「Made in Japan」にこだわり続けるタビオが生み出した「ムダを出さないビジネスモデル」 企業のSDGs取り組み事例vol.69

2024年07月17日

「日本の靴下業界の永続」を目的に掲げ、全国で靴下専門店の「靴下屋」「Tabio」「TabioMEN」を展開しているタビオ株式会社。アパレル業界が抱える過剰生産と在庫過多問題に、独自のビジネスモデルで立ち向かう同社のSDGsへの取り組みを、SDGs担当・長宗英雄さんに聞きました。

タビオ株式会社 SDGs担当 長宗英雄さん。同社が展開する「靴下屋」にて

過剰生産と大量廃棄の問題に、独自システムで対応

──御社は「日本の靴下業界の永続」を目的に掲げる靴下専業企業です。どのような想いでSDGsへの取り組みを進めているのでしょうか。

長宗 アパレル業界では長年、見込み生産方式という体制をとってきました。これは、年に2回、多いところでは季節ごとに4回、「このくらい売れるだろう」という予測に基づいて生産量を決めるスキームです。

しかしこのやり方では、過剰生産と在庫過多という問題が発生していました。予測に反して売れると生産商品が間に合わず、逆に売れないと大量の不良在庫として残るという事態が起きてしまうのです。そして、この不良在庫を解消するために行われていたのが年に2回の「バーゲン」でした。

私たちはこうした問題を解決するために、店頭での販売情報を国内の生産工場とリアルタイムで共有し、消費情報を把握する生産システムを構築しました。現在は、「売れるものを売れるだけ」供給する独自のビジネスモデルを確立し、事業を展開しています。

「Made in Japan」へのこだわり。日本の靴下業界・職人を守りたい

──過剰生産と在庫過多というアパレル業界の生産体制問題を解決したいという想いが、御社のビジネススタイルの根幹にあるのですね。ほかにもSDGsへの取り組みを推進する理由があるのでしょうか?

長宗 はい。それは、日本の靴下はもちろんのこと、製造の匠の技と機械を守りたいという想いです。

弊社は1968年、靴下問屋で長年修業を重ねた越智直正が、独立・創業したのがはじまりです。

日本の靴下は世界最高峰の技術と品質を誇っていますが、外国産の安い靴下が大量に輸入されるようになってきたことで、日本の靴下産業は衰退の一途をたどっています。その結果、技術をもった職人の減衰は言うまでもなく、国産の靴下用の編機や生産補助器具の製作工場も瀬戸際に追い込まれているという状況にあります。

こうした現状に立ち向かうべく、徹底的に「Made in Japan」にこだわることで日本の靴下技術を後世に引き継ぎ、守っていくことが、靴下専業企業である弊社の使命とも考えています。また、靴下産業を支えることで、地域経済の活性化と日本の伝統や文化を支援することにもつながり、企業としての社会貢献を果たすこともできると考えています。

「日本の靴下技術を守り、後世に引き継ぐことが使命」と長宗さん

40年以上前から取り組む「ムダを出さないビジネスモデル」

──御社が日本製にこだわっているのは、優れた品質の靴下を生産するために欠かせない技術と設備、ノウハウをもった国内の靴下工場を守り、お客さまに喜んでいただきたいという想いもあるのですね。具体的には、どのような取り組みでその想いを実現されているのでしょうか。

長宗 弊社では約40年前に、靴下1足1足に品番とカラーを書いた商品カードを付けて、売れた時に外してもらい、そのカードを送り返して貰う「カード管理システム」を取り入れました。

それぞれの商品につけた管理カードを、店を回った営業が回収し、集計。そのデータを次の生産に活用することで、売れ行きに応じて靴下の生産ができるようになりました。この方法を採用することで、店が在庫調べをしなくても、どんな商品がどれくらい売れたのかがわかる「販売管理システム」を構築したのです。

その後にコンピューターシステムが発達し、どこよりも早く店頭に「POS販売システム」を導入。染色工場、糸商社、編立て工場(ニッター)、物流センター、店舗、そしてタビオにいたるすべての段階で、お店の販売情報を共有することにより、それぞれの工程で独自に必要な素材や生産数量を判断できるようにしました。

1992年、サプライチェーンとロジスティクスを最適化するため、編立ての主力工場から車で15分以内の距離に物流センター(現タビオ奈良)を設立しました。同施設には業界屈指の検査機器を揃えた靴下の研究開発室も設立し、物流効率の向上だけでなく、靴下の品質管理体制を飛躍的に向上させました。

