「SDGs商店街」を持続可能な地域づくりの拠点に|SDGsと地域活性化【第2回】

2021年05月11日

SDGsを達成するには、全国展開する企業や、住民が多く存在する大都市圏だけでなく、すべての地域で積極的に取り組むことが必要です。特に地域におけるSDGsへの取り組みは、その地域の活性化につながるものであることが重要になるでしょう。
山陽学園大学・地域マネジメント学部で環境政策を専門とする白井信雄教授が、SDGsを活かしてどのように地域の活性化を図っていくべきかを解説します。


今回は「SDGsと商店街」をテーマとして取り上げます。
商店街は、多様なモノやサービスを扱う店が集まり、賑わいや歴史の蓄積のある場所であり、人と人との関係性の基盤である点に特徴があります。そして、この特徴を活かした商店街の活性化が、地域の持続可能な発展にとって重要です。

SDGsから見出す、商店街の役割と活路とは

商店街がSDGsにとって重要である理由として、まず「郊外の大型店、ネット通販などによる流通ばかりでは(それらが不要とはいいませんが)、高齢者や身体弱者の便利で快適な生活基盤を確保できない」ことがあげられます。そして、中心商店街の持つ歴史的な価値、商店街への住民の愛着、人とのつながりによる安心感などが、地域の持続可能な発展に不可欠だからともいえます。

しかし残念ながら、全国各地で商店街が衰退し、空き店舗が増えている状況にあります。中小企業庁「平成30年商店街実態調査」によれば、空き店舗率の平均は約14%となっています。コロナ禍によって、空き店舗がさらに増えていることは明らかでしょう。そこで商店街の本来的な強みとは何かを考え、社会経済の将来動向に対応していく長期的なビジョンが求められます。

この「商店街が活かすべき本来的な強み」は、上記の持続可能な地域づくりに貢献する3つの特徴にあるのではないでしょうか。これを活かし、持続可能な地域づくりの先導拠点を目指すことが、商店街の社会的役割であり、商店街が活性化・復興していく希望の道となる、筆者はそう考えています。

商店街が目指すべきSDGsのゴール

商店街による持続可能な地域づくりへの貢献(すなわちSDGsへの貢献)の具体的方向性を、SDGsのゴールに対応づけて、表1に整理しました。ここで示すように、SDGsへの貢献は3つの視点に分けられます。

表1 商店街におけるSDGsへの貢献(例)

1つめは、商店街でSDGsに配慮した商品・サービスを提供することです。これは、「エシカル消費」を促すことと言い換えることができます。エシカル消費とは、地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動のことです。
このエシカル消費は、SDGsのゴールに対応して、多様な側面があります。個々の商店がSDGsに貢献する商品・サービスを取り扱うだけでなく、それらの商店が多く集まる「エシカル消費ができる商店街」となることで、商店街の社会的価値を高めることができるでしょう。

2つめは、人が集まり、時間を過ごし、文化を創造し、歴史を継承する場として社会に貢献するという視点です。具体的には、障がいをもった人も楽しめるように配慮すること、エネルギーを消費し、ごみを排出する場として環境に配慮すること、災害時にも安全なように配慮することなどがあげられます。特に、高齢化が進み、コミュニティのつながりが希薄化するなか、商店街は商店が集まる買い物の場(経済活動の場)から、多様な人々の生活を支える場(社会活動の場)としての役割が重要になってきます。

3つめは、商店街のステークホルダーである従業員、取引先である生産者などに配慮することです。商店街で働くことが楽しい、働きやすい、働きがいがあるという商店街であることで、商店街の魅力が高まり、賑わいが生まれ、そのことで従業員も歓びを高めるという相互作用が生まれます。

消費者と生産者を結びつける「地産地消」で、SDGsに貢献する

商店街の強みを活かし、郊外店と差別化していく方策の1つとして、地産地消の商品を重点的に扱うことが考えられます。地産地消の商品は少量多品目、規格外品などであることから、量販店の流通に乗りにくいからです。
エシカル消費のひとつの形といえる地産地消の意義は、「地産地消の商品を扱うことで、消費者と生産者を結びつける」ことにあるといえます。

消費者は流通コストの負担を軽減して価値ある生産物を得ることができるだけなく、生産者のことを知り、地域や食を学び、愛着や安心感を得ていくことができます。また、生産者は流通コストを削減するだけなく、消費者への啓発と、高付加価値だけど大量流通にのりにくい有機野菜などの商品の販売が可能となります。加えて消費者の顔が見えることで、生産者はやりがいや連帯感を得ることができるでしょう。
ここで商店街としては、モノを売るだけでなく、消費者と生産者の関係と両者の歓びを高めていくために都市・農山村交流のイベントやツアーを開催するような取り組みが期待されます。

【地産地消の意義】

  1. 地産地消費とは、地域で生産された農産物を地域で消費しようとする活動を通じて、農業者と消費者を結び付ける取組みである。
  2. 消費者が、生産者と『顔が見え、話ができる』関係で地域の農産物・食品を購入する機会を提供、地域の農業と関連産業の活性化を図る。
  3. 産地から消費までの距離は、輸送コストや鮮度、地場農産物としてアピールする商品力、子どもが農業や農産物に親近感を感じる教育力、さらには地域内の物質循環といった観点から見て、近ければ近いほど有利である。
  4. 消費者と産地の物理的距離の短さは、両者の心理的な距離の短さにもなり、対面コミュニケーション効果もあって、消費者の「地場農産物」への愛着心や安心感が深まる。

