2023年11月07日
50年、100年先を見据えて、次世代の街づくりを行ってきた三井不動産グループ。同社のSDGsへの取り組みについて、サステナビリティ推進本部 サステナビリティ推進部 企画グループ 竹澤正浩さんにお聞きしました。
三井不動産株式会社 サステナビリティ推進本部 サステナビリティ推進部 企画グループ 竹澤正浩さん
──はじめに、御社がSDGsへの取り組みに力を入れる理由から教えてください。
竹澤 弊社はデベロッパーとして、街づくりを通じて社会に新しい価値を提供し続けてきました。私たちのビジネスは、建物を建設する事業者さま、そこにご入居されるテナントさま、そして施設をご利用になる方々なくしては、決して成り立ちません。
こうしたことから、人と地球がともに豊かになる社会の実現を目指すことこそが事業継続につながると考え、三井不動産グループのロゴマークである「&」マークに象徴される「共生・共存」「多様な価値観の連繋」「持続可能な社会の実現」の理念のもと、グループビジョンに「&EARTH」を掲げ、SDGsへの取り組みを推進しています。
──御社は6つのマテリアリティを掲げてさまざまなSDGsへの取り組みを推進されています。なかでも「"終わらない森"創り」と題した森林保全活動に大変力を入れていらっしゃいます。なぜ総合不動産デベロッパーである御社が森林保全に取り組んでいるのでしょうか。
竹澤 理由は3つあります。
第一に、日本の森林事情が挙げられます。日本は国土面積の約7割が森林です。しかし、そのうちの4割は「経済林」と呼ばれる、建築資材の活用などを見込んでつくられた人工林です。人工林には人の手による適切な管理が欠かせませんが、外国からの安い輸入木材が増えたことや、林業離れによる人手不足などが原因で多くの人工林が放置された状態に陥っています。その結果、森林の中の生物多様性が失われ、土砂崩れなどの自然災害を招く原因にもなってしまっているのです。誰かが森林を管理し、森を育てていく必要があると考え、手を挙げました。
次に、気候変動への対応です。二酸化炭素を吸収してくれる森林を守り、豊かな地球環境を未来につないでいきたいという思いから、北海道の道北地方を中心に、東京ドーム約1063個分に相当する約5000ヘクタールの森林を保有・管理し、森林保全活動を行っています。
3つめは、三井不動産の根幹にある「挑戦し続けるDNA」です。弊社は1673年に東京・日本橋で創業した三井越後屋呉服屋を起源に持ち、不動産部門が独立する形で1941年に設立されました。「進取の気性」で常に社会に新しい価値を創造してきた弊社としては、森林保全活動へのチャレンジでデベロッパー業界に新風をもたらしたいという思いで取り組んでいます。
三井不動産グループが保有する森林拠点。道北地方を中心に、31市町村にまたがる森林を保有・管理し、保全活動を行なっている
──「"終わらない森"創り」の具体的な活動内容について教えてください。
竹澤 「植える・育てる・使う」というサイクルを通してサステナブルな森創りに取り組んでいます。
植える
「植える」のステップは文字どおり植林活動です。毎年9万本から10万本の苗木を植えながら、2008年からは、従業員による植林研修を実施しています。ひとりひとりが苗木を植えることで、活動を自分ゴト化する場となっています。
2022年の植林研修は、TEAM JAPANゴールド街づくりパートナーである三井不動産が日本オリンピック委員会と冬季産業再生機構と共に実施し、8名のオリンピアンが参加してくれました。「冬の競技に欠かせない雪や氷といった自然環境が、地球温暖化によって影響を受けている。少しでも気候変動への対策に貢献したい」と立ち上がってくれたのです。北海道の美瑛町で従業員とともに約500本のグイマツを植え、弊社の森林活動を多くの人に知っていただくことにつながりました。
オリンピアンとともに植林研修活動を実施した様子
育てる
健康な森を維持するために必要なのは定期的な手入れです。樹木の成長に応じて下草刈りや枝打ち、間伐などの適切な管理を徹底的に行い、森の生物多様性を守ると同時に、雨風による地表流出や土砂崩れを防ぎ、防災林としての役割を果たせる森林を「育てて」います。
