SDGs未来都市と地域循環共生圏を考える|SDGsと地域活性化【第6回】

2021年10月07日

SDGsを達成するには、全国展開する企業や、住民が多く存在する大都市圏だけでなく、すべての地域で積極的に取り組むことが必要です。特に地域におけるSDGsへの取り組みは、その地域の活性化につながるものであることが重要になるでしょう。
山陽学園大学・地域マネジメント学部で環境政策を専門とする白井信雄教授が、SDGsを活かしてどのように地域の活性化を図っていくべきかを解説します。


今回取り上げるテーマは「SDGs未来都市」「地域循環共生圏」ですが、「SDGs未来都市」は知っていても「地域循環共生圏」は知らない人が多いかもしれません。
前者は内閣府、後者は環境省が所管し、両者とも持続可能な地域づくりを進める国の事業で、開始時期も2018年と同じです。
目指す方向性も重なり、(1)カーボンゼロ社会(脱炭素)を地域で実現する (2)環境面での取り組みを中心とする (3)人口減少・少子高齢化・低成長時代の地方創生を図る (4)地域特性に応じたボトムアップの取り組みを進めることで国全体の課題解決につなげる、といった考え方も共通します。
地域循環共生圏のことを、「ローカルSDGs」と表することもあります。したがって、SDGs未来都市と地域循環共生圏は、所管官庁による重点の置き方の濃淡や事業創出に至る経緯による特徴があるものの、まったく同じ方向を目指すものといえるでしょう。
このような、持続可能な地域づくりに係る事業がどのように進んできたか、少し時代を遡ってみます。

第Ⅰ期:地域システムとしての環境問題の解決、エコシティ・エコポリス・エコタウン

SDGs未来都市と地域循環共生圏に至る伏線となるような、持続可能な地域づくりに係る事業は1980年代からありました。日本における関連事業を図1にまとめてみましたが、これらの事業の変遷を第1期(1980・1990年代)、第2期(2000・2010年代)、第3期(2020年代)に分け(図1)、大づかみにして整理してみましょう。

図1SDGs未来都市・地域循環共生圏とこれまでの類似事業の関係

図1 SDGs未来都市・地域循環共生圏とこれまでの類似事業の関係

第1期は、地域の土地利用や産業連関等の構造・システムにより、環境問題の解決やよりよい環境を創るために、地域ぐるみの取り組みを進めることに踏み出した段階です。
この時期は、特定発生源が原因となる公害問題への対策が一巡し、不特定多数を発生源とする都市生活公害の解決は政策課題となりました。このため、発生源対策とともに、都市の構造や循環システムをつくるという地域ぐるみの取り組みが必要とされました。
この段階で、建設省で進められたのが、「エコシティ」です。「エコシティ」は都市の上物が改善対象であり、快適な居住を目標の中心としたものでした。「エコシティ」事業の類型としては、省エネ・リサイクル都市、水循環都市、都市気候緩和・自然共生型都市の3つが示されました。
環境庁(当時)の「エコポリス」は、ドイツからの逆輸入だとされます。1980年代に日本の通商産業省によって進められた「テクノポリス」のアンチテーゼとして、ドイツで提唱された「エコポリス」を、環境庁が取り入れたという訳です。日本のエコポリスは残念ながら2地域で計画を作成するだけでしたが、神戸の「エコポリス計画」では、空間デザインにおける環境配慮も踏まえつつ、環境配慮型のライフスタイルにかなりの重点が置かれました。

経済産業省の「エコタウン」は1994年に国連が提唱した、資源の相互利用を通じてあらゆる廃棄物をゼロにすることを目指す「ゼロエミッション構想」に基づくものです。工業団地における廃棄物処理・リサイクル事業を行う地域がエコタウンに指定されました。

第Ⅱ期:環境と経済・社会の統合的発展へのシフト、環境モデル都市のスタート

公害対策の時代には、環境と経済はどちらたたずのトレードオフの関係にありました。しかし、2000年代以降は集中・大型投資で気候変動防止と景気浮揚の両立を目指す「グリーン・ニューディール政策」が米国のバラク・オバマ大統領によって打ち出されました。
これは環境と経済を両立させ、それ以上に環境と経済の相乗効果による発展(環境と経済の統合的発展)を図ろうという考え方によるものです。日本でも2007年に「21世紀環境立国戦略」を策定し、省エネルギー、再生可能エネルギー等の環境・エネルギー技術に磨きをかけ、創造的な技術革新と新たなビジネスモデルを創出するという方向性を打ち出しました。

