2022年02月18日
SDGsへ取り組む際の、より具体的な施策方針として注目されているのが「SDGsアクションプラン」です。このアクションプランは、2030年に向けて更新されたものが毎年公表されており、現時点で取り組むべき課題が示されています。
ここでは、SDGsアクションプランの誕生した経緯と基本的な知識について、そして過去のアクションプランと比較しながら新たに加えられた内容について解説します。
「SDGsアクションプラン」は、SDGsを推進するための具体的な施策を日本政府がとりまとめたもので、何を優先して取り組むかが示されています。
SDGs アクションプランは、SDGs 実施指針に基づき、2030 年までに目標を達成するために、「優先課題 8 分野」において政府が行う具体的な施策やその予算額を整理し、各事業の実施による SDGs への貢献を「見える化」することを目的として策定するものである。(SDGs アクションプラン 2022/「SDGsアクションプラン2022」の重点事項)
SDGsアクションプランはSDGs推進本部会合にて決定され、2018年版が公表された2017年から毎年、内容が更新されています。昨年の12月には「SDGsアクションプラン2022」が公表されました。
この最新のSDGsアクションプランを理解するために、まずはその経緯を見ていきましょう。
2015年9月、国連サミットでSDGsが採択されました。2001年に策定された「ミレニアム開発目標(MDGs)」の後継として採択された、世界共通の目標です。SDGsは、17のゴールと169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(Leave no one behind)」ことを誓うものです。
2016年5月、日本はSDGsの実施に向け、総理大臣を本部長、官房長官・外務大臣を副本部長、そして全閣僚を構成員とする「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」を設置しました。同年12月、この推進本部が日本のSDGs達成のために初めて策定した指針が「SDGs実施指針」です。
「SDGs実施指針」は、SDGsを達成するための中長期的な国家戦略として位置づけられ、達成に向け優先すべき課題が8つ公表されています。この8つの優先課題に対する具体策として策定されたのが、SDGsアクションプランです。
そして最新の「SDGsアクションプラン2022」では、8つの優先課題に対する取り組みが「2030 アジェンダ」に掲げられている 5つのP、People、Planet、Prosperity、Peace、 Partnershipに基づくものであるとされています。
5つのPは、国連がSDGsを採択した文書「2030アジェンダ」に掲げられています。
この5つのPは、私たちが目指す持続可能な世界を表すキーワードとなっています。SDGsの17のゴールも、この5つのPに分類することができるようになっています。
「2030アジェンダ」についても触れておきましょう。2015年9月に国連本部で開催された「国連持続可能な開発サミット」内で、全会一致によって採択されたのが「2030アジェンダ」です。「2030アジェンダ」は2030年までに成し遂げるべき行動指針で、その中核をなすのがSDGsです。
「SDGsアクションプラン2022」では、日本が優先課題と位置づけた8項目は、5つのPと関連させて次のように提示されています。
People 人間:感染症対策と未来の基盤づくり
(1)あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
(2)健康・長寿の達成
Prosperity 繁栄:成長と分配の好循環
(3)成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
Planet 地球:地球の未来への貢献
(4)持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
(5)省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
(6)生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
Peace 平和:普遍的価値の遵守
(7) 平和と安全・安心社会の実現
Partnership パートナーシップ:絆の力を呼び起こす
(8) SDGs 実施推進の体制と手段
「8つの優先課題」は、SDGsのゴールの中から、日本として特に注力すべきものを国内外へ示すため、日本独自の文脈で再構成したものです。
