2022年04月27日
日本発のラグジュアリー「Japan's Authentic Luxury(JAXURY)」にふさわしい企業・ブランドにおくられる「JAXURY アワード」の大賞を、2年連続で受賞。名実ともに東京を代表するパレスホテル東京。「美しい国の、美しい一日がある。」をコンセプトに掲げ、「美しい」SDGsを実践されている同社の取り組みについて聞きました。
株式会社パレスホテル ブランド戦略室 室長 柳原芙美さん(右)、ブランド戦略室 ブランドマネジメント課 支配人 小泉亜沙美さん
──御社は、1990年代後半から近隣での清掃活動や生ゴミの有機肥料化にいち早く取り組み、その後もグリーン電力の活用など、さまざまな視点から環境への取り組みを行っています。なぜ、こんなにも早くから環境を意識した取り組みができているのですか?
柳原 パレスホテル東京が位置する、「東京の真ん中でありながら、目の前に皇居外苑のお濠と緑が広がっている」という美しいロケーションが大きく影響していると思います。
目の前に皇居外苑の緑と空間が広がるパレスホテル東京からの眺望
パレスホテル東京の前身は、1947年に開業した国有国営ホテルです。その後、1961年10月1日にパレスホテルとしてスタートし、2012年に建て替えを経てパレスホテル東京へと変わりました。
パレスホテル東京は、日本らしい四季の移ろいを感じるこの美しいロケーションも含めて存在すると考えています。そのため、自然環境を大切に守り続けることを"当たり前"に思う文化が、当ホテルにあったのではないかと思います。
海外からいらっしゃる方はもちろん、日本にお住まいの方にも「東京に行くならパレスホテル東京に泊まりたい」と思っていただけるホテルであり続けるためには、この環境も守り続けなくてはなりません。これまでにホテル周辺のごみ拾い活動を週に1度実施するなど、私たちはごく自然に環境活動を行ってまいりました。
清掃活動の様子
小泉 ホテル業界はそもそも、廃棄物が多く出る環境負荷の高い産業です。建て替え前のパレスホテル開業当初から国内外の賓客を迎えたパーティーなど、大人数のイベントを開催することも多く、どうしてもロス食材が多く出てしまう状況がありました。
そこで、私たちは日本に昔からある「もったいない」精神で、SDGsやCSRが登場する以前から古紙回収などのリサイクルを積極的に進めてまいりました。
1997年にホテル業界ではじめてホテル内での生ゴミを有機肥料に変える循環型リサイクルシステムを実現できたのも、原点に「もったいない」精神があったからではないかと思います。
──「循環型リサイクルシステム」とはどういうものですか?
柳原 ホテル内で出た生ゴミを有機肥料に変える取り組みです。自社プラントにて生ゴミを菌体肥料化し、契約農園へ販売しています。
この取り組みは、1995年に「スープを作るときに出る鶏ガラを粉末状に処理し、ペットフードの原料としてリサイクルする」ことからスタートしました。その後、ホテル内で出た生ゴミを発酵処理して肥料化することに成功したのです。
この有機肥料は「エコパレス」と名づけられ、2001年からは特定農家や園芸用への販売も行っています。さらに現在は、契約農家さんの協力のもと、「エコパレス」で育てたお米や果物を従業員食堂でも使用しています。
小泉 この取り組みに対しては、当時東南アジア諸国の行政や環境省関係の方からも問い合わせをいただき、数多くの企業や学校、個人の方へ、リサイクルシステムの講習会や見学会なども実施してまいりました。
──ホテルだけでなく、地域や他企業、行政など、周囲と一緒にSDGsを進めていらっしゃるのは、SDGsの掲げる目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」というゴールにも合致していますね。
柳原 もちろんそれもありますが、いちばんの大きな理由は、「パレスホテルだけがやればいい」では、当社が目指す「最上質の日本」が実現できないからです。
日本には、歴史の中で育まれてきた美学や、礼節や、人をもてなす心があります。こうした美学や礼節を無視して、「自分(パレスホテル東京)だけがよければいい」という考えでは、日本に伝わってきたこれらの品格を維持していくことはできないと考えました。
「美しい国を残していくことは、パレスホテル東京にとっても大切なこと」と話す柳原さん
小泉 私たちはSDGsを推進するうえで「それはパレスホテルらしいか」ということをいつも考えています。当ホテルだけが「がんばればいい」というSDGsはパレスホテルらしくありませんし、そもそも持続可能でもないと思います。
──サステナビリティコンセプトに「未来を、もてなす。」と掲げているのも、「パレスホテルらしい」フレーズです。
柳原 いまや、SDGsに取り組んでいない企業を探すほうが難しい時代です。しかし、ただ「当ホテルもSDGsに取り組みます」と宣言しただけでは、スタッフへの浸透はできませんし、その先にいらっしゃるお客さまにも届きません。
そこで、スタッフ全員でSDGsへの思いを共有できる指針をつくろうということで、「未来を、もてなす。」というサステナビリティコンセプトを策定いたしました。
このコンセプトは、「お客さまに喜んでいただくように、未来の社会に対しても常におもてなしの心を持ち続けることで、持続可能な社会の実現に貢献する」という私たちの決意表明でもあります。コンセプトを打ち出したことで、各自が自分ゴトとして常に「どうすればお客さまのこころを満たせるか」「どうすれば世の中のこころを満たせるか」を考えながら動けるようになりました。
──具体的な取り組み内容について、教えてください。
小泉 サステナビリティへの取り組みは、 「人にやさしいおもてなし」「社会とつながるおもてなし」「自然と生きるおもてなし」の3本の柱で行っています。
