自分も、地域も、地球環境も、すべてが整った未来へ。ゴールドウインが目指す真のウェルビーイング 企業のSDGs取り組み事例vol.58

2023年12月15日

「GREEN IS GOOD」を掲げ、サステナビリティを推進しているスポーツアパレルブランドを展開する株式会社ゴールドウイン。同社のSDGsへの取り組みについて、コンディショニングブランド「ニュートラルワークス.(NEUTRALWORKS.)」を展開する株式会社ゴールドウイン ニュートラルワークス事業部長の大坪岳人さんにお聞きしました。

株式会社ゴールドウイン 事業本部 ニュートラルワークス事業部長 大坪岳人さん

創業74年目の老舗スポーツアパレルメーカー、ゴールドウイン

──ますは御社の事業概要から教えてください。

大坪 弊社は創業74年を迎える、スポーツアパレルメーカーです。創業以来、時代ごとに移り変わるスポーツマーケットの動向を的確にとらえ、お客さまの期待に応える製品・サービスをお届けしてきました。

1950年に前身となる津澤メリヤス製造所を創業。1963年に社名を現在の株式会社ゴールドウインにあらためてからは、「エレッセ」、「ダンスキン」、「ザ・ノース・フェイス」、「ヘリーハンセン」など、世界の一流スポーツブランドと提携し、日本におけるスポーツアパレルメーカーとしての地位を築いてきました。

そして2016年からは、私が事業部長を務める、コンディショニングブランド「ニュートラルワークス.」が弊社オリジナルブランドとしてスタート。スポーツライフスタイルで24時間を過ごしたい人たちのココロとカラダをニュートラルに整え、いつでも動き出せる"READY"な状態へとサポートするブランドです。

このブランドでは、環境に配慮した素材や工程を採用した機能性の高いウエアやグッズを展開。アクティブからリカバリーまで、シーンに合わせて、ココロとカラダをニュートラルな状態へと導くウエアを提案しています。

「ニュートラルワークス.」では、ココロとカラダを整える、機能性の高いウエアを提案している

国連のSDGs採択の7年以上前から環境貢献に取り組む

──なぜスポーツアパレルメーカーである御社が、サステナビリティへの取り組みに力を入れているのでしょうか。

大坪 私たちは競技スポーツ用品の製造から始まり、レジャースポーツ、アウトドアブランドと事業を広げてきました。それに伴い、ただ製品を作って売るだけでなく、その先の生活スタイルや考え方を伝えるブランドとして事業をシフトさせてきました。

スキーを例に挙げれば、1980年代から90年代は毎年新しいウエアを発表し、シーズン終盤にセールをして売れ残りは廃棄する、という環境や自然に配慮しているとは言い難いことも行っていた時代がありました。しかし、シーズンスポーツやアウトドアアクティビティは、自然の恩恵なくしては成り立ちません。

環境への意識の高さで知られるブランド「パタゴニア」も着なくなった 製品の回収やリペアを早くから行うなど、現在のSDGsにつながる取り組みを行っています。弊社も2008年には、お客さまと一緒に、楽しみながら地球を守る 「GREEN IS GOOD」というコンセプトを掲げ、環境に配慮した新素材や製品の開発をはじめ、楽しみながら環境への負荷を減らせるような仕組みを策定し、スポーツアパレルメーカーとして、環境のためにできることをさらに広げていきました。

「子どもたちが冬にスキーが楽しめる環境を残してあげたい」と大坪さん

徹底して環境貢献への思いを貫き通す

「エコは売れないからやりたくない」と言われた過去

──御社が「GREEN IS GOOD」を掲げた2008年はまだ「SDGs」や「サステナビリティ」 の概念がなく、「環境貢献は一部の意識の高い人がやること」というイメージが強かった時代です。反発もあったのではないでしょうか。

大坪 おっしゃるとおりです。最初は社内外ともに拒否反応がありました。実際、素材にこだわるとどうしても価格が高くなってしまいますので、バイヤーさんからは「環境に配慮していない素材でいいので、安い製品がほしい」と言われたこともあります。また、社内からは「エコは売れないからやりたくない」という声を聞くこともありました。

それでも、当時「ザ・ノース・フェイス」の事業部長だった渡辺貴生(現・ゴールドウイン代表取締役社長)が、カタログの冒頭に循環につながるメッセージを掲げるなど、強い思いで環境貢献を打ち出し続けたことで、次第に「ノースフェイスがやるならうちも」と、社内のほかのブランドにも浸透していきました。

