JK課が開いた「ジェンダー平等の実現」への扉 ── 鯖江市|自治体のSDGs取り組み事例vol.2

2024年02月15日

全国の自治体で先駆けてSDGsへの取り組みを推進してきた福井県鯖江市。日本における達成率が低いと言われ続けている「ジェンダー平等」に注力したSDGsへの取り組みが注目を集めています。さばえSDGs推進センター 所長 関本光浩さんと、副所長 橋本由美子さんにお話をお聞きしました。

さばえSDGs推進センター 所長 関本光浩さん(左)、副所長 橋本由美子さん(右)

女性が輝く「めがねのまちさばえ」

──まずは鯖江市の概要と、代表的な産業について教えてください。

橋本 鯖江市は人口約7万人の小さな市です。昔からものづくりが盛んで、96%以上の国内シェアを誇る眼鏡フレーム、業務用漆器の国内シェア80%を占める越前漆器、鯖江市の重要な基幹産業である繊維という「三大地場産業」を中心に発展してきました。

ものづくり分野で培った高度な技術力を基に、IT技術の導入も積極的に行っています。また、現在10以上の大学と連携協定を結び、産学連携で新商品の開発やイノベーション創出にも取り組んでいます。

──鯖江市は2019年に福井県内ではじめてSDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業に選出されました。その理由について、どのようにお考えでしょうか。

関本 女性の就業率が全国トップレベルの福井県。その中で鯖江市は、県内トップを誇ります。昔から女性が社会に出て活躍しており、仕事と生活を両立してきた歴史を持ちます。つまり、本市のものづくり分野の発展には、女性の力が大きく影響しているのです。

2015年、SDGsが国連で採択された際、女性のエンパワーメントによって地場産業を発展させてきた本市との強い親和性を感じました。

そこで、「女性のエンパワーメントが 地域をエンパワーメントする」をスローガンに、"女性が輝く「めがねのまちさばえ」"を掲げ、経済、社会、環境の3側面をつなぐ、女性活躍の推進に関する統合的な取り組みを強化しました。

これが高く評価され、2019年度の「SDGs未来都市」と、その未来都市の中から10事業が選ばれる「自治体SDGsモデル事業」の両方に選定されたと考えています。

女子高生を起用して女性活躍を推進

──女性の活躍を推進するために、どのような取り組みをされているのでしょうか。具体的にお聞かせください。

橋本 では「鯖江市役所JK課」をご紹介します。

「鯖江市役所JK課」は、行政組織の課名をつけた女子高校生による、まちづくりグループです。「行政から最も遠い存在」と思われがちな若者や学生が気軽に地域活動に参加できるプロジェクトとして2014年に発足。独自の"ゆるさ"を持ち味に活動しています。

メンバーは市内在住・通学者で、現在は10期目。「自分たちのまちは自分たちがつくる」という市民主役のまちづくりを進め、ジェンダー平等を掲げる鯖江市の象徴的存在として、延べ139人が参加しています。

JK課が企画立案から開催まで手がけた「全国高校生まちづくりサミット」(2019年11月開催)。
イベントには、全国の高校主たちが参加し、自分の地元の魅力をPRした

関本 発足した直後は「JK課」というネーミングに批判の声も多く寄せられました。しかし、先ほど申し上げたように鯖江市の伝統工芸やものづくりは、女性が重要な働き手として活躍してきたからこそ発展してきたという歴史があります。さらに、市民主役のまちづくりに取り組むうえで、女性や若者の視点が入ることは、まちづくりや産業の発展にも大きく寄与すると考えました。こうした発信をホームページやSNSなどで続けた結果、少しずつ理解が広がりました。

そして発足から1年後には、ふるさとづくり大賞(※)で「総務大臣賞」を受賞。「地域づくりには、いかに多様な視点を取り入れ、住民参画を実現するかが大切。若者や移住してきた人々の参加を促し、地域への関心を高めている」「若い人の意識改革ができると同時に、アプリなど若者ならではの発想が活かされている」など、各方面から高い評価をいただき、メディアからも大きく注目される結果となりました。

こうした既存のやり方にとらわれない取り組みも、2019年にSDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業として、評価いただけるひとつのポイントになったのではないかと考えています。

