枠組みにとらわれずに広がるJ-WAVEの「SDGs」 企業のSDGs取り組み事例vol.32

2022年06月17日

よりよい未来の実現に向けて、地球環境や社会課題を考えるきっかけとなる取り組みや発信を行っているFMラジオ局「J-WAVE」。「将来的に、SDGsという枠組みがなくなっても続ける」という同社の取り組みについて、お聞きしました。

株式会社J-WAVE コンテンツプロデュース局 コンテンツプロデュース部長 手塚渉さん

もともとやってきた流れが「SDGs」と合致した

──御社は、日本のFMラジオ局としてはじめて国連のSDGメディア・コンパクトに加盟。意欲的にSDGs視点での番組制作や発信をしています。積極的にSDGsの発信に取り組んでいる理由を教えてください。

手塚 J-WAVEは1988年の開局以来、よりよいライフスタイルの提案を発信し続けてきました。「SDGsという言葉が生まれたから何かしよう」という姿勢ではなく、もともとやってきた流れが、たまたま「SDGs」という概念と合致したと、とらえています。

たとえば、弊社ではまだ「LOHAS=ロハス」(健康と地球環境意識の高いライフスタイル)という言葉もなかった時代から、毎年フリーマーケットを開催。ナビゲーターやリスナーとともに、リサイクルやリユースを進めてきました。

さらに、2007年より<東京にグリーンな気持ちを街に広めよう>を合言葉に、「GROW GREEN PROJECT」というプロジェクトをスタート。都内各所でJ-WAVEオリジナルデザインのパッケージに入った、ゴーヤやヒマワリの種を含む"グリーンの種"を配布するなど、世に先駆けてSDGsの視点につながるメッセージやライフスタイルの提案を行ってきました。

結果的にこういった「SDGs的なこと」を発信し続けてきた経緯から、ごく自然に2020年3月に国連のSDGメディア・コンパクトに加盟する流れになったと考えています。

現在はこうした取り組みを「FUTURE IS YOURS~ Imagine & Choice~」(私たちの未来は、自分たちの想像力と選択で作る)という言葉に託し、さまざまな視点でサステナブルな社会を目指した全世界的な課題解決に向けて活動しています。

6月環境月間の特集内容&サステナブルな発信をしているレギュラー番組一覧を紹介している「FUTURE IS YOURS ~Imagine & Choice~」特設サイト

届けるために、「SDGs」という言葉は、なるべく使わない

──「FUTURE IS YOURS ~Imagine & Choice~」にはどのような思いが込められているのでしょうか

手塚 J-WAVEでは、番組やイベント名に「SDGs」という言葉をなるべく使わないようにしています。

SDGsは非常に幅広いテーマであり、実現に向けて細かく17の目標が定められています。J-WAVEの番組においても「これはSDGsの番組です」というのではなく、「これは子どもの貧困について考える番組です」という言い方の方が、リスナーに届くと考えています。

ではどうやって「SDGs」という言葉を使わずにJ-WAVEが発信したいメッセージを届けるのか? 私たちは自分たちの思いを、「FUTURE IS YOURS ~Imagine & Choice~」という言葉に込めています。

私たちの未来を作るのは、政治家でもどこかの誰かでもありません。私たちの未来は「自分の想像力と選択で作るものだ」という思いを込めて、よりよい未来の実現に向けて、地球環境や社会課題を考えるきっかけとなるさまざまな取り組みや、ヒト・モノ・コトを発信しています。

───SDGsをテーマにした番組は、ともすると難しくなったり、押しつけがましくなったりする場合もあります。そうならないために、発信で気をつけていることや工夫していることがあれば教えてください。

手塚 弊社は伝えることを生業としているメディアなので、世界共通の目標である「SDGs」に関する情報を伝えていくことは使命でもあると考えています。一方で、「SDGs」という言葉だけが先行し、上辺だけ取り繕った「グリーンウォッシュ」「SDGsウォッシュ」にならないように注意しています。

メディアの仕事は情報を届けることですが、届けた情報によって相手に何かしらの気づきを与えることも大事な務めだと思っています。ですから、「SDGsをやっています」で終わらないよう、アクションを具体的に考えて、リスナーが個人個人の生活の中で、行動につなげられるような発信をすることを心がけています。

発信から生まれた、具体的なアクション

──発信から具体的なアクションへと広がった事例があれば教えてください。

手塚 J-WAVEでは東京の未来を担うこどもたちと、それをサポートする大人世代を応援する「J-WAVEこどもみらいプロジェクト」を推進しています。

このプロジェクトは、放送やイベントなどの事業を通じて、子どもたちが自らの発想で未来を切り開いていけるよう、多様な体験機会を創出するとともに、都市部ならではの子育ての難しさや、子どもたちを取りまく社会課題の解決に積極的に取り組むことを具体的なアクションとして掲げています。

そのなかでも2021年の冬のキャンペーン、温かな気持ち=LOVEを繋いで未来を明るく、というメッセージを込めた「PASS THE LOVE」の一環として行ったクラウドファンディングは、大きなアクションにつながった事例です。長引くコロナ禍で、毎日の食べるものにも困る貧困家庭の子どもたちが増えているということを知り、そのサポートをすべく、J-WAVEこどもみらいプロジェクトと認定NPO法人フローレンスさんとの共同でクラウドファンディングを実施しました。