転機となったSpiberとの協業

大坪 大きな転機が訪れたのは2015年、Spiber株式会社と資本・業務提携を結んだことでした。

Spiberは代表の関山和秀さんが慶応義塾大学大学院の博士課程に在籍中していた2007年に創立したベンチャー企業で、微生物が発酵するプロセス(ブリューイング)で作った、植物由来の原料から作った構造タンパク質素材「Brewed Protein™️(ブリュード・プロテイン™️ )※」を製造していました。生物圏での循環というサステナビリティを有し、かつ、さまざまな素材に置き換えることのできるこの素材を使って弊社の製品を造っていこうと、当時の1年分の営業利益を投資しました。

そこから品質を担保して製品化するまでに4年かかりましたが、この事業提携をきっかけに、社員やまわりの意識が徐々に変化していきました。「環境を自分たちの手で守ろう」というサステナビリティの自分ゴト化にもつながっていったように思います。

※Brewed Protein™は、日本およびその他の国におけるSpiber株式会社の商標または登録商標です。

製品の説明をする大坪さん

「GREEN IS GOOD」アパレルメーカーならではの基準

──「GREEN IS GOOD」のコンセプトのもとで、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。

大坪 弊社の場合は、2008年から取り組みを進めました。

1つは、着なくなった製品を捨てずに回収して再利用する循環リサイクルシステム 「GREEN CYCLE(グリーンサイクル)」です。

ペットボトルや、缶・古紙回収にヒントを得て、お客さまが着なくなったウエアを店頭で回収しています。化学繊維の服は高純度の原料へとケミカルリサイクルし、ダウンウエアから取り出した羽毛は「グリーンダウン」へと再び精製。これらを使用し、新たな製品へと生まれ変わらせています。

次に、地球に負担をかけない素材を使う「GREEN MATERIAL(グリーンマテリアル)」です。

環境への負荷を最小限に抑える素材を選んで使用することを表明し、環境課題を解決するため原料・資材のリサーチや開発に日々取り組んでいます。2030年までに地球環境に貢献できることを数値目標として表明し、展示会などでもバイヤーさんにプラスチックや紙ではない不織布のエコバッグを配布し、会社の姿勢を示しました。

「GREEN IS GOOD」では、大切な衣類を可能なかぎり長く愛用していただける製品開発も行っています。通常は表に出ることの少ないリペア(修理)コーナーを直営店舗内につくり、専門の技術を習得したスタッフが、ウエアなどの修理を承る取り組みも、今年からスタートしました。

「楽しいことをしていたら地球環境がよくなっていた」を目指す

喧伝することなくひたむきに取り組みを続ける意義

──2022年には、北海道で使わなくなった漁網を回収して再生した循環型素材「リサイクルナイロン」を使った新しいウエアも発売しました。店内には特にそうした素材表示がされていませんが、なぜ店頭POPなどで大々的に宣伝されないのですか?

大坪 私たちは、「自分が楽しいこと・気持ちいい生活をしていたらいつの間にか地球環境がよくなっていた」という社会をつくっていきたいと考え、あえて大きく表示していません。そのため、消費者が選択する際の参考にしてもらうためのタグをつける程度にとどめています。

地球環境は、誰も「悪化させよう」と思っていたわけではないのに、いつの間にか取り返しのつかないところまで来てしまいました。「環境にいいからやる」「我慢して環境のために頑張る」では一時的に頑張れても、この先何十年、何百年と続けることはできないと思います。

漁網を回収して再生した循環型素材「リサイクルナイロン」を使ったセーター

ゴールドウインが考える真のウェルビーイングとは

──冒頭でうかがった、2016年スタートの「ニュートラルワークス.」も、毎日の生活の中でココロとカラダを良い状態にしていくウェルビーイングに着目されています。これもウェルビーイングな状態こそが持続可能な状態であるというご認識なのでしょうか。

大坪 そうですね。「ニュートラルワークス.」は「ココロとカラダを整える」ことを大事にしていますが、そのためには、環境負荷が小さいことや地域に貢献できることもなくてはならないと考えています。

現在、弊社全体として、2030年までに環境負荷が少ない素材を使用した製品を90%以上、50年までに100%にするという目標を掲げていますが、「ニュートラルワークス.」では、現時点で環境配慮素材を95%使用したものづくりを行っています。

ウェルビーイングは、自分だけが整っていればよいわけではありません。自分はもちろん、まわりの人も、自分が住む地域社会も、地球環境も、すべてがよい状態でなければ真のウェルビーイングとはいえないと思っています。

そこで、「ニュートラルワークス.」では、より地域を意識した取り組みとして、ごみ拾いをしながらランニングを楽しむ「プロギング」を定期的に実施しています。ごみを拾う人と袋を持つ人がコミュニケーションを取りながら走ることで、カロリー消費だけでなく、ココロの健康も得ることができると毎回多くの方に参加いただいています。

お買い物だけでなく、用事がなくても訪れたくなる場を作っていくことで、お客さまの生活がもっと豊かになるような提案をこれからもしていきたいと思っています。

講談社SDGsロゴ

筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。

記事カテゴリー
企業のSDGs取り組み事例