2022年08月25日
「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」を企業理念に掲げている伊藤忠商事株式会社。創業当時から自社の利益だけでなく、ビジネスを通じて社会課題の解決を目指してきました。2021年に開設した「ITOCHU SDGs STUDIO」はどのように同社のSDGs推進に寄与しているのでしょうか。Corporate Brand Initiativeの菰田(こもだ)有花さんにお聞きしました。
伊藤忠商事株式会社 Corporate Brand Initiative 菰田有花さん
──世界62ヵ国に約100の拠点を持つ大手総合商社の御社は、「三方よし」を企業理念に掲げています。自らの利益のみを追求することをよしとせず、社会の幸せを願う「三方よし」の精神は、SDGsにつながるものとして、多くの企業の経営理念の根幹とされています。この言葉を企業理念にされた背景から教えてください。
菰田 弊社では企業理念を、1992年に制定した「豊かさを担う責任」から2020年4月1日より「三方よし」にあらためました。
「三方よし」の精神は、近江商人であった創業者・伊藤忠兵衛の言葉が起源とされています。かつては、企業は株主のものであり、株主の利益のために行動することが企業にとって、もっとも重要とされていた時代がありました。しかし近年はSDGsやESG投資の潮流とともに、株主利益の追求だけでは企業の持続性は確保できないという認識が広まっています。
株主や利益の最大化はもちろん重要ですが、「社会の人々の利益や世の中の発展にも寄与すべき」という「三方よし」の考えは、当社グループの商いの原点であり、SDGsの理念にも通じる経営哲学であるため、企業理念としました。
──「三方よし」を1858年の創業時から企業精神として受け継ぎ、ビジネスを通じてよりよい世の中に貢献すべく事業を行ってきた御社に、SDGsの推進に課題があったとすれば、なんでしょうか。その解決のためにどのような取り組みをされたのかも教えてください。
菰田 課題としては、SDGsは伊藤忠商事1社だけの力では達成できない、ということが挙げられます。
それぞれの部署でビジネスとしてSDGsに取り組んではいるものの、SDGsのゴールは壮大なので、とても弊社1社だけの力で達成できるものではありません。
そこで、あらためてSDGsへの貢献・取り組み強化を中期経営計画の基本方針のひとつに掲げ、世の中でSDGsに関わる取り組みをされている企業や団体の取り組みを後押しする場として、2021年4月に「ITOCHU SDGs STUDIO」を開設いたしました。
この場所をあらゆるSDGsの取り組みの発信拠点としてご活用いただくことで、持続可能な社会の実現にさらに貢献していきたいと考えています。
伊藤忠商事本社ビル敷地内の Itochu Garden内に開設された「ITOCHU SDGs STUDIO」。階段下に展示スペースとエシカルコンビニがあり、階段上のスペースにはラジオブースがある
──「ITOCHU SDGs STUDIO」の開設にあたって、もっとも重視されたのはどのようなことでしたか?
菰田 生活者ひとりひとりが自分なりのSDGsとの関わり方に出会える場になることです。
そのために、当社の行っている取り組みに限定せず、SDGsに関わるNGOやNPOを含めたさまざまな団体が発信できる情報発信スペースとして、展示スペースを無償でご提供しています。
また、誰もが気軽に施設を使えるよう、展示スペースはいつでも入場料無料で公開しています。ガラス張りのラジオステーションも開設し、どなたでも自由に見学ができるようにしました。タレントのSHELLYさんがナビゲートする当社冠のJ-WAVEラジオ番組『ITOCHU DEAR LIFE , DEAR FUTURE』の収録も行っており、当施設に足を運べない方にもSDGsについて考えるきっかけを与えられるよう発信しています。
この場所に来場する方はもちろん、当スタジオを発信拠点として、社会課題を身近にとらえるきっかけが広がっていくことを目指しています。
──「ITOCHU SDGs STUDIO」には、エシカル商品が購入できるショップやカフェも含まれています。展示スペースのほかにショップとカフェを入れた理由を教えてください。
生活雑貨、食品、アクセサリー、アパレル、コスメなど、国内外からセレクトされたエシカルアイテムが並ぶ「エシカルコンビニ」
菰田 身近なものに触れて頂きながら自然にSDGsに関われることを実感してもらいたい、また一度足を運んで終わりではなく、通いたくなる場所にしたいという思いから、エシカルコンビニ様にも、ITOCHU SDGs STUDIOのスペースをお貸し出しし、ご出店いただいています。
「SDGsに興味があり、エシカルな商品を選びたいと思っても、どこでどう探せばいいかわからない」という方もいらっしゃると思います。同店では、エシカルアイテムを通して、一人ひとりが自分ゴトとしてSDGsを落とし込めるような店づくりを目指し、ありとあらゆる切り口からSDGsにまつわるアイテムがセレクトされています。