ホテルにとって大切な「人」の部分では、お客さまにすばらしい体験をしていただくことはもちろんのこと、そこで働くスタッフにとっても心地よい環境を目指しています。「安心・安全」な環境づくりを求められた2020年には、感染症予防対策において国際的な衛生基準を満たした施設であることを証明する「GBAC STAR™認証」を国内で初めて取得しました。また、多様なお客さまをお迎えし、スタッフの多様な働き方を推進するダイバーシティにも取り組んでいます。
何をするにも「パレスホテルらしさ」を大事にしているという小泉さん
柳原 ダイバーシティは「食」分野でも取り組んでいます。
多くの海外のお客さまをお迎えするホテルとして、早くからハラル対応(イスラム教徒向けの食事やサービス提供)やベジタリアン、ビーガンの方向けのメニューご提供は行っていました。さらに2021年6月からは、1Fのオールデイダイニング「グランド キッチン」でプラントベースのハンバーガーのメニュー提供もはじめました。
100%植物性の代替肉パティが採用されたハンバーガー
また、ホテルとしてはじめてフードロスバンクとのコラボレーションを行い、見た目が不揃いであることや、流通企画に合わないために農家で廃棄されるはずだったロスフード食材を使用した商品の販売も行っています。
小泉 旧パレスホテル時代から継続している地域の清掃活動や、復興支援・寄付活動などは、「社会とつながるおもてなし」の一部と考えています。2013年からは大丸有エリアマネジメント協会主催の清掃活動「大丸有キラピカ作戦」へも参加し、地域の皆さまと一緒にSDGsを進めています。
柳原 人や社会が存在する地球に欠かせない豊かな自然と共生できるおもてなしにおいては、先ほどお伝えした「エコパレス」以外でも、高効率冷暖房への切り替え、屋上緑化や太陽光発電、グリーン電力などのCO2削減・脱炭素への取り組みをはじめ、環境配慮へのさまざまな取り組みを進めています。
──御社は2年連続で、日本が誇るもの・こと「Japan's Authentic Luxury(JAXURY)」にふさわしい企業・ブランドにおくられる「JAXURY アワード」の大賞を受賞されています。「JAXURY」やラグジュアリーとSDGsは一見相反する印象がありますが、どうお考えでしょうか。
柳原 たしかに、ラグジュアリーとSDGsは対極にあると思われがちです。ですが、ラグジュアリーの捉え方はさまざまです。私たちはSDGsを、「お客さまの選択肢を増やす」という点において、ラグジュアリー(パレスホテル東京の考える、おもてなし)を構成する一要素だと考えています。
私たちは発信に力を入れていますが、それは「こんな活動をしています」とアピールするためではありません。なぜ私たちがSDGsに取り組むのか。その背景を知っていただくのが目的です。
たとえば、先ほどご紹介したロスフード食材を活用した「ケーク サレ」やショートケーキの製造過程で生じる切れ端を使用した「端っこロール」などは、その商品の背景をお伝えすることで、理解を深めていただき、選んでいただける商品です。「なぜこの商品が生まれたのか」というストーリーに共感していただき、購入することでご自身もそこに参加できる。そこまでを含めて、私たちの「おもてなし」だと考えています。
「ケーク サレ」(写真左)、「端っこロール」(写真右)
小泉 私たちがいちばん大切にしているのは、お客さまに喜んでいただくことです。食であればお客さまが「おいしい」と満足いただけるものでなければいけませんし、エコバッグであればお客さまが「素敵だから使いたい」と思っていただけるデザインや素材でなければいけません。
「これがいいから参加してください」という押しつけではなく、私たちのやっていることを理解し、共感していただき、参加していただく。それが、パレスホテルらしい「未来をもてなす」SDGsの進め方だと思っています。
──「ストーリーに共感し参加したくなるSDGs」で、個人のお客さまだけでなく、企業との新しいコラボレーションも生まれているそうですね。
柳原 はい。あらゆる自然物を介して小さな電力を収集する特許技術をお持ちの「tripod design(トライポッド・デザイン)」さんとの協業が実現しました。同社の「超小集電」の技術に当社の「エコパレス」を電源として活用し、ホテル1階ロビーのクリスマスツリーの電飾用電源として、2,000灯以上の電飾を24時間、1ヵ月以上点灯し続けました。「自然との調和」を大切に、未来を見据えたパレスホテル東京らしい、華やかながらも自然に優しい循環型のクリスマスが実現できました。
ロビーに飾られた、自然に優しい循環型のクリスマスツリー
小泉 この取り組みにより、当ホテルにこれまで足を運んでいただいたことがなかったお客さま層にご来館いただけたことも、うれしい効果でした。クリスマス期間は、有機肥料を活用した発電技術に興味を持つ30〜40代の男性層が明らかに増えました。
──最後に、パレスホテル東京にとってのSDGsとは何だと思われますか?
柳原 「やらないといけないからやる」のではなく、ホテルとしてこの場所で営業を続けていくために当たり前にやることであり、続けていくことだと理解しています。
サステナビリティのコンセプトに掲げた「未来を、もてなす。」という中には、目の前のお客さまだけでなく、未来の地球も含まれています。人、社会、環境すべてにおもてなしを提供していく。それが、パレスホテル東京にできるSDGsだと思います。
小泉 「SDGs」という概念は、これまで私たちがやってきたことが間違っていなかったということを再認識するきっかけにもなりました。
これまで続けてきたことを、この先も廃れることなく継承していくためにも、今後も取り組みを進めていきたいです。