SDGsに貢献する地域密着の家づくり|SDGsと地域活性化【第1回】

2021年04月09日

SDGsを達成するには、全国展開する企業や、住民が多く存在する大都市圏だけでなく、すべての地域で積極的に取り組むことが必要です。特に地域におけるSDGsへの取り組みは、その地域の活性化につながるものであることが重要になるでしょう
今回から、山陽学園大学・地域マネジメント学部で環境政策を専門とする白井信雄教授が、SDGsを活かしてどのように地域の活性化を図っていくべきかを解説します。

多岐にわたってSDGsに貢献する「家づくり」

本連載では、SDGsを活かして地域とその産業の活性化をどのように図っていくか、その方向性を具体的に示したいと考えています。そして、地域活性化にとって重要な地域産業として、「地域の工務店」、「商店街」、「公共交通事業」、「農林水産業」に注目していきます。

また、SDGsをテーマにした地域ぐるみの取組みにも注目し、「SDGs未来都市」はもとより、環境を入口としたローカルSDGsに向けた環境省の取り組みである「地域循環共生圏」についてとりあげます。さらにその一環として、筆者が事例研究をしてきた「再生可能エネルギーを活かす地域づくり」から学ぶことを、具体的に示していく予定です。

1回目のテーマは、地域に密着した家づくりによるSDGsへの貢献です。
家はあらゆる人によって必要な基盤であり、長期の使用、在宅時間の長さ、エネルギー消費の多さ、所有者・居住者の思い入れの強さなどに特徴を持ちます。また、木材の調達による森林整備効果のみならず、家づくりに係るサプライチェーンの関係者が多く存在します。こうした特徴ゆえに、家づくりがSDGsに果たす役割は大きいと言えるでしょう。家づくりにおけるSDGsへの貢献を4つの側面に分類し、表1にまとめてみました。

表1 家づくりによるSDGsへの貢献(例)

出典)建築関連産業とSDGs委員会編「これからの工務店経営とSDGs」や工務店の取り組み事例をもとに筆者作成

1つめは、住む人のウエルビーイング(well-being)の向上です。人生の2/3を在宅で過ごしていることを考えると、人間の健康、ひいては幸福な人生の実現において、家のもつ役割は大きいものです。また、社会経済的弱者のウエルビーイングへの貢献が重要であることを考えると、貧困世帯が住宅を持てずに生活が安定せず、健康状態が悪くなり、さらに貧困が深刻になるというような貧困のスパイラルを打開するために、低所得者向けの住宅提供は重要です。
2つめは、住む人の暮らしにおける環境配慮です。特に、エネルギー、気候変動、廃棄物といった面で、家における人間活動が与える環境負荷は大きく、それを抑制する家づくりが重要となります。特に、2050年に向けてカーボンゼロ社会の実現という目標が示されるなか、省エネルギーと再生可能エネルギーを徹底的に装備した家の整備が求められています。
3つめに、家のライフサイクルやサプライチェーン、例えば技術開発や原材料の調達における配慮です。原材料の調達においては、木材の調達がSDGs上の波及性を持ちます。森林は二酸化炭素の吸収、水資源の涵養、生物生息空間、快適環境や文化の形成等といった公益的な機能を持ち、木材調達による森林整備はその機能を高めるからです。表1では木材の調達はSDGsへの貢献としてゴール15の「陸の豊かさ」を守ることをあげていますが、それ以外にもゴール6の「水循環」、ゴール14の「海の豊かさ」にも貢献することになります。
4つめに、家のライフサイクルやサプライチェーンのステークホルダーに対する配慮です。従業員、パートナー企業等のステークホルダーに対して、教育、ジェンダー平等、雇用、連携等の側面での配慮が求められます。

家づくりを通したカーボンゼロ社会への貢献

2021年3月に国土交通省によって策定された「住生活基本計画」では、災害、子育てや高齢化、カーボンゼロ社会等への対応を図る目標を整理しています。このうち、カーボンゼロに向けた取り組みとしては、次の目標が示されています。

【住生活基本計画に示された脱炭素に向けた目標】

  1. 長寿命でライフサイクル二酸化炭素排出量が少ない長期優良住宅ストックやZEHストックを拡充
  2. ライフサイクルで二酸化炭素排出量をマイナスにするLCCM住宅の評価と普及を推進
  3. 住宅・自動車におけるエネルギーの共有・融通を図るV2H(電気自動車から住宅に電力を供給するシステム)の普及を推進
  4. 炭素貯蔵効果の高い木造住宅等の普及や、CLT(直交集成板)等を活用した中高層住宅等の木造化等により、まちにおける炭素の貯蔵の促進

