2025年05月22日
「あなたと、コンビに」をコーポレートメッセージに掲げ、地域や顧客に寄り添うことを大切にしている、株式会社ファミリーマート。2021年の創立40周年を機に、「チャレンジするほうのコンビニ」をスローガンに掲げ、社会課題の解決にも積極的に取り組んでいる同社。そのひとつ、店舗と地域をつなぎ、地域の食支援とフードロス削減に貢献する「ファミマフードドライブ」について、担当者の大橋 結実子さんに聞きました。
株式会社ファミリーマート マーケティング本部 サステナビリティ推進部 CSR・ダイバーシティ推進グループ マネジャー 大橋結実子さん
──はじめに、御社の事業概要を教えてください。
大橋 ファミリーマートは、1973年にスーパーマーケットチェーンである株式会社西友の一事業として、埼玉県狭山市に1号店を開業。日本発祥のコンビニエンスストアとして誕生しました。1970年代はチェーン展開のノウハウや商品・オペレーションの基礎を固め、1981年9月に株式会社ファミリーマートを設立し、全国へと店舗を拡大していきました。
2006年には、全国47都道府県への出店を達成。2013年には1万店を超える店舗を構えることとなりました。それ以降、店舗網を生かしたサービスや商品に目を向け、2021年以降は「チャレンジするほうのコンビニ」をスローガンに、持続可能な社会の実現を目指して、さまざまな取り組みにも挑戦しています。
「"便利の先にある、なくてはならない存在"を目指すためには、地域課題を共に解決していく視点を忘れてはいけない。そこが重要なポイント」と語る大橋さん
──スローガン「チャレンジするほうのコンビニ」には、SDGsの視点も含まれているのですね。そもそもコンビニは地域密着の業態ですし、SDGsとの関わりも自然と深くなりそうです。
大橋 はい。ファミリーマートは全国47都道府県に出店しており、現在では約1万6300店舗を展開しています。その店舗には毎日1500万人ものお客さまにご来店いただいています。誰にとっても身近な存在であるからこそ、地域と共に解決していかなければいけない課題は多々ありますし、コンビニエンスストアが対峙していかなければいけないSDGs課題は非常に多岐にわたると考えています。
たとえば、環境関連の取り組みとしては、「ファミマecoビジョン2050」という中長期目標を立て、CO2やプラスチックの削減などを進めています。また環境への取り組みは、世界全体で進めるべき課題であり、一定の規模を持つ事業体として、弊社も着実に取り組まなければいけない領域のひとつであると考えています。
「ファミマecoビジョン2050」では、2050年までに、プラスチック対策として、環境配慮型素材の使用を進めることを宣言している
──プラスチック削減という点では、プラスチック製のスプーンやフォーク(カトラリー)の無償提供も、取り扱いが難しい領域のように思えます。
大橋 そうですね。ファミリーマートでは現在、一部の直営店でカトラリーの有料化を進めています。他のコンビニエンスストアチェーンとは一線を画す取り組みとして話題にもなりました。現在は、売上への影響やお客様の利便性などを丁寧に検証している段階です。
ユニークな事例としては、菓子メーカーのブルボンさんと連携させていただいて、北日本地域限定、なおかつ期間限定で「コロネクッキー」をストローの代替品として提供する取り組みを行っています。
ストローの代替品として使用した「コロネクッキー」は、ブルボンが脱プラスチックへの貢献を目的に2020年に開発したストロータイプのクッキー
──ストローとして使い終わったら、食べることもできるわけですか?
大橋 そうです。こうしたユーモアを感じられる取り組みこそが、"ファミリーマートらしさ"だと、私たちは考えています。押し付けるのではなく、楽しく参加できる。そうした視点でSDGsへの取り組みを進めていけるのが理想だと思っています。
──プラスチック削減だけではなく、御社では、フードロス削減にも取り組まれています。「ファミマフードドライブ」は、利用者が家庭で食べきれない食品を回収し、食支援が必要な方に届けています。どのような経緯から生まれたのでしょうか?
