エネルギーや資源の問題解決に取り組むエネルギー・素材企業グループ、ENEOSグループ 企業のSDGs取り組み事例vol.40

2023年03月23日

日本のエネルギー供給の根幹を担うENEOSを事業会社に有するENEOSホールディングス。脱炭素・循環型社会への貢献をどのように実現しているのでしょうか。脱炭素社会に向けた戦略の策定や推進の体制強化として、2022年4月に立ち上がった専門の部署、カーボンニュートラル戦略部の長島拓司さんにお話をお聞きしました。

ENEOSホールディングス株式会社 カーボンニュートラル戦略部長 長島拓司さん

目指すは、エネルギーの安定供給と環境貢献の両立

──日本の産業・生活を支えるエネルギーのリーディングカンパニーであるENEOSを事業会社として有する御社が、SDGsを強く意識するようになったきっかけを教えてください。

長島 当社はこれまでも環境対策に取り組んできました

それを一気に加速するきっかけとなったのは、2021年10月に閣議決定された地球温暖化対策計画において「2030年に13年度対比CO2排出量を46%削減」というアグレッシブな目標が設定され、同じく2021年10月末から開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において「1.5℃目標に向かって世界が努力する」ことが、正式に合意されたことです。

近年は化石燃料に代わる再生可能エネルギーや水素も取り扱っていますが、石油で社会や人々の暮らしを支え続けてきた当社にとって、石油も大切な「地球の力」です。

カーボンニュートラルの推進はもちろん必要ですが、社会と人々の生活の基盤となるエネルギーをこの先もずっと安定的に供給していく責任を果たしていくことも、「地球の力を、社会の力に、そして人々の暮らしの力に」を使命に掲げる当社の責任だと考えています。

──エネルギーの安定供給と環境貢献を両立していくのは、難しい課題ではないでしょうか。

長島 おっしゃる通り、エネルギーの安定供給とカーボンニュートラル推進の両立は難しい問題です。しかし日本最大手のエネルギー企業であるENEOSが取り組まなければ、社会全体のカーボンニュートラルは達成できません。ですから、まずは当社が先行者(ファーストムーバー)となり、自社のCO2排出量(スコープ1、2)について、ENEOSグループ全体で2040年度までに「ネットゼロ」(温室効果ガスの排出が正味ゼロ)を実現するとともに、2030年度までに2013年度対比46%の排出量削減を目指していこうと考えています。

スコープ1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
スコープ2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
スコープ3:スコープ1、2以外の事業者のサプライチェーンにおける間接排出
(環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」より)

目標は、「スコープ1〜3」のすべてでのカーボンニュートラルの実現

──具体的にどのように目標を達成していくのか教えてください。

長島 まずはスコープ1、2のCO2排出量を減らす2つの事業をご紹介します。

ひとつは、「CCS事業」(CCSCarbon dioxide Capture and Storage:CO2回収、貯留)です。CCSは、製油所などから排出されたCO2を、他の気体から分離して回収し、地中深くに貯留・圧入する技術です。2030年度に300万トンのCCS達成を目指します。

そしてもうひとつは、森林吸収などによるCO2除去事業です。

さらに2050年度に向けて、政府や他企業と歩調を合わせて社会のCO2排出量(スコープ3)の削減にも取り組み、カーボンニュートラルの実現を目指していく予定です。

ENEOSグループのカーボンニュートラル計画

──それぞれの取り組みについて、詳しく教えてください。

長島 順番に解説します。

1 .地域の自治体とも連携して進める「CCS事業」

CCS事業は規模の大きなプロジェクトなので、ENEOS1社で実現することはできません。そこで、Jパワー(電源開発株式会社)さんと一緒に、西日本でCCS事業を始めるための準備会社を設立しました。国内ではまだ認知度が低いCCS事業を円滑に進めるため、事業を行う地域の自治体と緊密に連携しながら、どこにCO2を埋められるかという調査から始めています。

CO2を分離し、地中深くに貯留する「CCS事業」の概略

2.森林を活用した脱炭素社会を実現する「CO2除去事業」

森林由来のJ-クレジット(※)を創出し、活用する取り組みも推進しています。
※省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の温室効果ガスの排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度

新潟県農林公社さんとの連携で進めている取り組みをご紹介します。

お米の産地として知られる新潟県では、農業の担い手はいても、林業の担い手が不足しているという課題を抱えていました。そこで、J-クレジット創出拡大を目指す当社との協定書を締結。当社が森林由来のJ-クレジットを買い取ることで、新潟県農林公社さんはその収益を森林整備に関わる事業に投じて、森林の持つCO2吸収能力のさらなる活性化を目指すことが可能です。さらに新潟県農林公社さんは、健全な森林の育成を通じて、森林の持つ多面的な機能の維持・増進にも取り組むことができます。

