ICTの活用で持続可能な社会の実現を目指すNECの価値創造 企業のSDGs取り組み事例vol.44

2023年05月18日

先進的なデジタルテクノロジーの開発と応用で知られる日本電気 (NEC)は、ICTを活用してSDGsの達成に貢献しようとしています。同社のSDGsへの取り組みについて、サステナビリティ戦略企画室の廣井ゆりあさんにお聞きしました。

日本電気株式会社 ステークホルダーリレーション部サステナビリティ戦略企画室 ディレクター 廣井ゆりあさん

日本電気株式会社 ステークホルダーリレーション部サステナビリティ戦略企画室 ディレクター 廣井ゆりあさん

ICTを活用してSDGsの達成を目指す

──生体認証やAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)など、世界トップクラスのデジタル技術で社会に新たな価値を創造している御社は、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」と同じ方向性のパーパス(※1)を掲げています。まずは御社のパーパス策定経緯から教えてください。

※1 パーパス:企業の存在価値や社会的意義を定義する標語で、組織の原点や事業活動の根拠を示す。

廣井 海底ケーブルから宇宙領域の研究開発まで幅広く事業を展開している当社は、創業から長きにわたってよりよい製品、よりよいサービスを世の中に提供してきました。しかし、世の中の流れが「モノづくり」から「コトづくり」へと変わっていくなかで、2014年に当社も「Orchestrating a brighter world」(世界の人々と協奏して新たな価値を共創し、豊かで明るい暮らし・社会・未来を創り上げていく)をめざし、モノづくりから社会価値を創造していく企業へ進化していこうと決めました。

さらに、2019年に創立120周年を迎えたことを機に、1990年に制定した企業理念「世界の人々が相互に理解を深め、人間性を十分に発揮する豊かな社会の実現に貢献します」を継承し、「Orchestrating a brighter world」を冠に据えたパーパスを制定。NECグループでは、「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指すこと」を存在意義とし、事業を展開しています。

──ICT(情報通信技術)はSDGsの達成に大きな期待を寄せられています。ICT業界のリーディングカンパニーである御社のお考えをお聞かせください。

廣井 SDGsの前文には「ICTと地球規模の接続性は人間の進歩を加速化させ、デジタルデバイドを埋め、知識社会を発展させる大きな潜在力がある」という一文が記載されています。ICTとAIは、気候変動の適応対策にも大きな役割を果たすと私たちは考えています。

2023年1月、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)のパネルディスカッションに当社社長 兼 CEOの森田隆之が登壇した際、「AIやセンサーを用いた分析・予測によって災害の予防・緩和に貢献でき、その結果、災害発生に伴うCO2排出の抑制のみならず、災害被害からの回復、復興に際して発生するCO2の排出を抑制できる」と発言しました。

ICTの力を最大限に活かして社会価値を創造し、持続可能な社会を実現していくことは、ICT企業である当社にとって、当然の責務であると考えています。

「NECグループはICTの力を最大限に活かし、多様なステークホルダーとともにSDGs17のゴールすべての達成に寄与していきます」と話す廣井さん

「NECグループはICTの力を最大限に活かし、多様なステークホルダーとともにSDGs17のゴールすべての達成に寄与していきます」と話す廣井さん

事業を通じて価値を提供する

────SDGsへの取り組みで特に意識されているのは、どのようなことですか?

廣井 私たちはSDGsの達成のために事業を展開しているわけではありません。私たちが目指すのは、あくまでも「事業を通じた価値提供」です。SDGsの目標を達成するために事業を行うのではなく、事業を行うことで社会価値を創造し、その結果としてSDGsの達成に貢献できるようにしたいと考えています。

また、どんなに社会価値があっても、SDGsへの取り組みが慈善活動になってしまったら事業のサステナビリティが保てません。ですから、社会の持続性を支えるためには、何よりも自分たちがサステナブルでなければならないと考え、社会価値の大きな活動が経済的価値も生むように事業を展開しています。

多様なステークホルダーとともにSDGsの目標達成を目指すNECの価値創造の考え方

多様なステークホルダーとともにSDGsの目標達成を目指すNECの価値創造の考え方

SDGs達成に向けた貢献事例 1. 国際機関との共創事業

──SDGsへの具体的な取り組みと、その効果や反響について教えてください。

廣井 まずは、国際機関と連携した発展途上国の事業について紹介します。

いま、世界には法的身分証(ID)を持たない人が10億人存在すると言われています。なかでも発展途上国では4人に1人がIDを持たないために適切なワクチン接種を受けられず、5歳未満で命を落とす人が多くいます。

