環境配慮と集客を同時に実現! 大丸松坂屋百貨店のDNAが詰まった、「Think GREEN」エコフ キャンペーン 企業のSDGs取り組み事例 vol.83

2025年02月26日

江戸時代の創業以来、「お客さまや社会への貢献を最優先に考える」という精神を大切に守りながら、暮らしを豊かにする価値を提供してきた大丸松坂屋百貨店。サステナビリティ方針に基づき、3つの「Think」に取り組んでいます。今回は、「Think GREEN」のエコフキャンペーン担当者にお話を聞きました。

左から、株式会社大丸松坂屋百貨店 本社 営業本部 営業企画部 部長 販売促進担当 金津智明さん、同 スタッフ 張 思宇さん、
本社 経営戦略本部 経営企画部 サステナビリティ戦略担当 池本 飛雄馬さん

お客さまに提供してきた四季折々の価値を後世に継承したい

──はじめに、御社の事業概要を教えてください。

金津 大丸松坂屋百貨店は、1611年創業の松坂屋と1717年創業の大丸が2007年に経営統合。その後、2010年に株式会社大丸松坂屋百貨店として発足した会社です。
大丸も松坂屋も、「お客さまや社会への貢献を最優先に考える」という精神を大切に守りながら、買い物を通じて暮らしを豊かにする価値を提供してきました。

江戸時代の1837年(天保8年)に起きた、有名な「大塩平八郎の乱(幕府の不正を糾弾し、庶民を救うために大塩平八郎が蜂起した反乱)」では、富豪や大商人はことごとく焼き討ちにあいましたが、日頃から暴利をむさぼらずに徳義(道徳上の義務・義理)を重んじていた大丸(当時)は、「大丸は義商なり、犯すなかれ」と、焼き討ちを免れたと伝わっています。

「SDGsをはじめ、社会貢献への意識は、江戸時代から続く大丸松坂屋百貨店のDNA」と語る金津さん

──御社は300年、400年もの間、ずっと生活者に支持されてきたのですね。そんな歴史ある御社が、いまあらためてSDGsへの取り組みに力を入れる理由を教えてください。

池本 まずは300年、400年弊社がお客さまに提供してきた「価値」を後世に継承していく責任があるからです。
百貨店は古来、日本の四季折々の生活者の暮らしを豊かに彩ってきた商売です。

しかし近年は、CO2の排出などが原因とされる気候変動生物多様性の損失の影響で、日本の四季が失われようとしています。四季が失われてしまったら、弊社の価値提供も継承できません。ですから、事業活動を通して、気候変動対策やネイチャーポジティブに貢献するのは当然と考え、SDGsへの取り組みを強化しています。

SDGsに取り組む理由のひとつとして、「四季が失われてしまったら、弊社の価値提供も継承できない」と話す池本さん

百貨店というのは毎日多くのお客さまが訪れる施設です。そのため、どうしても照明や冷暖房など大量の電気(エネルギー)を使っているという課題がありました。

加えて、百貨店内には、多くのアパレル店舗が出店しています。大量生産・大量廃棄による環境汚染や労働環境問題など、アパレル業界の抱える課題にも対応が必要です。もちろん、食料品売り場のフードロス問題も避けられないテーマのひとつです。

そのなかで、百貨店に来店するお客さまは、環境・社会課題への高い関心を持っている方が多く、こうした課題に向き合うことは、お客さまの信頼にお応えするために当たり前のことと考えています。

一方、お買い物など暮らしの中で「課題解決のために何かしたいけれど、どこから取り組んだらいいのか、何をしたらいいのかわからない」というお客さまの声もよく聞きます。その声を受け止め、お客さまが社会課題解決のために貢献できる場やきっかけをつくることは「お客さま第一」で事業を展開してきた弊社の役割でもあると考えています。

3つの「Think」でSDGsへの取り組みを推進

──具体的に、どのようにSDGsへの取り組みを推進しているのですか?

池本 サステナビリティ方針に基づいて、あらゆるステークホルダーと共に未来を考える3つの「Think」を軸とした活動に取り組んでいます。

1)「Think GREEN」(地球環境再生と事業活動の両立)
2)「Think LOCAL」(店舗を構える地域の魅力発信)
3)「Think SMILE」(当社に関わるすべてのステークホルダーの人権尊重と笑顔輝く社会の構築)

なかでも、地球環境再生と事業活動の両立を目指した「Think GREEN」は、お客さまとともに循環型の買い物スタイルを実現できている手応えを感じています。

地球環境再生と事業活動の両立を目指す「Think GREEN」

不用になったアイテムを回収しお客さまと地球の負担を減らす「エコフ」

──地球環境再生と事業活動の両立を掲げる「Think GREEN」の取り組みについて、詳しく教えてください。

張 はい。では、「Think GREEN」の取り組みのひとつ、「エコフ キャンペーン」をご紹介します。

環境に配慮したECOなリユース・リサイクル活動「エコフ キャンペーン」について話す、張さん

エコフ キャンペーンは、お客さまが不用になった衣料品・靴・バッグをお持ちいただき、引き取り点数に応じて大丸・松坂屋の店舗でご利用いただけるクーポン券をお渡しするキャンペーンです。

「エコフ(ECOFF)」は、エコ(ECO)+オフ(OFF)の造語です。環境に配慮したECOなリユース・リサイクル活動を通じて、お客さまの負担や地球への負荷をOFFする、持続可能な参加型プロジェクトを表しています。

循環型の買い物スタイルを提案する「Think GREEN」のエコフ キャンペーン。
自宅で不用になったアイテムを回収店舗に持っていくだけで環境貢献ができると好評

お店の成功例を全国の店舗へ拡大

──エコフ キャンペーンはどのように始まったのですか?

