境負荷の低減に貢献しています。

「ふぞろい品」は、Glico の直営店など限られた店舗のみで不定期販売している商品です。メーカーの本音としては100%完璧な商品をお届けしたいので、アウトレット品という形での販売は正直心苦しいところもありました。しかし販売してみると、「数量限定」や「特別感」という印象があったようで、お客様から一定の支持をいただくことができました。

微細の欠けなど、品質に問題のない商品を「ふぞろい品」としてアウトレット販売することで、食品ロスを削減し、環境負荷の低減に取り組んでいる

ほかにも2020年には、コロナ禍で多くの「いちご狩り」が中止となったことで生まれた、「余剰いちご」を有効活用することで、生産者の食品ロス削減に貢献しました。

始まりは、包括連携協定を締結している大阪府より相談を受けたことでした。消費されなかったいちごを使用して「カプリコミニ大袋<いちご狩り>」を開発し、2020年12月より近畿エリアおよびグリコダイレクトショップにて数量限定で発売しました。

中止になったいちご狩りの余剰いちごを使用した「カプリコミニ大袋<いちご狩り>」

食を通じて、子どもたちに届ける「楽しく学ぶ」

──いちご農家への支援では、地元・大阪の小学生とのコラボもされたそうですね。

楠本 大阪府在住の小学生とのコラボで、地元のいちご農園を応援する新聞をつくりました。小学生が「こども記者」となり、和泉市の辻宏康市長や、いちご生産者にオンラインインタビューを実施し、手書きの「こどもカプ式会社新聞」を発行しました。

「こども記者」によるオンライン取材の様子


和泉市長と、完成した「こどもカプ式会社新聞」


──ほかにも、次世代の子どもたちへの食育・教育活動にも力を入れておられるそうですね。

楠本 はい。商品や食文化について楽しく学べる工場見学施設「グリコピア」では、地域行政と連携した教育プログラムも実施しています。

千葉・埼玉・兵庫にある「グリコピア」では、ポッキーやプリッツの工場見学と教育プログラムがセットで提供されている

コロナ以前は毎年親子ペアをご招待して、ポッキーやプリッツの工場見学のあと、工場における環境取り組みとして廃棄商品を家畜の飼料として活用している事例や、包装材料をできるだけコンパクトにしてゴミを減らす工夫をしていることについての講演なども行っていました。

工場見学や講演を実施することで、参加した方々に当社の歴史や商品、環境取り組みを理解していただくとともに、地域の環境問題に関する意識を高めていただくこともできました。

また、おいしいお菓子を食べながら楽しく遊び、学ぶことができるプログラミング教材「GLICODE®」を開発し、全国の小学校の先生との協業で全国20ヵ所以上の小学校で授業に活用いただいています。近年注目が高まっている「エデュテインメント」につながる取り組みとして、2019年度からはさらに活動を拡大できるように、従業員向けに講師育成研修も行っています。

ポッキーを使って、楽しくプログラミングが学べる「GLICODE®」

創立100年。今後はSDGsに、B(ビジネス)を加えて広げていきたい

──1922年2月11日に創立した御社。100年企業として、今日まで事業継続できた最大の理由は何だと思われますか?

楠本 当社の「Glicoの七訓」のトップに掲げられている、「創意工夫」を重ねてきたからだと思います。

「Glicoの七訓」は、創業者が多くの苦難を乗り越えて、会社の存続・発展のために実践してきた、根源となる考え方や行動指針が集約されたものです。

弊社は、企業理念である「食品事業を通じて社会に貢献する」を実現するために、"創意工夫を重ねて"変わりゆく時代の要請や期待に応え続けてきました。時代に合わせて変化できる。この柔軟性こそが、当社の強みだと考えています。

ただ、SDGsのゴール達成はGlico 1社ではできないことばかりです。

これからも、さまざまな形で企業や自治体などとパートナーシップを結び、課題解決に向けて積極的に取り組んでいきたいと考えています。

Glicoの発展の原動力であり、いまも社員の行動指針となっている「Glicoの七訓」

──今後のSDGsの取り組みについて、目標や計画があれば教えてください。

楠本 製造工程や販売段階まではある程度当社で管理できますが、お客様の手元に渡った後は、当社では管理することはできません。

もし購入後のお客様とともに、ゴミのポイ捨てや食べ残しをなくすなどの行動を一緒に考える活動ができれば、さらに大きなムーブメントが起こせるのではないかと考えています。また、Glicoグループの多様な人財がそれぞれのおかれた場所で環境課題や社会の課題解決を強く意識することによって、自分自身も企業理念を体現することができ、お客様の毎日にとって欠かせないパートナーになり得るのではないかと思います。

食品事業を通じて商品をお届けするだけではなく、サービスや新しい価値創造にも挑戦していきたいと考えています。

当社は2022年に創立100年を迎えました。これを機に、SDGsにビジネスのBを加えて、SBDGs「Sustainable Business Development Goals(持続可能なビジネス開発目標)」と広げていけるように、当社の理念に共感いただけるところがあれば、ぜひご一緒に取り組みをさせていただきたいと思っています。

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