歯みがき、つめかえ、リサイクル──「より良い生活習慣」を社会に浸透させたライオン 企業のSDGs取り組み事例 vol.72

2024年09月04日

創業以来、人々の生活習慣と深く密着した日用品を数多く生み出してきたライオン株式会社。社会課題の解決に寄与してきた同社のSDGsへの取り組みを聞きました。

ライオン株式会社 サステナビリティ推進部 部長 西永英司さん(左)、同 サステナビリティ推進部 マネジャー 千葉瑞栄さん(右)

「歯みがき習慣」の歴史を創ってきたライオン

ライオンらしいSDGsとは、「未来へ向けた"今日"に貢献すること」

──創業133年を迎える御社がSDGsへの取り組みを進める背景とその想いをお聞かせください。

西永 弊社は1891年の創業以来、創業者・小林富次郎の想いである「事業を通じて社会のお役に立つ」ことを変わらぬ使命としてきました。現在は、この想いを引継ぎ「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」をパーパスとしています。製品を提供するだけでなく、生活者の皆さまにより良い習慣づくりをしていただけるよう、情報発信や普及啓発活動を推進しています。そんな弊社の象徴的な取り組みともいえるのが「歯みがき習慣」の歴史です。

1969年の日本では、1日2回以上歯みがきをする習慣が根付いておらず、10〜14歳の子どものむし歯の比率は大変高いものでした。ハミガキを製造するメーカーとして、これを大きな社会課題であると捉え、子どもたちの歯の健康を守りたいという想いから、行政や歯科医師会、学校などとともに歯みがき習慣を社会に根付かせる活動を行ってきました。

その結果、2022年には1日に2回以上歯みがきをする人の割合が約80%まで上昇。10〜14歳のむし歯比率は約1/3に低下し、正しい歯みがき習慣の定着によって、人々のオーラルヘルスも大きく向上しました。

さらに、人々の意識が変わったことにより、ハミガキ市場はこの50年で約4倍に拡大しました。人々の健康に貢献する習慣をつくってきたことが、結果としてハミガキ市場を活性化させ、しっかりとした事業構築につながってきたといえます。

歯みがき習慣を根づかせる活動の結果、「高いむし歯比率の改善」という社会課題を解決に導いた

弊社の歩んできた133年は、時代とともに変化する社会課題に対応し続けてきた歴史です。生活者の皆さまの、未来へ向けた"今日"に貢献することが、ライオンらしいSDGsの取り組みだと考えております。

「習慣づくり」によって市場も拡大

──「歯みがき」を習慣化させることで、人々の健康増進だけでなく、マーケット拡大にも貢献されてきたのですね。歯みがき習慣が定着したことで、製品カテゴリーも広がったのではないでしょうか。

西永 まさに、その通りです。近年、お口の健康が全身の健康に影響を与えるということが学術的に証明されてきました。

そこで弊社では、マウスウォッシュや歯間ブラシ・デンタルフロスなど、ハミガキに加えて、総合的にお口の健康に役立つ製品も次々と開発・販売してきました。

習慣づくりの拡大とともに製品ラインアップも拡充

むし歯や歯周病からお口を守るために、「食べたら歯をみがく」ことを提唱してきたことで、オフィスなどでの昼食後の歯みがき習慣が徐々に広がってきたことも、市場拡大の一因になっていると感じています。

「社会課題の解決に取り組んできた結果が市場拡大にもつながった」と西永さん

サステナブルなミント生産の仕組み構築を支援

──習慣化してきた歯みがきを「あたりまえ」のこととして続けていくために、原料調達でも工夫をされているそうですね。具体的な取り組みについてお聞かせください。

西永 弊社のハミガキの香料には、世界各地で生産された上質な天然ミントを使用しています。そのひとつである和種ハッカは、インドでもっとも多く生産されていますが、すべてが持続可能な環境で生産されているわけではありません。持続可能な労働環境や生産条件などが整えられた「認証農家」が現状は不足しているからです。

また、近年の気候変動による気温上昇や降水量の変化などで、天然ミントの入手は年々困難になっています。

そこで弊社では、ハミガキに使用するすべての和種ハッカについて、厳しい審査を通ったSAI(Sustainable Agriculture Initiative)認証ミントへの切り替えを進めています。

認証農家によって生産された和種ハッカを調達・継続購入することで、ミント農家の労働環境や収入が改善。認証農家の拡大を促進し、サステナブルなミント生産の仕組みの実現を支援しています。

