森林資源の循環を促進する、東急電鉄の「SOCIAL WOOD PROJECT」 企業のSDGs取り組み事例 vol.84

2025年03月05日

駅舎開業から長きにわたり親しまれた古い木造駅舎を、新たに木材をふんだんに使ってぬくもりが感じられる駅に改修するなど、木材活用をはじめとしたさまざまな施策を通じて森林資源の循環に取り組んでいる東急電鉄株式会社。同社のSDGsアクション「SOCIAL WOOD PROJECT」について聞きました。

東急電鉄株式会社 鉄道事業本部 工務部 施設課 課長補佐 横田憲介さん(左)、鉄道事業本部 工務部 施設課 技士 近藤実結さん。おふたりが抱えているのは、東急線キャラクター のるるん

「住み続けられるまちづくり」に寄与してきた東急電鉄

──はじめに、御社の事業概要と、SDGsへの取り組みに力を入れる理由を教えてください。

横田 東急電鉄は、日本資本主義の父として知られる渋沢栄一が東京郊外に自然と都市の長所を併せ持つ、理想のまちづくりを目指して設立した「田園都市株式会社」を源流とし、前身となる目黒蒲田電鉄を1922年に創業しました。以来100年以上、公共交通機関と都市開発を両軸として、公共性と事業性を両立させたまちづくりを進めてきました。

現在は東京都西南部から神奈川県東部に、計9路線、営業キロ110.7キロの鉄軌道路線を運営。首都圏郊外部と都心をつなぐ鉄道ネットワークを構築している沿線には、約550万人の方が暮らしています。

渋沢が田園調布付近の開発と鉄道の敷設を行ったのは、人口が急速に膨らみ始めていた東京市街地の住環境の悪化を憂い、「住み続けられるまちづくり」を目指したからです。つまり、弊社の原点にはSDGsに通ずる社会課題解決への意識があり、SDGsへの取り組みを推進することは、創業時から受け継がれた弊社の"まちづくりのDNA"の延長にあるものと考えています。

「環境に配慮し、持続可能な社会の実現を目指すのが自分たちの使命」と語る横田さん

──「ひと1人を1キロ運ぶ」のに排出するCO₂量を、公共交通機関別に比べてみると、飛行機やバスに比べて鉄道(電車・地下鉄)はもっとも少ないといわれています。しかし、多くの人を運ぶ鉄道事業を主軸に展開している以上、CO₂の排出は避けられません。そのなかで、どのような思いでSDGsへの取り組みを進めているのでしょうか?

横田 弊社はまちづくりにおいて、「人と街と環境の調和」を大切にしてきました。鉄道ネットワークを時代に応じて拡張してきたのも、「街を輝かせ、街の人たちにもっと笑顔になってもらいたい」という企業理念に基づいた考えがベースにあるからです。

CO₂削減や駅舎の老朽化対策、バリアフリー化など、脱炭素化と循環型社会の実現に向けた取り組みを先駆けて行ってきたのも、こうした企業風土や理念があったからです。2022年4月からは、鉄軌道全路線の運行と駅の運営にかかる電力を実質CO₂排出ゼロの再生可能エネルギ―由来の電力100%に切り替え、東急線沿線エリアでの脱炭素・循環型社会の実現を目指しています。

鉄軌道全路線の運行にかかる電力を、実質CO₂排出ゼロの再生可能エネルギー由来電力に切り替えたのは、日本では東急電鉄が初

森林資源の循環を目指す「木と人がめぐるまちづくり」

──御社では脱炭素・循環型社会の実現に向け、森林資源の循環を育む多様な施策も進めていますよね。具体的な取り組み内容について教えてください。

近藤 はい。森林資源の循環を促進する「SOCIAL WOOD PROJECT」についてご紹介します。

「SOCIAL WOOD PROJECT」は、東急線沿線でさまざまな"木にいいこと"を知って・参加して・応援する機会が得られ、なにげない行動から、だれもがこれまで以上に森林資源の循環に貢献できる"木と人がめぐるまちづくり"を目指すプロジェクトです。

共創パートナー、沿線にお住いの方々と連携して"伐って、使って、育てて、循環をつくる"森林資源の循環を育む多様な施策にも取り組み、環境・社会課題の解決を目指します。

本プロジェクトではさまざまな取り組みを行っていますが、その中から次の4つをご紹介します。

① 木になるリニューアル
② みんなのえきもくプロジェクト
③ ステーションウッド
④ サストモの森

「SOCIAL WOOD PROJECT」を担当する近藤さん

① 木になるリニューアル

1つ目は、「木になるリニューアル」。

これは、駅舎開業から長きにわたり親しまれてきた駅施設における、木材をふんだんに使用した駅リニューアルプロジェクトです。

第1弾として2016年に戸越銀座駅、2019年に第2弾の旗の台駅、2021年に第3弾の長原駅のリニューアル工事を行いました。今回は第1弾の戸越銀座駅の事例をご紹介します。