このような時代に先駆けて、2004年~2008年にかけて、環境省により「環境と経済の好循環のまちモデル事業」が実施されました。この事業の目的は、「地域発の創意工夫と幅広い主体の参加によって環境と経済の好循環を生み出すまちづくりに取り組んでいるモデル地域に対し、環境保全をバネにしたまちづくりの成功例を広く発信し、環境と経済の好循環を生み出していく」ことでした。この事業では、環境保全効果、経済活性化効果、その他の効果の3側面の効果測定がなされました。その他の効果の例として、生活の豊かさ、高齢者等の社会参加、人材育成、地域イメージ等の向上効果があります。環境と経済だけでない面を「その他」として視野に入れていたわけです。

2008年から地域指定が開始された「環境モデル都市」は、「日本を低炭素社会に転換していくため、温室効果ガスの大幅削減など高い目標を掲げて先駆的な取組にチャレンジする都市を選定・支援」するものです。気候変動対策が主眼であるわけですが、それと持続的発展を両立するという方針が明確に示されています。

2011年から開始された「環境未来都市」は、環境モデル都市からさらに選出された都市です。同都市では、気候変動対策ばかりを主眼とせず、「環境・超高齢化対応等に向けた、人間中心の新たな価値を創造する都市」を基本コンセプトとしています。また、「環境、社会、経済の3側面がバランスよく高いレベルで成り立つ」という目標を明確にしています。

第Ⅲ期:SDGsの取り込み、循環と共生の統合

ここまで記したように、第Ⅰ期のモデル地域は環境面の問題を地域の構造やシステム、ライフスタイルの面から解決しようとするものでした。いわゆる"環境問題解決への構造的アプローチ"だといえます。ハードウエア(技術)、ソフトウエア(制度)、ヒューマンウエア(人の意識やつながり)を総合的に組み合わせた、究極のポリシーミックスです。
これに対して、第Ⅱ期のモデル地域は環境面以外の経済面・社会面を統合的に発展させようとするもので、"環境・経済・社会の統合的アプローチ"だといえます。これはグリーン・ニューディール政策の流れを組んで、環境と経済の統合的発展を地域で具現化するものですが、そのモデル事業では、環境と経済以外の側面、すなわち社会面が重視され、位置づけられてきました。地域では経済の衰退ともに、少子高齢化や人口減少等の社会的問題が顕著であり、それらの対応を優先すべき状況にあることが反映されました。

こうした流れの延長上で、登場したのが「SDGs未来都市」です。「SDGs未来都市」は、SDGsの台頭により、「環境未来都市」の衣替えをしたものです。
「環境未来都市」と「SDGs未来都市」の考え方はとても近いものですが、全く同じというわけでもありません。「環境未来都市」が「SDGs未来都市」となって良かったのは、"環境・経済・社会の統合的アプローチ"において曖昧になりがちな社会面での取り組み課題が、SDGsを持ち込むことにより明確になった点です。健康・福祉、教育、防災、ジェンダー平等、格差是正など、社会面の取り組み課題は多岐にわたります。たまたま気になることを断片的にとりあげることがないように、SDGsのゴールは検討すべき範囲を明確にしてくれています。

一方、「地域循環共生圏」は、環境省がそれまで示したきた「地域循環圏」「地域共生圏」の考え方を統合するものとして、2018年に登場しました。「循環」とは廃棄物のリサイクルや二酸化炭素等の環境負荷の削減という環境政策の分野であり、「共生」とは自然保護・保全に関する政策分野です。それぞれの分野において、地域資源の活用や環境への取り組みを通じた地域活性化を図ることが目指されてきましたが、その2分野を統合して、「地域循環共生圏」として、強く打ち出したわけです。
この地域循環共生圏の実現イメージを示した図は、"環境曼荼羅"と呼ばれます。"環境曼荼羅"には、地域づくりに盛り込むことが考えられる多様な要素が盛り込まれており、関連する分野を包含し、総合的な取り組みである地域づくりに則して、環境行政が総合行政を目指す方針を示したといえます。

