サントリーが100年先も目指す「ウォーター・ポジティブ」な未来 企業のSDGs取り組み事例vol.54

2023年10月12日

「水と生きる SUNTORY」をコーポレートメッセージに掲げ、水の持続性を守ることを事業の根幹に据えているサントリー。同社のSDGsへの取り組みについて、サステナビリティ経営推進本部 天然水の森グループ 課長の市田智之さんにお聞きしました。

サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ経営推進本部 サステナビリティ推進部 課長 天然水の森グループ 市田智之さん

企業理念の実践そのものがSDGsへの取り組み

──食品酒類総合企業の老舗である御社がSDGsに取り組む理由から教えてください。

市田 私たちは水源保全活動を基幹事業と位置づけています。これは、サントリーグループ全体における事業活動の生命線です。弊社にとって「水」は非常に重要な資源です。良い水がなければ、私たちはビールもウイスキーも清涼飲料も、何ひとつつくることができません。「良い水」を守ることがサントリーの使命であると考え、良質な地下水を育み、守るためにさまざまな活動を展開しているのです

弊社は「人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命(いのち)の輝き』をめざす。」を企業理念に掲げ、事業活動を行っています。

近年はSDGsへの取り組みが企業に求められる時代ですが、弊社が創業以来120年以上追求してきた企業理念の本質は、まさにサステナビリティ経営そのものでもあります。新しく出てきた概念だからと、取り組んでいるわけでは決してありません。

長期的な活動で良質な水資源を育てる

──企業理念を実現するための取り組みが、まさにサステナビリティ経営であったのですね。これまでにどのようなSDGsへの取り組み活動をされてきたのでしょうか。具体的に教えてください。

市田 「水のサステナビリティ」においては、良質な水源の涵養(かんよう/水が自然に染み込むように、ゆっくりと養い育てること)と、生物多様性の保全を目的とした森林整備活動「サントリー 天然水の森」を行っています。

「サントリー 天然水の森」活動は、2003年に熊本県阿蘇で開始し、今年で20年目となりました。2023年現在、全国15都府県の22ヵ所、約1.2万ヘクタール(山手線内側面積の約2倍)もの森林で取り組みを展開。各県や市町村と協定を結び、森林を整備することで、国内工場でくみ上げる地下水量の2倍以上の涵養を達成しています。

この取り組みによって、ワシやタカなどの猛禽類が生息し、かつそれらが子育てできるような環境が戻るなど、生物多様性の保全にも貢献できています。

事業に直結する地下水を守るために始めた取り組みが、結果的に地上の持続可能性をも守ることにつながっているのは、大変喜ばしいことです。


国内における「サントリー 天然水の森」活動拠点

SDGs教育で未来の水環境を守る

水の大切さを子どもたちに教え、意識を育む

──次世代を担う子どもたちに、水や水を育む森の大切さを伝える「水育(みずいく)」にも力を入れています。この取り組みの概要について教えてください。

サントリー水育「出張授業」の様子

市田 「水育」は、「天然水の森」の取り組みを開始した翌年の2004年にスタートした活動です。次世代を担う子どもたちに、自然のすばらしさや、水と水を育む森がいかに大切であるかということを示し、それらを未来に残していくために自分に何ができるかを考えてもらうプログラムを提供しています。

具体的には、小学校3〜6年生とその保護者を対象とした、「サントリー天然水」のふるさとで自然体験をしてもらう「森と水の学校」と、サントリーの水育専門講師が学校を訪ね、小学校4・5年生を対象に水や森に関わる授業を行う「出張授業」(2006年〜)の2つのプログラムで展開しています。

2015年からは海外での「水育」もスタート。2020年からは「森と水の学校」リモート校や、「出張授業」のオンライン授業も始まり、2022年までに国内外で述べ9ヵ国約45万人(うち、国内は23万人)の方にご参加いただきました。

「サントリー天然水」のふるさとで開かれる自然体験プログラム「森と水の学校」

──「水育」に参加した児童や保護者からはどのような反響がありましたか?

