一人ひとりが幸せを実感できる「住みやすいまち」を目指す ── さいたま市|自治体のSDGs取り組み事例vol.1

2024年01月12日

日本経済新聞社の「全国市区SDGs先進度調査(令和4年度調査)」で2年連続全国1位となった、さいたま市は、早くからSDGsへの取り組みを進めてきたSDGs未来都市(※)です。これまでの歩み、そして未来へ向けての目標を、さいたま市 都市戦略本部 都市経営戦略部 企画・SDGs推進担当 参事 大砂武博さんにお聞きしました。

※「SDGs未来都市」:SDGsの理念に沿った基本的・総合的な取り組みを推進しようとする都市・地域の中から、特に、経済・社会・環境の三側面における新しい価値創出を通して持続可能な開発を実現するポテンシャルが高い自治体を「SDGs未来都市」として内閣府が選定。

さいたま市 都市戦略本部 都市経営戦略部 企画・SDGs推進担当 参事 大砂武博さん

東日本の玄関口は、SDGs先進度調査、2年連続1位

──「全国市区SDGs先進度調査」(日本経済新聞社)で2年連続全国1位となった、さいたま市。まずは、さいたま市の成り立ちについて教えてください。

大砂 さいたま市は2001年に旧浦和市、大宮市、与野市の3市が合併して誕生しました。2003年には全国13番目の政令指定都市となり、2005年に岩槻市を編入して、現在のさいたま市となっています。

新幹線をはじめ6路線が乗り入れる東日本の玄関口として発展しながらも、自然や歴史・文化も多く残り、生活都市として利便性が高く住みやすさを実感されている方が多いと感じています。

なお、市が行っているさいたま市民意識調査でも、住みやすいと感じている人は86.6%、住み続けたいと思っている人は85.2%という結果が出ています。

埼玉県内で初! 「SDGs未来都市」に選ばれた、さいたま市

──さいたま市は2019年、埼玉県の自治体で、はじめて「SDGs未来都市」に選定されました。県内で最初に選ばれた理由について、どのようにお考えでしょうか。

大砂 「誰一人取り残さない」というSDGsの考え方が、本市が目指す「市民一人ひとりがしあわせを実感できる"絆"で結ばれたさいたま市」、「誰もが住んでいることを誇りに思えるさいたま市」という理念と一致していたからだと思います。

誰もが「住みやすい」「住み続けたい」と思えるさいたま市の実現に取り組んできたことが、結果としてSDGsへの取り組みとしても高い評価につながっているのだと考えています。

継続的な市の成長・発展を目指す、さいたま市のスマートシティ構想

──理念の延長にある、さいたま市のSDGsへの取り組み、具体的な内容について教えてください。

大砂 本市の副都心である浦和美園地区を中心とした「スマートシティさいたまモデル」をご紹介します。

さいたま市は2023年4月に総人口134万人を突破したものの、少子高齢化の影響から、2035年をピークに減少することが予想されています。また、老朽化が進む公共施設の改修や、激甚化する自然災害リスクへの備えなど、複雑化・多様化するミッションへの対応も課題です。

こうしたなか、本市が今後も持続的に成長・発展し続けられるよう、AIやIoTを利活用したスマートシティ構想を推進し、課題解決を目指しています。データ、モビリティ、エネルギー、健康、コミュニティの5つの分野を中心に据え、多様な企業と協力しながら、「公民+学」の連携でさまざまなプロジェクトに取り組んでいます。

スマートシティ化に向けて、モビリティサービスを拡充

公民連携プロジェクトのひとつとして、大宮駅・さいたま新都心駅の周辺を中心に電動アシスト付き自転車やスクーター、超小型EVのシェア型マルチモビリティの実証実験を行っており、順次拡大しています。移動の利便性を高めるとともに、エリアの回遊性向上や市民の健康増進につなげています。

専用アプリケーションで利用が可能なシェア型マルチモビリティ。
「ワンウェイトリップ(乗り捨て)方式」(エリアを問わず全てのステーションに返却することが可能)を採用

スマートホーム・コミュニティ

浦和美園駅西口に「脱炭素・レジリエンス・コミュニティ醸成」をテーマとした、「スマートホーム・コミュニティ」(※)先導的モデル街区の整備にも取り組んでいます。

※エネルギー効率が高く、地球環境への負荷が小さい地域社会

この街区では、民間の住宅事業者と連携し、太陽光発電などによる再生可能エネルギーを活用した住宅を建設。街区内の電力を実質再生可能エネルギー100%で供給し、電気自動車を蓄電池として活用するほかシェアカーとして設置しました。

