2025年04月23日
日本で初めて普段着のファッションレンタル市場を創出し、ファッションロス削減に貢献している株式会社エアークローゼット。ビジネスとSDGsを両立させるサービスに込められた思いや、環境貢献の仕組みについて、代表取締役社長 兼 CEOの天沼 聰さんに聞きました。
株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO 天沼 聰さん
──日本初、普段着のシェアリングサービス「airCloset(エアークローゼット)」を運営する御社。なぜ普段着のシェアリングサービスを事業化しようと思ったのでしょうか?
天沼 このサービスの原点にあるのは、子育てや仕事に忙しい女性にも、新しいファッションとの出会いをもっと楽しんでいただきたいという思いです。
子育てがどんなに大変でも、仕事がどんなに忙しくても、おしゃれをしたいという気持ちに応えたい。そのためには、ファストファッションのように安い服を提供し、購入のハードルを下げるのも選択肢のひとつです。
しかし長年、大量生産・大量消費・大量廃棄という課題を抱えてきたファッション・アパレル業界は、サーキュラーエコノミー(循環経済)としっかり向き合うべき契機にあり、「安い服を作ればいい(大量生産・大量消費)」では、時代にもユーザーニーズにも逆行してしまいます。
そこで、どちらも両立できる方法として、自宅にいながら、スマホひとつですべてを解決できる、月額制のファッションレンタルサービスというビジネスモデルにたどり着いたのです。
──御社のビジョンは、「"ワクワク"が空気のようにあたりまえになる世界へ」。そこにも創業の原点を感じることができます。
天沼 はい。エアークローゼットの事業は、単なる「お洋服のレンタル」ではありません。私たちがお客さまに届けているのは、利便性や使い勝手を越え、ユーザー体験を追求した「感動」と「出会い」です。
お洋服を循環させることで、お客さまに"サステナブルでワクワクする良いモノとの出会い"をお届けする。それこそが、月額制ファッションレンタルサービス「airCloset」の目指す姿です。
なお、現在は「airCloset」のほかにも、家電をはじめとするライフスタイル商品を試してから購入できるメーカー公認月額制レンタルモール「airCloset Mall」やドレスレンタルサービス「airCloset Dress」など、複数のシェアリングサービスも運営しています。いずれのサービスも「誰もが"ワクワクする"出会い」を提供することをコンセプトにしています。
「人をワクワクさせ、ライフスタイルを豊かにするビジネスがしたかった」と話す天沼さん
──2015年にスタートした「airCloset」は、日本初にして国内最大級の、女性向け、提案型の月額制ファッションレンタルサービスです。「レンタル+提案型」という点に独自性がありますよね。
天沼 ありがとうございます。スタイリストが毎回お客さまに合わせてスタイリングする「パーソナルスタイリング」を通して、新しいファッションと出会える体験をご提供しています。
「airCloset」では、300ブランド・50万点以上の洋服をシェアリングしてユーザーに提供。
「循環型物流」と検品・クリーニング・リペア等の「メンテナンスノウハウ」を独自に構築することで、洋服一着一着の着られる機会を増やし、無駄に捨てられることを防ぐ循環型の持続可能な仕組みを生み出している
パーソナルスタイリストに選んでもらうという"自分専用"という特別感を付加したこと、そして何より「その人に似合う」ファッションを確実に提供できていることが、お客さまに支持された要因のひとつだと考えています。
マッチングの精度は、レンタル回数を重ねるごとにデータが蓄積され、向上します。つまり、契約期間が長くなるほど、自分に似合う服が届きやすくなる。「自分を知ってくれている」という感覚は、契約解除率の低下にも寄与しているとみています。
現在、「airCloset」のメインユーザーは30〜40代の働く女性で、利用者の92.8%が働く女性です。その半数以上が"ワーママ(ワーキングマザー)"。月額会員数は約3万8千人(2024年12月時点)と年々増加しており、提案型のレンタルサービスが新たなファッションの楽しみ方として、今後さらに広がってほしいと思っています。
──借りるだけでなく、気に入ったアイテムは購入できるのも、ユーザーからすると、うれしい点ではないでしょうか?