ファミリーマート本社のある田町ステーションタワー内の店舗に設置されている「寄付受付BOX」
大橋 2019年から、店舗のイートインスペースを活用して、「ファミマこども食堂」をスタート。地域の子どもたちや保護者が楽しく食事をしたり、お仕事体験を通じて知らない人同士がコミュニケーションを図ったり、地域交流の活性化につなげることを目的とした施策でした。
その年だけで360回、4100人にご参加いただくなど、大変ご好評いただいたのですが、2020年に新型コロナウイルスが蔓延したことで、全く活動できなくなってしまいました(2023年5月より再開)。そうした中で、食事に困っている子どもたちを救いたい思いもありました。
そのとき、愛知県にある店舗が独自で「フードドライブ(未利用食品の回収)」を実施していることを知りました。それを拡大するべく、全店で実施できるよう、ルールや仕組みを整えて2021年4月から始めたのが「ファミマフードドライブ」です。
ファミマフードドライブの流れ。受付手続きはなく、回収ボックスに入れるだけで寄付できるようになっている
※【受付可能な食品の条件】●賞味期限が2ヵ月以上あるもの●常温保存が可能で未開封の食品/【受付不可】●賞味期限表示のないもの●生鮮食品●アルコール類
──「ファミマフードドライブ」を実施するにあたり、どのような点で苦労されたのでしょうか?
大橋 この取り組みは店舗だけで完結するものではありません。その地域で食支援を行っているパートナーに協力いただき、定期的に回収してもらう必要があります。地域の協力パートナーを探すのには、非常に時間がかかりました。
その際にバックアップしてくださったのが、「ファミマこども食堂」の立ち上げ時にもご協力いただいた、NPO法人 全国こども食堂支援センター「むすびえ」さんでした。その他、弊社の想いにご賛同いただいた、こども家庭庁や全国社会福祉協議会などのご協力もあり、多くの支援団体とつながることができました。最近では社内のお客様相談室に「パートナーになりたい」というお問い合わせを多くいただくようにもなり、とてもうれしく思っています。
──現在、「ファミマフードドライブ」の実施店舗数や実績は、どのような状況でしょうか?
大橋 スタート時の2022年は実施店舗数が1008店舗でしたが、毎年1000店舗ぐらいずつ増えていき、現在では4400を超える店舗、615団体の協力パートナーにご賛同いただき食支援の取り組みができている状況です。
2025年2月末までの寄贈量累計は、重さにして400トンを突破。大型トラック約20台分になると表現させていただいています(笑)。
──SDGsに取り組む企業からは「ビジネスとの両立が難しい」という声をよく聞きます。また、企業によってはビジネス視点ではなく、社会貢献に振り切って実施するケースもあると思うのですが、御社ではどのようにお考えなのでしょうか?
大橋 「ファミマフードドライブ」を実施するにあたっては、そこまで売上を意識したものではありませんでした。一方で、どんなにいい取り組みでも過大なコストがかかることや自社事業との関連性が希薄な活動は、なかなか持続しないのではないでしょうか。意識としては、「社会や環境に、なるべく良いアクションをして支持される(選ばれる)」。ビジネス視点も持ちながら、SDGsへの取り組みは進めるべきだと考えています。
「ファミマフードドライブ」を通じて、地域が元気になっていけば、最終的には店舗の利益にもつながっていくと捉えています。
「ファミマフードドライブ」が順調に進んでいるのは、生活に身近な場所にあって、長時間営業しているというコンビニエンスストアの特徴を生かしながらできるSDGsだからだと思います。日本におけるフードロス削減の目標の中で、事業系は計画的に削減が進んでいますが、家庭系はなかなか削減できていない現状があります。「ファミマフードドライブ」は、その解決の一助になり得ると思っていますので、もっと多くの人に知っていただけたらうれしいですね。
──今後の展望や新たに計画されているSDGs施策がありましたら教えてください。
大橋 弊社は「あなたと、コンビに、ファミリーマート」をコーポレートメッセージに掲げています。地域のお客さまを含め、皆さまを「家族」と捉えています。その皆さまにとって、これからも不可欠な存在でいられるように「ファミマフードドライブ」は引き続き大切にしていきたい活動です。
また、フードロス削減の観点では「ファミマフードドライブ」に限らず、消費期限の迫ったおむすびやお弁当などの中食商品に貼る値下げシールを、涙目のキャラクターやメッセージの入ったデザインに変更して、お客さまの感情に訴えかけることを目指した取り組みなども進めています。
「たすけてください」というメッセージは、食品ロスによって捨てられてしまう食材の心情を表現しています。このシールのデザインにより、お客さまが商品を購入する際に食品ロスの問題が想起され、より肯定的に値下商品を選択していただけるようになる効果を期待しています。
さまざまなメディアでも取り上げられた、値下げシールのイメージ
他にも、素材を余すことなく利用するために「もったいない食材」を活用した商品展開や、規格外の野菜をおいしく食べていただくような取り組みも積極的に展開しています。今後も「チャレンジするほうのコンビニ」として、どんどん新たな取り組みにチャレンジしていきたいと思っています。
撮影/村田克己 文/小林保 編集/赤坂匡介(講談社SDGs)
筆者プロフィール
講談社SDGs編集部
SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。