「ZEH」とはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略です。断熱性能等の大幅な向上と高効率な設備により省エネルギーを実現し、さらに再生可能エネルギー等を導入することにより、エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指しています。必要なエネルギーをすべて再生可能エネルギーにすれば、住宅を単位としてゼロカーボンを実現することができます。
「LCCM住宅」は、ZEHをさらに拡充させたもので、ライフサイクルカーボンマイナス住宅の略です。家に住む段階だけでなく、家の建設、改修、解体といった家のライフサイクル全体で排出される二酸化炭素(カーボン)を、ゼロ以上にマイナスにするという考え方です。このためには、住む段階の省エネルギーだけでなく、改修と解体の段階でも二酸化炭素の排出量を減らし、そのうえで大容量の太陽光発電をつける必要があります。この発電によって削減される二酸化炭素炭素の量が、建設から解体までに排出される二酸化炭素の量を上回るようにするのです。
「木造住宅による炭素貯蔵効果」については、説明が必要でしょう。樹木は光合成により大気中から取り込んだ二酸化炭素を自分の体に閉じ込めています。それを建材として利用した木造住宅は、建材の分だけ大気中の二酸化炭素を貯蔵している(大気中の二酸化炭素を減らしている)ことになります。住宅に木材を利用すれば、森林整備を促し、二酸化炭素の吸収を含めた森林の機能を高めることを先述しましたが、そうした吸収効果だけでなく、この貯蔵効果も重要なのです。

家づくりにおける気候変動への適応

気候変動への対策としては、二酸化炭素の排出削減(緩和策)とともに、「適応策」の必要性が指摘されてきました。2018年に気候変動適応法が制定され、地方自治体や企業による適応策の計画が進められています。適応策とは、「緩和策を最大限実施しても避けられない影響に対して、気候災害への対策をさらに強化、追加すること」です。
近年では世界的な緩和策の遅れにより、気候変動が進行し、猛暑や豪雨といった異常気象が頻繁に起こるようになっています。さらにそれが常態化しつつあり、想定外の深刻な事態も起きています。気候変動の影響は、水土砂災害、熱中症、農産物の高温障害、ライフラインの停止等として、私たちの身の回りに生じていますが、この影響を回避、軽減する対策が適応策です。家づくりにおいても、カーボンゼロを目指す緩和策としての貢献とともに、適応を考えていかなければならないのです。
この点について、「住生活基本計画」では、豪雨災害等の危険性の高い地域での立地抑制、災害時も居住継続が可能な住宅等のレジリエンス機能(災害を防いだり、災害後に回復する能力)の向上等の目標を示しています。これらは気候変動適応に限定せずに、地震等も含めた災害対応を示していますが、特に気候変動への適応という観点から、家づくりのあり方を考える必要があるでしょう。
例えば、水災害面での適応としては、貯湯タンクの電子部品やエアコン等の室外機を水没しないように設置したり、浸水や水没を防ぐ構造への変更等があります。猛暑や豪雨の停電時における電気利用、屋内で熱中症にならないように高齢者に警告するナビゲーション・システムなども適応策として重要です。
SDGsでは「ゴール11 住み続けられるまちづくり」のターゲットとして、気候変動適応のことが示されています。

「家と暮らしのシステム」によるSDGsの実現と地域の工務店

家づくりによるSDGsへの貢献は、家づくりという単体で実現できるものではありません。家づくりから家での人間活動、そして住む人の幸福に関連するシステム(以下、「家と暮らしのシステム」と呼びます)として、SDGsに貢献することが大切です。
家と暮らしのシステムは、家の建築から解体におけるライフサイクル、さらには家での人間活動を支える入出力、家の立地や周辺の土地利用・コミュニティ等から構成されます(図1)。家と暮らしのシステムによるSDGsを実現するためは、システムの構成者の連携が必要となります。

図1 家と暮らしのシステムの捉え方


このような家と暮らしのシステムによるSDGsの実現においては、地域の工務店の果たす役割が大きいと筆者は考えています。それには3つの理由があります。

1つには、地域の工務店は地域に密着して、顔の見える関係の中で事業を行なっているコミュニティ・ビジネスであるため、建設後の維持管理、家での暮らしの支援、周辺地域の整備等に関わりやすいという特性を持つことです。住宅市場が縮小するなか、家と暮らしのシステムでのSDGsへの貢献を図ることは、地域の工務店の生き残り戦略としても重要となるはずです。特に、家づくりだけでなく、地域の公園や里山の活用、伝統的景観の保全等のまちづくり事業を手がけたり、アフターサービスとしての住む人のウエルフェアを支援するなど、地域づくりと暮らしの総合プロデュース事業として工務店が発展することが期待されます。
2つめに、地域の工務店は相対的に事業規模が小さいスモール・ビジネスであるため、小ロットの地域資源を活用する事業を行ないやすい点が挙げられます。特に、木造住宅での木材調達先を地域内に求め、地元の木で地元の家をつくることはSDGsとして有効ですが、大量の安定供給が難しいことから、スモール・ビジネスであることが不可欠となります。
また、地元の木で地元の家をつくることは、地域の林業・木材加工等の活性化になります。地域のリサイクル材料、地域の伝統的工法等の地域資源を活用する主体としても、工務店の役割は大きいと考えています。
3つめは、地域の工務店の経営者、勤務者は地域に暮らす人たちであることです。地域に暮らす人の目線を持つからこそ、地域の固有性や歴史を踏まえつつ、地域で家を建てる人、その家で暮らす人のための良い家をつくることが可能となりますし、地域に暮らす人同士のつながりが強まっていくことも期待できます。そうした人のつながりが広がり、強まることが地域づくりにとって重要であると筆者は考えています。
第二回は、商店街を取り上げます。

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SDGsの基礎知識