また、通信網および電力供給ラインを地中に埋める「無電柱化」も実施しています。これは災害時の電柱倒壊を防ぎ、景観の向上も目指せる取り組みです。まち全体で脱炭素化と強靭性強化をすすめ、自助と共助を創出する新しいまちの構築を目指しています。

同地区における平時の脱炭素化と災害時のエネルギーセキュリティの確保対策は世界からも注目され、アメリカ合衆国 環境保護庁(EPA)長官 マイケル・リーガン氏や、マレーシア クアラルンプール市長のカマルザマン氏などが現地視察に訪れています。

通信網および電力供給ラインを地中に埋める「無電柱化」の取り組み

蓄電池やシェアカーとして活用できる電気自動車

市民満足度(CS)の向上には、企業や団体の協力が不可欠

──SDGsへの取り組みが、まちの機能強靱化にも寄与しているのですね。災害時に強いまちは、企業からしても魅力的なのではないでしょうか。

大砂 そうですね。交通の利便性はもちろんありますが、近年はSDGsへの取り組みから本市のポテンシャルの高さを感じてくださる企業も増えているものと考えています。

本市では「さいたま市を住みやすいと思う市民の割合」を「市民満足度(CS)」と定め、2030年までにCS90%を目指す「さいたま市CS90+運動」を推進しています。

このCSを高めるためには、市民と行政の関わりだけではなく、普段から地域活動、まちづくり、スポーツ等を通して市民とつながりが深い企業や団体の力が欠かせません。そこで、「誰一人取り残さない」社会の実現に向けてSDGsへの取り組みを推進している企業や団体を「CS・SDGsパートナーズ」として登録し、多様なステークホルダーとの連携により、市民満足度の高いまちづくりを進めています。

2021年に始めた時は68社でしたが、現在は556社に増加しています。

CS・SDGsパートナーズの市民満足度向上及びSDGsの達成に向けた取り組みを紹介するパンフレットでは、各社の取り組みが紹介されている

SDGsウォッシュにならないためには、SDGsへの深い理解が重要

──「CS・SDGsパートナーズ」が、3年間でほぼ10倍に増加しています。なにか特別なPR活動をされたのでしょうか。企業のSDGsへの取り組み推進を促すための情報発信や働きかけの工夫を教えてください。

大砂 本市が積極的にPRしたというよりも、日本経済新聞社の「全国市区・SDGs先進度調査」で2年連続全国1位に選ばれるなど、対外的な評価をいただいている効果が非常に大きいと感じています。

SDGsへの取り組みにおいては、これだけ認知度が上がった現在も、「何からはじめていいかわからない」という企業からの声が聞こえてきます。メディアを通じて、本市が企業のSDGsへの取り組み支援にも力を入れていると伝わったことで、相談や問い合わせが確実に増えました。

──まずは真摯に、SDGsへの取り組みを進めることが重要だということですね。

大砂 そう思います。ただ一方で、SDGsに貢献できる取り組みがない、あるいはまだSDGsの取り組みを行っていないのに、「発信が重要」と先走ってしまうと、SDGsへの取り組みを偽装しているととらえられる"SDGsウォッシュ"になりかねません。SDGsウォッシュにならないためにも、まずはSDGsの理念や目標等をしっかり理解したうえで、SDGsを自社の経営に取り入れていただくことが重要だと思います。

本市は「SDGsへの取り組みをやろう」と思ってSDGsに取り組んできたわけではありません。これまで地道に続けてきたことがSDGsへの取り組みにつながる活動や施策であり、そもそも市として目指す方向がSDGsの目指す目標と合致していたからこそ、みなさまにも受け入れられているのだと思います。

企業との連携を強化し、新しいことに挑戦していきたい

──2023年10月からは、職員の働きやすい職場環境の検証のため、さいたま市役所内の特定の部署を対象に、グループアドレスの実施や、個室型作業スペースを設置する「パイロットオフィス」も始めたそうですね。

大砂 まだ始めたばかりですが、「紙が削減されて必要な文書が探しやすくなった」「事務用品を一元化したことで保管場所を圧縮できた」などの声が出ています。

「スタンディングデスクの導入で会議の時間が短くなりました」と話す大砂さん

──市民と働く企業のみなさまのニーズにていねいに向き合い、答えてきたことが「住みやすいまち」として選ばれる結果につながってきたのですね。

大砂 そうですね。「SDGs」という目標がなかったとしても、さいたま市が東日本の中枢都市として、住民と働く人々のより上質な生活都市を目指すという理念は変わらなかったと思います。これからも「住みやすい」「住み続けたい」と評価いただける市であり続けることを目指し、企業との連携も強化しながら、新しいことにも積極的に挑戦していきたいと考えています。

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

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企業のSDGs取り組み事例