2021年までのアクションプラン
過去のアクションプランを見てみると、2018年から2020年は国内実施・国際協力の両面への方向性として
①Society5.0の推進
②地方創生
③次世代・女性
を3本柱とする日本の「SDGsモデル」が示されていました。
そして2021年のアクションプランでは、新型コロナウイルス感染症の拡大によるSDGs達成に向けた取り組みの遅れへの懸念から、『よりよい復興』に向けて取り組む必要があるとして、「感染症対策」が重点事項に加えられています。
「SDGsアクションプラン2021」 (2021年の重点事項)
Ⅰ.感染症対策と次なる危機への備え
Ⅱ.よりよい復興に向けたビジネスとイノベーションを通じた成長戦略
Ⅲ.SDGsを原動力とした地方創生、経済と環境の好循環の創出
Ⅳ.一人ひとりの可能性の発揮と絆の強化を通じた行動の加速
※Ⅱ、Ⅲ、Ⅳは、「SDGsモデル」①②③をアップデートしたもの
2022年のアクションプランの特徴
最新のアクションプランでは、「5つのP」に基づいて「8つの優先課題」が整理されていることが特徴です。これまで8つの優先事項は単独で示されていましたが、関連づけて文章化されたのは初めてです。
「SDGsアクションプラン2022」冒頭の文章では、SDGsについて、「経済・社会・環境問題に対して包括的に取り組むSDGsは、我々が直面する未曾有の危機を乗り越え、世界をより良い未来に導くための重要な羅針盤」と記しています。
「2030アジェンダ」が掲げる「5つのP」と「8つの優先課題」が関連付けられることで、日本独自の施策が世界共通の課題と不可分であることを示したと言えるでしょう。
「アクションプラン 2022」冒頭の文章では目標達成に向けた姿勢として、「2030年までの目標達成には、各国が、前例にとらわれない戦略を立てて、団結して加速しなくてはならない」と表現しています。
2021年版では、新型コロナウィルスの感染拡大によって、「SDGs達成に向けた取り組みの遅れが深刻に懸念」されており、「コロナ禍に打ち勝つだけでなく「よりよい復興」に向けて取り組む必要があり、国際社会の連帯が不可欠」とあります。
「取り組む必要があり、連帯が不可欠」から「前例にとらわれない戦略で、加速しなくてはならない」となり、強い決意がうかがえます。
また「アクションプラン 2022」冒頭の文章では、「2022年はSDGの達成に向けて国内実施・国際協力をより一層加速するという決意のもと、『SDGsアクションプラン 2022』を定める」とされています。
2021年版では、「SDGsの達成に向けて国内実施・国際協力を加速化し、国際社会に日本の取り組みを共有・展開していくとともに、広報・啓発にも引き続き取り組み、あらゆる関係者の行動を呼びかけていく」とありました。「取り組み、呼びかけいていく」から「加速する決意のもと、定める」と、よりはっきりとした意思表示となっています。
さらに「SDGsアクションプラン 2022」の基本的な考え方では、
「SDGs 採択から 6 年が経ち、日本国内で SDGs に関する認知度は大きく高まり、ESG 投資の拡大などを受けて、企業経営に SDGs が浸透した」
「学習指導要領に持続可能な開発のための教育(ESD)の理念が盛り込まれたり、再エネ導入が着実に進展したりするなど、日本国内でSDGs の考え方が浸透してきている。」
と記されているように、SDGsの認知度を高めるフェーズはクリアし、今後はより具体的な施策に落とし込み、取り組みを加速し、世界をリードしていくという決意が感じられるものとなっています。
次に、8つのの課題ごとに新たに加えられた箇所や強調されている部分を見てみましょう。
喫緊かつ最優先の課題として、新型コロナウイルス感染症対策への対応が示されています。
また「第5次男女共同参画基本計画」や「女性の活躍・男女共同参画の重要方針2021」(女性版骨太の方針)等に基づく女性活躍・男女共同参画の取り組みとして女性デジタル人材の育成、「生理貧困」への支援、女性の登用目標達成、女性に対する暴力の根絶など女性活躍・男女協働参画を推進すると記されています。2021年版では「女性活躍推進に向けた取り組み」とだけ示されていたのに対し、より具体的に落とし込んだ内容となっています。新型コロナウイルス感染症をめぐる状況を踏まえ延期となっている、「第6回国際女性会議WAW!」を、2022年中にを開催すことも記されています。
未来を担う子ども・若者の教育については、貧困対策に加え、子ども中心の行政を確立するための新たな行政組織を2023年中に設置することも加えられました。
