2024年12月10日
ウェディング業界のリーディングカンパニー、テイクアンドギヴ・ニーズ。かけがえのない最良の1日を演出するため、提供する商品やサービスを通じて環境負荷低減にも積極的に取り組んでいます。同社のSDGsへの取り組みを、ドレスショップ「MIRROR MIRROR」を運営するドレス事業部長 江澤いずみさんに聞きました。
株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ ドレス事業部長 江澤いずみさん。
廃棄予定のドレスを再構築した「アップサイクルドレス」(左)と、ロスフラワーや自然の草木を活用して染め上げる「ボタニカル・ダイ ドレス」
──まずは御社の事業概要と、SDGsへの取り組みに力を入れる理由を教えてください。
江澤 弊社は日本に、ゲストハウスやレストランなどを貸し切って挙式・披露宴を行う「ハウスウェディング」という新市場を創出したウェディング企業です。結婚するふたりの最大の幸せを考え、「ホスピタリティ」を軸に、「幸せ」を循環させる事業を展開しています。
これまで、数多くの幸せが生まれる瞬間に触れ続けてきた私たちは、お客さまへはもちろん、共に働く仲間や地域に対しても、この「幸せの循環」を強く意識した事業を行ってきました。そのなかで、2007年からは障がい者雇用を継続的に行い、多様な人材が活躍できる職場づくりも進めています。
私たちは、幸せな感情をつなぎ、めぐらせていくためには、環境や資源の循環に向き合うことも必要不可欠だと考えています。そのため、早くから生産者支援やロスフラワーの削減など、地域や環境に対しても「幸せが生まれるサステナビリティ活動」を行ってきました。
私たちにとって、お客さま・従業員・地域や環境の三方に幸せを広げる「三方よし」は、企業活動の根幹ともいえます。
そして2022年、コロナ禍を経て、社会全体でもSDGsへの関心が高まるなか、会社全体でもっと体系的にSDGsへの取り組みを推進しようと、サステナビリティ推進室を設立。これまで以上にSDGsへの取り組みを強化しています。
「昔から当たり前にやってきたことを、会社組織として体系化するためにSDGsという概念が役立っている」と話す江澤さん
──少子高齢化や晩婚化によって、1972年には100万組以上あった年間婚姻数は、2023年には47万組と、半数以下に減っています。また近年は、「結婚はするけれど、結婚式はあげない」というカップルも増えています。ウェディング業界の持続可能性には多くの課題があるように思われますが、SDGsへの取り組みはこうした課題解決にどう寄与するとお考えですか?
江澤 おっしゃるとおり、価値観の多様化によって、近年は「ナシ婚(結婚式や披露宴を行わずに入籍だけで済ます結婚スタイル)」や「格安婚」を選ぶ方が多くいます。
一方で、カップルやゲストはもちろん、関わる従業員や地域社会、環境に配慮した「エシカルウェディング」「サステナブルウェディング」への関心が高まりつつあるのも事実です。
弊社のメインターゲット層である20〜30代は、SDGsへの意識が高く、会社選びにおいても「事業の社会貢献性」を重視する傾向があります。
同様に、商品やブランドを選ぶ際にもSDGs的な要素はポジティブに働き、「選ぶ」理由のひとつとなっています。ですから、これから結婚を考える若い世代の共感を得て、選ばれるブライダル企業であり続けるためには、SDGsへの取り組みは必須であると考えています。
──具体的にどのような取り組みをしているのか、教えてください。
江澤 では、弊社のドレス事業部で行っている取り組みをふたつご紹介します。
まずは、廃棄予定のドレスを新しいドレスに生まれ変わらせる「アップサイクルドレス」です。
結婚式・披露宴において、海外ではセル(販売)ドレスが主流ですが、日本では9割以上がレンタルドレスです。弊社でも1着のドレスをていねいにメンテナンスして大切にレンタルし続けていますが、結婚式は「特別な1日」です。少しでも傷がついたり汚れたりしたものは廃棄処分となってしまいます。
実際、レースやスカートのグリッター(ラメやスパンコールなどの装飾)が美しい状態で残っているのに、経年劣化による生地のくすみやほつれが生じたり、シミなどがついてしまったりしたために、廃棄せざるを得なかったドレスも多くありました。そのたびに私たちはいつも、「こんなに美しいパーツを捨てるなんて、もったいない」と思いながら処分していました。
