2023年06月28日
環境保全と利益創出を同軸にとらえる環境経営を早くから推進しているリコーグループ。同社のSDGsへの取り組みについて、同社 ESG戦略部 ESGセンター 所長の阿部哲嗣さんにお聞きしました。
株式会社リコー ESG戦略部 ESGセンター 所長 阿部哲嗣さん
──御社のSDGsへの取り組み姿勢について教えてください。
阿部 当社は2036年に創業100年を迎えます。そこで2036年に向けた長期ビジョン「2036年ビジョン」を策定し、「"はたらく"に歓びを」を掲げました。その実現のためには歓びの連鎖を拡げていくことが使命であると考え、働きがいと経済成長が両立する持続可能な社会への貢献を目指しています。2023年4月からは、企業理念である「リコーウェイ」を改定し、その使命と目指す姿に「"はたらく"に歓びを」を位置付けました。
社員一人ひとりが自律的に働くなかで"はたらく"歓びを感じ、生み出した価値でお客様の"はたらく"歓びを支えることで、働きがいと経済成長が両立する社会の実現を目指します。
同様に、4月から新たにスタートした中期経営戦略では、多様なお客さまの"はたらく"にリコーが変わらずに寄り添い続けていくために、デジタルサービスの会社への変革の挑戦を続けることを示しました。
──どのようにして「リコーウェイ」をSDGsへの取り組み推進につなげたのですか?
阿部 リコーウェイは、「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」という、当社の創業の精神「三愛精神」に基づいた企業理念です。これは、SDGsが掲げる「誰ひとり取り残さない社会」という考え方に合致しています。
当社は創業以来、お客さまの多様な"はたらく"に寄り添い続け、新たな価値を提供してきました。しかし近年は、新型コロナウイルス感染症の流行や国際情勢の不安など、事業環境が急激に変化。お客さまやリコーグループ社員の"はたらく"も大きな変化に直面しています。
そこで、新たな中期経営戦略をスタートさせるにあたり、あらためて自分たちの存在意義を考え直しました。当社の使命は、デジタルサービスの提供でお客様の"はたらく"を変革していくことであると再認識し、事業を通じてSDGsの目標達成に貢献することを、さらに明確に打ち出しています。
──御社はずいぶん早くから脱炭素社会や循環型社会の実現を全社の重要課題と位置づけ、環境経営を掲げてきました。なぜそれほど早くからSDGsへの取り組みを進めてきたのでしょうか。
阿部 1970年代に大気汚染や水質汚濁などの環境問題が深刻化したことに企業としての責任を感じたからです。自分たちの住む地球環境課題の解決に取り組むことは当然と考え、1976年に環境推進室を設立。環境保全活動を推進してきました。
──まだ企業の環境貢献への意識が低かった1970年代に、すでにSDGsへの取り組みが芽生えていたのですね。そこからどうやって50年も継続してこられたのでしょうか。
阿部 単純に「公害対応」という考え方では、ただのコストアップになってしまいます。そこで、1998年に「環境経営」のコンセプトを経営方針として提唱し、環境活動を企業の成長や利益創出、企業価値の向上とつなげて行うことを宣言しました。
──では、ここからは具体的なSDGsへの取り組み事例について教えてください。
阿部 まずは、高い環境性能を実現した、環境配慮型複合機をご紹介します。
この複合機は、本体の外装カバーの約50%に再生プラスチックを使用し、製品梱包材にもリサイクル可能な紙材料を使用して、包装プラスチック使用量を従来比で54%削減しました。省エネ性能も向上しているので、商品ライフサイクル全体の環境負荷が軽減。カーボンフットプリント(CFP、※1)は従来比約27%削減となっています。
2023年の2月に発売したばかりですが、お客さまからは「CFPを大幅に低減した製品を導入することで、SDGsへの取り組みを推進できるのがありがたい」など、これまでにない反響をいただいています。
また、業務のDXを後押しする機能面でも高い評価をいただいています。名刺や領収書などの小サイズ原稿の電子化や、電子化した文書の閲覧・管理・データ処理の効率化、RICOH kintone plusとの連携など、お客さまの業務に寄り添ったデジタルサービスが充実した本製品は、DXに取り組みたいけれど、何から取り組めばいいかわからなかったというお客さまから「導入したことで、DXが推進できた」と大変喜ばれています。
※1 カーボンフットプリント:商品・サービスがライフサイクル全体で排出する温室効果ガスの排出量をCO2に換算して表示すること。原材料調達から生産、輸送、利用、廃棄、そしてリサイクルに至るまで、すべての過程での排出量を換算する。
