2021年05月07日
毎年5月第2土曜日は「世界フェアトレード・デー」。世界でフェアトレードをアピールする日ということを、ご存じでしょうか。さらに5月はフェアトレード月間として、フェアトレードのイベントが全国各地で開催されます。本記事では、フェアトレードの意味や仕組み、具体的な商品、問題点、SDGsとの関わりなどについて解説します。
フェアトレードは直訳すると「公正・公平な貿易」という意味です。
日々私たちはたくさんのものを消費していますが、それを手にするまでにどれほど多くの人が関わっているのかを意識することはあまりありません。開発途上国と先進国間の貿易においては、先進国に有利な構造があります。安価で便利な製品を手にできるのは開発途上国の人たちの不安定で低い賃金と劣悪な労働環境に支えられていることが多く、また、その労働力には数多くの児童が含まれています。
フェアトレードはこの不平等をなくし、労働や生産される製品に見合った正当な価格で、継続的に取引をする仕組みのことです。一方的な支援ではなく、対等なパートナーシップといえます。
またフェアトレードは、国や企業の枠を超え、一人ひとりが製品を購入することで、貧困をなくしたいという意思を示すことのできる手段でもあります。
フェアトレードの始まりは1940年代、第二次世界大戦後の頃です。
アメリカのNGOに勤める女性が、プエルトリコの女性たちが作った手工芸品を販売したのが最初とされ、その後ヨーロッパにも広がっていきました。当時は助けてあげるという慈善事業的な側面が強かったようですが、それがフェアな取引に変わっていったのが1960年代に入ってからです。
そもそもフェアトレードが生まれたことは、西欧諸国による植民地支配や奴隷制度と関わりがあります。
第二次世界大戦以降、植民地支配を受けていた国々は独立していきますが、経済的立場も公平になったわけではありませんでした。労働に対する正当な対価を得られないことから貧困が進み、子どもを学校へ行かせることもできなくなります。グローバル化が進み国を超えて生産・消費が行われるようになると、価格競争に負けないよう、効率や生産性が最優先されるようになります。それが大量の農薬使用や無作為な森林伐採、危険な労働環境などを生み、健康被害や環境破壊といった問題原因にもなりました。
貧困がさらなる貧困を生み出す悪循環と不平等を解決する手段として生まれたのがフェアトレードです。
フェアトレードは、開発途上国の人たちにのみ負担を強いる貿易に変わる、"新たな貿易の形"を作ろうという願いから「オルタナティブトレード」とも呼ばれることもあります。
手工芸品を中心に始まったフェアトレード商品は、現在ではコーヒーやチョコレートなどの食品、ファッション製品、化粧品など多岐にわたっています。
フェアトレードは、適正価格を設定して生産者の生活を向上させ、貧困を解決することが目標です。
適正な価格で立場の弱い生産者を守り、安定な収入が得られるようになれば、得た利益を労働環境の改善や設備への投資、技術力の向上へつなげることが可能です。品質の向上によって消費者の満足度も上がり、さらに取引が活発になっていくという好循環が生まれます。
貧困が解決すれば、それに連なる児童労働や強制労働、自然破壊などを防ぐことができ、利益は学校や病院などの設備へつながります。地域の多様性を尊重し、人間らしい生活をおくれるようになることが重要です。フェアトレードは利益を第一の目的とするのではなく、持続可能な取引によって生産者の生活を向上させることが優先とされています。
フェアトレードが世界で広まっていく中で、統一の基準が設けられるようになりました。
そのひとつに「国際フェアトレード基準」があります。それまで世界各地で展開していたフェアトレード団体を包括する形で1997年に発足した、FLO(国際フェアトレードラベル機構:Fairtrade Labelling Organizations International)が定めた基準です。
内容は、「生産者の対象地域」、「生産者が守るべき基準」と「トレーダー(輸入・卸・製造組織)が守るべき基準」、「国際フェアトレード認証対象産品」からなり、すべての項目で「経済的基準」「社会的基準」「環境的基準」という3つの原則が重要視されています。
【経済的基準】
・フェアトレード最低価格の保証
・フェアトレード・プレミアムの支払い
・長期的な取引の促進
・必要に応じた前払いの保証など
【社会的基準】
・安全な労働環境
・民主的な運営
・差別の禁止
・児童労働・強制労働の禁止など
【環境的基準】
・農薬・薬品の使用削減と適正使用
・有機栽培の奨励
・土壌・水源・生物多様性の保全
・遺伝子組み換え品の禁止など
※1 出典:フェアトレード ジャパン公式サイト
https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/intl_standard.php
もし市場価格が下落してしまうと、生産者の生活が持続可能なものではなくなってしまいます。そうならないように設定されているのが「フェアトレード最低価格」です。これも国際フェアトレード基準のひとつであり、ほかに、生産地域の社会発展のための資金であり、インフラや設備の充実、教育環境の整備などに使用できる「フェアトレード・プレミアム(奨励金)」を生産者に保証しています。また児童労働の禁止などを定めていることも「国際フェアトレード基準」の特徴のひとつです。