以上のように、「SDGs未来都市」と「地域循環共生圏」は異なる経緯で策定されたものですが、どちらも"環境問題解決への構造的アプローチ"、"環境・経済・社会の統合的アプローチ"という政策思想を反映して、より包括的であろうと拡張、修正されてきたもので、各々が歩みを進め、改良されてきた到達点として、同様の内容であることは必然だといえます。ただ「地域循環共生圏」は、地域ではなく、圏域の取り組みであること、すなわち都市と農山村の連携による圏域として取り組むことに特徴があります。「SDGs未来都市」は都道府県が指定される場合もありますが、都市農山村の連携を強調しているわけではありません。

スマート・コミュニティとの統合

SDGs未来都市あるいは地域循環共生圏には、高度情報通信技術の進展とそれを活かす地域づくりの側面が盛り込まれています。1980年代から構想されていた「情報化未来都市」を社会実験として具現化したといえるのが、2010年から始まった「スマートコミュニティ」で、再生可能エネルギーの普及拡大を契機に検討されました。
住宅用太陽光発電等が急ピッチで進んだ場合、電力の需要側で発電することになり、電流の流れがスムースでなくなる、いわゆる電力の「逆潮流」が起こる可能性が危惧されました。このため、電力系統の安定化とそれに伴う電力供給あるいは需要制御の効率化を図るために「スマートコミュニティ」の導入実験が進められたのです。ここでは再生可能エネルギーによる電力の需給調整を行なうために情報通信技術を用いるのですが、これが次のような多様な方向への展開へ模索されました。

  • ガス、熱、あるいは水等も扱い、エネルギー・資源の総合管理システムへと発展させる
  • 家庭での省エネ分でポイントが貯まり、そのポイントで買い物ができるようにするなど、社会経済システムと組み合わせる。
  • 災害警報や遠隔医療、高齢者の安否確認、遠隔教育などに使えるようにする。

その後、インターネットを媒介して様々な情報が「もの」とつながるIoTが飛躍的な広がりを見せてきました。莫大なデータから新たな知識が創出され、ビッグデータの利用も進み、人工知能(AI)やロボットの開発も進んでいます。こうした「超スマート社会」の実現(Society 5.0)を目指す要素が、「SDGs未来都市」や「地域循環共生圏」に組み込まれています。

環境・経済・社会のシナジー効果

「SDGs未来都市」「地域循環共生圏」の基本は、環境・経済・社会の取り組みのシナジー効果を生むために、複数の事業を組み合わせて統合的に実施していくことにあります。図3は、全国各地のSDGs未来都市の計画から、環境面、経済面、社会面の3つの側面からの取り組み内容と相互のシナジー効果を抽出し、大まかなイメージとしてまとめたものです。シナジー効果の内容をすべて書き込むと複雑になるため、環境から経済、社会から経済への効果だけを図に示しています。

図2SDGs未来都市にみる環境・経済・社会のシナジー(経済面を中心として)

図2 SDGs未来都市にみる環境・経済・社会のシナジー(経済面を中心として)

3つの側面の取り組みには、SDGsの17のゴールのいずれかを対応づけることができます。重要なのは社会面のゴールがSDGs未来都市でどのように扱われているかですが、「ゴール1 貧困をなくそう」、「ジェンダー平等を実現しよう」、「10 人や国の不平等をなくそう」といった社会面、特に社会的包摂に直接関連する取り組みが弱い傾向にあります。

