地域版グリーン・リカバリーにどう取り組むか|SDGsと地域活性化【第2部 第3回】

2022年01月26日

SDGsを達成するには、全国展開する企業や、住民が多く存在する大都市圏だけでなく、すべての地域で積極的に取り組むことが必要です。特に地域におけるSDGsへの取り組みは、その地域の活性化につながるものであることが重要になるでしょう。
山陽学園大学・地域マネジメント学部で環境政策を専門とする白井信雄教授が、SDGsを活かしてどのように地域の活性化を図っていくべきかを解説します。


前回、前々回と都市や国土の構造の変革についてお伝えしました。今回は産業構造の変革に関連して、「グリーン・リカバリー」をとりあげます。新型コロナという大災害の後の復興策である「グリーン・リカバリー」とは何か、これまでの政策とどこが違うのか。それはSDGsとどのように関連するのか、地域では「グリーン・リカバリー」という政策の動きをどのように活用したらいいのか。これらについて解説していきます。

グリーン成長、グリーン・ニューディール、そしてグリーン・リカバリー

「グリーン・リカバリー」に先行する言葉(考え方)として、「グリーン成長」、「グリーン・ニューディール」があります。これらは共通する点もありますが、時代や状況を反映して、扱う範囲や重点の置き方が異なります。
「グリーン成長」は、経済協力開発機構(OECD)が2011年に公表した報告書の中で、「自然資産が今後も我々の健全で幸福な生活のよりどころとなる資源と環境サービスを提供し続けるようにしつつ、経済成長および開発を促進していくこと」と定義されています。環境保全と経済成長は相互依存の関係にあり、どちらも損なわれることがないように、両立をさせていくという考え方です。具体的な方法は生産性の向上(省資源、省エネルギー)と環境分野での技術革新と市場の創出が中心となっています。

「グリーン・ニューディール」は、2008年9月のリーマン・ブラザーズの突然の倒産に端を発した世界同時不況(リーマン・ショック)に対する対策として提唱されました。経済危機と環境危機(特に気候危機)を同時に解決するための政策であり、「緑の景気対策」とも言われます。2008年10月には国連環境計画(UNEP)が「グローバル・グリーン・ニューディール」を発表、2009年1月にアメリカのオバマ大統領が就任演説のなかで「グリーン・ニューディール」の推進を宣言しました。

そもそも、ニューディール政策は1929年の世界大恐慌の際にルーズベルト大統領がとった政策です。公共投資と社会保障を政府が積極的に行うというニューディール政策の手法を、環境分野で用いることが「グリーン・ニューディール」政策です。「グリーン成長」の流れを、不況時の経済復興のために、集中的・即効的に強めようとする政策ともいえます。
そして、「グリーン・リカバリー」は、新型コロナ禍からの経済復興策として期待されている、「グリーン・ニューディール政策」の第2弾です。リーマン・ショック後の第1弾「グリーン・ニューディール政策」から10年が経過しました。世界的な金融恐慌とパンデミックでの活動停止とは経済のダメージの受け方が違うだけでなく、DXの進展、気候変動対策の緊急性、社会的包摂等の政策の熟度も違います。必然的に、第1弾と第2弾の政策は、その範囲と重点が異なるものとなっています。

グリーン・リカバリーで成長を促す環境ビジネスの類型

「グリーン・ニューディール」にせよ、「グリーン・リカバリー」にせよ、共通することは「気候変動への対策や環境保全等に関するグリーンなビジネス(環境ビジネス)における技術革新と成長を、経済全体の牽引役にする」ことです。
ただし、環境ビジネスといっても下の表1に示すように異なるタイプのものが存在します。「グリーン・リカバリー」では、どのタイプの環境ビジネスの成長を図ろうとするのでしょうか。

今日の環境問題の重点が気候変動対策(緩和策)にあることを考えると、重点的なビジネスは、再生可能エネルギー、省エネルギーにかかる設備や製品の製造・販売に関するものであることは明らかです。気候変動対策では、2050年までにカーボンゼロを実現することを考えると、ゆっくりと対策をとっている猶予はありません。そのためには、明確に二酸化炭素の排出削減効果を計算できる対策として、再生可能エネルギー、省エネルギーの導入を重視せざるを得ません。

表1 環境ビジネスの3類型

出典)環境省資料等より筆者作成

しかし、「グリーン・リカバリー」で重視する環境ビジネスの選択は、復興後のその先の社会の選択にもかかわる重要な検討課題です。再生可能エネルギー、省エネルギーが重視されることは当然としても、表1に示す「タイプ3:構造的に環境配慮となる製品・サービス」を重点対象に含めるか否かが重要な選択肢になってきます。
タイプ3のビジネスの特徴は、「直接的に二酸化炭素の排出削減を計算しにくいが、社会や経済の構造を脱炭素型に変えていく基盤となる産業」だということです。本連載の1回目に示した地域資源である木材を地域内で循環させる工務店、2回目のコンパクトな市街地の拠点となる中心商店街、3回目の地域内のグリーンな移動を支える地域公共交通などはこのタイプ3に含まれます。
大企業による経済の牽引を期待する国の政策においては、タイプ3のビジネスを支援する視点が弱いように見えます。一方、地域活性化を図りたい地域にとってはタイプ3のビジネスこそ、「グリーン・リカバリー」の重点対象としたいところです。

