ヤマト運輸が物流で未来へ届ける、誰一人取り残さない持続可能な社会 企業のSDGs取り組み事例vol.62

2024年04月02日

2019年に創業100周年を迎え、次の100年に向けて、世界が直面する環境や社会課題解決に応えるべく、さらなる価値向上に努めているヤマトグループ。ヤマト運輸のサステナビリティ推進部長の秋山佳子さんに同社のSDGsへの取り組みをお聞きしました。

ヤマト運輸株式会社 サステナビリティ推進部長 秋山佳子さん

サステナビリティの取り組みは社会の一員としての責務

──サステナブル経営を推進する御社がSDGsへの取り組みを強化するに至った経緯から教えてください。

秋山 ヤマトグループは1919年の創業時から「運ぶ」ことを通じ、「豊かな社会の実現に貢献する」ことを企業理念として掲げています。気候変動や資源の減少、地域の過疎化、労働力人口の減少など、社会全体で取り組まなければならない課題に直面している現代において、持続可能な社会を創ることは、社会の一員としての責務と考えています。

こうした課題に応え、社会と企業がより少ない資源でより豊かになるために、2024年2月にヤマトグループ中期経営計画「サステナビリティ・トランスフォーメーション2030 ~1st Stage~」を策定しました。「持続可能な未来の実現に貢献する価値創造企業」を目指し、グリーンな物流と誰一人取り残さない社会の実現に、より大きく貢献していくことを掲げています。

100年以上続いた事業が将来世代にも愛されながら、環境と社会に調和して続いていけるよう、「環境ビジョン」と「社会ビジョン」の2軸で中長期的な企業価値の向上と持続可能な社会の実現を目指していく覚悟です。

「サステナビリティへの取り組みは企業としての責務」と語る秋山さん

「宅急便」に欠かせない集配車両をEVへ

──具体的な取り組みと、その効果・反響について教えてください。

秋山 「宅急便」を提供する当社においては、気候変動への対応は真っ先に取り組まなければならない喫緊の課題です。そのため、環境ビジョン「つなぐ、未来を届ける、グリーン物流」を掲げ、輸送方法や距離に合わせた環境対応車両への入れ替えを積極的に推進しています。

ヤマトグループでは、「2050年温室効果ガス(GHG)自社排出量実質ゼロ」という長期目標と、2030年にGHG自社排出量を20年度比で48%削減するという中期目標を掲げ、目標達成のための主要施策として電気自動車(EV)や太陽光発電設備の積極導入、再生可能エネルギー由来電力の使用率向上などを打ち出しています。

EVについては2030年までに23,500台の導入を進めています。また、都市部における近距離輸送では電動アシスト自転車や台車などを多用することで温室効果ガス排出量を削減。2002年から導入を開始した電動アシスト自転車は2023年度末で約3,600台の導入が完了しています。

しかし、単純にEVを導入すればよいというわけではなく、頻繁に車両を乗降し、荷物を出し入れするドライバーにとって使いやすい車両であることも重要です。

そこで、ドライバーの作業効率や働きやすさと、環境負荷低減を両立した車両を車両メーカー各社と開発しました。例えば、日野自動車と超低床・ウォークスルーの小型BEV(バッテリー式電気自動車)トラックを用いた集配業務を2021年から実験的にスタート。2022年からは量産型国産小型商用BEVトラックを500台導入し、環境に配慮した物流に貢献しています。

温室効果ガス排出量削減に寄与するBEV「日野デュトロ Z EV」

自治体や他企業との連携強化でカーボンニュートラル実現を目指す

群馬県との連携協定でEV導入を加速

──EVの推進には、充電スポットの拡充など、インフラ整備が欠かせません。また、充電による待機時間や夜間の一斉充電による電力使用ピークの偏りなど、さまざまな課題があります。どう対処されているのでしょうか。

秋山 近年、カーボンニュートラルの実現に向け、自治体、事業者を問わず脱炭素の取り組みが求められています。当社でも全国各地の自治体と連携し、地域活性化や地域の課題解決に向けた取り組みを進めていますが、そのなかから、群馬県内におけるEV導入・運用、エネルギーマネジメントに向けた取り組みをご紹介します。

当社は2017年3月に群馬県と地域活性化包括連携協定を締結しました。国内でも日照時間が長い地域特性を生かし、「温室効果ガス排出量ゼロ」を掲げて再生可能エネルギーの導入などを推進しています。

