誰もが平等に絵本と出会う機会を。絵本と世界をつなぐ絵本ナビ 企業のSDGs取り組み事例vol.85

2025年03月19日

日本最大級の絵本の総合情報サイト「絵本ナビ」を運営する株式会社絵本ナビ。「絵本はすべての教育の始まり」と語る同社では、絵本との出会いの場を創出すべく、企業や自治体と連携した取り組みも行っています。同社のSDGsへの取り組みを、代表取締役社長 CEO 金柿秀幸さんと、CEO室 リーダー 原薫さんに聞きました。

株式会社絵本ナビ 代表取締役社長 CEO 金柿秀幸さん(右)と、同 CEO室 リーダー 原薫さん

年間2000万人以上が利用する情報サイト「絵本ナビ」

──まずは御社の事業概要について教えてください。

金柿 「絵本ナビ」は、絵本・児童書の総合情報サイトです。年間利用者数は、2000万人(ウェブサイトとアプリのUUの合計)を超えており、日本最大級の絵本のポータルサイトとなっています。

たとえば、自分の子どもと読む絵本を探そうとしたり、プレゼントする絵本を探したりする場合、"必ず"と言っていいほど、ほとんどの方が「絵本ナビ」に辿り着きます。それは、それだけ内容(情報)が充実しているサイト(SEO的にも強いサイト)である証拠でもあると思います。

「絵本ナビ」では、絵本、児童書、学習参考書、図鑑などの情報を掲載するとともに、販売を行っており、コマースによる収益事業も展開しています。現在は6万超のタイトルをラインナップしています。

そのほかに、デジタル絵本の定額読み放題サービス、毎月厳選された絵本をお届けする定期購読、絵本ナビの広告枠による広告事業、絵本IPを活用したオリジナルのグッズの制作販売なども行っています。

──さまざまな事業がありますが、軸にあるのはやはり「絵本」なのですね。

金柿 はい。絵本ナビの核は、情報サイトとしての「絵本の情報提供」です。しかし特徴的なのは、絵本を1冊まるごと読める「全ページためしよみ」を一部提供している点です。絵本を購入する際に、中身を見ずに選ぶことはほぼありません。絵本は気に入ったら何度でも繰り返し読むものですから、であれば、"試し読み"が購買に結びつくのではないかと思い始めたところ、実装前と比べて約4倍の売上につながりました。現在は約2400タイトルが「全ページためしよみ」の対象となっています。

また、絵本選びをサポートするために、口コミや販売実績などをもとに「絵本ナビプラチナブック」という"認定"をサイト内で展開しており、絵本を探しやすい環境も整えています。

「絵本ナビは絵本業界全体のプラットフォームのような役割を果たしている」と話す金柿さん

大切なのは、幼少期にどれだけ良質な本にたくさん出会うか

──絵本、また絵本に限らず出版業界といっても差支えないと思いますが、SDGsに関わる課題と、それをどのように解決していきたいとお考えか、お聞かせください。

金柿 出版業界には紙かデジタルかという論争がありますが、一番の課題は、絵本から、本から人が離れていくことです。
 
厚労省の資料によると、1990年代後半を境に、共働き世帯が、専業主婦世帯を上回り、いまや「共働きが多数派(専業主婦世帯の倍以上)」となっていることがわかります。

共働きで夫婦どちらも忙しい。となると、ゆっくり絵本を選び、家で読み聞かせる時間をつくることも難しくなります。弊社で行った調査では、子育てで一番使っているツールは何かという質問に対し、1位はYouTubeで、2位が絵本でした。特にYouTubeの利用率は高く、およそ8割の方が利用していました。
 
しかし、絵本はすべての教育の始まりであり、子どもに大きな影響を与えます。SDGsのゴール「4.質の高い教育をみんなに―教育は課題解決の糸口」との親和性も高く、読書の入口としての役割も果たします。つまり、幼少期に良質な読者体験があるかどうかは、長期的な視点で見ても、非常に重要なことなのです。

「出版不況のなかでも、絵本・児童書ジャンルだけは順調なのは、絵本が特別な存在だから」と金柿さん

絵本でつなぐ、「絵本ナビ」のSDGs

──御社の事業自体がそのままSDGsへの取り組みと言えそうです。企業や自治体とコラボレーションした事例があれば教えてください。

1.こどもの居場所へ、絵本と絵本棚を届ける支援を実現。「アートネイチャー」

 絵本ナビでは、良質な絵本を協賛企業とともに子どもの"居場所(施設)"へ寄贈する「こどもえほんだなプロジェクト」を行っています。

このプロジェクトでは、ご家庭の状況に関わらず、街中ですべての子どもたちが行くところによい絵本がある、という社会の実現を目指しています。絵本を必要としている施設支援したい企業を弊社が結び、良質な絵本約30冊と、絵本棚を届けています。絵本は弊社の経験豊富なプロが選定。その中には普段書店では出会えないような希少性の高い絵本も含まれています。