市田 国内では、参加した児童の保護者から「家でも親子で水の大切さについて話をするきっかけになった」「歯磨きをするときは水を止める、お風呂の水を有効に使うなど、節水への意識が高まった」など、持続可能な水アクセスへの問題を「自分ゴト」として捉えるようになったというご意見を多数いただきました。

また、20年、30年という継続した活動を積み重ねることで、「天然水=サントリー」という圧倒的な信頼性の構築にもつながっていると確信しています。

「出張授業」で興味深そうに実験を見る子どもたち


グローバルに広がり続ける「水育」

──水資源問題は地球環境保全の重要なテーマですが、国や地域によって課題が異なります。「水育」活動において意識されていることを教えてください。

市田 「天然水の森」活動は、30〜100年後の未来を見据えた活動です。短期間で結果が出るものではないので、40名以上の多彩な専門家とともに科学的根拠に基づき長期的に活動しています。

海外での展開の場合は、国内で展開してきた「天然水の森」活動をそのまま行うのではなく、国や地域によって水に対する課題が異なります。同様に「水育」もネーミングとコンセプトは踏襲しつつも、各国や地域に合わせた内容に変えて活動を行っています。

国内の知見や資産をもとに、「サントリー」という社名がほとんど知られていない国や地域でも森林を広げる活動や水育を実施してきた結果、2019年には米国ケンタッキー州の「ケンタッキー州環境教育アワード」で優秀ビジネス賞を受賞。ベトナムの商工会議所からは持続可能なビジネストップ3に選ばれました。地球規模での水の持続可能性向上にも貢献するとともに、グローバルな企業価値の向上も実現できています。

2022年には世界各国の「水育」担当者を一同に集めた「水育サミット」も開催しました。各国の取り組み知見を共有し、さらに活動を発展させていく礎になったと感じています。

ご自身のお子さまの学校にも出張授業を行ったという市田さん。評判は上々だったそう

人的資源を惜しみなく投資する"本気以上"のSDGs活動

──「水育」活動をさまざまな手段や方法でグローバルに展開していることに、御社の本気度を感じます。

市田 ありがとうございます。弊社にはサステナビリティ推進に関わる担当者だけでも多くの者が在籍しています。サントリーとしてSDGsへの取り組みを大変重視しています。

たとえば、私が所属しているのは、サステナビリティ推進部のなかでも、「天然水の森」活動や「水育」を展開する「天然水の森グループ」ですが、当社の活動やサステナビリティ推進について啓発するグループ、科学的な根拠を研究するグループ、水の容器であるペットボトルの持続可能性を考えるグループなど、水のサステナビリティに関するメンバーだけでもかなりの人数がいます。

これは繰り返しになりますが、水や農作物など自然の恵みに支えられた食品酒類総合企業として、人と自然が互いに良い影響を与え合い、永く持続していくために「本気」以上の取り組みをすることを、当然の使命と考えているためです。

また、グローバルに事業を展開する弊社だからこそ、世界の課題にこれまで以上に真摯に向きあい、持続可能な社会の実現に向けて挑戦を続けていくことも当たり前と考え、取り組みを行っています。

SDGsへの取り組みは続けることが重要

──100年以上の歴史を持つ老舗企業だからこそ、100年先の未来も見据えて取り組みを行っているのですね。最後に、今後の展望や目標についても教えてください。

市田 実は今年、小学生の時に「森と水の学校」に参加した方が、「自らが活動を推進する立場になりたい」と今は教える側のスタッフとして参加してくれています。科学的に、雨が降ってから地下水としてくみ上げられるようになるまでには約20年かかるといわれていますが、我々の活動も20年以上継続してきたことで、ようやく循環のサイクルが見えてきたように感じています。

SDGsへの取り組みはとにかく継続が大事です。今年度からは「100年先の水を育む」というビジョンにあわせ、「ウォーター・ポジティブ」という言葉を広告等でも使って積極的に発信し、皆さまに取り組みをお伝えしています。

「水育」は、全国的に見るとまだ認知度がそれほど高い活動とはいえません。いまは小学生のみが対象ですが、ゆくゆくは中学生や高校生にも向けた活動へと広げていき、ステークホルダーのみなさまとともに「ウォーター・ポジティブ」な世界を実現できたらと願っています。

サントリーの水源涵養活動を示すキャッチフレーズ「ウォーター・ポジティブ」

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

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