サステナビリティの先駆者として持続可能な社会の実現を目指し続ける「無印良品」 企業のSDGs取り組み事例vol.45

2023年05月30日

「無印良品」を展開する良品計画は、人々の「役に立つ」という根本思想のもと、商品や事業活動を通じて社会課題の解決に寄与してきました。自社に創業時より根付いているというSDGsへの取り組みについてお聞きしました。

株式会社良品計画 広報・IR・ESG推進部長 坂本香織さん

シンプルにすることで本質的な価値を提案

──環境配慮が着目される以前から過剰包装をなくすなど、御社は世の中に先駆けてサステナブルな事業を追求してきたブランドイメージがあります。「SDGs」にはどのようなきっかけで取り組むことになったのでしょうか?

坂本 当社には、ブランド創生以来変わらないものづくりの視点が3つあります。それは「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」です。

無印良品は、1980年に誕生しました。当時は大量生産大量廃棄が進んでいたり、高額な海外ブランド品が飛ぶように売れるブランドブームがありました。このような行き過ぎた消費社会へのアンチテーゼとして無印良品は生まれたのです。

創業当時から、地球環境に配慮した質の良い素材を世界中から探して選び、すべての工程において無駄を省き、本当に必要なものを本当に必要なかたちでお客さまに提供する、ということに当たり前のように取り組んできました。ですから、「SDGsという概念ができたから、そこに向かって取り組みましょう」ということではなく、これまでも取り組んでいたことがSDGsという国際目標のテーマと多く重なった、というのが、現在の状況です。

ただ、近年は気候変動やコロナ禍、ウクライナ危機などが起こり、環境課題や社会課題がより深刻化しています。社会の変化や生活者の価値観の変化により応えていくため、また未来の社会にいっそう寄与していくため、2021年を「第二創業」として新しい経営ステージをスタートしました。その大きな目標として「ESG経営のトップランナー」を掲げています。

──「既存の事業や組織のアップデート」を意味する「第二創業」は近年注目を集めています。御社はどのように取り組まれたのでしょうか? SDGsとの関連も含めて教えてください。

坂本 第二創業は中期経営計画という企業経営の大方針に結実しました。創業当時の理念にいま一度立ち返り、よい商品をつくって提供するだけではなく、事業を通じて「感じよい暮らしと社会」の実現を目指しています。

日常生活で使う商品を手に取りやすい価格で提供していくことはもちろんですが、店舗が地域のコミュニティセンターとして地域課題解決に寄与していくことなどを新たに掲げました。「良い商品をつくって販売している会社」から「社会を良くしている会社」へと進化させていきたいと思っています。

「社会や人の役に立つことは、良品計画の根本方針。この価値観のもとですべての事業活動を行っています」と坂本さん

すべての商品・事業でサステナビリティの実現を目指す

──現在行っているSDGsへの具体的な取り組みとその効果について教えてください。

坂本 まずは商品の取り組みについて2つご紹介します。

資源循環型社会の実現を目指すプラスチック商品への取り組み

坂本 プラスチックの収納用品は無印良品の主力商品ですが、資源循環型社会の実現を目指すために、プラスチック商品のリユース・リサイクル・代替素材商品への100%移行推進を目標に掲げています。

2023年2月には、バージンプラスチック(新品のプラスチック)を利用した商品の代替として再生ポリプロピレン(端材をリサイクルして作られるプラスチック素材)を使用した商品「ポリプロピレンファイルボックス・ダークグレー」を発売しました。また、一部再生パルプを使用した「硬質紙ファイルボックス」も発売し、脱プラスチックへの取り組み強化を進めています。

リサイクル材にはさまざまな色が入っているため、再生材を入れると黒点が入るという課題がありました。しかし、環境配慮について考えるきっかけをつくれたり、カラーバリエーションが増えたりと、課題を商品の特徴へと転化させることで多くのお客さまから支持されるようになりつつあります。