2022年にサステナビリティ推進室が立ち上がったとき、「この廃棄ドレスをアップサイクルできないか」と、ブランドディレクターと議論をしました。
そこで、レンタル期間を終えて、廃棄する予定だったドレスを1着ずつ手作業で解体。布地やレース、ビーズ等の状態の良いパーツを選別し、新たなドレスに再構築することにしたのです。
1着につき平均5着分のパーツを組み合わせ、袖に使用されていたレースを胸元に施す、スカート生地を袖やトレーン(ドレスの後ろの裾部分)に仕立て直す、美しいビーディング(パールやスパンコールなどをあしらったデザイン)模様を描き直すなど、それぞれのパーツが持つ美しさを引き出し、新たなドレスに生まれ変わらせました。
2022年12月からは、このアップサイクルドレス9着のレンタルをスタート。2023年12月には、新たに7着をラインナップに加えています。
「繊細なレースやビーズをひとつひとつ丁寧に解体し、どこにどう組み合わせたらよいかを考えるのは難しいけれど楽しい」と江澤さん
──手作業での解体や、1着につき平均5着分のパーツを組み合わせるとなると、コストと手間はかなりかかりそうです。コストパフォーマンスでSDGsへの取り組みを見合わせる、という話もよく聞きますが、御社が取り組みを決めた理由は何だったのでしょうか。
江澤 アップサイクルドレスは、手間もコストもかかります。ただ、限られた素材を使い、創意工夫して新しいドレスに生まれ変わらせていく作業は、ゼロから創り出すより、クリエイティブな発想力と高い技術力が必要です。そのため、アップサイクルドレスをつくることで、スタッフの創造性、知識・技術力が高まり、それが結果的に弊社にとっての資産になるのではないか、と考えました。
またアップサイクルドレスは手づくりですから、世界にふたつと同じものがありません。「世界に1着しかないドレス」という価値創出を同時に実現できたことも大きな成果と捉えています。
実際に、営業効果もありました。店頭でアップサイクルドレスのレンタルを開始すると、SDGsへの関心が高い方だけでなく、ファッションやトレンドに敏感な方、個性を重視する方からも選ばれ、大変喜ばれました。これは、売上向上はもちろん、スタッフにとって「自分たちの技術やセンスが認められた」という士気向上にもつながりました。
──廃棄予定だったドレスを素材として活用することで、環境負荷低減だけでなく、ドレス製作スタッフの技術力向上やクリエイティブな発想を生み出す力、そしてモチベーション向上にもつながったのですね。ボタニカル・ダイ ドレスについても教えてください。
江澤 はい。ではボタニカル・ダイ ドレスについてご紹介します。
「ボタニカル・ダイ ドレス」は2回制作しており、1回目は結婚式の会場装花として使用された花材から天然の染料を抽出して染め上げたドレスを制作しました。
天然染料で味わい深い色合いが出せるボタニカル・ダイ ドレス。やさしい色合いのイエローが一番人気。2023年12月のレンタル開始とともに人気を博している
※画像は1回目の結婚式の会場装花を活用したドレス(2回目は日本で自生し採取できる草木を使用した)
アップサイクルドレスが白ドレスだったので、次はカラードレスを提供しようと考えました。
そこで、サステナブルでありながら、これまでにない美しい色の表現ができる、花や果実などの植物から作った染料で糸や生地を染める「ボタニカル・ダイ」技術に着目。弊社の結婚式で会場装花として使用された後、廃棄予定だった花の花びら・茎・葉から染料を作って生地を染め上げ、ピンク、イエロー、グリーンの3色で、それぞれ異なる素材やラインを生み出しました。
実際に結婚式で会場を華やかに彩る装花として使用され、たくさんの幸せや祝福を吸収した花々を再利用しているので、まさに幸せがめぐる、人にも環境にもやさしいドレスとなっています。
化学染料の均一で単調な色とは違い、自然由来の染料でしか出せない複雑で優しい色合いのドレスは、一着ずつ風合いが異なります。ドレスコーディネーターにとっては、お客さまに似合う色や素材をより深く提案できる楽しさが、選ぶお客さまにとっては「私だけの色」に出会うチャンスが広がり、さらなる幸せの拡大にもつながっています。
──アップサイクルドレスや、ボタニカル・ダイ ドレスの効果・反響はいかがですか?