国際フェアトレード基準は製品を対象にした基準ですが、団体を対象にした基準もあります。
WFTO(世界フェアトレード連盟:World Fair Trade Organization)は、1989年に発足した、フェアトレードを推奨する各国の組織の連合機関です。フェアトレードを生産する団体、輸入して販売する団体、フェアトレード団体を推奨する団体が加盟しており、認定されるためには次の10の指針をクリアする必要があります。
1. 生産者に仕事の機会を提供する
2. 事業の透明性を保つ
3. 公正な取引を実践する
4. 生産者に公正な対価を支払う
5. 児童労働および強制労働を排除する
6. 差別をせず、男女平等と結社の自由を守る
7. 安全で健康的な労働条件を守る
8. 生産者のキャパシティ・ビルディングを支援する
9. フェアトレードを推進する
10. 環境に配慮する
※2 出典:ピープルツリー:https://www.peopletree.co.jp/fairtrade/standard.html?platform=hootsuite
WFTO(英語版):https://wfto.com/our-fair-trade-system#10-principles-of-fair-trade
フェアトレードのマーケットを広げ、より多くの消費者がフェアトレード商品を見分けられるように作られた、フェアトレードマークについて紹介します。
よく知られているのが、FLOが2002年に作った「国際フェアトレード認証ラベル」です。先ほど紹介した社会的・経済的・環境的基準を満たし、公平な取引が行われていることを認証するラベルです。開発途上国 75ヵ国、160万人以上の生産者・労働者と、消費国30ヵ国メンバーが参加し、世界130ヵ国以上認証でラベル製品が流通しています。
【ラベルの種類】
国際フェアトレード認証ラベルには種類があります。このラベルは、生産地域から出荷されるまで完全に追跡可能な(物理的トレーサビリティの適用)製品にのみ表示されます。
・コーヒーやバナナなど認証原料100%からなる製品に表示されるもの(認定原料には、コーヒーやカカオ、コットンなどがあります)。
・チョコレートやシリアルなど、非認証原料を含む製品に使用されるもの(矢印がついており、認証原料と調達方法をパッケージ裏面で確認できます)。
・主に複合材料製品に使用されるFSIラベル(原材料のうち、タブに記載されている原料のみがフェアトレードであることを示します)。
認証を行うには透明性と専門性が欠かせないため、2002年にフェアトレード認証専門の独立機関「FLOCERT」誕生しました。日本では一部の組織を除きその役割を特定非営利活動法人フェアトレード・ラベル・ジャパンが担っています。
その他にも、WFTOに加盟している団体が販売する製品につけることが可能なラベルもあります。中には、認証マークがついていなくてもフェアトレード商品として販売されているものもあります。これは、国際フェアトレード認証ラベルやWFTOが広まる以前から、現地の生産者と直接取引していケースが多く、中には認証団体よりも厳しい基準を設けている団体もあるようです。
つまり、フェアトレードには基準となる法律がなく、どのような基準でフェアトレードと名乗っても現状では罰則を受けることはないのが実状なのです。
フェアレードは世界で広がってきていますが、課題もあります。
まず、他商品と比べて価格が高いことがあげられます。ひとつひとつ丁寧に作られていて大量生産ができないものは価格が高くなりがちですし、最低価格が保証されていることや、認証に手数料がかかることも要因となります。
また手作りの場合、仕上がりにばらつきがでるなどの品質の課題もあります。最低価格が保証されると、よりいいものを作ろうとする向上心を保ちにくくなる側面があったり、品質を維持するための技術を磨く環境や公衆衛生の対策が十分でないことなども要因となります。
法律がなく独自のラベルが使用されることもあり、フェアトレードが企業のイメージアップのためのプロモーションとして利用されているというケースもゼロではありません。
国際フェアトレード認証の対象となっているのは、以下の産品(※3)です。
●食品
・コーヒー(焙煎豆)
・生鮮果物(バナナ、りんご、アボカド、ココナッツ、レモン、オレンジ、ワイングレープ
カカオ、チョコレート)
・スパイス・ハーブ(スパイス:バニラ、クミン、コショウ、ショウガ、シナモンなど、ハーブ・ハーブティー:ルイボス、ハイビスカス、カモミールなど)
・蜂蜜
・ナッツ(カシューナッツ、胡桃、アーモンド、マカデミアンナッツ)
・オイルシード・油性果実(ごま、オリーブ、大豆など)
・加工果物・野菜(ドライフルーツ、フルーツジュース、ドライ野菜)
・サトウキビ糖(砂糖)
・茶(紅茶、緑茶など ※ルイボスティーはハーブに分類)
・野菜(ピーマン、メロン、ジャガイモ、ひよこ豆、レンズ豆など)