これらの取り組みにより、自社工場製品の売れ行きがリアルタイムに把握でき、廃棄ロスの大幅な削減を実現したのです。さらには副次的な効果として、運搬距離が短縮されたことで燃料も節約できるようになりました。結果、CO2排出量も減少し、環境への負荷軽減にもつながるものとなっています。

高付加価値で安価な輸入靴下との価格競争を防ぐ

──システム化による生産効率向上と、物流センターによる物流効率向上で、過剰生産と在庫過多という課題解決を実現されたのですね。一方で、システムの導入や物流センターの設立のためには資金が必要です。輸入品の安売り靴下との価格競争にならないために、どのような工夫をされているのでしょうか。

長宗 とにかく履き心地にこだわり抜いて、一足ずつ丁寧に作り上げることで差別化を図っています。すべての人の足にぴったりと寄り添い、まるで「第二の皮膚」のように、履いていることを忘れてしまうような感覚を体感いただける靴下であると自負しています。

弊社が販売する靴下は95%以上が国産ですが、これは我々が求める商品を作る技術力がある工場が日本にしか存在しないからです。

弊社のお客さまは、リピーターが非常に多いことが特徴として挙げられます。これは、一度でも弊社の靴下を履いていただくと、その履き心地のよさで、二度三度と繰り返し購入してくださるケースが多いからだと感じています。

価格競争には終わりがありませんが、品質にこだわることで、お客さまに支持いただいているのだと思っています。

──こだわりの品質を実現するために、自社で理想の綿花の栽培も行っていますよね。

長宗 はい。『世界最高の靴下を作りたい』という創業者である亡き越智直正の想いから、自社での綿花栽培をスタートしました。良い靴下をつくるために、弊社では素材選びから始まりますが、素材となる糸の原料は100%が海外からの輸入に頼っています。

こうしたことから、2009年に国内で綿花を育てる「綿花栽培プロジェクト」を立ち上げました。試行錯誤していたなか、ご縁をいただき、奈良県の耕作放棄地で綿花の栽培ができることになりました。奈良県は日本で靴下の生産量がもっとも多い県でもあります。経験豊富なシルバー人材の協力のもと、農薬や化学肥料を全く使わず、ひとつひとつ手摘みで最高級の綿花を収穫しています。

現在では約5ヘクタールの栽培面積となり、国内では最大規模となっています。休耕田の有効利用だけでなく、地域雇用や高齢者の働きがい創出にもつながっていると自負しています。

最高級の綿花を感じてもらうため、綿花摘みイベントも開催

──自社栽培は決して簡単ではないと思いますが、ビジネスとして成り立っているのでしょうか。

長宗 おっしゃる通り、綿花栽培は手間と時間がかかるので、まだ事業としては厳しい状況ではあります。

化学肥料を一切使わずに1から10まで人の手で行っているので、人件費を含め経費がかかるという課題があります。今後、新しいアイデアで生産効率を高めていく工夫が必要と感じています。

発信に力を入れ、共感者を増やしたい

──ほかにも課題と感じていることはありますか?

長宗 リサイクルの壁ですね。ナイロンやポリエステルなどの化学繊維は分解・精製により別の素材にリサイクルができますが、弊社の製品はコットンを中心とした天然繊維であるがゆえに、リサイクルが進まないのです。

そこで、靴下の製造過程で生じる輪っか状の「端切れ」を使った取り組みを始めました。

障がい者施設や、支援学校への教材として、また一般の小学校の子どもたちに向けて、「端切れ輪っか」を活用したSDGsワークショップなどを行い、私たちがどういう想いで靴下を作っているかを知ってもらうと同時に、モノを大切にする心を育むお手伝いもしています。

店舗でも同様のワークショップを行っていて、親子連れなどに好評を博しています。

製造工程でできる端切れを使ったワークショップ

──「端切れ輪っか」を使ったワークショップに参加した子どもたちが、御社の取り組みに興味を持ち、大人になった時に御社に特別な想いを抱くようになることも十分に期待できますね。今後の展望や目指す未来についてもお聞かせください。

長宗 弊社は、いわゆる「ファンづくり」というところが十分ではありませんでした。「販促費用をかけるくらいなら、その分をモノづくりに」という想いも大きかったからです。

しかし今の時代はSNSなどにおける発信がとても重要な時代です。弊社がどのような想いで靴下を作り続けてきたのかを知ってもらい、多くの方に共感してもらうためにも、今後は発信にも力をいれていきたいと考えています。

そして共感してくださるパートナーの皆さまと一緒に、日本の靴下業界の維持発展を今後も目指していきたいと思っています。

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。

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