バージンプラスチックを利用した商品の代替素材商品の拡充で循環型社会の実現を目指す

プラスチック素材の収納用品の回収

坂本 さらに、全国の無印良品でプラスチック素材の収納用品の回収も始めています。

当社のプラスチック製収納用品は、永くご使用いただける収納に適した素材でありながら、不要になった際の処分など廃棄時の環境負荷低減が課題となっていました。

そこで、地球資源の循環化および廃棄物削減に向けた取り組みの一環として、全国の無印良品の店頭において、無印良品の商品であるプラスチック製収納用品の一部回収を2023年2月3日に始めました。お客さまに店舗にお持ち込みいただき、回収したものを資源化加工。無印良品の商品に有効活用する予定です。

また、処分したいお客さまが商品を必要とするお客さまに販売できるリユースの仕組みも考えています。お客さまとともにリユース・リサイクルの取り組みを進めていき、将来的には他社とも協力して、リサイクル市場を拡大したいと考えています。

店舗のプラスチック収納用品回収コーナー

商品や事業で社会価値を創造

──プラスチック素材に対する取り組みのほかには、どのような施策がありますか?

坂本 では「地域への土着化」を通じた地域課題の解決と地域活性化の取り組みについてご紹介します。

地域の生産者や加工会社とともに商品開発

坂本 当社が第二創業で掲げた2030年のビジョンでは「日常生活の基本を担う」「地域への土着化」を目標に掲げています。この目標を達成するため、生活圏への出店を推進し、地域住民の皆さんや行政と協力・連携しながら地域密着型の事業モデルを確立するために国内10地域に地域事業部を設置しています。

「食」の強化に取り組みながら土着化を推進している近畿事業部では、地域の生産者や加工会社と協業し、地元産業の活性化、食糧自給率の向上、廃棄ロスの削減など地域の課題解決を目指した商品開発を行っています。

近畿事業部がはじめて取り組んだのは、なにわの伝統野菜「難波ねぎ」を使った商品でした。江戸時代に盛んに栽培されたものの、特有のぬめりが機械での加工に適さないことから生産量が減少しているという課題がありました。

生産者保護と歴史のある伝統野菜が衰退していくのは惜しいという2つの観点から、商品開発担当者がこの難波ねぎを使ったメニューを無印良品のレストランで採用。その後、新型コロナウイルスが蔓延したタイミングで、医療従事者が手軽に食べられて保存が利く食品として「難波ネギせんべい」を開発し、医療従事者の方々に寄贈して認知を広げました。

現在、地域と共同開発したアイテム数は2022年11月時点で35にのぼり、2年後には100アイテムまで増やす目標を掲げています。商品化には時間がかかりますが、他地域でも生産者や地域の皆さんとともに着実に活動が広がってきていると手応えを感じています。

近畿事業部で地域とともに開発した商品

地域のコミュニティセンターを目指す

──地域活性化では具体的にどのような取り組みを進めていますか?

坂本 無印良品は現在、商品を販売するだけの店舗ではなく、地域のコミュニティセンターとしての役割も目指しています。そのため、老若男女すべての地域住民の皆さまの心身の健康を支え続ける「まちの保健室プロジェクト」や、高齢化や交通網の弱体化などによって日常の買い物が困難になってしまった方々への支援となる移動販売車、地域活性化を目指すシャッター商店街への新規出店などを行っています。

具体的には、商店街活性化プロジェクトの一環として、群馬県前橋市の前橋中央通り商店街と岡山県岡山市の表町商店街に、無印良品をオープンしました。買い物客を呼び込み、町の賑わい創出に貢献しています。

このように、さまざまな取り組みを通じて地域の方々の間に交流を生み出し、皆さまの健康やより良い暮らしに貢献しています。

お客さまからのリクエストや自治体からの問い合わせも増えており、病院や行政とも連携して地域のコミュニティセンターとしての役割を果たしていく予定です。

地域との対話を通じて未来をつくる

──SDGsが目指す2030年のゴール達成に向けて、今後の目標や展望をお聞かせください。

坂本 SDGsが目指すゴールは、私たちだけでは実現できません。お客さまや地域の方、株主の皆さまなど、すべてのステークホルダーの皆さまと社内外の境目なく対話しながら未来をつくっていきたいと考えています。当社はこれを「公益人本主義経営」と呼んでいます。

現在、社内で、サステナビリティ、SDGsに関わる19のプロジェクトがあり、目標を持って活動していますが、SDGsは2030年に終わることではありません。これからも、持続可能な社会の実現を目指し、ひとつずつ事業を推進していきたいと思っています。

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