2025年06月05日
グローバルメッセージに「Sunshine For All」、日本では「フルーツでスマイルを。」を掲げ、高品質で健康な食品を世界の食卓に届けているDole。太陽の恵みを受けて大切に育成されたフルーツの廃棄ゼロを目指し、さまざまなアイデアを形にしています。同社のSDGsへの取り組みを、Dole拡大推進室の成瀬晶子さんに聞きました。
株式会社ドール Dole拡大推進室 シニアマネージャー 成瀬晶子さん
──御社はバナナやパイナップルなど、トロピカルな生鮮果物と加工品で知られています。まずは御社の事業概要から教えてください。
成瀬 弊社ドールは、1851年にハワイで始まった会社です。ブランドメッセージは「Sunshine For All」。そこには、「栄養のある健康的な食物は日光のように誰にでも平等に与えられるべき」という想いが込められています。主に、バナナやパイナップルを生産する青果物事業と、フルーツや野菜の加工食品を製造する加工食品事業を展開しています。なお、日本では1965年から事業をスタートしました。
Doleの青果物
──青果物の生産や加工を行う産業には、SDGsの観点から、どのような課題があるのでしょうか?
成瀬 いちばんの課題は、まだおいしく食べられるのに、さまざまな理由で「規格外」とされ、廃棄されてしまうフルーツが大量に生まれていることです。
とくに日本は輸入品の規格に対する考え方が非常に厳しいといわれています。規格のサイズより大きすぎる・小さすぎる、形が悪いなどの理由で、味や品質に問題はないバナナが、産地で大量に廃棄されている現状があります。
ほかにも、輸送過程で熟しすぎてしまったり、皮に傷や汚れが生じたりしても、「規格外」とされ、廃棄となります。しかしそれは、非常にもったいないことです。そこで、少しでもロスを減らしたいという思いから、フルーツロス削減への取り組みを進めています。
──食品ロスというと、過剰生産や賞味期限による廃棄が注目されがちですが、「規格外品」も大きな課題なのですね。
成瀬 そうですね。バナナでいうと、日本では今、年間約100万トンが輸入されていますが、「規格外」という理由だけで、フィリピンのDole自社農園では年間約2.5万トンが廃棄されています。
丹念に育てたバナナを廃棄するのは、生産者にとっても非常に残念なことです。
コンビニでも販売されている、Doleのバナナ。日本人にとってバナナは身近なフルーツのひとつ(画像は、Doleとファミリーマートの共同企画商品『高地栽培バナナ』)
しかし、バナナの廃棄問題は、「もったいない」だけではありません。
私たちが提供するバナナもそうですが、日本で流通しているバナナの約8割がフィリピン産です。
近年は気候変動の影響で、フィリピンでもバナナの生産環境が悪化。人件費や肥料、輸送コストの高騰も受け、2022年にはフィリピン政府から「バナナの値上げにご協力を」という異例の要請があったほどです。
日本では「バナナは安いもの」という認識がありますが、何も対策をしなければ、フィリピン産のバナナの生産量が減少し、いつか日本の市場からバナナが消えてしまう可能性もゼロではありません。
そのなかで私たちは、バナナの持続可能性を高めるために、生産地にしっかりと還元でき、かつ、消費者のみなさんが手に取ることができる価格で提供し続けられるよう、多様な取り組みを進めていく必要があると考えています。
フルーツブランドをリードしてきた会社として、「日本のバナナを守りたい」と話す成瀬さん
──バナナの持続可能性を高めるために、具体的にどのような取り組みを進めているのでしょうか?