こうした社会課題を解決するため、当社のICT技術を活用して、バングラデシュ等の発展途上国において、Gaviワクチンアライアンス(※2) 、英国のシムプリンツテクノロジーと協働で、幼児向けの予防接種率向上を目的とした生体認証システムの実用化に向けた事業を始めました。幼児指紋認証の実用化を進めることで、途上国のワクチン普及を目指していきます。

※2 Gaviワクチンアライアンス:予防接種の推進を通じて世界の子どもたちの健康を守ることを目的として、2000年のダボス会議で設立された世界同盟。各国政府や国際機関、世界銀行、ワクチン業界、研究機関などが参画して活動している。

このような国際機関との連携は長期スパンで展開するケースが多く、プレスリリースを出しただけでは忘れられてしまいます。そこで、当社オウンドメディア内に「国際機関との共創活動」という特設ページを設け、さまざまな国際機関との取り組みを継続的に発信しています。

特設ページを開設したことで、株主の方から「NECがこんな社会貢献をしているなんて知らなかった」と好意的な意見をいただきました。また、「このサイトを見てインターンに応募した」という就活生も増えています。当社の情報発信により、ステークホルダーの間でSDGsの意識が広がっているのを感じています。

長期的なSDGsへの取り組みは「SDGs貢献事例」とは別にコンテンツを設け、SDGsへの啓発を図っている

長期的なSDGsへの取り組みは「SDGs貢献事例」とは別にコンテンツを設け、SDGsへの啓発を図っている

SDGs達成に向けた貢献事例 2. デジタル技術で農業支援

──御社は環境と調和させながらも生産性を向上させる農業支援も行っています。 持続可能な農業にICTがどう寄与するのか教えてください。

廣井 トマト営農に関する知見を持つカゴメ様との共創サービスをご紹介します。加工用トマトの生産は、新興国を中心とした人口増加や経済成長に伴い今後も拡大が見込まれます。しかし、持続可能なトマトの栽培には、生産者の減少や環境負荷低減への対応などさまざまな課題がありました。

そこで、加工用トマトの営農を世界的に支援するため、トマト営農に関する知見を持つカゴメ様と合弁会社「DXAS Agricultural Technology LDA(ディクサス アグリカルチュラル テクノロジー)」を設立しました。熟練の農家の技術やノウハウをICT活用によってデータ化することで、技術継承を容易にするとともに収益性の高い農業の実現を目指していきます。

2022年にポルトガルの農場で行った実証試験では、カゴメ様のトマト営農に関する知見と当社のAIを用いた分析・予測技術で、農業用水の使用量を15%削減しながら収穫量を20%増やすことに成功しました。将来的には全世界へのサービス提供拡充と、さらなる営農の効率化を目指す予定です。

営農指導員がデバイスを使い、少量多頻度灌漑(※3)に対応した営農アドバイスを行う

営農指導員がデバイスを使い、少量多頻度灌漑(※3)に対応した営農アドバイスを行う

営農指導員がデバイスを使い、少量多頻度灌漑(※3)に対応した営農アドバイスを行う

※3 少量多頻度灌漑:作物が必要とする水や肥料を多数回に分けて少しずつ与え、作物にとって最適な土壌水分量を保つ栽培手法。

高校生との共創でSDGsの理解を深める

──御社はSDGsをテーマとした次世代向け教育プログラム「NEC Future Creationプログラム」も提供しています。この活動の概要と、効果や反響について教えてください。

廣井 「NEC Future Creationプログラム」は、教育コンサルティング会社のキャリアリンク様と協働で、SDGsをテーマとした「できたらすごい」未来を創る高校生向けの教育プログラムです。

2021年度にトライアルを実施した東京都内の高等学校の生徒からは「自分の解決したかったことが、周りの人や社会のためになると分かった」「SDGsはあまり身近ではなく難しそうで敬遠していたが、このプログラムを通じて、自分たちが考えたことがSDGsへの貢献になることが分かり、やりがいを感じた」などの感想が寄せられました。

また、プログラムに参加した従業員からは、「生徒たちに伝えることで自社のパーパスを再認識できた」という声があがっています。若い世代との交流を通じ、お互いにSDGsを「自分ゴト」化できていると感じています。

──最後に、SDGsが目指す2030年のゴール達成に向け、今後の目標や展望をお聞かせください。

廣井 SDGsという世界共通の目標が生まれたことで、多様な連携がしやすくなり、当社一社では実現が難しい取り組みにも挑戦できるようになりました。SDGsの達成に、パートナーシップは欠かせません。

これからも多様なステークホルダーとお互いの価値観を認め合いながら共創を広げていきたいと思います。そして事業を通じて、最大の社会価値と経済価値を生み出し、誰もが人間性を発揮できる持続可能な社会の実現を目指していきます。

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