この連携協定に基づき、群馬県内の営業所などに太陽光発電設備を10基導入しており、2024年度中に19基まで導入を拡大する予定です。2030年までに集配車両約850台をすべてEVにする予定です。なお、この取り組みで得た知見を今後、全国にまで拡大していく考えです。

Hondaと手を組み太陽光バッテリーを用いた軽EVの実証実験

秋山 また、EVを導入するうえでは、交換式バッテリーの有用性が期待されていることから、2023年11月から本田技研工業との協業で交換式バッテリーを用いた軽EVの集配業務における実証をはじめました。

日中に太陽光で発電した再エネ電力を交換式バッテリーに使用することで、充電による待機時間の削減や電力使用ピークの緩和など、より効率的なエネルギーマネジメントの実現に貢献していきます。

本田技研工業株式会社との協業で集配業務の実証を進める交換式バッテリーを用いた軽EV車両

──自治体や他社との協業などにより、SDGsへの取り組みを広げているのですね。共創により新たな価値も生まれているのでしょうか。

秋山 当社の事業の原点である「運送行為」は、社訓に「運送行為は委託者の意思の延長と知るべし」とあるように、単に物を運ぶことだけにとどまらず、お客さまのこころをお届けすることとしています。

お客さまにとって安心で信頼できるサービスを提供し続けるために、社員一人ひとりが「どうすればお客さまにさらに満足していただけるか」ということを、常にお客さまの立場に立って考えながら、品質の向上や新たなサービスの開発に取り組むことで、これまでにない新しいサービスも次々と生まれています。

たとえば、2021年2月からは、IoT電球「ハローライト」を活用した見守りサービスの提供をはじめています。こちらは、担当の春見よりご紹介させていただきます。

離れて住む家族に安心をもたらすIoTを活用した見守りサービス

春見 近年、地域社会での独居高齢者の増加や家族構成の変化、地域コミュニティの希薄化などにより、高齢者の孤立が社会課題となっています。また、自治会や福祉関連事業者など、地域で高齢者を見守る側の人材不足や高齢化も課題となっています。

こうした背景から、全国のお客さまに"まごころ"を届けてきた当社として、何かできるのではと考え、ハローテクノロジーズ社が開発した「ハローライト」とヤマト運輸の物流ネットワークを組み合わせた「クロネコ見守りサービス ハローライト訪問プラン」をはじめました。

「ハローライト」は24時間の間に点灯・消灯が検知されなかった時などに通知が届くデバイスで、ご自宅の電球を「ハローライト」に交換するだけでWi-Fiがなくても使用できます。「クロネコ見守りサービス ハローライト訪問プラン」は、「ハローライト」が異常を検知した際にご依頼に応じてヤマト運輸のスタッフが「ハローライト」の設置先へ代理で訪問するサービスです。高齢の親を持つご家族や不動産関連事業者、自治体などで導入いただいています。

地域の方々がより安心・便利に暮らせる社会を目指す、ヤマト運輸の見守りサービスイメージ図

春見 また、2022年10月には、UR都市機構と連携協定を締結。全国のUR賃貸住宅居住者を対象にIoT電球「ハローライト」を活用した見守りサービスの提供をスタートしました。全国のUR賃貸住宅にお住まいの方々が安心して住み続けられる環境づくりに寄与しています。

今後も当社の経営資源を活かし、高齢者だけにとどまらず、子育て世代やすべての方々が安心して暮らしていけるようなまちづくりに向け、さまざまなサービスを開発していきたいと考えています。

「クロネコ見守りサービス ハローライト」担当のネコサポ事業開発部 ネコサポ事業推進課 春見 萌さん

持続可能な未来のために物流業界のイノベーターが重要視することとは

──「宅急便」を軸に、より地域に密着した事業へと進化しているのですね。今後の目標や展望についても聞かせてください。

秋山 ヤマトグループは1919年にトラック4台で大和運輸として創業して以降、日本初の路線事業となる東京〜横浜間での定期便や、物流業界の常識を覆した「宅急便」など、多くのイノベーションとともに発展してきました。

しかし、環境・社会課題は、当社だけの力で解決できることではありません。より多くのパートナーや地域と協働し、共に新しい価値を創り出していくことに今後も力を入れていきたいと思っています。

また、運送における温室効果ガス排出量削減だけでなく、資源循環の仕組みを構築することなども、社会および事業の持続性を両立した「グリーン物流」の実現には欠かせません。企業価値を向上させながら、経営理念である「豊かな社会の実現に貢献」していきたいと考えています。

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

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