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人の気持ちまで含めた「温度をマネジメント」。タイガー魔法瓶が進める、Z世代以下の共感につなげるSDGsアクション 企業のSDGs取り組み事例 vol.74

2024年10月03日

2023年に創立100年を迎えたタイガー魔法瓶。その歴史は、「温度をマネジメント」し続けてきた同社の歩みそのものです。近年は、真空断熱ボトルにおいて「4つの約束」に基づいたSDGsへの取り組みを展開。チームマネージャーの南村紀史さんに、SDGsへの取り組みを推進する狙い、そこに込められた想いを聞きました。

タイガー魔法瓶株式会社 ソリューショングループ 商品企画第2チームマネージャー 南村紀史さん

人の気持ちも含めた「温度をマネジメント」する、タイガー魔法瓶

──まずは、タイガー魔法瓶の"原点"について、教えてください。

南村 弊社は、大阪のとある雑貨輸入商で奉公をしていた菊池武範(創業者)の「母さんの淹れたような、温かいお茶が飲みたい」という想いから誕生しました。以来、タイガー魔法瓶は、人の気持ちまで含めた「温度をマネジメント」し続けています。

その名が世間的に知られたきっかけは、1923年の関東大震災。倉庫に保管されたタイガーの魔法瓶が1本も破損することなく、その耐久性の高さで名を馳せました。そして1970年、日本初の電子ジャー「炊きたて」を発売。炊いたご飯を保温できる電子ジャーは、この国の、だんらんを変えた一台となりました。

日本初の電気ジャー「<炊きたて>EL型」。
タイガー魔法瓶にとって、この製品は、本格的な電気製品第1号でもある

「SDGs」をフックに、Z世代の認知・共感の拡大を狙う

──その後、炊飯ジャーや電気ポット、ステンレス製ボトルなど、日本中の家庭で愛される製品を100年以上も作り続けてきました。御社がSDGsへの取り組みを推進している理由とは、どのようなものなのでしょうか?

南村  弊社で調査を行なったところ、「タイガー魔法瓶」のブランド認知に対して、「年配層が中心でZ世代以下の若い世代への認知が低い」という結果が出ており、これを課題と感じていました。

2023年、弊社は創立100周年を迎えました。次の100年を迎えるためには、主たる購入層となるZ世代以下に広く知ってもらい、そして好きになってもらう必要があります。そのためには、これまでのようにスペックや新機能を追求するだけでなく、"SDGsネイティブ"である彼らに向けて、SDGsへの取り組みを発信することが、その一助になると考えました。

──昨今は、商品・サービスのコモディティ化が進み、他社との差別化が難しくなっています。御社では、Z世代へのブランディングの観点から、SDGsに注力しているのですね。

南村 はい。たとえば、ペットボトルの代わりに、弊社の代表製品であるステンレス製ボトルを使えば、使い捨てプラスチックごみの削減や二酸化炭素排出量の削減につながりますよね。その製造工程においても、弊社は環境や社会への配慮を意識し、それらをメーカーの責任として当たり前に行ってきました。

しかし、これまでは弊社のこうした考え方や取り組みを、積極的に社外へ伝えることはしてきませんでした。結果、弊社のSDGsへの取り組みは、特に若い世代には、まったく届いていなかったわけです。

そこで、当時私がブランドマネージャーを務めていた真空断熱ボトルブランドが大事にしてきたことを整理し、「4つの約束」として世の中に宣言。弊社がどのような想いで製品を作っているかを広く伝えることで、若い世代の共感につなげたいと考えました。

タイガー魔法瓶の真空断熱ボトルが掲げる「4つの約束」。
同社は2023年に創立100周年を迎えたタイミングで、「ESG経営の推進」を掲げており、「4つの約束」は、そのなかの重要な柱となっている

具体的なアクションを伴うことで、「SDGsウォッシュ」を回避

──SDGsへの取り組みを表明・宣言する。これはとても大切なことですが、それだけでは、Z世代とのつながりを深めることは難しいですよね。どのように取り組みを進め、発信されているのでしょうか?

南村 おっしゃる通り、耳障りのいい言葉や理念を表明するだけでは、Z世代とのつながりは深められませんし、一歩間違えば"ただ宣言しただけ"のSDGsウォッシュになってしまいます。そうならないために、"アクション"を伴うことを重視しました。

最初に取り組んだのが、「真空断熱ボトルの回収リサイクル」です。
2021年当時、真空断熱ボトルの回収リサイクルを行っているメーカーはありませんでした。しかしリサイクルにはコストがかかります。当然、社内では、「回収にかけるコストが高く、採算が取れるのか」という意見もありました。ですが、「SDGsネイティブであるZ世代にしっかりとメッセージを届けるためには、会社としてやるべき、必要なこと」だと訴え、理解を得ることができました。