番組を横断してジョン・カビラさん、クリス智子さん、サッシャさん、野村訓市さんら企画に賛同するJ-WAVEナビゲーターとともに、各番組で支援を呼びかけました。また、ナビゲーターがデザインしたTシャツや音声コメントなどを、リターン品として提供。2021年12月6日の募集開始から2022年2月23日の募集終了までの2ヵ月強で2,000人以上からの支援をいただき、目標額の231%となる1,000万円以上の支援金を集めることができました。

この取り組みにより、コロナ禍で貧困に苦しむ子どもたちの支援につなげることができたと思っています。

発信から具体的なアクションにまでつなげることができた「J-WAVEこどもみらいプロジェクト」のクラウドファンディング

SDGsをキーワードに企業との取り組みが別番組に発展

──企業が協賛するレギュラー番組が別企画に発展した事例があるとお聞きしました。

手塚 レギュラープログラムからイベント・特別番組へと広がった、伊藤忠商事さんの提供番組「J-WAVE SELECTION ITOCHU DEAR LIFE, DEAR FUTURE」をご紹介します。

この番組は、毎月第4日曜のレギュラープログラムです。伊藤忠さんは、独自でも積極的にSDGsの取り組みをされていて、この番組もJ-WAVEのスタジオではなく伊藤忠さんがSDGsに関する取り組みの発信拠点としている「ITOCHU SDGs STUDIO」の敷地内にあるRADIO STATIONで収録して放送しています。

ラジオ収録以外にも、SDGsに関わる活動をされている団体等への展示スペースや、SNS発信などの撮影スペースを無償提供している「ITOCHU SDGs STUDIO

この番組は好評をいただき、番組スタートから2年目になりました。伊藤忠さんに弊社の取り組みをご評価いただけたことで、世界の子どもたちのためのホリデーシーズンを彩るスペシャル番組『STEP ONE PASS THE LOVE SPECIAL ~HAPPINESS FOR CHILDREN~ supported by ITOCHU SDGs STUDIO』や、未来へつながる、これからのファッションの楽しみ方を考える特別番組『J-WAVE SPECIAL ITOCHU DEAR FASHION, DEAR FUTURE』といった別企画への広がりも生まれました。

J-WAVEのSDGsの取り組みについて話す手塚さん

さまざまな効果を生んだ「スタジオペーパーレス化

──御社の「スタジオペーパーレス化」も、さまざまなメディアで紹介され、話題となりました。この取り組みの概要と効果についても教えてください。

手塚 弊社では、2021年6月よりスタジオエリアの紙原稿を原則廃止し、ペーパーレス化を進めています。この結果、2020年1月と比較して約35%の紙資源を削減できました。

これまでのスタジオ運営では、出演者やスタッフに向けて印刷した台本を共有していました。しかし、新型コロナウイルス感染症を機に、J-WAVE内の7つの全スタジオでタブレットを利用した生放送・収録に切り替えました。

番組ナビゲーターをはじめ、すべての番組関係者がタッチペン対応のタブレットiPadを使用。原則、紙原稿の廃止を実現したことで、生放送、収録中などにかかわらず、変更点が随時確認できるようになりました。ゴミの削減につながっただけでなく、情報共有の効率化、ADの作業分量・時間の大幅な削減にもつながりました。

さらに、遠隔にいるスタジオ不在のスタッフにも瞬時に情報共有ができ、非接触型放送の推進にも寄与できました。

この取り組みは多くのメディアでご紹介いただき、J-WAVEのSDGsへの姿勢をより深く知っていただくことができたと感じています。また、この取り組みをオンエアで発信した内容をリスナーが拡散してくれて、より多くの企業や生活者に伝えることもできました。

コラボすることで、思いの共鳴・共感が広く伝わる

──御社は企業とのコラボだけでなく、ほかのメディアとの協業も積極的にされています。他メディアと共創することでどのような効果があると思われますか?

手塚 弊社はもともとほかのメディアとのコラボも積極的に行っていますが、特にSDGs文脈においては、コラボすることで思いの共鳴・共感がより早く、広く伝わると感じています。

ラジオの発信を通じて、個人だけでなく、企業の方にとっての課題解決のヒントも届けられたらいいなと考えています。

過去には、SDGs関連の番組に「FRaU」編集長・関もゲスト出演。
世界中で起きているアクションについて思いを共有した

──最後に、御社の考えるSDGsについてお聞かせください。

手塚 最初に申し上げた通り、弊社は「SDGs」という言葉が生まれる前から、SDGs的なメッセージの発信や活動をしてきました。

SDGsは現在、2030年までに達成すべき目標が掲げられていますが、その取り組みは決して2030年で終わるものではありません。弊社としては、将来的にたとえSDGsという枠組みがなくなっても、これまで通り、地球環境や社会課題の解決に向けた発信を、リスナーのみなさんやナビゲーターと一緒に続けていきたいと思っています。

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企業のSDGs取り組み事例