また、日常のなかで「ITOCHU SDGs STUDIO」に足を運ぶという行動を習慣づけ、SDGsをより身近に感じていただきたいという思いから、エシカルコンビニで3000円以上(税抜)お買い上げの方には、「竹でつくったオリジナルロゴ入りのコーヒータンブラー」をプレゼントしています。そして、このタンブラーをお持ちの方は、施設にお越しいただくごとにカフェでコーヒーを一杯、無料でご提供しています。
バンブー素材でつくられた、オリジナルロゴ入りのコーヒータンブラー
──「ITOCHU SDGs STUDIO」にはラジオブースがあり、音声メディアを通じたSDGsの取り組みも発信しています。発信において、気をつけていることや工夫していることを教えてください。
菰田 「ITOCHU SDGs STUDIO」が大事にしているのは、社外のSDGsにかかわる取り組みをされている企業や団体の取り組みを後押しする場所であることです。
当施設には、生活者ひとりひとりがSDGsを身近に感じられるようにしたい、という思いがあります。
まだ「何から始めればいいかわからない」「難しそう」と感じる方も多くいらっしゃいます。そうした方たちにも「こんなところから始めればいいんだ」「私にもできそう」と感じていただけるよう、共感しやすい、実践しやすいテーマで発信することを心がけています。
「『ITOCHU SDGs STUDIO』のロゴは、SDGsに掲げられている17個の目標が平和の象徴ハトとなって、それぞれの実現に向けて羽ばたいていく様子をイメージしたものです」(菰田さん)
──SDGs発信拠点を構えたことで、どのような効果があったと思われますか?
菰田 「ITOCHU SDGs STUDIO」にご来場くださった方や、ラジオ番組のゲストの方がInstagramやTwitterで拡散してくださったおかげで、2021年の4月に開設してから1年半の間に、約2万人もの方々にご来場いただくことができました。多くの方にITOCHU SDGs STUDIOでの取り組みを知っていただくことができたと感じています。
また、2022年5月31日から7月18日まで行っていた「"名画になった"海展」では、海洋プラスチックのアップサイクルを行うREMAREさんや、スノードーム作家・石田兵衛さんとのコラボレーションで、海から回収したプラスチックでつくったスノードームやランプも展示。Instagramの投稿を見たファンの方にも大勢ご来場いただきました。
「"名画になった"海展」で展示されていた AIがゴミを描き加えた名画を前に、「2050年はプラスチックが魚の量を超えると言われています」と説明する菰田さん
──社内でも「ITOCHU SDGs STUDIO」の効果や反響はありますか?
菰田 社員も「ITOCHU SDGs STUDIO」を通じて、SDGsがさらに自分ゴト化できているように感じています。たとえば、先ほどお話ししたバンブーカップ(竹製のコーヒータンブラー)は、社内でも使用する人が増えています。
また2022年1月には、衣服・ファッションをテーマにした体験型展示「未来の試着室」展を開催。環境汚染や労働環境などが問題視されるファッション業界のSDGsに取り組む企業や団体の協力をいただき、来場者に商品や素材を実際に手にとっていただける場を提供し、多様な「衣服の可能性」を体験していただきました。その際、担当社員のインタビューも企画に組み込んだことで、社内の認知向上や拡散にもつながり、社員にとってもSDGsを自分ゴト化できた、よい企画となりました。
──今後さらに強化したいSDGsの取り組みについて教えてください。
菰田 「ITOCHU SDGs STUDIO」では次世代を担う子どもたちのSDGs教育にも注力していきたいと考えています。
というのも、子どもたちは学校でもSDGsを学んでいます。そこで、「質の高い教育をみんなに」というSDGsのゴール4達成に向け、子どもたちに遊びを通して気づきや学びを自然と身につけてもらうことを目指し、2022年7月22日に、エリア内に子ども向けの新施設「ITOCHU SDGs STUDIO KIDS PARK」をオープンしました。
遊びながらSDGsが身につく「ITOCHU SDGs STUDIO KIDS PARK」のエリアマップ
オープン当初から多くののご家族連れにも足を運んでいただき、新たな人の流れが生まれています。帰り際に展示を見ていただいたり、エシカルコンビニを利用していただいたりすることで、「ITOCHU SDGs STUDIO」の認知向上はもちろん、いままで点と点だったSDGsがつながり、大きなうねりとなることを期待しています。
──最後に、「ITOCHU SDGs STUDIO」で実現したい未来について教えてください。
菰田 SDGsにかかわる取り組みの発信をすることで、別のSDGsの取り組み企業とのコラボレーションが生まれ、そのつながった企業からまた別の企業へとつながっていく。こうしてひとつひとつのうねりをつなげて大きくしていくことが、SDGsのゴールの達成に貢献すると考えています。
今後も、「ITOCHU SDGs STUDIO」が、利用する方、展示する方、そして社員にとっても「三方よし」となり、新たなファンコミュニティの場として大きく成長していけたらうれしいですね。