成瀬 2021年9月に、規格を満たしていない規格外品や、輸送時に傷がついたなどの理由で廃棄されてしまう、まだおいしく食べられるバナナを「もったいないバナナ」と名付け、「もったいないバナナプロジェクト」をスタートしました。
最初の取り組みは、当時、バナナジュースがブームになっていたことを受け、バナナジュース屋さんに「もったいないバナナ」を原料として使ってもらうことから始まりました。
認知向上の契機となったのは、プロジェクト発足時から理念に共感してくれたDEAN & DELUCAさんとの協業です。「もったいないバナナ」を活用した季節飲料「ストロベリーバナナジュース」や、定番商品の「ジューシーバナナマフィン」「バナナパンケーキ」を販売したところ、お客さまからも大変好評だったと聞きました。
DEAN & DELUCAが販売した、「もったいないバナナ」を使ったシーズナルドリンク「ストロベリーバナナジュース」と定番商品の「ジューシーバナナマフィン」「バナナパンケーキ」。
おいしく、食品ロス削減に貢献できる商品群は、消費者にも好意的に受け入れられた
──現在は、バナナも含むフルーツ全般の廃棄ゼロを目指す「もったいないフルーツプロジェクト」と改称され、「もったいないバナナプロジェクト」はそのひとつ、という位置付けになっていますよね。
成瀬 はい。2024年9月に「もったいないバナナプロジェクト」は3周年を迎えたことから、取り組みの輪をさらに拡げ、「もったいないフルーツアクション」を開始しました。
「フルーツロスをゼロにすること」、「"規格"という概念を改めて捉え直し、規格外フルーツが地球の大事な資源として活用される、サステナブルな仕組みを構築すること」をゴールに、フルーツの可能性を拡げるためにさまざまなアクションを推進。企業の垣根を越えたムーブメントにつなげていきたいと考えています。
──具体的な「もったいないフルーツアクション」について教えてください。
原料に「もったいないバナナ」を使用した、ジン。デザインは、チョコバナナをイメージしている
成瀬 2025年1月に、エシカルジン(酒粕やカカオの皮などのあらゆる未活用素材を蒸留し、その価値を引き出したジン)の蒸留・販売を行うエシカル・スピリッツ株式会社さんとの協業で、「もったいないバナナ」を使用した「CACAO BANANA ÉTHIQUE(カカオ バナナ エシーク)」を販売しました。
エシカル・スピリッツさんはもともと、酒粕などの未活用素材をアップサイクルした商品製造に注力されていた会社です。弊社の「もったいないフルーツ」の理念に賛同していただき、協業が実現しました。
本商品は、バレンタインに向けて販売強化する予定でしたが、1月14日よりエシカル・スピリッツのオンラインストアと実店舗で販売したところ、すぐに人気となり、バレンタイン前に完売してしまったそうです。
最近の若い世代は、SDGsに寄与しているかどうかを意識して商品を購入される方が増えているので、消費者ニーズにうまく合致した結果ではないかと思っています。
アサイーと「もったいないバナナ」のスムージーベースに、色々な冷凍フルーツがトッピングされている「Doleスムージーボウル アサイー」
成瀬 続いて、食のトレンドとして人気の高いアサイーを使った事例をご紹介します。
アサイーにストロベリー、ブルーベリーなどの甘酸っぱいフルーツと「もったいないバナナ」を活用したスライスを載せた「Doleスムージーボウル アサイー」を、2024年10月に一部エリアのセブン-イレブンさんで先行販売し、話題となりました。
セブン-イレブンさんとの協業は、「もったいないバナナ」を活用したアサイーのテストマーケティングをしたいと考えていたときに、同社が弊社の理念に賛同して手をあげてくださったことから始まりました。
ワンコインという買いやすい価格に設定したこともあり、SNSなどで話題となり、すぐに売り切れに。「幻のアサイーボウル」とSNS上で話題になりました。
その後2025年3月には販売エリアを拡大し、全国のセブン‐イレブンにて数量限定で販売。直近では、お客様のお声にお応えする形で、5月21日より順次全国での販売を再開しています。(数量限定)