金津 衣料品回収自体は、実は2009年頃からアパレル企業が自社ブランドに限定して独自に実施していました。というのも、百貨店に来るお客さまのなかには、「まだ着られる服をゴミとして処分することには抵抗がある」という方が多くいたからです。

ただ、ワードローブのすべてが1つのブランドで揃っていることは、普通はありません。ですから、弊社としても、ブランドの垣根を超えてどのブランドでも回収可能にすれば、お客さまが衣類を廃棄せずにすむのではないかと考えていました。さらに、タンス在庫を整理してスペースが生まれれば、新たな消費を活性化できるのではないかという期待もありました。

そのようななか、2014年に静岡店でブランド横断型の大回収キャンペーンを行いました。
松坂屋静岡店で購入した商品以外でも、不用になった衣料品・靴・バッグを各店の回収カウンターに持ってきた方に、引き取り点数分の松坂屋静岡店での買い物に使用できる「ショッピングサポートチケット」を進呈。このキャンペーンが大好評で、2016年から全国の店舗へと広げていくきっかけとなりました。

2018年の秋に行われたエコフ キャンペーンでは、平日にもかかわらず、10時の開店から間もなく引き取りカウンターに長い行列ができた

回収時に大丸・松坂屋の店舗で使える買い物チケットを進呈

──衣類を持っていくともらえる「ショッピングサポートチケット」というのは、割引チケットのようなものですよね。

 はい。引き取り点数1点につき、大丸・松坂屋の店舗で利用可能なショッピングサポートチケットを進呈する、というインセンティブをつけました。また、「大丸・松坂屋の店舗以外で購入した衣類も回収可能」としたことで、お客さまが参加しやすい環境を整えました。

参加されたお客さまから、「リサイクルに参加したことでクローゼットに余裕ができた。割引クーポンを使って、お得に新しいアイテムを購入できる」といった喜びの声が届き、私たちが目指した"循環型の買い物スタイル"は好意的に受け止められ、ビジネス(売上向上)にも寄与する施策となりました。

いらなくなった服や靴・バッグを回収して喜ばれるだけでなく、「ショッピングサポートチケット」(割引チケット)をわたすことで次回来店促進にもつなげている

2018年には使わなかったチケットによる寄付を実施

──参加したユーザーにメリットがある施策になっていることが、成功のポイントなのですね。

金津 はい。ただ、チケットを発行しても、使用されないお客さまもいらっしゃって、そのお客さまより「何かに役立ててほしい」との声をいただきました。そこで、2018年には使わなかったチケットをポストに入れることで、環境活動へ寄付できるスキームを構築。4ヵ所の環境保護団体を選べるようにしました。

この年は大規模な自然災害が発生したため、急遽被災地への寄付に変更し、被災された方々への支援としてお届けしました。

チケットで募金ができることについて、顧客からは「寄付という選択肢があってうれしい」、「いろんな団体を応援できるのがいい」といった声が寄せられたという

2024年春からは電子クーポンに変更

──2024年には、紙のチケットから電子クーポンに切り替えたそうですね。

金津 はい。2024年春からは、環境配慮の観点から、紙チケットを完全廃止し、電子クーポンに切り替えました。

紙チケットの発行を終了しアプリクーポンに統一したことで、紙の使用量が減り、森を守る取り組みにもつながっている

加えて、回収後のリユース・リサイクル先の可視化を目的に、エコフ キャンペーン独自のサプライチェーンを構築。自分が回収ボックスに入れた衣類などがどこで活用されているのか、お客さまが把握できるようになり、「回収後の流れがわかり、うれしい」といった、お声をいただいています。

エコフ キャンペーンで回収した衣類は、着られないものは「国内でリサイクル」され、着られるものは「海外でリユース」される

──サステナブルとビジネスを同時に実現した、SDGsキャンペーンの成功例ともいえる「エコフ キャンペーン」ですが、2016年の第1回開催時からこれまでに、累計でどのくらいのアイテムを回収されたのでしょうか?

 2024年秋に実施されたキャンペーン単体で、回収衣類は50万8474点、15万9889キロ。累計では、2024年12月現在までで、回収されたアイテムは740万点超え、約2168トンにも達しています。

──買い物を通して生活者が楽しくSDGsへの取り組みに参加でき、それが御社のブランディングと売上向上にもつながる「エコフ キャンペーン」。今後の展望についても、教えてください。

金津 弊社は最初に申し上げた3つの「Think」を通じ、SDGsへの理解浸透と発信力強化に取り組んでいます。2020年9月に大丸・松坂屋各店舗の地域共生活動としてスタートした「Think LOCAL」は、コロナ禍でコミュニケーションが分断したときに、埋もれている地域の魅力をもっと多くの人に知ってほしいという想いから始まったものです。

300年、400年、人々の生活に寄り添い、お客さまの想いを大事にしてきた大丸松坂屋百貨店だからできることであり、やらなくてはいけないことだという責任感から、いまもっとも力を入れている取り組みです。

これからもお客さまや社会への貢献を最優先に、お客さまやパートナーのみなさまと一緒にSDGsへの取り組みを推進していきたいと考えています。

撮影/村田克己 文/相澤洋美 編集/赤坂匡介(講談社SDGs)

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。

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