コロナ禍で「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の重要性も見直されています。UHCとは「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる」状態を意味します。
変動する社会に求められる、より強靭、より公平、より持続可能なUHCの達成に向け、「グローバルヘルス戦略」を6月までの可能な限り早いタイミングで策定し、取り組みを加速する、としています。
持続可能なまちづくりに資する優れた地方公共団体が選ばれる「SDGs未来都市」(2018年6月~)の選定に加え、2022年からは新たに複数の地方公共団体が連帯して実施する脱炭素やデジタル化に関する取り組みに対しても支援を行うと記され、補助金や助成金などで国が後押しすると捉えることができます。
地域が抱える人口減少・高齢化・産業空洞化などの課題を解決するため、世界最先端のデジタル基盤の上で、自動配送、ドローン配送、遠隔医療、教育、防災、リモートワーク、スマート農業などのサービスを実装していくとあり、どの分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していくのかが記されていることも特徴といえます。
この項目の内容は2021年版とほぼ同じになっており、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を踏まえた質の高いインフラ投資を官民一体となって引き続き積極的に支援していく、としています。
「質の高いインフラ投資に関するG20原則」は、世界経済の発展に際し「量」だけではなく「質」の伴ったインフラ投資が世界及び日本の経済成長に不可欠であることから、2019年にG20財務大臣・中央銀行総裁会議で承認されたもので、①インフラの開放性、②透明性、③ライフサイクルコストから見た経済性、④債務持続可能性などが重視されています。
2050年のカーボンニュートラル、また2030年度の2013年度比で46%排出削減の実現からさらに50%の高みに向かうため、再エネ最大限導入のための規制の見直しとクリーンエネルギー分野への大胆な投資を進める、とされています。そしてその肝となる送配電網のバージョンアップ、蓄電池の導入拡大などの投資を進めると記されています。
また火力発電のゼロエミッション化に向け、アンモニアや水素への燃料転換を進めることも記されています。
食品ロスに関しては、2030年までに2000年度比で半減となる489万トンまで低減することを目標とする、と過去のアクションプランにはなかった数値目標が示されています。
コロナ禍で、海洋・河川においてマスクを始めとするプラスチック廃棄物量の増加が問題となっています。
日本は、これまで海洋プラスチックごみによる新たな汚染をゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の実現を目指し、対策や国際的な議論を主導してきました。これを踏まえ、2022年2月の国連環境総会で海洋プラスチックごみ対策について国際約束づくりの開始を目指す、としています。
2022年2月に、「人間の安全保障」に関する特別報告書のグローバル発表会の開催が予定されています。
人類同士、また人類と地球がより「連帯」していくことが求められていることを強調する内容となっており、この報告書の議論を支援するとともに、人間の安全保障に関する議論を推進していく、としています。
さらに、2022年に開催が予定されている第8回アフリカ開発会議(TICAD)などを通じて、各国との連帯を強化することなどが加えられています。
2023 年の SDGs実施指針改定も念頭に、2022 年中に幅広いステークホルダーとの意見交換を進め、SDGs 達成に向けた取り組みを加速していくことが新たに加えられています。
以上、SDGsアクションプラン2022に関する知識や過去のアクションプランとの違いについて説明してきました。アクションプランはSDSs達成に向けて、日本が特に力を入れて取り組むことを内外に示したものです。日本政府がどのような分野を重視し、投資するのかを知ることができ、国家戦略の全体像をつかむことにもつながります。
2030年のSDGs達成に向けた道筋は、国ごとに異なります。また新型コロナウイルスの感染拡大など、予測不可能な時代における課題にその都度対応していく必要もあります。ビジネスの現場においても、時流に沿って変更が加えられるSDGsアクションプランは、新たな課題に柔軟に対応しながら目標を達成するための重要な指針となるでしょう。