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オフィスのマイボトル化を促進し、環境配慮とビルの価値向上を実現。日鉄興和不動産の「Building 2 Bottle」プロジェクト 企業のSDGs取り組み事例 vol.81

2025年01月31日

東京都心のプライムエリアを中心に、オフィスビルや外国人向け高級賃貸マンションを開発・賃貸する不動産賃貸事業と、マンション分譲事業やマンション再生事業、市街地再開発事業、物流施設事業等を核として展開する総合デベロッパーである日鉄興和不動産
「SDGsは責務」と語る同社が展開する、オフィスでのマイボトル利用を促進するプロジェクト「Building 2 Bottle(ビルディング トゥー ボトル)」について、担当の畑中信二さんにお話を聞きました。

日鉄興和不動産 住宅事業本部 再開発推進部 再開発推進第一グループ 兼 ライフデザイン総研室 チーフマネージャー 畑中信二さん

CO2削減をはじめ、SDGsへの取り組みは、果たすべき「責務」

──まずは御社の事業概要と、SDGsへの取り組みに力を入れる理由を教えてください。

畑中 弊社は1952年10月に創業し、1960年代以降、本格的にビル賃貸事業に進出後、外国人向け高級賃貸マンション事業や分譲マンション事業を展開。2012年10月、興和不動産株式会社と株式会社新日鉄都市開発との経営統合により誕生した総合デベロッパーです。

多くの人が集まるオフィスビル事業は、電力消費などによって温室効果ガスを大量に排出しているという課題を抱えています。

それゆえ私たちは、保有施設のCO2削減に努めることは、オフィスビルの賃貸業や不動産業を営む弊社の当然の責務と考えています。

発電による"廃熱"を冷暖房施設などに再利用する「コージェネレーションシステム」の導入や、太陽光発電など再生可能エネルギー由来の電力導入、街づくりにおける緑化推進など、弊社ではSDGsが国連で採択された2015年より前から取り組みを進めています。

また昨今は、環境に配慮した(SDGsへの取り組みを進めている)ビルに入居したいというテナントの需要も増えています。ユーザーニーズに応えるという側面からも、これまで以上にSDGsへの取り組みを強化しています。

同社が展開する「品川セントラルガーデン」。都心のオフィスエリアでは最大級となる緑豊かな憩いの空間が設けられている

狙いは自分ゴト化。マイボトルの利用促進プロジェクト

──総合デベロッパーの強みを活かして、建物や街づくりでSDGsへの取り組みを推進してきたのですね。そんな御社が、なぜマイボトルの利用促進プロジェクトを行うことになったのですか?

畑中 建物や開発エリア全体でSDGsへの取り組みを行っても、個々の居住者や利用者に伝わりづらく、共感を得られにくいという悩みがあったからです。

実際、オフィスビルで建物や設備だけ取り組みを進めたとしても、そこで働く人たちに「自分ゴト」として届かなければ、本当の意味での「持続可能性」にはつながりません。

そこで、デベロッパーとして個々の居住者目線で何ができるかを考えるために、SDGsへの取り組みに感度の高い読者を多く抱える講談社「FRaU」に相談。同誌のコミュニティであるFRaU SDGs会員を対象に、「日々の生活の中でのSDGsアイデアを考える」をテーマとしたオンラインワークショップを開催しました。

すると、「環境貢献」以外の目的でマイボトルやマイバッグなどを使っている方が、意外に多いことがわかったのです。そのひとつが「節約」です。

マイボトルの利用に関しては「節約のためにやっていたことが実はSDGsにつながっていた」という意見も多く、また、環境にいいことは十分にわかっていても、「水を持ち歩くのが重い」、「洗うのが大変」という声も多くありました。

そのなかで、「環境問題」と「節約」をセットで取り組めば、マイボトルを使い続けてもらうことができるのではないかと考え、マイボトル洗浄機を開発していた象印マホービン株式会社に協業を提案。1年がかりで同社との協業を実現し、マイボトル利用促進のための「Building 2 Bottle」プロジェクトを立ち上げました。