アートネイチャーと絵本ナビによる「こどもえほんだなプロジェクト」。本棚には、協賛企業のロゴが入る

アートネイチャーさまは、もともとSDGsへの取り組みを積極的にされている企業で、病気などで髪を失った方へウィッグを提供するような活動もされています。そのなかで、2024年11月から、「日本赤十字社医療センター附属乳児院」、社会福祉法人が主催の子ども食堂「もりのさとふれあいステーション」、産後うつや心の病で育児が難しい親御さんのための認可外保育園「HUG保育園」、母子生活支援施設「メゾンクオーレ」の4施設に寄贈され、現在もう1施設が進行中です。

スキームとしては、絵本を必要している施設に手を挙げてもらい、協賛してくださる企業があれば、緊急性の高い施設から寄贈し、企業さまへはリターンとして、弊社の媒体を使ったPRをさせていただいています。

「海外籍の子どもを対象にした学習支援施設への寄贈も候補にあがっています」と話す原さん。絵本は日本語を取得するためのコミュニケーションツールにもなるという

2.板橋区による「小さな絵本館 × こどもえほんだなプロジェクト」

 続いて、板橋区と連携した「小さな絵本館 × こどもえほんだなプロジェクト」をご紹介します。これは、絵本を必要としている東京都板橋区内の子どもの施設と、それを支援したい人々を結びつけ、寄贈を実現する取り組みです。寄贈者は企業さま、個人の両方で募っています。

板橋区との連帯による「小さな絵本館 × こどもえほんだなプロジェクト」第1号。地元の造園事業者から学習塾へ、絵本棚が寄贈された

「こどもえほんだなプロジェクト」と同様に、絵本約30冊とスポンサー名を記載した絵本棚を寄贈。寄贈者は板橋区の「SDGsプラットフォームのポータルサイト」でも紹介されます。

中小企業さまの場合、SDGsに取り組みたいけれど、何から始めたらいいか分からないというケースが現在も非常に多い傾向にあります。そこで、板橋区はもともと絵本の製本印刷をしている会社が多いこともあり、絵本にフォーカスしたSDGsへの取り組みに注力しようとしています。

この「小さな絵本館 × こどもえほんだなプロジェクト」もSDGs事業として認定。選書も板橋区で製本されている絵本を始め、板橋区ならでは絵本を選んでいるのも特徴です。自治体とこのような取り組みを行ったのは初めてで、今後、全国へと拡大していけたらと考えています。

3.デジタル絵本の可能性を支援する「講談社コクリコCLUB」

金柿 講談社さんとは、2022年から業務提携し、こども、子育て、本、読書にまつわる記事を配信するメディア「講談社コクリコCLUB」の読者IDと絵本ナビのIDを連携するなど、さまざまな取り組みを推進中です。

そのひとつが、スマホやタブレット、PCから誰もが選考に参加できるデジタル絵本コンテスト「読者と選ぶあたらしい絵本大賞です。絵本、動画、テキストの3部門で募集し、目標200件に対して1076件もの応募がありました。最終候補作品は、動画化して一般公開を予定しています。

現在募集は終了しており、最終選考作品の発表は2025年4月28日(月)、各賞の発表は2025年7月を予定。

社会全体がデジタルシフトする中で、表現手法もスケッチブック(紙)からタブレットが主流になりつつあります。そうした時代背景も踏まえて、この賞は、絵本の新しい可能性が広がるきっかけになればという思いでスタートしました。

デジタル×絵本という文脈であれば「絵本ナビ」が強みを発揮できる部分も大いにあると考えています。デジタルの波が押し寄せる絵本業界の未来を、さまざまな形で支援していけたらうれしいですね。

絵本による社会課題解決を今後も推進

──最後に、今後の展望について聞かせてください。

金柿 子どもたちが良質な読書体験を得られるようにすることが、社会をよりよくしていくことにつながり、それが弊社の企業活動の核にもなっています。絵本ナビには、絵本の世界と企業さま、つまり外のビジネスの世界をつなげていく役割があります。

前述以外にも、絵本ナビでは「絵本エイド」という活動も行いました。これは、東日本大震災の被災地を支援するプロジェクトです。絵本を被災地に届けたり、絵本の購入金額の1%を絵本ナビが寄付したり、作家さんにサイン本を描いてもらったりという活動を行いました。(※現在は終了)。

チャリティーサインの一例

当時は、何か力になりたいと思っても、どう実現すればいいか戸惑う人も多くいらっしゃいました。震災に限らず社会に貢献したい、SDGsに取り組みたいという方は非常にたくさんいらっしゃいます。そうした個人や企業さまと、それを求めている人たちのマッチングを絵本ナビが続けていくことは、企業としての使命だと感じていますし、この活動をどんどん広げていきたいです。

 子育てを経験すると、絵本との関係は深くなります。ですが、誰もが子育てを初めて体験するなかで、どんな絵本を読ませたらいいかわからない、という基本中の基本のところで悩んでしまうものです。

そういった子育てをしている人たちに、絵本ナビが助けになればうれしいです。特に絵本は、すべての教育につながっていく足掛かり的な存在ですから。今後も絵本を活用して、社会課題の解決へ取り組んでいきたいと思います。

撮影/村田克己 文/モリヤママリコ 編集/赤坂匡介(講談社SDGs)

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。

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