そして2021年7月、環境先進都市としてSDGsへの取り組みを進めていた京都府亀岡市とパートナーシップ協定を締結。同年10月には、亀岡市役所と亀岡市内のすべての小中学校にステンレス製ボトルの回収ボックスを設置して、ボトル回収を始めました。

タイガー魔法瓶の「真空断熱ボトルの回収リサイクル(ステンレス製魔法びん 回収サービス)」の流れ

亀岡市をパートナーに選んだのは、同市が全国ではじめて市内店舗でのプラスチック製レジ袋の提供禁止を打ち出すなど、突出したSDGsへの取り組みを進めていたからです。弊社の想いを伝え、ぜひ一緒にやってほしいとお声がけしてコラボレーションが実現しました。

共感から連携へ。パートナーシップ拡大を生んだ「ボトルの回収リサイクル」

──実際にステンレス製ボトルの回収リサイクルを行って、どのような反響がありましたか?

南村 自分の手で回収ボックスにステンレス製ボトルを入れると、そのあとどうなるのかが気になります。学年が下がるほど反応も大きく、特に小学校では、興味を示す児童が多数いました。

弊社の社員食堂にも回収ボックスを設置していますが、社員もSDGsへの取り組みに関心をもつようになりました。SDGsへの取り組みは、アクションに参加することで「自分ゴト」化できるようにすることがポイントだと感じています。

現在は、私たちの想いに共感し、イオンやハンズなど全国に店舗を構える企業がパートナーとして参加。「使用済みステンレス製ボトル回収ボックス」の設置場所も全国約500ヵ所へと拡大しています。

身近なところで手軽にアクションに参加できる、ステンレス製ボトルの回収ボックス

また、「亀岡市とパートナーシップを組んだ」という事実がSDGsへの取り組み実績となり、亀岡市以外の自治体からもコラボレーションのご相談をいただく機会が非常に増えました。

ほかにも、最近は弊社の取り組みに共感した企業・団体から、SDGsの浸透のためのノベルティや記念品をつくりたいという問い合わせも増えています。これまでにお付き合いのなかった業種、業界とのご縁も生まれ、SDGsへの取り組みが新たな事業の創出にもつながっていることを、うれしく思っています。

価格に転嫁することは、持続可能な取り組みとは呼べない

──一般的に、リサイクル前と同じ用途の製品をつくる「水平リサイクル」には多くのコストがかかります。コスト回収のためには、価格に転嫁する選択肢もあると思うのですが、御社ではどうされているのでしょうか?

南村 弊社では、SDGsへの取り組みを、製品価格に転嫁するようなことは考えていません。「地球のためにいいことをするから、その分価格は高くなるけど我慢してください」では、それこそ持続可能な取り組みと呼べないからです。また、当然ですが、品質を下げることもあってはならないと考えています。

一方で、企業として、持続可能な事業を展開することは重要な視点ですから、回収・リサイクルのコストについては、パートナー企業と連携し、やり方を工夫しながら進めています。

たとえば、これまでのステンレス製ボトルでは、回収後の分別がリサイクル工程で大きな負担となっていました。

そこで、メーカーは問わない代わりに、素材がステンレスであることが明白な「ステンレス製ボトル」に限定して回収。再資源化の際に、リサイクル専門業者の作業手間を軽減することで、コストダウンを図っています。

また、回収するボトルを限定することは、不純物の少ないステンレス原料を確保することにもなります。これにより、品質を下げることなく、環境負荷の少ない製品を生み出すことを実現しています。

「タイガー魔法瓶のSDGsへの取り組みは、地球、社会、そして生活者にも優しいものを目指している」と話す南村さん

次の100年に向けて、「4つの約束」ともに歩んでいきたい

──御社のステンレス製ボトルの回収は、すべてのステークホルダーが笑顔になる「幸せの循環」でもあるのですね。最後に、次の100年に向けての展望や目標も教えてください。

南村 最近は、「マイボトル」のPRにおいて、スポーツや音楽といった、Z世代との親和性が高いシーンでの訴求にも力を入れています。

たとえば、野球やサッカーなどのプロスポーツチームとコラボレーションを実施。試合時にマイボトル持参を促す「マイボトルデー」を展開し、使い捨てプラスチックカップの使用削減に貢献しています。また同時に、ステンレス製のボトルの回収も実施しています。

ほかにも、音楽フェスとのコラボレーションでは、マイボトルをグッズとして販売する取り組みも行なっています。

まずは若者たちのなかでマイボトルを当たり前の文化として広げること。そして、「選ばれる商品」であり続けるために、これからも「4つの約束」とともに、よい製品を作り続けること。これを次の100年も守っていきたいです。さらに今後は、SDGsへの取り組みによって生まれたパートナーとの連携を拡大し、新たなBtoB向けビジネスにも挑戦していきたいと考えています。

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。

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