ポスト・エコロジー的近代化を視野に入れる

「エコロジー的近代化」という考え方があります。これは、1990年代のドイツの環境・エネルギー政策の基礎となった思想で、2000年代以降の世界の「グリーン・ニューディール」政策にもつながっています。「エコロジー的近代化」は、近代化(工業化と都市化)による環境問題を、環境政策による市場の枠組みづくり、環境民主主義、環境技術の革新によって解決としようとするものです。

しかし、人間中心主義的なあり方をより深く反省し、経済成長下で取り残される弱者の視点を強くもったとき、「エコロジー的近代化」にも限界があり、それとは別の路線が異なる、「ポスト・エコロジー的近代化」への転換を検討することが必要になります。
「ポスト・エコロジー的近代化」を進めるうえで重要なことは、近代化(工業化と都市化)の可能な範囲での改良・改善にとどまらずに、工業ではなく農業などの第一次産業、都市ではなく農山村などが主役となる社会をつくることです。また、中央集権ではなく地域主権、行政主導ではなく市民主導、グローバル企業ではなく地域企業等が持続可能な発展の担い手となることも、「ポスト・エコロジー的近代化」路線において重要な側面です。
表1との対応でいえば、タイプ1とタイプ2のビジネスは「エコロジー的近代化」を、タイプ3のビジネスが「ポスト・エコロジー的近代化」を牽引します。

「グリーン・リカバリー」においては、「エコロジー的近代化」の再強化が中心となっていますが、それだけではなく「ポスト・エコロジー的近代化」を重視する方向に踏み出していくことも検討すべきだと考えられます。一時的な経済復興のその先にある、目指すべき成熟社会を視野に入れるべきだからです。

表2 近代化の進展段階

出典)ウルリッヒ・ベック等をもとに筆者作成

地域版グリーン・リカバリーとSDGs

本連載のテーマは、「SDGsと地域活性化」です。タイプ3の環境ビジネスを重視し、「ポスト・エコロジー的近代化」を目指す方向で「地域版グリーン・リカバリー」の方向性を整理し、それとSDGsを関連づけてみました(表3)。

表3 地域版グリーン・リカバリーの方向性(例)とSDGsとの関連

出典)国土交通省、環境省資料等を参考にして筆者作成

このように具体化すると、「地域版グリーン・リカバリー」の方向はこれまで進められてきた環境モデル都市やSDGs未来都市の実践と変わらないことがわかります。違うことがあるとすれば、数十年かけてできるところから始めていくというペースを改め、未来を先取りする事業の実現を急ぎ、地域活性化の効果が即効的に現れるようすること、そのために行政による公共投資を短期間に集中させるということです。

ただし、スピード感を重視するあまり外部の事業者に依存しすぎたり、地域内の住民と事業者の学習プロセスのデザインに欠けてしまうと(これまでのグリーン・ニューディール政策がそうであったように)、一時的な公共投資の効果はあっても「箱物はできたが稼働せず、活用されず」という結果になってしまう恐れがあります。

また今日のグリーン・リカバリーでは、新型コロナの影響による格差拡大が問題になっています。気候変動対策においては格差是正、公平の視点が重要になっています。
格差是正や弱者の視点を重視して、誰一人取り残さない、むしろ弱い立場こそが最初に活性化できるように、地域版グリーン・リカバリーをデザインすることが望まれます。

地域新電力会社による持続可能なまちづくり:たんたんエナジー

国の政策による「地域版グリーン・リカバリー」は、脱炭素への投資を中心に行われます。その投資を地域活性化につなげる重要な役割を果たす事業体が地域新電力会社です。地域新電力会社は地方自治体や地元企業が出資して、再生可能エネルギーの地産地消を通じた地域づくりの推進役として設立されています。

京都府福知山市に、2018年12月に設立された「たんたんエナジー株式会社」を紹介します。この会社は立命館大学のソーシャル・インパクトファンドと個人出資を中心に設立されました。気候変動の普及啓発機関(京都府地球温暖化防止活動推進センター)、環境NPO(気候ネットワーク)、大学(龍谷大学)の関係者が取締役となっている点で、地域新電力会社のなかでは異色の存在です。
同社は、気候変動対策と地域活性化を両立させようとするコミュニティ・ビジネスとしての特徴を色濃く持っています。「地域のエネルギーをつなぎ、同時に地域の人をつなぐハブとしての機能」を持つことで、地域の主体が、地域資源である再生可能エネルギーを、地域のために活用する仕組みを作ろうとしています。同社の最近の事業を表4に示します。

表4 たんたんエナジーの最近の取り組み

出典)たんたんエナジー資料より筆者作成

同社の事業は、地域新電力が「地域版グリーン・リカバリー」の推進役となる可能性を示してくれています。(1)再生可能エネルギーを使用することによる地域の特産品や地域資源の価値の向上(ブランディング)、(2)再生可能エネルギー関連産業の収益の地域の課題解決への還元、(3)地域の行政・市民・事業所をつなぐことによる社会関係資本の形成、(4)地域の工務店や地域公共交通、地域商店街との協働による地域再生、(5)地域での気候変動教育の推進等など、それらを総合的にコーディネイトする事業体としてのさらなる活躍が期待されます。

市民出資によるオンサイトPPA(第三者所有)事業が
実施される予定の福知山市三段池公園総合体育館

今回は、産業構造の転換に関連して、「グリーン・リカバリー」を取り上げました。次回は、市場経済の変革の可能性を持つ「地域通貨・エコポイント」をとりあげます。

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SDGsの基礎知識