さらに、2017年からは東京都水道局と協働し、多摩川上流に位置する東京水源林の保全にも取り組んでいます。
使う
そして豊かな森を未来に守り伝えていくために、森で採れた国産木材を積極的に建築資材やオフィス家具などとして「使う」ことにも挑戦しています。これは弊社の企業イメージ向上と、事業活動へのプラス効果にもつながっています。
木のぬくもりと緑が心地よい三井不動産のオフィス
──森を育み、守り続けることがブランドイメージ向上にもつながっているのですね。森林保全活動が御社の事業に活かされた具体的な事例を教えてください。
竹澤 2021年に竣工した「MOCXION INAGI(モクシオン稲城)」は、「木」を構造材に用いた木造賃貸マンションです。木のあたたかみはもちろん、断熱性や調湿性、遮音性といった点でも高い評価を受けています。
周辺の賃貸マンションに比べて賃料が高いにもかかわらず、「環境負荷の低い暮らしがしたい」「あたたかみ、ぬくもりを感じる」と、環境への意識が高い20〜30代の入居者獲得につながっています。
2023年8月にはグループ初となる4階建てALL木造カーボンゼロ賃貸マンション「パークアクシス北千束MOCXION」を竣工。全フロアの構造部分に木を採用し、オール電化にすることで入居中の建物から排出されるCO2排出量実質ゼロを実現。人と地球環境にやさしいマンションで、国産木材の魅力を伝えていますが、こちらも竣工前から多くの問い合わせをいただくなど、高く評価されています。
「木造賃貸マンションは三井不動産グループ」という弊社のブランドイメージ普及も構築できていると感じています。
──マンション以外でも、森林保全活動を事業に活かされている事例があれば、教えてください。
竹澤 現在は、2026年の竣工を目指し、日本橋に木造賃貸オフィスビルを建設する計画も進行中です。現存する木造高層建築物として国内最大級となる、地上18階建の賃貸オフィスビルにおいて、鉄骨やコンクリートと比べ建築時のCO2排出量が少ない木材を適材適所に使い、国産建築資材を活用する機会の創出と、地球環境保全への貢献を目指しています。
さらに、木のぬくもりは、オフィスで働く方や地域の方の心身の健康にも好影響を与え続けることができると考えています。建築時だけでなく、完成後も持続可能な社会に寄与できる拠点になると、大きな注目を集めています。
国内最大級の木造賃貸オフィスビルの完成予想パース
提供:三井不動産、竹中工務店
※当パースは現時点のイメージであり、今後変更の可能性があります。
──脱炭素、ブランドイメージ向上など木材活用には大きな効果がある反面、まだコスト面での課題もあります。どのようにお考えですか。
竹澤 たしかに木造マンションや木造高層ビルは、従来の鉄筋・鉄骨マンション、ビルに比べてコストも時間もかかります。しかし、不動産デベロッパー最大手の弊社が取り組むことで、業界全体にムーブメントを起こすことができると考えています。業界全体に国産森林活用の動きが広がれば、物流コストも、製造における労務費も抑えられ、それが需要増につながるという好循環を生み出せます。業界を牽引する弊社の使命と考え、今後も取り組みを続けていきます。
──企業がSDGsへの取り組みを進めることはどのような効果があるのでしょうか。御社の今後の展望についても教えてください。
竹澤 森林保全活動だけではありませんが、弊社が行うSDGsへの取り組みに着目して就職活動をしている学生さんは多くいます。採用活動において、SDGsへの取り組みは非常に重要な要素であると考えています。
また、「持続可能な社会の実現」という難題に立ち向かうことは、弊社の事業特性である挑戦の精神そのものです。
社会課題、地球環境課題への挑戦が事業成長につながると考え、今後も人と地球がともに豊かになる社会に向けた取り組みを進めていきたいと考えています。
筆者プロフィール
講談社SDGs編集部
SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。