江澤 おかげさまで大好評です。取り組みを進めてみると、使える素材を組み合わせてドレスに息を吹き込んだり、ロスフラワーや自然の草木を活用してオリジナルの色に染め上げたりすることで、スタッフの仕事に対する愛着も深まり、これまで以上にお客さまに対して熱意をもってドレスをご案内できるようになりました。
私たちは、SDGsへの取り組みを進めたからといって、それだけでお客さまから選ばれるとは思っていません。
ですが、デザインを気に入っていただけて、そのドレスが生まれるまでの物語を「実はこのドレス......」と、語れるスタッフがいることで、その想いやストーリーに共感して、弊社のドレスを選んでもらえるようになりました。これに気がつけたことも、大きな収穫でした。
──レンタル価格は、手間や時間がかかる分、割高に設定しているのですか?
江澤 いいえ、新品のオリジナルドレスと同価格帯でご提供しています。あくまで価格ではなく、物語への「共感」からお客さまに選んでいただいています。
アップサイクルドレスやボタニカル・ダイ ドレスを選んだ方は、お色直しをせず、そのまま1日過ごす方もいます。環境への負荷低減に配慮したドレスを身に纏った自分を鏡で見た時に、そのドレスを選んだ自分をもっと好きになる。そんな最良の1日をより輝かせるお手伝いにつながっていると感じています。
さらに、サステナビリティを体現できると同時に、デザイン性の高いドレスはどれも唯一無二です。同じものはどこにもないので、「自分らしさが表現できる」ことも、選ばれる決め手になっています。
また、アップサイクルドレスやボタニカル・ダイ ドレスの取り組みをきっかけとして、弊社に興味を持つ学生が増えたと感じています。SDGsへの取り組みを「ドレス」という目に見える形でアウトプットし、かつ、自社スタッフも企画やデザインに参加して一着ずつ丁寧に作っているところに、「誰か任せ」ではない「自分で取り組む」熱量の高さが伝わっているのではないかと思っています。
──「ウェディングをきっかけに、新しい自分に出逢えるようなドレスショップでありたい」という「MIRROR MIRROR」のショップ理念が、お客さまにも就活生にも伝わっているのですね。今後の展望や目標についてもお聞かせください。
アップサイクルドレス、ボタニカル・ダイ ドレスを扱う「MIRROR MIRROR 表参道」は、"鏡に映る自分を愛せるように"をコンセプトに、スタイリッシュな空間で広がるドレスショップ
江澤 今後は、このサステナブルドレスをもっと広げていきたいです。そのために2つのことを考えています。
ひとつは、服飾系の学生に素材として廃棄予定のドレスを提供し、コラボデザインのウェディングドレスを制作することです。また、この取り組みを発信することで、多くの人にサステナブルウェディングやサステナブルドレスに興味関心をもっていただけたらと思っています。
もうひとつは、欧米で生まれたウェディングドレスと、日本古来の伝統的な技術や伝統工芸とのコラボレーションです。ドレスを通じて、弊社と地域とのつながりを創出することで、新しいものを生み出し、日本各地に幸せの循環を広げていきたいと考えています。
筆者プロフィール
講談社SDGs編集部
SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。