まずは年間10,000トン規模のCO2吸収量実現を目標に掲げ、脱炭素社会における新たな「環境価値」の創造を追求していきます。

一方弊社は、創出した森林由来のJ-クレジットを買い取り、ENEOSグループの新潟県内をはじめとする事業活動におけるCO2排出量のオフセットに活用します。

今後は、主要なCO2排出事業者として、地域のみなさまとともに森林由来のクレジット創出から活用までの取り組みを全国に水平展開することで、新潟県農林公社さんのように、各地域が森林由来のJ-クレジットによる収益を適切な森林管理に投じることができ、国内の森林資源の保全推進につながると考えています。

新潟県農林公社が管理する林(南大平団地)


──取り組みの効果や反響について教えてください。

長島 両件とも、プレスリリースなどを受けて、さまざまな反響がありました。

CCS事業については、大企業を中心に、「私たちも大量にCO2を排出しているので、一緒に埋めてほしい」というお問い合わせやご相談を多数いただいています。

また、森林事業については、「うちの自治体でもできるのではないか」と、多くの自治体さんからお問い合わせをいただいています。

意識しているのは、具体的な数値目標を掲げること

──SDGsの取り組みを進める際に意識されていることは何ですか? 課題についても教えてください。

長島 SDGsを推進するにあたり、まずは自らのCO2排出量をオフセットし、社会全体のカーボンニュートラルについても2050年度を目指して取り組んでいくことを力強く宣言しました。このとき、「2030年度に300万トンのCCS達成」「年間10,000トン規模の森林吸収実現」のように具体的な数値目標とともに示すことで、絵に描いた餅ではなく、掲げた目標をどのように達成するかがわかるように意識しました。

課題もあります。CCS事業については、どこにCO2を埋めるかは慎重に考えないといけない問題です。特に、地域住民の皆さまのご理解は不可欠なので、ここは慎重に進めていこうと考えています。

森林事業の課題は規模感です。規模が小さい森林ですとクレジットが創出しにくいので、対象となる森林の面積をどう拡大していくかが足元の課題です。

SDGsの取り組みはゴールだけ示しても意味がない。具体的な数値目標とともに掲げることが重要」と話す長島さん

「環境価値」を積極的にアピール(スコープ3への取り組み)

──地域住民の理解、認識を深めることは「スコープ3(事業者のサプライチェーンにおける間接排出)」への対応にも有効なのではないでしょうか。「スコープ3」への取り組みについても教えてください。

長島 お客様がいまお使いのエネルギーをカーボンニュートラルにしていくために、ENEOSがいま力を入れているのが「水素」事業です。燃やしてもCO2を発生しない水素をENEOSがお客さまにお届けし、お客さまのCO2排出量を減らしていきたいと考えています。

しかし、この「スコープ3」の取り組みにおいても、課題はあります。それは、カーボンニュートラルの燃料がどうしても高くなってしまうということです。いままで安かった燃料が高くなるのは消費者の立場で考えると抵抗感があります。ですから、このコストをどうしていくかについては今後、政府とも一緒に考えていかなければいけないと考えています。

──地域の方やお客様の理解・共感を得るために、どのような工夫をされているのでしょうか。

長島 お客様に提供するエネルギーや素材に「環境価値」をつけて、積極的にアピールしています。

たとえば、「製油所から出ているCO2がこれくらい減る」とか、「ENEOSの商品を使っていただくことでCO2の排出量がこのくらい減る」ということがわかるような表示や定量化に取り組むことで、お客様がサービスや商品を選びやすくなるような工夫も、今後は増やしていきたいと考えています。

SDGsは、実行しなければ、何も変わらない

──発信という点では、SDGsへの取り組みは、社内への発信も重要ですよね。

長島 SDGsを推進していくにあたっては、経営陣からの強いメッセージがいちばん大事だと思っています。環境対策に対しては、これまでも経営陣が全社員に対して強いメッセージを常に発信し続けてきましたが、最近はその発信の仕方が変わってきています。

これまでは社内の会議体でのスピーチや講演が中心でした。ところがここ最近は、社長がTwitterのように気軽にメッセージをブログで発信し、かつ、それに対して全社員が気軽に返信もできるという双方向コミュニケーションスタイルに変わっています。

これは、組織が大きい分、これまでの発信スタイルでは現場担当者レベルにまではなかなかメッセージが届いていなかったという反省もふまえての取り組みです。新しい媒体で双方向に発信していくことで、全社員のベクトルがそろってきたように感じています。

──最後に、SDGsのゴール達成に向けてお考えをお聞かせください。

長島 SDGsを掲げることは誰でもできます。しかし、実行しなければ、何も変わりません。

計画を対外的に発信した弊社も、次は実行する段階だと考えています。昨年4月にできたばかりのカーボンニュートラル戦略部でも、出身部署が異なる担当者それぞれの得意分野を活かしてアイデアを出し合いながら、どんどん実行に移していきたいと思います。

記事カテゴリー
企業のSDGs取り組み事例