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ネスレが本気で向き合う「コーヒーの2050年問題」。生産者から消費者まで、コーヒーに関わるすべての人々に喜びを 企業のSDGs取り組み事例vol.60

2024年02月22日

「ネスカフェ」や「キットカット」をはじめ、世界中で愛されるブランドをもつグローバルカンパニー・ネスレ。コーヒー文化の未来が危ぶまれる「コーヒーの2050年問題」の解決に向けて歩みを進める、同社のSDGsへの取り組みについてお聞きしました。

ネスレ日本株式会社 コーポレートアフェアーズ統括部 サステナビリティ&ステークホルダーリレーションズ室 山口恵佑さん

「コーヒーの2050年問題」の解決に向け、1600億円以上を投資

──コーヒーのグローバルリーディングカンパニーである御社が、SDGsへの取り組みをさらに強化することになった経緯について教えてください。

山口 ネスレは、創業者のアンリ・ネスレが乳幼児の高い死亡率を改善するため、1866年に、当時としては画期的な乳児用乳製品を開発したところから歴史が始まっています。ですからもともと、社会課題を解決したいという創業者の思いが会社のDNAとして根付いています。

おかげさまで、近年は世界中のほぼすべての国で事業を展開し、1秒間に約6000杯もの「ネスカフェ」が飲まれるなど、世界最大の食品・飲料企業へと成長しました。10年前からはコーヒー豆の栽培から製造、流通、消費のすべての工程に関与し、サプライチェーンを継続的に改善することを目的とした「ネスカフェ プラン」を導入。生産者とともに持続可能なコーヒー生産のための取り組みを進めています。

──コーヒー業界といえば、「コーヒーの2050年問題」が注目を集めています。御社では、どのような対応をされているのでしょうか。

山口 「コーヒーの2050年問題」では、気候変動の影響で、2050年までにコーヒー生産に適した地域が最大で50%にまで縮小し、コーヒーの供給が難しくなることで、コーヒーで生計を立てている約1億2500万人の人々の生活に影響が出ると危惧されています。

こうした事態を回避し、コーヒー栽培の長期的な持続可能性を確保するために、2022年に「ネスカフェ プラン」をさらに強化した「ネスカフェ プラン2030」を発表しました。2030年までに10億スイスフラン(日本円で約1,600億円)以上の投資を予定しています。

コーヒー栽培を持続可能にする「ネスカフェ プラン2030」

──「ネスカフェ プラン2030」の具体的な取り組みと、その効果・反響について教えてください。

山口 「ネスカフェ プラン2030」では、再生農業を推進することで温室効果ガスの削減を目指し、同時にコーヒー生産者の生活向上を支援しています。

再生農業は、天然資源を活用することにより土壌の「健全性」と「肥沃度(土壌の質)」を高め、水資源や生物多様性の保護を目指す農業のアプローチです。環境負荷を下げながらコーヒーの収穫量を増やし、生産者の生活向上にも寄与する取り組みとなっています。

コーヒー農園だけでなく、周囲の環境や農家の方々への支援、若年層と女性の地位向上まで、さまざまなアクションを行うことで持続可能なコーヒー生産の実現を目指す

「ネスカフェ」のコーヒーの90%は、7つの主要生産地(ブラジル、ベトナム、メキシコ、コロンビア、コートジボワール、インドネシア、ホンジュラス)から調達しています。これらの地域のコーヒー生産者と協力して、2025年までに20%、2030年までに50%のコーヒー豆を、環境に配慮した再生農業で調達することを目指しています。

この取り組みを実現するため、現在までに100万人の生産者に農業研修を実施してきました。さらに、生産性が高く再生農業に適したコーヒーの苗木も生産者に提供しています。再生農業にご賛同いただいた生産者からは、「生産量・収入が増えた」というお声が聞かれ、満足度が向上したというアンケート結果も出ています。

また、再生農業を進めることで、二酸化炭素の排出量を減らし、地球温暖化防止にも貢献できることがわかっています。これにより、2030年までに温室効果ガス排出量半減、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという当社の目標達成にも大きく寄与する取り組みだとみています。

「『コーヒーの2050年問題』に対応すべく、既存のコーヒーの木から病害や気候変動に強く、高収量のコーヒー苗木への植え替えも進めている」と話す山口さん

お客さまには「伝わりやすく」&「楽しめる」工夫を

消費者には「コーヒーを飲むかけがえのない時間」を

──世界有数のコーヒーブランドを有する御社がSDGsに本気で取り組むことで、「コーヒーの2050年問題」も回避できる可能性があるように思います。一方で、コーヒーを飲む生活者に向けては、どのようなアプローチをされているのですか?