「Building 2 Bottle」は、オフィスビルを起点に、ビルからマイトボトルの普及を目指すプロジェクト。「自分のメリットとなるアクションを行っていたら結果的に環境貢献もできていた、となれば継続的なアクションが期待できる」と畑中さんは語る

マイボトルを使いやすくする「環境整備」からスタート

──プロジェクトがどのように進行したのか、具体的に教えてください。

畑中 はい。まずはFRaUでのワークショップでの気づきに基づき、マイボトルの利用促進を阻む「重い」「洗うのが大変」という課題解決から取り組みました。

2023年12月20日~2024年2月29日の期間中、弊社が運営する日鉄日本橋ビルのシェアオフィス「WAW(ワウ) 日本橋」内に象印マイボトル洗浄機を設置。利用者が気軽にマイボトルの洗浄ができる環境を整えました。

さらに、「CHOOZE COFFEE(チューズ コーヒー)」を展開するストーリーライン株式会社ともコラボレーション。同ビルの1Fにある「CHOOZE COFFEE日本橋店」において、注文時にマイボトルを預かり、洗浄・保管してから飲料を入れた状態でお渡しするというサービスも行いました。

──マイボトル洗浄機や、コーヒーショップでの洗浄サービスには、どのような反響がありましたか?

畑中 もともとマイボトルを利用していた方からは大変好評で、利用場面や利用頻度が増えるという変化が見られました。一方で、「このサービスがはじまったことで新たにマイボトルを利用した」という方はそれほど多くありませんでした。

この結果を受け、私たちは、マイボトルを利用する上での「洗浄」や「持ち運び」という課題を解決するだけでなく、これまでマイボトルを利用していなかった人が自然とマイボトルを使いたくなる環境の構築が必要だと気づきました。

そこで、2024年8月26日~10月31日に、弊社が運営する赤坂インターシティAIRにて実証実験第2弾を展開。ここでは、これまでマイボトルを利用していなかった人に使ってもらうため、まずは参加してもらう4つのテナントに象印マホービンのマイボトルを100本ずつ進呈するところから始めました。

この4テナントには、象印マイボトル洗浄機の無償設置に加え、マイボトル限定で利用できる無料給茶機も弊社負担で設置。水、紅茶、コーヒーなど数種類用意し、各参加テナント社員のマイボトル利用率増加を目指しました。

参加テナントに無償で進呈したというマイボトル。自分の目印としてチャームなどをつける人が多く、そこから会話が生まれるなど、社内コミュニケーションの活性化にも寄与した

──マイボトルが無料でもらえ、さらに無料給茶機も備わっているとなれば、オフィスワーカーのマイボトル利用者は増えそうですね。

畑中 はい、増えました。プロジェクト開始前の調査では、マイボトル未利用者は約40%いましたが、プロジェクト終了時には、その割合が約5%にまで下がりました。

さらに、週に4日以上マイボトルを利用する人が約4割から8割にまで増加しました。

参加者へのアンケートによるフリーアンサーでは、「マイボトル利用者が少数派だったので、利用に気後れを感じていた。今回のプロジェクトで利用者が増え、気兼ねなくマイボトルが使えるようになった」という意見もありました。

マイボトルの利用促進は、オフィスの価値向上にもつながる

──一気にマイボトルの利用者が増えたのですね。でも、マイボトル洗浄機や給茶機の設置・維持費にはコストがかかります。利用者に費用負担を強いず、御社負担で実施に踏み切ったのはなぜですか?