2016年にリニューアルした戸越銀座駅の駅舎

戸越銀座駅は1927年に開業した古い駅です。当時築88年で、駅舎の老朽化とそれに伴う更新が課題となっていました。

材料に木材を多く活用することで、製造時のCO₂放出量を削減。さらに、使用する木材には、東京都多摩地区で生育・生産される木材「多摩産材」を活用し、東京の森の持続的な森林整備と林業の振興にも貢献しています。

同時に地域の方とのコミュニケーションも重視しました。なぜなら池上線は、都心にありながら駅の規模が小さく、地域の人々と距離感が近いという特徴があるからです。

地元住民のみなさまにも深い愛着を持っていただいていた駅でしたので、環境に配慮したホーム屋根の建替えや駅舎内外装等のリニューアルだけで終わらせず、地元町内会のみなさまと多摩産材原産地見学ツアーも実施。林業の現場の方にお話を聞き、製材工場見学、ワークショップなどを通して駅で使用される木材ができる過程を学びました。

また、地域のみなさまとともに駅のベンチを製作して設置。木のぬくもりと、地域のみなさまの思いとの相乗効果で、あたたかみと親しみのある駅になったと大変好評をいただきました。

多摩産材を多く活用し生まれ変わった戸越銀座駅のホーム。木材を約120m3使用することで、鉄骨造に比べて建設段階の二酸化炭素放出量を約100トン削減するほか、木材使用による炭素固定化により約70トンのCO₂削減に寄与している

② みんなのえきもくプロジェクト

2つ目は、駅改修工事などで発生する古材を、駅および沿線で活用する「みんなのえきもくプロジェクト」です。歴史ある木造駅の記憶を未来に継承しながら、廃材処理時のCO₂削減にも貢献できる取り組みです。

えきもく」とは、駅改修工事で発生する古材のことです。

これまでに、「えきもく」を使用して、工事前に設置していたホームの木製ベンチの復活や沿線にお住まいの方々との椅子作成ワークショップ、駅と同じデザインのベンチ制作キットを地元の店舗などに配布して、公共の場に設置していただくなど、古材を通じて歴史ある木造駅の記憶をつなげるイベントを実施してきました。


③ ステーションウッド

3つ目は、駅改修工事で発生する古材(えきもく)を建材・インテリアグッズ等に加工し、「ステーションウッド」という商品として販売する取り組みです。

ステーションウッドの建材を店舗内装に活用した、大井町にある「PARK COFFEE」の店内

これは、2つ目でご紹介した「みんなのえきもくプロジェクト」と並ぶ古材活用の取り組みです。近年では、古材が「環境への配慮・資源の有効活用」という点で注目を集めています。

本プロジェクトでは、国産古材の収集・加工・販売を行う古材日和グループと連携して、古材の再流通による環境負荷低減に取り組んでいます。

なかには、東急線沿線に長くお住まいの方が、ご自身でお店を開くときに「愛着がある東急線の駅舎古材を自分の店舗設計に使いたい」とステーションウッドの建材を購入いただいたこともありました。想いのこもった店舗ができたと非常に喜んで頂けました。


④ サストモの森

4つ目は、LINEヤフーが運営するサステナビリティに関する情報発信を行う「サストモ」内の、木や森に特化したメディア&コミュニティ「サストモの森」。身近なのに意外と知らない日本の森の現状や、森林資源の循環に関する取り組みについての記事配信・体験イベント情報の発信を行っています。「サストモの森」を通じて、"木にいいこと"を知って・参加して・応援する機会を提供していきたいと思っています。

だれもが森林資源の循環に貢献できる社会を実現したい

──木材活用をはじめとするさまざまな取り組みから、まちと森で森林資源が循環する持続可能な社会を目指している御社。今後の展望も聞かせてください。

横田 「SOCIAL WOOD PROJECT」では、木材活用のほか、地方自治体と連携した地方木材の活用や交流機会の創出共創パートナーと連携した森林が抱える社会課題解決、多様な主体が参画できるコミュニティの創出などさまざまな施策に取り組んでいます。

今後もこのプロジェクトを通じて、沿線にお住いの方々に住み続けたいと思っていただけるまちづくりを目指すだけでなく、持続可能な地球環境への貢献につながる未来をデザインしていけたらと思っています。

現在は、田園都市線の地下へと潜る池尻大橋、三軒茶屋、 駒沢大学、桜新町、用賀の5駅のリニューアルプロジェクト「Green UNDER GROUND」も進めています。これまで以上に、安心・安全・快適・便利でサステナブルな駅へと生まれ変わらせ、よりワクワクするまち、駅にしていきたいと思っています。

近藤 弊社の木材を使用したリニューアル工事は、ただ老朽化した施設の改修を行っているだけではありません。沿線にお住まいのみなさま、東急線に乗ってくださるみなさまとともに、だれもが森林資源の循環に貢献できる社会を実現していきたいと考えています。


撮影/村田克己 取材・文/相澤洋美 編集/赤坂匡介(講談社SDGs)

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。

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