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DEIに取り組んできた清水建設が掲げる「ダイバーシティ経営」 ── 「みんなが主役」の考え方で誰もが働きやすい未来へ 企業のSDGs取り組み事例vol.65

2024年05月31日

日本経済の持続的成長に欠かせないDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)は、性別や人種といった個々の"違い"にとらわれることなく、多種多様な人々がお互いを受け入れて共存共栄していくことを表すキーワードです。最近では、経営の最重要項目として挙げる企業も増えていますが、清水建設では男性社会だった建設業界の未来を見据え、業界内で先駆けて2009年から、女性活躍推進を軸としたダイバーシティ経営(※)に取り組んでいます。DE&I推進部長の西岡真帆さんに、同社の取り組みをお聞きしました。

※多様な人材の能力を最大限発揮できる機会を提供し、イノベーションならびに価値創造につなげる経営

清水建設株式会社 コーポレート企画室 DE&I推進部長 西岡真帆さん
(略歴)施工管理、コンクリートの専門技術者などを経て、2015年6月より人事部にてダイバーシティ推進に携わる。同年、同社で女性初のダイバーシティ推進室長に就任。2023年4月より現職

男性社会の建設業界でいち早くダイバーシティに着目

──まずは御社がダイバーシティ(DEI)に注力するようになった経緯を教えてください。

西岡 2009年、清水建設は人事部の組織として「ダイバーシティ推進室」を新設しました。当時の建設業界は男性社会のイメージが強く、実際に働く方の大部分が男性であり、弊社にも総合職(現在はグローバル職)の女性はほとんどいませんでした。

しかし、弊社が建設する建物や構造物は、様々な人が使います。そのなかで、清水建設の未来を見据えたときに、今後「さらに女性の視点も必要になる」と考え、ダイバーシティ推進の一環として女性活躍推進に取り組むことにしました。

それはつまり、男性だけでなく、女性にとっても、そして誰にとっても使いやすい建物や構造物をつくるためには、多様な視点が必要であると考えたからです。

また、段階的に引き上げられていた障がい者の法定雇用率への対応、将来のグローバルな展開を見据えた外国籍の採用も強化すべく、ダイバーシティ推進室は誕生しました。

──「女性活躍推進法」が成立したのが2015年(施行は2016年)ですから、2009年に取り組みを始めていたというのは早い印象を受けます。

西岡 そうですね。建設業界の中ではかなり早かったと思います。

当時の清水建設は、「現場監督=男性」という固定観念があり、さまざまな面で多様な人材が働きやすい環境ではありませんでした。

たとえば建設現場では、女性がそもそも少なかったという理由から、女性用のトイレや更衣室が設置されていませんでした。当時は「女性が現場で働く」という発想さえなかったのです。まずはこうした足元の課題をすくい上げ、実際に働いている人の声をヒアリングしながら、ひとつひとつ改善していきました。

清水建設のダイバーシティ推進

──日本は少子高齢化による「人手不足」という課題を抱えています。女性が活躍できる環境を整えることは、その解決にも寄与しますよね。そのなかで御社では、具体的にどのようなDEIの取り組みをされたのでしょうか?

1) 出産後も女性が安心して働き続けられる環境を構築

西岡 ダイバーシティ推進室が設立される前年の2008年に、結婚・出産・育児を理由に退職した社員の再雇用制度を設けました。これは、ただでさえ少ない女性社員が、当時は結婚や出産を機に辞めてしまうという事情があったからです。

育児中でも就業継続できるサポートとして、2012年にはベビーシッター利用時に1日3,000円(2023年から1カ月60,000円に改定)の費用補助が受けられる制度を導入。翌年には、国内外の女性社員を集め、当社初の女性活躍推進フォーラムも開催し、会社が本気で女性活躍推進に取り組むというメッセージを発信しました。

また、現場で働く女性が増えてきたこともあり、女性用のユニフォームを導入。実際に現場で働く女性の意見を取り入れ、体のラインに合った動きやすいモデルに変えました。

重くて動きにくい安全帯も軽量化。使いやすさが向上し、男性社員も購入しているという

──結婚や出産後も働き続けたいと考える女性は多くいます。ですが以前はまだ、そうした環境が整備されていなかったのですね。

西岡 ダイバーシティ推進室設立以前は、会社から転勤を指示された場合、それを受け入れられない場合は退職を選択せざるを得ない事が多かったようです。しかしこれも、個人の事情に応じた柔軟な対応ができるように選択肢を広げました。

こうした施策の積み重ねで、2014年からは出産を理由に退職する女性社員は一人も出ていません。

ダイバーシティの取り組みについて話す西岡さん

2) 研修やイベントを通じて、ダイバーシティを社内に浸透

──女性だけでなく、障がい者や外国籍社員の雇用に関しては、どのような整備を進められたのでしょうか?

西岡 いまは性別や国籍、障がいの有無だけでなく、LGBTQ+への理解も求められる時代です。ダイバーシティの理解促進や社内のカルチャー醸成のためのイベントなど、さまざまな取り組みを行いながら、弊社ではすべての人の「働きやすさ向上」を目指しています。

そのためにはまず、お互いを知ることが必要です。研修を行う場合は、当事者だけでなく上司も一緒に参加。ジェンダーやジェネレーションなどによっていろいろな考え方があることを知ることで、お互いを認め、尊重し合う機会の創出へとつながります。

ただ、多様性の受け入れについては、「相手を理解する」「受け入れる」と考えると、自分が無理をしなくてはいけないと感じる方もいるようです。そこで私たちは、「排除しない」という視点で話をすることで、そのハードルを下げています。自分と違う属性の人と出会う時、「無理解」や「思い込み」で接してしまうと、相手を傷つけることになります。まずは正しい理解から始めることが大切だと思います。

女性活躍推進によって、多様性が生まれ、改善が推進

──ダイバーシティの意識醸成のための社内研修ですが、管理職の方はお忙しいと思います。みなさんの反応は当初から、ポジティブなものだったのでしょうか?