山口 いまご紹介した再生農業への取り組みは、生産者や取引先からは高く評価されていますが、一般のお客さまにはなかなか伝わるものではありません。そこで、消費者に向けては「Make your world」と題し、「コーヒーを飲むかけがえのない時間がずっと続きますように」というアプローチでコーヒーの持続可能性を訴えています。

また、俳優の北村匠海さんと岸井ゆきのさんを起用した特別ムービーも公開。「Make your world」を通して、これからも香りや味わいにこだわったおいしいコーヒーをお届けすること、そして、コーヒーを選ぶ際に、生産者や環境に配慮して作られたコーヒー豆を使った一杯を選ぶことが、自分やその周りの世界を変えるきっかけとなることを伝えました。

テレビCMも流し、多くの方に「Make your world」と当社のサステナビリティへの取り組みを知っていただくきっかけとなりました。

イベント会場などにお越しくださった方や、お客さま相談室に寄せられるご意見では、「環境や農家のみなさんに配慮されたコーヒーなんですね」「そういうコーヒーなら飲んでみます」という前向きなご意見が増えました。

「Make your world」でコーヒーのサステナビリティを消費者と共に実現していく姿勢を示した

パッケージのひと工夫でお客さまとのつながりを強化

──御社がSDGsの取り組みを進めることは、持続可能なコーヒー生産と、お客さまからの信頼獲得やファン化につなげる、未来への「投資」なのですね。

山口 はい、そうです。当社は創業精神に則りSDGs目標の達成につながるようなサステナビリティ活動に力を入れていますが、それ以上にお客さまとのコミュニケーションを大事に考えています。

サステナビリティと聞くと、「自分の生活が制限されるのではないか」「大変なのではないか」と思う方もいらっしゃいます。そこで、ちょっと遊び心をいれ、お客さまに喜んでいただけるような取り組みも進めています。

2019年には「キットカット」大袋製品の外袋素材をプラスチックから紙への変更を開始しました。翌年、この外袋を使って「メッセージも書ける折り鶴」が作れると製品に記載したところ、お客さま相談室に、パッケージで折った折り鶴が送られてきたり、お子さまがパッケージの裏に描いた絵と一緒に「素敵な取り組みですね」というお手紙をいただいたりするようになりました。お客さまとのつながりが強まったのを実感しています。

プラスチック量の削減にも大きな成果が出ていて、取り組み開始以来、プラスチックの使用量を累積1150トン(2022年末時点)も減らすことができました。

「折り鶴をつくる」というアクションで、お客さまとの絆を強化

パートナーシップで地球とコーヒーの持続可能性を追求していく

──SDGsへの取り組みで、「伝わりやすさ」「楽しく取り組む」のほかに重視されていることはどのようなことでしょうか。

山口 パートナーシップによる相乗効果ですね。当社だけで取り組みを進めるのではなく、生産者、協力会社、お客さま、時には競合他社とも手を取り合って、一緒に取り組んでいくことを大事にしています。

また、結果を出すためには短期的な視点ではなく、長期視点での取り組みが重要だと考えています。そのために、次世代へのSDGsコミュニケーションとして、2023年の5月から中高生向けに当社のSDGsの取り組みを紹介する環境教育の学習教材「ネスレ サステナビリティ プログラム」の提供をスタートしました。

本プログラムは、ネスレの社会課題に対する取り組みを映像を通して紹介する、探究学習教材です。課題発見や解決にむけて物事を捉える視点や考え方を育み、主体的、協働的な学びをサポートします。

すでに300校以上(2023年12月時点)の学校からお申し込みがあるなど、大きな反響をいただき、非常にうれしく思っています。2024年はさらに、この取り組みを広げていく予定です。

SDGsは、2030年で終わりを迎えるものではありません。2030年は通過点のひとつであり、その先も地球とコーヒーの持続可能性に向け、弊社はSDGsへの取り組みを進めていきたいと考えています。

講談社SDGsロゴ

筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。

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