2024年03月08日
2018年に「SDGs未来都市」に選定され、地域課題解決や経済活性化に向けて取り組んできた神奈川県横浜市。同市温暖化対策統括本部 SDGs未来都市推進課の課長 田村康治さんと、同課の大橋愛加さんにお話をお聞きしました。
横浜市 温暖化対策統括本部 SDGs未来都市推進課長 田村康治さん(左)、同課の大橋愛加さん
──まずは横浜市の概要と、事業者の特徴について教えてください。
田村 神奈川県東部に位置する横浜市は、人口が約377万人、世帯数が約180万世帯という日本最大の基礎自治体です。事業者様も多く、約11万社が事業を展開。うち99.6%以上が中小企業という特徴があります。
──日本を代表する国際港湾都市である横浜市は、SDGsの分野でも高い評価を受けています。2018年に、全国に先駆けてSDGs未来都市に選定されましたが、その理由について、どのようにお考えでしょうか。
田村 横浜市は神奈川県下1位の農業産出額(約119億円)を誇る、農業が盛んな都市です。畑や水田が多く、また海のすぐ近くに位置していることから、横浜に住む人々の多くはおのずと緑地や環境に意識を向けながら生活しています。そのなかで、環境負荷を抑えながら経済的に発展してきた経緯があります。
SDGs未来都市に選定される7年前の2011年、横浜市は国から「環境未来都市」に選定されました。二酸化炭素の排出を減らし、自然と調和しながら、子どもも高齢者も住みやすいまちづくりを積極的に進めてきたことが評価されたのです。
そして2015年、国連でSDGsが採択された時、横浜市では、これまで行ってきた取り組みを加速させるチャンスだと考えました。そこで、環境、経済、社会的課題の統合的解決とグローバルパートナーシップの視点から、環境未来都市・横浜をさらに発展させたSDGsへの取り組みにいち早く着手しました。こうしたことが、2018年にSDGs未来都市に選定された理由だと考えています。
「横浜市はもともと環境意識の高い市だった」と話す田村さん
──環境未来都市・横浜をさらに発展させた取り組みとして、具体的にどのようなことを実施しているのでしょうか。事例とその効果・反響を教えてください。
大橋 まずは横浜の重要な地域資源である「海」に着目した独自の温暖化対策「横浜ブルーカーボン」をご紹介します。
一般的に呼ばれている「ブルーカーボン(海洋に生息する海藻などの生きものによって吸収・隔離されるCO2等の炭素)」に加え、「ブルーリソース(海洋におけるエネルギー等の利活用)」や「親しみやすい海づくり」といった横浜市独自の様々な温暖化対策に取り組む事業が「横浜ブルーカーボン」です。
たとえば、親しみやすい海づくりを進めていくため、横浜・八景島シーパラダイスと連携し、東京湾内に生息する生きものを観察する「グリーンキッズ~東京湾の生きもの観察ツアー~」や、わかめの種苗を植えつけて、成長したわかめを収穫するイベントを開催し、子どもたちが海や環境について考えるきっかけを創出しています。
横浜・八景島シーパラダイスとの連携による「横浜ブルーカーボン」イベント
──事業者、生活者、環境のまさに「三方よし」の取組ですね。ほかに事業者との連携で進めているSDGsの取り組みはありますか?