西岡 最初は反対意見も多かったですね。特に現場の管理職である工事長はスケジュール面からも、研修に参加してもらうことは容易ではありませんでした。また当初は、ダイバーシティ研修の必要性が浸透していなかった部分もありました。

ところが、研修に参加した後は、ダイバーシティの視点が、実は自分自身の働きやすさにもつながることを知り、納得感があったことから、考え方に変化が現れてきました。

皆さん、時代が変わりつつあることに気づいてはいたものの、ダイバーシティが「自分ゴト」になっておらず、どうしたら良いのかわからなかった、という本音がこの研修から見えてきました。

ゼロだった女性現場監督が約200人に増加

──研修を通して、ダイバーシティを取り入れるメリットを知り、それを実感する機会も現場では生まれているのでしょうか?

西岡 はい。現場に女性監督が入ることで多様性が生まれ、業務改善が進むケースが生まれています。

また「女性現場監督が入ることで現場の雰囲気がよくなった」という話も聞きます。ほかにも、「現場でのクレーム対応は女性が担当したほうがスムーズに進む」といった意見もあり、女性が現場にいることのメリットを、さまざまな形で実感しているように思います。

現在、現場監督をしている女性は200人近くに増えました。まだ圧倒的に男性が多く、女性の現場監督は全体の10%以下ですが、ほとんどゼロだった時代から考えると、驚くべき進化だといえます。

女性社員と役職者が一堂に会す、「シン・ダイバーシティ」活動

西岡 2022年度からは「シン・ダイバーシティ」活動と称し、ジェンダーギャップの解消や女性管理職比率の向上を目的とした活動も行っています。

2023年には管理職一歩手前の女性社員とその上職が一堂に会し、「ジェンダーギャップの解消のために自身が取り組むべきこと」についてのグループワークを開催。経営トップらも全国14部門の会場を訪れ、従業員へ直にメッセージを発信しました。

2シーズン目となった2023年の「シン・ダイバーシティ」活動。写真は参加者に語りかける同社の宮本洋一会長

経営トップが動き、社内の意識変革を促す

──会長はじめ、経営トップの方が全国に赴き、ダイバーシティについて社員と直に対話するというのは、インパクトも効果も大きそうです。

西岡 おっしゃる通りです。会長の宮本が各支店に赴いて、メッセージを発信し、特に役職者の意識は大きく変わりました。

「清水建設が女性活躍に取り組んで15年も経っているのに、相変わらず女性のリーダーが出てこないのは彼女らのせいではない。君たちの、そしてもちろん私の責任でもある。だから今から変えていこう」

経営トップがそう断言したことで、一緒に参加している女性社員たちも「会長があそこまで言うのだから、今まで考えたこともなかったけれど、役職を目指してみよう」とモチベーションが上がったと聞きます。

"みんなが主役"のダイバーシティ推進で誰もが働きやすい未来へ

──こうした取り組みによって、女性管理職の比率はどれくらいに増えたのでしょうか? また今後の目標についても聞かせてください。

西岡 現在、課長級以上の女性管理職比率は5%程度に増えましたが、さらに向上できるように目標数値を掲げ、2030年度には10%以上を目指しています。

ダイバーシティ推進は女性、外国籍の人、障がいのある人、LGBTQ+の人に対する保護策のように捉えている人もいますが、みんなが当事者で、みんなが主役であると捉えれば、もっと柔軟に考えることができるのではないかと思います。

かつては子供の病気や親の介護などで、仕事を休んだりすると、重要な仕事がアサインされなかったりすることがありました。けれども、自分が病気や怪我で仕事を休まなければならないことは誰にでも起こりうることですし、性別に関わらず、仕事とプライベートの両立を大切にしている人が増えてきています。

また、障がい者雇用においては、単純に法定雇用率を満たせばOKとするのではなく、障がいの有無にかかわらず、それぞれの個性を尊重し、能力を発揮する働き方ができるような工夫を進めていきたいと考えています。

昨年初めて、車いすユーザーや聴覚に障がいがある社員などが参加する現場見学会を行いました。これまでは、障がいを理由にリスク回避の観点から建設現場に行く機会が得られなかった人も少なからずいました。参加者は現場を目の当たりにすることで、「今まで自分がやっていた仕事はこういうところに繋がり、役立っていたのだ」という実感を持つことができました。また、受け入れ側である現場の社員も、障がいのある方への合理的配慮を通じて、新たな気づきがありました。

私自身、長年ダイバーシティに携わっていますが、自分がいかに知らないことが多いのかと気づかされます。手を止めるとゼロに戻ってしまうので、少しずつでも歩みを進め、10年先も誰もがいきいきと働ける環境へとつなげていくことで、清水建設の持続的な成長へとつなげていきたいと思っています。

「障がいの有無にかかわらず、活躍できる現場が増えてくる可能性を感じた」と前向きな感想が寄せられた

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

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