・穀類(米、キヌアなど)
●その他
・繊維(コットン
・花(バラ、カーネーションなど)
・スポーツボール(サッカーボール、フットサルボールなど)
・金
※3 出典:フェアトレードジャパン公式サイト
https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/intl_standard.php
フェアトレードの中でよく知られているのがコーヒーです。
コーヒーは主に開発途上国で生産されていますが、その買取価格が決められているのは、遠く離れたニューヨークやロンドンの国際金融市場です。コーヒーの国際相場は気象状況や市場操作の影響を受けやすく変動が激しいのが現状です。買い手有利の取引が行われており、コーヒーの専業農家の収入は非常に不安定です。そのため持続可能な生産体制が整わず、質の高いものを作ろうとするモチベーションが低いことや、過剰な農薬散布、森林伐採、児童労働や強制労働の問題が指摘されていました。
フェアトレードでは最低価格が保証されているため、交渉力の弱さや市場価格によって低い価格を押し付けられることを防げます。国際フェアトレード基準では、アラビカコーヒーのフェアトレード最低価格は1ポンド当たり140セントに定められており、有機認証のコーヒーならばさらに30セントの上乗せが保証されます。さらに、1ポンドあたり20セントのプレミアムが保証されているため、そのお金を機材の購入や学校、病院などの建設にあてることが可能になります。
チョコレートの原料であるカカオ豆の生産も、ほとんどが開発途上国で行われています。1400万人もの人が生産によって生計を立てているとされますが、特に問題になっているのが18歳未満の児童労働です。学校に通うことができず危険な労働環境に置かれている児童は、150万人に上ると言われています。
カカオ豆の生産は家族単位の小規模なものが多いのですが、収穫から発酵、乾燥、選別、袋詰と、出荷までに多くの行程と労働力が必要です。それを多くの子どもたちが担っているのです。教育を受けられず、生産のための知識や技術も身につけることができず、十分な収入を得られないという悪循環が続き貧困から抜け出すことが難しくなっています。国際フェアトレード基準では児童労働を禁止しています。フェアトレードによって最低価格が保証され収入が安定すれば、児童を労働させることなく、貧困の連鎖を断ち切る第一歩となるでしょう。
フェアトレード製品は、ほかにも多数あります。お茶やワイン、ビール、アイスクリーム、バナナなどの食品をはじめ、服やバッグ、アクセサリーなどのファッションアイテム、化粧品などです。
食料品や化粧品など日常的、さらに定期的に使用するもの多く、購入の際にチェックしてみるといいでしょう。
2030年までに世界共通の目標として掲げられているSDGs。フェアトレードはその達成に向けた効果的な手段のひとつといえます。SDGsは17の目標と169のターゲットで構成されていますが、フェアトレードは全項目と親和性が高く、特に以下の8項目は直接的に関わるものとされています。
目標1(貧困をなくそう)
目標2(飢餓をゼロに)
目標5(ジェンダー平等を実現しよう)
目標8(働きがいも経済成長も)
目標10(人と国の不平等をなくそう)
目標12(つくる責任つかう責任)
目標13(気候変動に具体的な対策を)
目標17(パートナーシップで目標を達成しよう)
SDGsに取り組む企業が増えていますが、経営戦略とSDGsを結びつけることができないという課題もあるようです。最低価格が定められていることや環境への配慮から、フェアトレードはコストが高くなりがちで、短期的には利益が減る恐れもあります。フェアトレードに取り組むことは持続可能なビジネスモデルの構築につながるという、長期的な視野で考えることが必要となってきます。
またサプライチェーンが複雑で自社で全体を管理できない場合は、コントロールが難しいという面もあります。
多くの企業がフェアトレードに参入し、それぞれのアプローチで取り組んでいます。
例えば、大手食品会社では、農業研修や、男女平等や児童問題への対応など、農家と長期的な関係を築き、原料生産者の生活の向上を目指す取り組みを行っています。ファッション業界では、フェアトレードを通じたオーガニックコットンやリサイクル素材を使用した製品作りが積極的に進められており、モチーフやロゴにメッセージが込められているものも多くあります。
海洋プラスチックを再利用して作られた繊維を使用したり、花などのフェアトレード製品とコラボレーションしたり、サスティナブルを重視したキャンペーンを展開する製造メーカーもあります。
フェアトレードの意味や具体例をついてご紹介してきました。
世界の人たちが今一緒になって取り組むべきSDGsの達成に向け、フェアトレードが非常に有効な手段であることは間違いありません。ただ、今フェアトレードが注目されているのは、いまだに生産者の貧困問題が解決していないことの裏返しでもあります。しかし今後、SDGsの目標達成に向け、フェアトレード製品を扱う企業や推奨する団体は増え続けるでしょうし、消費者もその動きに呼応し、フェアトレードへの関心を高めていくのではないでしょうか。