弊社はフルーツブランドとして、青果はもちろん、加工品においても「フルーツファースト」のものづくりを大切にしています。「Doleスムージーボウル アサイー」は、グラノラ以外はフルーツ100%。おいしく、健康的で、社会貢献もできる。この一石三鳥さも、商品が広く受け入れられた理由のひとつと考えています。
規格外のバナナを、炭に加工した「バナナ炭」
成瀬 最後は、規格外のバナナを「炭」に生まれ変わらせた、「バナナ炭」をご紹介します。もともと、生産地のフィリピンでは、規格外のバナナを炭化させて土壌改良に活用していたことを受けて、生まれたものです。
2025年の4月から、Eコマースプラットフォーム「メルカリShops」にて、数量限定で発売したところ、形がバナナそのもので、見た目のキャッチーさもあり、多くの方にご注目いただきました。ロスフルーツのアップサイクルポテンシャルを、さらに高めるアイデアのひとつになればと期待しています。
──どれも、「三方よし」の取り組みと言えそうです。ビジネスとSDGsへの取り組みを両立させるために、どのようなことを意識しているのか教えてください。
成瀬 フルーツブランドとして知られているDoleとして「もったいないバナナ」を発信していくことで、卸業者、小売店はもちろん、企業や、一般消費者にも広く伝えていくことを徹底的に意識しました。
「もったいないバナナ」を広めるために、ロゴも作成している
「もったいないバナナ」というネーミングをつけたのは、「規格外品はB級品ではない」という事実を伝えたかったからです。
これまで「規格外品バナナ」は、値引き対象になっていました。しかし、規格外なのは見た目であって、品質の問題ではありません。また、生産者の方は規格品のバナナと同じように手間とコストをかけて一生懸命育てています。それにもかかわらず、B級品扱いしていては、いつまでもバナナの大量廃棄を削減できません。そこで、規格外品にも適正な価値をつけ、規格品と同じ価格で販売していくことが重要であると考えました。
「SDGsは事業になりにくい」とよく耳にしますが、私たちは「規格外品は値引きして売る」という"常識"を覆すことで、フルーツロス削減を持続可能なビジネスにしています。
──常識を覆すために、情報発信にも注力されていますよね。
成瀬 そうですね。2024年10月に「もったいないフルーツ」プロジェクトの特設サイトをリニューアルし、参画企業様との取り組みやもったいない関連商品を紹介しています。コンテンツを見た企業の方から、賛同、協業のお問い合わせを頂くことも多く、広がりが生まれているのは、うれしい限りです。
また、4月23日からは、Netflixシリーズ『サンクチュアリ -聖域-』、映画『ザ・ファブル』シリーズなどを手掛けた映画監督・江口カンさんに企画・制作いただいた「もったいないバナナSTORY」が公開になりました。さらに多くの方に見ていただき、知っていただくきっかけになればと思っています。
──最後に、今後の展望について聞かせてください。
成瀬 これからも、Doleがフルーツのアンバサダーとなって、さまざまな企業の方が「Doleと一緒に何かやりたい」と思うようなフルーツを主役にした話題作り、楽しいワクワクの発信を行っていきたいと考えています。
「もったいないバナナ」は当初、卸からも小売店からも「こんな規格外品は売れない」とマイナスからスタートを切ったプロジェクトでした。しかし、市場で好意的に受け入れられることがわかってからは、小売店さんもポジティブに受け止めてくださるようになりました。
今後も、消費者の考え方や価値観を変えるために語りかけることを諦めず、継続していくことの重要性を実感しています。
「フルーツでスマイルを。」。そのブランドメッセージの通り、Doleのフルーツを買って食べてもらうと、みんなが明るく楽しくなる世界を目指し、これからもSDGsへの取り組みを進めていきたいと思っています。
「これからもSDGsへの取り組みを推進していきたい」と語る成瀬さん
撮影/村田克己 取材・文/相澤洋美 編集/赤坂匡介(講談社SDGs)
筆者プロフィール
講談社SDGs編集部
SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。