通常のプラスチック(右)に比べ、不純物が混じりやすく、製品への使用が難しかった再生プラスチック(左)を世界ではじめて50%も入れた「RICOH IM C6010シリーズ」
──御社の複合機を導入することがSDGsへの取り組みにつながるというのは、取り組みに悩む企業や自治体にとって朗報ですね。ほかの事例も教えてください。
阿部 はい。次は、原材料表示などを包装材へ直接印字し、環境負荷を低減させたラベルレスサーマル技術をご紹介します。
コンビニエンスストアの株式会社ローソンでサラダパッケージに採用いただいたサーマル印字技術「ラベルレスサーマル」は、包装材であるフィルムに直接印字できる技術です。商品名や原材料などの情報がパッケージに直接印字できるため、これまで貼り付けられていた紙ラベルが不要になり、廃棄物が削減できます。また、容器のプラスチックの削減にもつながり、環境負荷を低減できます。
製造現場の紙ラベル貼り付け作業やインクリボン交換の手間が不要になるため、生産性の向上も期待できます。さらに、栄養成分やアレルゲン情報なども表面に印字できるので消費者の利便性も高まります。
今後はサラダパッケージ以外の商品への展開も視野に入れて考えています。
プラスチック使用量と手間を同時に削減するサーマル印字技術「ラベルレスサーマル」により、パッケージのふたも不要になった(出典:株式会社リコー 2023年2月14日プレスリリース、および株式会社ローソン 2022年11月25日プレスリリースより)
また、ペットボトルに直接印字できるレーザーマーキング技術によるペットボトルのラベルレス化への貢献にも取り組んでいます。こちらもプラスチック使用量の削減につながると、飲料メーカーと協力をしながらより多くの製品に活用いただけるよう取り組みを進めています。
シュリンクラベルやタックシールなどを使わず、ペットボトルへの直接印字が可能になったレーザーマーキング技術(アサヒ飲料株式会社「アサヒ 十六茶」の事例より)
──いまや消費者も環境に配慮した製品を選ぶ時代です。こうした環境配慮型製品を数多く生み出す会社であることは、社員の働きがいにもつながっているのではないでしょうか。
阿部 おっしゃる通りです。2022年3月にリコーグループの国内社員約3万3000人に社会課題解決と社員の働きがいに対する調査を行ったところ、回答者の92%が「自分の業務を通して社会課題解決に取り組んでいる」と回答し、さらに約90%が「自身の社会課題解決への取り組みは、働きがいと誇りにつながっている」と回答しました。
当社の会長は、「自分の仕事が社会にどう貢献できているかを、自分の子どもに説明できますか」とよく社員に問いかけています。複雑なシステムを構築するエンジニアや製品の技術者であっても、その仕事がどのような社会課題の解決に寄与しているのか、それを社員ひとりひとりが自覚して言語化できるようになることで、働きがいが向上し、結果的に生産性があがって「よい会社」として世の中に残っていけると考えています。
「SDGsへの取り組みにより社員の帰属意識と生産性が上がり、それが企業の利益創出にもつながっています」と阿部さん
──6月1日から30日までの1カ月間は、「リコーグローバルSDGsアクション2023」が行われました。これも社員一人ひとりの仕事がSDGsにつながることを実感するための活動ですね。
阿部 そうですね。「リコーグローバルSDGsアクション2023」は、SDGsの達成に向けて進める取り組みの一環として毎年実施しています。
一人ひとりの仕事がSDGsに繋がっていることを認識するため、社会課題解決に貢献する製品・サービスや、拠点・組織でのSDGsに関わる業務活動を動画で紹介したり、SDGsアクションと事業成長への想いを集結させる社員参加型社内イベントを開催したりと、社員の意識啓発と実践につなげています。
──ありがとうございます。最後に、今後の目標や展開を教えてください。
阿部 当社は「社会課題解決による持続的な企業価値向上」を経営の根幹に据え、SDGsやESGに関する目標を「将来財務」と位置づけ、財務目標と合わせて全社の経営目標にしています。将来財務とは、いまから取り組むことで3〜10年後の将来の財務成績に好影響を与える活動だと定義しています。
いまや、SDGsへの取り組みが不十分な企業は、成長、存続できない時代になっています。ビジネスモデルも変わっていくなか、当社はこれからも社会課題解決に貢献する事業を生み出すことで、お客さまや株主のみなさまの期待に応えていきたいと考えています。