出典)農林水産省「地産地消推進検討会中間とりまとめ」2005年より作成

商店街の持つ「場所性」「場所愛」に注目すべき理由

これまでもお話ししてきた通り、商店街の持つ社会的価値として「場所性」があります。「場所性」とは、場所と人との結びつきであり、それによって形成された場所の固有性や価値を意味する言葉です。

商店街に繰り返し足を運ぶ人は、そこでの子どもの頃や家族や友人、恋人と過ごした記憶をその場所に重ね、その場所に愛着を持っていることでしょう。たとえば、私は母親の実家がある林業で栄えた街の商店街を思い出します。そこには玩具店、時計店や魚屋、本屋などがあり、田舎育ちの私にとって都会的なものにふれる場所でした。今は寂れて街の体をなしていませんが、その場所は文化的で刺激的な場所として記憶に刻まれています。
こうした商店街の場所性を大事にし、継承し、更新していくことで、商店街を訪れる人の豊かさや幸福感を高めることができます。商店街は人のウエルビーイングと一体にある「場所」として重要だといえます。

商店街の場所性を高めるためには、五感を刺激するように景観を整備したり、風情を演出したりという町並みの整備が重要ですが、それとともに居心地のよい居場所となるように、人々の生活に寄り添い、人と人とふれあいを積み重ねていくことが大切だと考えます。

地理学者のイーフー・トゥアンは「トポフィリア」という考え方を提示しました。トポとは場所、フィリアとは愛のことで、日本語に直訳すれば場所愛です。トポフィリアは情緒的な面も含めて、場所と人の結びつきによって生まれます。商店街は、そこにトポフィリアを持つ人々をどれだけ増やしていけるか、そのために何をしていくべきなのか、深く考えてみたいものです。
新型コロナ禍で、オンラインでの会合やデリバリーが中心となっており、それがこれからも新たな生活様式として定着する可能性があります。しかしそうした中だからこそ、リアルな場所性や場所愛が重要になってくると考えられます。

SDGsに上手に取り組んだ、北九州の「魚町銀天街」

SDGs商店街として頭角を現しているのが、北九州市の小倉駅前にある「魚町銀天街」です。ここではSDGsをテーマにした商店街振興を図っており、すでにSDGsに関するアワードをいくつか受賞しています。

この取り組みの仕掛け人で発起人でもある森川妙さん(NPO法人SDGsSpiral 代表)は、魚町銀天街の役員の一人として活動してきました。2018年に商店街のアーケードに設置された太陽光パネル(呼称:エコルーフ)に気づき、そこから商店街でSDGsに関する勉強会を始めました。
エコルーフ以外にも、ホームレス支援、フードロス対策、地産地消、ユニバーサルデザイン、まちゼミでの教育などの取り組みがあると知り、それらをSDGsのゴールと紐付け、PRする映像を作成しました。

これにより内外から注目を集め、SDGsをテーマにした商店街でのイベントを毎月1回、開催してきています。さらに、SDGsを学んだ商店主がフェアトレード商品を扱うようになるなど、新たな取り組みが生まれてきています。
この取り組みは、SDGsを使って商店街の既存の取り組みの価値確認を行ない、PR動画や外部からの表彰により光を当てることで自己組織化を進めています。SDGsを地域活性化の道具として、上手く使った事例といえます。

魚町銀天街の風景(提供:魚町商店街振興組合)

誰も取り残されない商店街を目指す「ありがとうファーム」

筆者が暮らす岡山市には、駅前の商業拠点に対して、城の近くにある伝統的な商店街「表町商店街」があります。空き店舗が増えるなか、表町商店街で店舗を拡大してきた事業所が「ありがとうファーム」です。設立6年目の現在、障がい者90人・職員20人が表町商店街内に10店舗のテナントを出しています。

ありがとうファームは、障がい者をもった方の就労を支援する「就労継続支援A型事業所」ですが、障がい者と健常者が共に生きるという発想ではなく、障がい者が社会を変えていこうという理念をもって活動を広げています(表2)。

創業者の木庭寛樹さんは著書の中で「表町商店街の南エリアあたりを『多様性文化があって、アートがあって、音楽があって、笑顔があって、とても落ち着く平和な場所だよね』と市民の皆さんから言われて、多くの方がありがとうファームに遊びにきてくれているようになれたらよいなあ」と書いています。そのために「『だれひとり、取り残さない』という理念を大事にするSDGs商店街を目指したい」としています。

ありがとうファームの設立当初は、SDGsという言葉を使ってはいませんでしたが、SDGsの理念やテーマを取り入れることで発信力を高め、内外とのつながりを強め、企業などとのコラボレーションによる新たな取り組みが創造されている事例です。

表2 ありがとうファームの主な事業

ありがとうファーム ギャラリー&カフェ (撮影者 木庭寛樹)

ハブラボキッズ 障がい者と子どもの触れ合い(撮影者 深谷千草)

今回は、商店街は構造的に地域・環境・社会にとって重要な存在であり、その特性を活かすことが商店街の生命線であることを示しました。また、SDGsを上手く使うコーディネイターが商店街で動きだすことで、商店街の価値をさらに高める活性化の道が生まれてきていることを紹介しました。
次回は、工務店や商店街にとともに、地域SDGsにとって重要な公共交通をとりあげます。

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SDGsの基礎知識