ジェンダーの視点を中核にする

ここからは、SDGs未来都市の取り組みについて考えていきましょう。
前項で指摘した、SDGs未来都市で社会的包摂を重視するならば、身体障がい者の社会参加といった制約者への配慮、また不平等や格差、ジェンダーの問題を中心に扱う取り組みがさらに重点となるべきです。高齢者の福祉も重要なことですが、社会面の取り組みにおいて配慮すべき弱者の視点に多様性がほしいところです。
そこで注目したいのが、2019年にSDGs未来都市に選定された福井県鯖江市の取り組みです。同市では、「女性が輝くめがねのまちさばえ~女性のエンパワーメントが地域をエンパワーメントする~」をテーマに申請、採択を得ています。
同市がコンセプトにおいて女性を中心に添えた理由は3つあります。1つは、鯖江市はメガネとともに、漆器、繊維が三大地域産業であり、これらの産業を女性が支えてきたということです。共稼ぎ率、女性の就労率は全国トップクラスとなっています。
2つめは、人口減少対策を考えたとき、特に大学進学時の女性の県外流出が大きく、女性のUターン促進が地域課題となっていることです。このため、女性の就職や子育ての環境整備が重要となっています。
3つめは、2014年から女子高校生を巻き込んだまちづくりが進められてきたことです。「鯖江市役所JK課」と名付けられたプロジェクトでは、「ピカピカプラン」と称したゲーム感覚でのごみひろい企画等を進めています。また、「鯖江市OC課」(OC:おばちゃん)、「JKOG課」(JKのOG)も発足しました。

JK課ピカピカプラン2018

JK課ピカピカプラン2018(写真提供・鯖江市)

OCサミット2020

OCサミット2020 (写真提供・鯖江市)

これまでの地域づくりは高齢の男性が主役でしたが、未来を拓く地域づくりでは多様性が必要です。女性、若い世代、障がい者などが中心となるまちづくりが期待されます。

統合的発展、協働のためのコーディネイト

SDGsへの取り組みでは、縦割りや分断をやめ、統合や協働を進めることが重要です。活動分野をつなぐ、企業と市民をつなぐ、異業種の企業をつなぐ、地域間をつなぐなどにより、(競走ではなく)共創が生まれます。
統合や協働を重視した仕組みづくりを重視しているSDGs未来都市としては、北海道下川町の「SDGsパートナーシップセンター」、横浜市の「ヨコハマSDGsデザインセンター」、神奈川県鎌倉市の「リビングラボ・市民活動推進条例」、沖縄県恩納町の「サステイナビリティハブ」等が注目されていますが、この中から、横浜市のヨコハマSDGsデザインセンターを紹介しましょう。
同センターは、横浜市内の企業、NPO、地域住民等が持つSDGsに関するシーズとニーズをマッチングさせ、環境・経済・社会の3側面に同時に解決するアクションを生み出す仕組みとして設置されました。同センターによるアクションの実践例を表に示してみました。

表1 横浜市のヨコハマSDGsデザインセンターが手掛けてきたプロジェクト

表1 横浜市のヨコハマSDGsデザインセンターが手掛けてきたプロジェクト

ここには専門分野の異なるコーディネイターが所属していますが、SDGs未来都市におけるコーディネイト機能が必要な理由として、3つのポイントがあげられます。
1つは、行政、企業、NPO、地域住民等は異なる行動原理を持ち、活動の速度も異なるため、いずれの立場も理解しているコーディネイターがそのずれを調整する必要があります(関係者の調整役)。
2つめは、環境・経済・社会の3側面の同時実現を図るためにはそれを行動目標とするコーディネイターが、俯瞰的な視野をもち、3側面の同時実現を図る方向に関係者への提案や支援を行う必要があります(理想の提案役)。
3つめは、SDGsの理念や内容をかみ砕き、中小企業や一般市民に広く伝える役割です。特定の関心のある企業等だけがSDGsに取り組めばよいわけではなく、中小企業等も含めて、SDGsの取り組みが広がっていくように、普及啓発、教育、情報発信が必要となります(一般化への普及役)。
SDGs未来都市は、特定のプロジェクトが実現すれば完了ではありません。地域にある多くの課題の解決に向け、多様な主体が学び、関係を高め、共創を図るというダイナミズムを形成することが、SDGs未来都市の理想です。そのためには様々な政策分野と手法を統合し、地域課題の同時解決や社会的包摂に向けて進化し続けることが必要です。したがって、そのダイナミズムの形成を推進する仕組み、場、コーディネイター人材の整備が不可欠なのです。


これまで6回にわたって「SDGsと地域活性化」について解説してきましたが、次回からは基本テーマは同じとしつつも、「より大胆な変革」にこだわりながらお伝えします。次回は「コンパクトシティ」についてです。

記事カテゴリー
SDGsの基礎知識