畑中 街づくりを通じて持続可能な社会に貢献することを理念に掲げている私たちにとって、そこで働く人や住む人の想い・期待に応えていくことは大事な使命だからです。

それに、たとえ一時的にはコスト増になったとしても、それがそのオフィスで働く価値のひとつになっていけば、オフィスの環境改善やカルチャー形成につなげていくこともできると考えました。

実際、第2弾の実証では、マイボトル洗浄機や給茶機を設置することで、社員同士の交流が生まれるという副次的な効果も得られました。

期間中、マイボトル洗浄機は1日平均50回、給茶機は1日平均180杯が使われました。象印マイボトル洗浄機は、1ボトル洗浄するのに約20〜30秒、給茶機も同じくらいの時間がかかります。30秒〜1分という短い時間ですが、給茶機やマイボトル洗浄時に、普段一緒に仕事をしない他部署の方などと言葉を交わす機会が増えるなど、社内コミュニケーションが活発になったという報告がありました。

また、本プロジェクトの開始前、給茶機やウォーターサーバーを設置していたテナントでは、紙コップのゴミが多く、処理が大変だったそうです。しかし、マイボトル利用者が増加したことで紙コップのゴミが激減。紙コップ購入費用も、ゴミ処理の作業負担も大幅に削減できたと喜ばれました。

象印マイボトル洗浄機前で、「マイボトルの利用促進で、コミュニケーションが生まれるオフィスをつくっていくこともできる」と話す畑中さん

アクションを広げるために設けた「意思表示プログラム」

──ひとつのSDGsアクションから、副次的な効果がいくつも生まれるのですね。ちなみに、参加テナント以外のテナント企業や社員にも、マイボトルの利用を促進する取り組みは行ったのですか?

畑中 はい、行いました。参加テナント以外の赤坂インターシティAIRのテナント企業や社員に向けては、「マイボトルを使うこと」を宣言してもらい、その宣言の数によって、さまざまなリワード(報酬)を提供する「意思表示プログラム」を実施しました。

具体的には、宣言者が300人、500人、1000人と増えるごとに、コーヒーが無料で飲めるクーポンを宣言した人全員にプレゼントする、というリワードを設けたところ、参加者がまわりの人に声をかけて輪が広がり、1400名の宣言が集まりました。

ひとりひとりの宣言は小さくても、宣言者が増えれば大きな成果につながるこのアクション。多くの方の参加を促すと同時に、社員同士のコミュニケーションや行動のきっかけも生み出すことができました。

マイボトルの利用を宣言すると届く参加証。
宣言には、社名と名前、メールアドレス、電話番号の記入が必要。「無記名での応募に比べ、参加ハードルを高く設定したことが、実際のアクションにもつながっている」と畑中さん

ペットボトルの削減効果を可視化したモニュメントを設置

──SDGsへの取り組みにおいて、誰かを誘いたくなる、人に話したくなるアクションだと、広がりが期待できますね。ほかにも何か取り組みはされたのですか?

畑中 ペットボトルの削減量を「見える化」する取り組みも行いました。
削減された相当量のペットボトルと同じ重さのモニュメントを制作し、ロビーに展示。話題作りやきっかけ提示という点で、大きなインパクトを与えることができたと思っています。

赤坂インターシティAIR1階ロビーに展示された、海ごみをモチーフにアート作品やプロジェクトを展開する現代美術作家の藤元明さんの作品。1日50本のペットボトルを月に20日飲んだ時に、1年間で累積するペットボトル量を、海洋ゴミ約300キログラム(ペットボトル12000本相当)で表現した

今後は「街なか」にまで、取り組みを広げていきたい

──オフィスビルからSDGsを広げる、御社のマイボトル利用促進プロジェクト。今後の目標や展望についても教えてください。

畑中 いまはまだオフィスだけですが、将来的には街なかに進出して「City 2 Bottleプロジェクト」(都市を起点とした、マイボトルの利用促進)に広げていきたいと考えています。

いまはリモートワークやワーケーションも進み、オフィスに出勤しないワーカーもいます。また、街なかに象印マイボトル洗浄機が設置されていれば、土日祝日のワーカーや家族連れなど、もっと手軽にマイボトルを利用する人が増えると思います。

あらゆる生活者のニーズに向き合い、人々の明るい未来の実現を後押しできる街をつくっていくためにも、プロジェクトの拡張を模索していきたいと思っています。

撮影/村田克己 取材・文/相澤洋美 編集/赤坂匡介(講談社SDGs) 

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。

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