天沼 そうですね。お洋服は、着てみて初めてわかることもあります。レンタルだからこそチャレンジもしやすいですよね。「まわりから褒められた」「こんな服も似合うなんて知らなかった」という声も多く、利用者の約半数はレンタル品の購入経験があるというデータもあります。
また、本当に気に入ってから購入すれば、「買ったけどあまり着ていない」ということは起きづらく、「長く大切に着る」という持続可能なファッション消費への行動変容にもつながると考えています。
──洋服を購入する消費スタイルと比べると、どれほどの環境負荷軽減が見込めるのでしょうか?
天沼 通常の販売モデルと比べ、CO2排出量が19%削減され、廃棄物排出量も27%抑制される効果が推計※されています。
※環境省「令和4年度デジタル技術を活用した脱炭素型資源循環ビジネスの効果実証事業」(「令和4年度デジタル技術を活用した脱炭素型2Rビジネス構築等促進に関する実証・検証委託業務」において実施)
いま、1日あたりに焼却・埋め立てされる衣服の総量は平均1200トンといわれています。この中には、その人には不要でも、誰かにとっては必要な服もあるはずです。だからといって、「お洋服を捨てることは悪である」と訴えることは、生活者に我慢や無理を強いるものであり、持続可能なアプローチではありません。
だからこそ私たちは、まずはファッションとの新しい出会いを楽しんでもらおうと、お客さまにこれまでにない感動体験やワクワクする喜びをお届けすることを重視しています。
実際に弊社のサービスをご利用のお客さまからは、ファッションレンタルをお手持ちのアイテムと組み合わせながら楽しむことで、「本当に必要なものが選べるようになった」「不要な買い物をしなくなった」というお声もあり、微力ながら、ファッション業界におけるサーキュラーエコノミーに貢献できているのではないかと考えています。
購入して着なくなったら「捨てる」のではなく、「返却」する。これによって、ファッションロスを削減し、環境負荷の軽減にも貢献している
──「airCloset」のサービスは環境視点からも高く評価され、2024年には、第25回グリーン購入大賞で「経済産業大臣賞」も受賞しています。
天沼 弊社のサービスが「サーキュラーエコノミーの実現に寄与している」と評価をいただき、受賞に至りました。
シェアリングエコノミーを通じてファッションをもっと楽しんでもらい、QOL(生活の質)の向上を実現したいという創業当初の想いをもとに、循環型社会の実現や衣服の廃棄・環境負荷を削減するアプローチを今後もさらに拡大していきたいですね。
グリーン購入大賞で大賞の「経済産業大臣賞」の賞状を持つ天沼さん(左)。
「airCloset」が日本におけるサーキュラーエコノミーの実現に大きく寄与すると高く評価された
──忙しい女性のQOLの向上と環境負荷低減を両立しているだけでなく、ビジネスとSDGsを両立させている点も、「airCloset」の大きな特徴のひとつです。いかにして、事業性を高めていったのでしょうか?
天沼 ファッションのレンタルサービスは、「SDGsに貢献できそうな事業だからやってみよう」と、気軽に参入できるほど簡単なビジネスではありません。
配送や仕入れコストも年々高騰していますし、黒字化するまでは、業務フローの改善や効率化、コスト改善を徹底的に行ってきました。
たとえば、サービスを始めた当初は、1配送あたり5〜6千円のコストが掛かっており、2回以上商品が返送されてくると赤字になる状態でした。それでは持続可能なビジネスとは呼べませんから、配送コストを削減するための方法を模索するなど、試行錯誤を重ね、現在に至ります。こうした企業努力は、いまも続けています。
顧客満足度が低下しないよう、「どこにお金をかけ、どこはコストカットできるのかの判断を慎重に行ってきた」と話す天沼さん
──ファッションロスを削減し、ファッションの持続可能な消費に寄与している御社。最後に、今後の展望を聞かせてください。
天沼 まずは「airCloset」をもっと多くの方に知っていただき、ファッションのシェアリングサービスの普及と認知をさらに拡大していきたいです。
そのために最近では、弊社が10年かけて構築してきた物流基盤やシステムを「プラットフォーム」として同業他社に提供するサービスもスタートしました。競争するのではなく、協業する。シェアリング型のレンタルサービス自体が社会全体にもっと広がっていくことを願っています。
ゆくゆくは、メンズやシニア向けのファッションレンタルサービスなども視野に入れています。これからも、新しい自分を発見し、日々のワクワクが増え、ライフスタイルが豊かになる。そんなお手伝いをし続けていきたいです。
撮影/村田克己 文/相澤洋美 編集/赤坂匡介(講談社SDGs)
筆者プロフィール
講談社SDGs編集部
SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。