大橋 2014年から参加している「EARTH HOUR(アースアワー)in 横浜」もそのひとつです。アースアワーはWWF(世界自然保護基金)が主催する、世界中の人々が同日同時刻に消灯する世界規模の環境アクションです。横浜市では、2050年までの脱炭素化「Zero Carbon Yokohama」の実現に向け、みなとみらいの大観覧車など、市民の方の目に触れやすい建造物の照明を消灯することで、温暖化防止と生物多様性保全のメッセージを発信しています。
2023年は帆船日本丸や、みなとみらい地区のビル群といった横浜市を象徴する建造物をはじめ、152の施設等が消灯しました。
今年は2024年3月23日の20時30分からの開催が決まり、企業のみなさまは10分間、市民のみなさまは60分間の参加を呼び掛けています。安全、営業上の支障のない範囲で、事業者のみなさまにも施設の外観照明や看板、オフィスの消灯・減光をお願いするとともに、市民のみなさまにも地球環境を考えるきっかけにしてもらえたらと思います。
「我慢して照明を消灯する」のではなく、おしゃれなイメージで節電をアピールする横浜市らしい取り組み「「EARTH HOUR2023 in 横浜」。日本丸消灯前(左)と消灯後(右)
みなとみらい消灯前(左)と消灯後(右)
──SDGsへの取り組みを、うまく横浜市と事業者が連携して行っているのですね。なぜこれほどスムーズに連携が進められるのでしょうか。
田村 それは「ヨコハマSDGsデザインセンター」の存在があるからだと考えています。
ヨコハマSDGsデザインセンターは、市民や事業者、教育機関といった多様な主体のニーズとシーズをつなぎ、横浜における環境・経済・社会的課題を統合的解決するための中間支援組織です。
横浜市と民間事業者が共同で設立し、官民連携で運営している強みを活かし、SDGsに関する相談受付やアドバイスはもちろん、市内事業者などのSDGs達成に向けた多様な主体同士のマッチングを行っています。
市内外の多様な主体が持つニーズとシーズをつなぎ合わせてSDGsの達成を目指すヨコハマSDGsデザインセンター
大橋 また、ヨコハマSDGsデザインセンターでは、課題解決策を提案し、自らが様々な試行的取組を実施しており、ホームページやSNSなどで、プロジェクト活動に関する情報発信をしています。また、デザインセンター会員には、メルマガ配信により、SDGsに関するイベントやセミナー等の情報を積極的に発信しています。
「SDGsの推進には情報発信も大事」と話す大橋さん
田村 もうひとつは、SDGs達成に向けて積極的に取り組む事業者・団体等を市が認証し、取り組みを支援する制度「横浜市SDGs認証制度"Y-SDGs"」です。
これは、ほかの自治体の認証制度とはかなり違った制度だと思います。横浜市は最初に申し上げた通り、事業者のほぼすべてが中小企業です。「SDGsの取り組みを始めたいけれど、何をすればよいかわからない」「予算がない」「人材がいない」など、SDGsへの取り組みに課題を抱える事業者が数多く存在します。
そこで横浜市は、「SDGsの取り組みを行います」と手を挙げれば登録できる認証制度ではなく、中小企業診断士がヒアリングを行い、環境、社会、ガバナンス及び地域の4つの分野で取り組みの評価を実施。取り組み状況に応じて、3つの区分で認証する制度を立ち上げました。
認証されれば、横浜市入札制度における加点のメリットがあるほか、事業者同士のビジネス連携につながる、認証事業者限定の交流会に参加できるなど、かなりの事業メリットが得られるようにしました。
多くの事業者のみなさんがこの認証を目指し、それぞれのSDGsへの取り組みを進めています。
取得することで、市入札制度での加点などのメリットがある、3つの区分で認証される「横浜市SDGs認証制度"Y-SDGs"」
──SDGsへの取り組みを推進したい企業を、横浜市はさまざまな面でバックアップしているのですね。今後の展望や目標についても教えてください。
田村 横浜市は、SDGsに取り組んでいる企業や人にスポットライトを当てるのが仕事だと思っています。
ライトを当てることでその事業者やブランドが注目され、投資がいき、企業や人が活躍しやすくなり利益が出る。すると今度はそれが地域に還元される。そんな地域循環共生圏をつくっていきたいと考えています。
大橋 今やSDGsへの取り組みは、企業規模を問わず、企業の存続に関わるものです。今後は取引先含め、すべての事業者のSDGsへの取り組みが評価されるようになっていきます。「大企業だけ」の問題ではありません。横浜市の中小企業のみなさまを守るためにも、横浜市はSDGsへの取り組みを率先して進め、情報発信も含めたバックアップに今後も力を入れていきたいと思っています。
筆者プロフィール
講談社SDGs編集部
SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。