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未利用資源を活用して事業を興したカルビー。「Jagabee」に込めたのは、創業者の「自然の恵みを大切にしたい」という想い 企業のSDGs取り組み事例 vol.73

2024年09月25日

創業以来、食を通じて人々の健やかなくらしに貢献してきたカルビー株式会社。じゃがいもの味わいにこだわった「Jagabee(じゃがビー)」ブランド単体でも、環境への取り組みを進めています。プロジェクトへの想いや取り組み、効果について、Jagabeeチーム ブランドマネジャーの山口ひとみさんに聞きました。

カルビー株式会社 マーケティング本部 素材スナック部 Jagabeeチーム ブランドマネジャー 山口ひとみさん

事業の根幹にあるのは、創業者の「人々の健康に貢献したい」という想い

──「かっぱえびせん」や「ポテトチップス」など、時代を超えて愛されるロングセラー商品を生み出してきた御社が、SDGsへの取り組みを進める背景から教えてください。

山口 私たちの事業の根幹にあるのは、創業者・松尾孝の想いです。

松尾は、食糧事情が困難を極める第二次世界大戦中、当時廃棄されていた米ぬかから胚芽を抽出し、さつまいもや野草に混ぜてお団子として販売するところから事業をはじめました。

この「未利用資源を活かして、人々の健康に役立つ商品を作り出したい」という創業者・松尾の想いが、弊社の看板ブランドである「かっぱえびせん」や「ポテトチップス」をはじめとしたすべての商品が生まれる源流となっています。

自然の素材を活かした商品を手がける以上、自然環境や社会へ配慮したバリューチェーンの構築も欠かせません。なかでも、気候変動への対応は、事業の根幹にかかわるもっとも重要な課題であると考えています。

こうしたことから、弊社では持続的な成長のための経営基盤として、SDGsへの取り組みを進めています。

こだわりは、素材本来の風味と形をそのまま活かすこと

「Jagabee」は創業者が手がけた最後の商品

──御社の商品の特徴は、自然本来の素材を活かした「おいしさ」にありますよね。じゃがいも原料のお菓子「Jagabee」の人気の秘密も、素材のおいしさが味わえるところにありそうです。

山口 ありがとうございます。実は「Jagabee」は、創業者である松尾が最後に手がけた商品なのです。

弊社には「Jagabee」発売以前にも、じゃがいもを使ったスナックはたくさんありました。しかし松尾は「いかに、じゃがいもの素材のおいしさをお客さまにお届けするか」ということにこだわり続けました。

試行錯誤の結果、皮が付いた状態で独自の製法でフライし、素材本来のおいしさを引き出したこれまでにない食感が特徴の製品が完成。「じゃがいもに徹底的にこだわる」という意味から"Jaga"を、日本発の21世紀型商品としてカルビーの中でも先陣を切るという意味を込めてCalbeeの"bee"を取って"Jagabee(じゃがビー)"と名付け、2006年に発売しました。

皮付きにすることで、自然感・素材感をより高めている「Jagabee」

──「Jagabee」には、創業者・松尾さんの熱い想いが込められていたのですね。

山口 はい。「Jagabee」誕生の背景には、「お客さまにずっと商品をお届けし続けるためには、ヒット商品がひとつできたから終わりではなく、変化し、挑戦し続けていかなければならない」という松尾の想いも、あったと思います。

ブランドとして「自然体」や「多様性」を重視し、できるだけ素材の味を活かすのはもちろんのこと、大きさが不揃いなじゃがいもをあえて使用しているのも、食への松尾の想いがあるからです。

「Jagabee」が取り組む環境貢献「Green Project」

──自然体と多様性を重視している「Jagabee」ブランドで展開している環境への取り組み、「Jagabee『Green Project』」について教えてください。

山口 「Jagabee」は発売初期のころから、特定非営利活動法人子供地球基金「KIDS EARTH FUND」から使用承諾を得た絵画を商品パッケージに掲載し、商品の売上げの一部を基金に寄付するといった社会貢献活動を行ってきました。

「子供地球基金」の絵で彩られたパッケージ

また、パッケージには出来る限り環境負荷の少ない素材を採用していますし、環境や人権に配慮したRSPO認証パーム油を使用したり、フードロス削減を目指した「Jagabeeのかけら」を発売したりと、順次取り組みを拡大させてきました。

短くて商品化されなかった かけらを活用した「Jagabeeのかけら」

ですが、こうした「SDGsへの取り組み」を企業が進めるのは、もはや当然の時代です。ただ企業が取り組むだけではなく、お客さまにも関心をもっていただきいかに活動の輪を広げていけるのか私たちは考えるようになりました。そこで、「Jagabee」としてお客様体験型の具体的アクションを起こしたいという想いから、2023年に、3つのプロジェクトからなる「Jagabee Happee3プロジェクト」をスタートしました。

世界的人気キャラクター「ムーミン」とコラボし、プロジェクトを推進

本プロジェクトでは、自然との共生・多様性という大切にしている価値観に共通点をもつ「ムーミン」とコラボレーション。環境に配慮した取り組みや自然を楽しむ、さまざまな取り組みを展開しています。

プロジェクトは、「Green Project」「FAN&FUN Project」「Pass the Happee Project」の3つから構成。それぞれに、「スナフキン」「リトルミイ」「ムーミン」をアンバサダーとして迎えました。

自然への理解、環境配慮を掲げた「Green Project」

「Green Project」は、2023年5月に第1弾として行われた、「Jagabee」対象品の売り上げの一部を寄付し、パーム油の一大生産地であるボルネオ島の森林保全活動を支援した活動から始まります。