※ふるさとづくり大賞:「ふるさと」をより良くしようと尽力する団体や個人を、総務省が表彰する制度。都道府県からの推薦をもとに、総務大臣が受賞者を決定する。

橋本 「SDGs」や「行政」という言葉には、どうしても堅いイメージがあります。女子高校生たちが楽しく社会や環境問題に取り組む姿を見せることで、SDGsへのハードルが下がり、市民や企業の「自分ゴト」化が進んだのも大きな効果だと感じています。

JK課が開いた「ジェンダー平等の実現」への扉

──JK課の取り組みは非常にユニークなものです。企業からのお問い合わせやご相談なども多いのではないでしょうか。

関本 そうですね。「鯖江市役所JK課」のプロジェクトについての視察は以前から多くありましたが、2020年に「さばえSDGs推進センター」が開設されてから、ジェンダー平等の取り組みについての視察や問い合わせは増えました。また、いまやSDGsへの取り組みをしていない企業は就活生からも選ばれません。こうした背景から、鯖江市の取り組みについて企業で講演をしてほしい、という依頼や相談も多く寄せられています。

現在は「さばえSDGs推進センター」を、「鯖江版SDGs」の発信や情報収集の場として活用していただき、産学官民が連携して市民ひとりひとりの「行動」につなげていくことで、市内外の企業・団体のみなさまとともに、さらなるSDGs推進を目指しています。

橋本 JK課にはさまざまな活動実績がありますが、ジェンダー平等を進めるために取り組んだ例をご紹介します。土木業界イメージの刷新と認知度向上を狙い、「鯖江市役所JK課」と「現役土木女子」とのコラボレーションで、男性の職業として捉えられがちな土木系分野への女性進出を目的とした体験イベントを行ったことあります。

市役所駐輪場を活用し、ペイントやDIYワークショップなどを実施。塗装が薄くなった駐輪場のペンキを塗り替えて、赤色のスプレー塗料で眼鏡マークをデザインしたり、自転車道のロゴマークを補修したりするなど、女子高生の視点を反映しました。イベントを通して、土木系分野が若者や女性も活躍できる職種であるというイメージアップに貢献できたと考えています。

ドボジョ×鯖江市役所JK課「土木女子PRイベント」 駐輪場ペイントの様子

大型イベント「めがねのまちさばえSDGsフェス」で取り組みを見える化

──企業や業界との共創で、鯖江市のSDGsへの取り組みがますます加速するよい循環が生まれているのですね。

関本 はい、そう思います。昨年10月には、2022年に続き、北陸最大級のSDGsイベント「めがねのまちさばえSDGsフェス」を開催しました。第1回目は約5千人の来場者でしたが、2回目となる今回は、東京ガールズコレクション・LDHとコラボレーションした効果もあり、約2万人が訪れました。

会場では、SDGsの取り組みを行っている市内外38の企業や団体などがブースを構え、体験イベントやワークショップなどを実施。また、学生団体「さばえSDGs部」の企画したクイズやアンブラレラスカイを取り入れるなど、さまざまなジャンルの企業や団体、そして市が取り組んできたSDGsの行動をイベントで「見える化」したことで、市民ひとりひとりのSDGsの「自分ゴト化」がさらに進んだと、手応えを感じています。

「めがねのまちさばえSDGsフェス」の様子

誰もが働きやすく住みやすいまちを目指す

──全国でも珍しいSDGsの専門施設「さばえSDGs推進センター」があることは、SDGsへの取り組みを加速したい地元企業にとっても心強い存在なのではないでしょうか。

関本 そうですね。さばえSDGs推進センターでは企業さんがSDGsに取り組むための相談に応じたり、中小機構北陸本部と連携して、SDGsに取り組む企業のマッチングサイトを作ったりしています。企業の経営課題解決の手段として、鯖江市およびその周辺地域の中小企業のSDGsへの取り組みを強力に推進できていると感じています。

本市が将来にわたって成長力を確保し、持続可能なまちづくりを進めていくには、女性や高齢者、障がいのある方、誰一人取り残さない地域社会をつくっていくことが欠かせません。

ジェンダー平等を軸に、誰もが働きやすく住みやすい「めがねのまちさばえ」を、今後も広めていきたいと思っています。

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。

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企業のSDGs取り組み事例