製品づくりを通してミント農家の労働環境や収入改善を図ることで、サステナブルなミント生産の仕組みの実現を目指す

繰り返し使える「つめかえ文化」の普及にも貢献

──持続可能な原材料調達の仕組みを構築することは、よいものを作り続けていくためにも不可欠な取り組みなのですね。中身はもちろん、御社は製品パッケージにおいても、環境に配慮した取り組みを進めています。こちらについても教えてください。

千葉 はい。弊社は洗剤やハンドソープなどの製品において、中身をつめかえて本体を繰り返し使う「つめかえ文化」の普及にも貢献してきました。

出荷量ベース(t)で比較すると本体ボトル約20%に対し、つめかえ品は約80%です。日本では本体ボトルをおおむね5回は繰り返し使っていただいており、習慣として定着していると言えます。

また、洗剤を濃縮化することで容器をよりコンパクトなものに変更する取り組みも進めています。

日用品主要8製品群において、仮に濃縮化とつめかえ製品の拡充がなかった場合と比較すると実使用量で年間約35万トンものプラスチック使用量の削減に繋がっています(2019年ベース)。さらに、つめかえ用フィルム容器は本体容器よりも容器の材料が少ないため、使用後の容積も小さく、家庭ごみの削減にも貢献しています。

濃縮化とつめかえ製品の拡充によるプラスチックとCO2の削減効果

「戦いは店頭で、課題解決は協働で」を掲げ、花王と協業

──歯みがき習慣もつめかえ習慣も、生活者の多様なニーズを的確にとらえ、さまざまな選択肢を提案し続けてきたことが、市場拡大と持続可能な取り組みにつながってきたのですね。ただ、つめかえ用のフィルム容器は複合素材なので、リサイクルするには技術面・コスト面での負荷が大きいという課題もあります。御社ではどのように対応されているのでしょうか。

千葉 おっしゃる通り、つめかえ用フィルム容器は、主に使われている素材が複合材料からなるため、現状の技術ではリサイクルが困難です。また、日用品のプラスチック包装容器については、高度なリサイクルに向けた分別回収の仕組みが十分に確立しておらず、生活者にリサイクルの必要性が伝えきれていないという課題もありました。

こうした課題は、弊社だけで解決できる問題ではありません。そこで2020年9月に、花王さんと、プラスチック包装容器資源循環型社会の実現に向けた連携を発表。「戦いは店頭で、課題解決は協働で」を掲げ、つめかえ用フィルム容器のリサイクルに取り組んでいます。

花王との協働で水平リサイクルが実現したつめかえ用製品(昨年5月に数量限定で発売)

今年6月には、イトーヨーカドー曳舟店(東京都墨田区)に、使用済みつめかえパックの回収ボックス「ぱくパックボックス」を設置。バーコードを読み取らせることでパウチの素材を自動で判別し、適切な投入口が開く仕組みで、生活者の皆さまに意識することなく分別していただくことが可能となっています。

ぱくパックボックス。バーコードを読み取らせることで、分別の手間を省いた回収ボックス

目指すは「脱炭素社会」と「資源循環型社会」の実現

──歯みがき習慣で人々の健康に貢献し、つめかえ文化の構築で循環型社会に寄与してきた御社。今後の展望や目標についてもお聞かせください。

千葉 2019年に「Lion Eco Challenge 2050」を策定し、長期環境目標を設定。「脱炭素社会」と「資源循環型社会」の実現を目指しています。

そのために、地球の未来を担う子どもたちに向けた活動も行っています。捨ててしまえばごみになってしまう使用済みハブラシを回収・リサイクルし、手鏡や定規、弊社食堂のカフェトレーなど、日頃よく使うものにアップサイクル。こうして生まれ変わった製品を子どもたちに実際に使ってもらうことで、サステナブルな活動を自分ゴトとして考えるきっかけにしていただけたらと思っています。

ハブラシの再生材からつくったアップサイクル品

西永 弊社の製品は、平均で年間約14個の製品が各ご家庭で使用されています。すすぎ1回で済む洗濯用洗剤は節水・節電・CO2削減に、濃縮・つめかえ製品はプラスチック使用量の削減に寄与できるほか、さまざまなシーンでエコ習慣につながる製品をラインナップしています。

生活習慣に深く密着している製品をつくっている会社の義務として、これからも人々の健康と地球環境に良い習慣づくりで、より良い暮らし・社会の実現に貢献していきたいと思っています。

「SDGsのゴール実現のためには、他メーカーやお客さまとの協力も必要。みなさんと手を組んで課題解決に貢献したい」と千葉さん

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。

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