ボルネオのアブラヤシ農園。果実からお菓子づくりに欠かせない、パーム油が採れる

今年6月にスタートした第3弾では、ムーミンのコミックスの中の1エピソード「ジャングルになったムーミン谷」をテーマとしたパッケージの「Jagabee」を発売しました。また、カルビーPR部公式Xで対象のポストをリポストすると、1回あたり1円がボルネオの森林保全活動に寄付されるSNSキャンペーンや、フォロー&リツイートでプレゼントに応募できるキャンペーンなども同時に展開しています。

ほかにも、「Green Project」では自然への理解、環境配慮の活動推進を掲げ、じゃがいも収穫体験イベントも開催しています。

自然の恵みを体験してもらう「じゃがいも収穫体験」(Green Project)

2023年は埼玉県飯能市にある「ムーミンバレーパーク」にじゃがいも畑を展開し、自然にふれる「じゃがいも収穫体験イベント」を実施。多くの親子連れにご参加いただき、SDGsワークショップや畑を通して自然の恵みを体験してもらいました。

このイベントが大変好評だったので、2024年は松屋銀座の屋上にもプランターを設置し、同イベントを開催。子どもたちからは、「自分たちの食べているものがどうやってできているかわかった」「一部のパーム油を採取する農園に強制労働や環境破壊などの社会問題があるということを初めて知った」という声や、親御さんからは「親子で考えるいい機会になった」など、うれしいお声を多数いただきました。

ファンイベントは多くの企業でも展開していると思いますが、素材の味わい、形を活かした"Jagabeeらしい"取り組みだったからこそ、お客さまにより共感していただくことができたと考えています。

じゃがいも収穫体験イベントの様子(埼玉県飯能市ムーミンバレーパークにて)。2023年7月に初開催以来、順次開催場所を広げている

Xでは約14万リポスト! 大きな反響を呼んだムーミンコラボ

──この、「Jagabee」とムーミンのコラボは、大きな反響を呼んだそうですね。

山口 はい。おかげさまで、Xでは一週間で約14万リポストという大きな反響がありました。コメントも好意的で、「こういう寄付の形があるということを知らなかった。すごくいいですね」「気軽に参加できるのがすごくありがたい」など、ポジティブな意見をたくさんいただきました。

SNSを使うキャンペーンでは、ネガティブな意見が寄せられるケースもあるものですが、今回に関しては、批判的なコメントがほぼなかったことも、非常にうれしい出来事でした。

──「Jagabee」のSNSキャンペーンが好意的に受け止められた理由はどこにあるとお考えですか。

山口 「Jagabeeを買ってください」という販促色をできるだけ抑えたからかもしれません。

購入者だけが参加できるクローズドキャンペーンではなく、「Jagabee」を買っても買わなくても、リポストするだけで誰でも寄付活動に参加できる。オープンキャンペーンにしたのもよかったと考えています。結果、普段お菓子を食べないような方も気軽に参加できるキャンペーンとなり、輪が広がったのだと思います。

また、キャンペーンの内容が「SDGsウォッシュ」にならないことも意識した点です。

今回の寄付先である「ボルネオの森林保全活動」は、パーム油を守ることにつながるものです。パーム油は、世界でいちばん多く使われている植物油であり、 「Jagabee」を製造するうえでも、カルビーが事業を継続していくうえでも、切っても切り離せない存在です。

そのなかで、「パーム油」の産地・ボルネオ島の森林保全活動への貢献という活動内容自体が、お客さまの「納得」と「共感」につながったのだと考えています。

「Jagabee」への想いを語る、山口さん

「Jagabee」を通して、SDGsについて考えるきっかけをつくりたい

──ファンづくりの観点においても、「共感」は非常に大切な要素ですよね。御社では、デジタル上での"つながり"だけでなく、リアルで顧客とつながることも大切にされているそうですね。

山口 はい。デジタル施策だけでなく、目の前でお客さまの反応を見たり、お声を聞いたりすることも私たちは大事にしています。

私たちのミッションは、「Jagabee」という身近なお菓子を通して、少しでも地球環境や持続可能な食について考えていただくきっかけや興味をつくることだと考えています。

もちろん、「Jagabee Green Project」を通して「Jagabeeは環境配慮の活動につながる」というブランドイメージが広がれば大変うれしいです。しかしそれ以上に、今回の企画をきっかけに、「Jagabeeが好き」という気持ちを持ってくださる方がひとりでも増えれば、それがいちばんうれしいですね。

そのためには、細くても長く継続していくことが重要だと考えています。単発の取り組みで終わらせずに、今後も何かしらの形でずっと続けていきたいです。

──「継続」は、SDGsアクションにおける重要なキーワードでもあります。最後に、今後の展望を聞かせてください。

山口 今年6月から、「Jagabee」食べきりサイズのスタンドパック商品の一部を、チャックのない新包装形態へと切り替えました。この切り替えは「Jagabee」に限らず、「miino」や「じゃがりこ」などのブランドでも展開。お客さまへアンケートを実施し、チャックの使用頻度が50%未満だった商品から、順次切り変えを予定しています。

この取り組みにより、カルビー全体で年間約40トンの石油由来プラスチック使用量を削減できる見通しです。

売上の一部を「認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパン」の森林保全活動に寄付する、「Green Project」のロゴデザインが入った期間限定デザイン。右が石油由来プラスチックを従来品比から約11%削減したチャックなしパッケージ

また今後は、「じゃがいも収穫体験イベント」を全国各地で開催し、ひとりでも多くのお客さまに、身近なスナック菓子を通して自然や環境を体験いただけるイベントを、もっと増やしていきたいと思っています。そうした活動を通じて、お客さまとの"つながり"をより深めていきたいと考えています。

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。

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