サービサイジング(脱物質化)の多様化と地域展開|SDGsと地域活性化【第2部 第5回】

2022年04月11日

SDGsを達成するには、全国展開する企業や、住民が多く存在する大都市圏だけでなく、すべての地域で積極的に取り組むことが必要です。特に地域におけるSDGsへの取り組みは、その地域の活性化につながるものであることが重要になるでしょう。
武蔵野大学工学部環境システム学科環境政策を専門とする白井信雄教授が、SDGsを活かしてどのように地域の活性化を図っていくべきかを解説します。


私たちは、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会をつくることにより、経済成長とモノに囲まれた暮らしの豊かさを享受してきました。そして、廃棄物の最終処分場の確保や不法投棄が問題になったことで、1990年代後半からリサイクルを促す法制度が整備され、廃棄物の回収と再資源化が促されてきました。
しかし、リサイクル率が高くなったからといって、大量生産・大量消費・大量廃棄型の構造は変わりません。リサイクルの徹底の次には、2R(リデュースやリユース)による少量生産・少量消費・少量廃棄型の社会への転換が期待されましたが、大きな進展はありませんでした。モノを作らないと経済成長が抑制されるという固定観念があったからです。
こうした環境と経済のトレードオフ(という固定観念)を解消する方策が「サービサイジング」です。サービサイジングとは何か、サービサイジングによる地域活性化の可能性、SDGsとの関連を説明します。

モノの消費とサービスの消費の違い

「サービサイジング」とは、「モノ(だけ)ではなく、サービスを提供することで、新たな付加価値を生み出すビジネスモデルや社会のあり方」のことです。

そもそも、モノの消費とサービスの消費の違いはどこにあるのでしょうか。例えば、洗濯機というモノを購入し、私たちは衣服の洗濯を行います。これに対して、クリーニングは洗濯を代行してくれるサービスです。コインランドリーも自分で手を動かしますが、洗濯ができる場と設備を提供してくれるサービスです。また、自宅に洗濯機を設置するのですが、洗濯機を購入するわけではなく、洗濯する時に課金される仕組み(Pay Per Use)もサービスの消費です。いずれの場合にも、洗濯機というモノはどこかに所在しますが、洗濯機を消費者が購入・所有・使用する場合がモノの消費であり、それ以外は洗濯というサービスを消費することになります。

消費者にモノを購入してもらい、新製品を次々と開発することで、買い換えを促すというビジネスモデルが大量生産・大量消費・大量廃棄(そして大量リサイクル)型の社会経済構造を形づくってきましたが、環境面での持続可能性を高めるためには、少量生産・少量消費・少量廃棄型に移行する必要があります。モノではなくサービスを消費するようにすれば、モノの消費は少量であっても、我慢せずに充足度を維持・向上することができます。企業もサービスを提供するビジネスとして発展していくことができます。「モノではなく、サービスを提供することで、環境面、生活面、経済面の統合的な持続可能性を高める」ことがサービサイジング(脱物質化)です。

サービサイジングにおいてもモノが完全になくなるわけではなく、モノは必要です。しかし、サービスの消費においては供給側がモノを所有します。つまり、サービサイジングの本質は、モノの所有権を生産者(供給者)から消費者に移転させない(私有物として独占させない)ことにあり、モノの所有(私有/共有)のあり方を変えることにあります。
(1)モノを消費者の私有物とすることで、所有欲が発生し、必要以上の消費がなされること、(2)モノを生産者(供給者)が所有することで、モノの維持管理の徹底や効率的な利用がなされることを考えると、モノを消費者の私有物としない方向へ転換するサービサイジングは、本質的に望ましいことです。

サービサイジングの2つのタイプ

サービサイジングに向けた取り組みには様々なタイプのものがあります(図1)。大きくは、タイプ1:モノではなく、サービスを売る(PaaS: Product as a Service)タイプ2:高付加価値なモノを少なく、長く使う、という2つのタイプに分けられます。

タイプ1は消費者がモノを所有せず、モノを代替する、あるいはモノを活かすサービスを提供するタイプ、タイプ2は消費者がモノを所有し、そのモノをサービスでサポートするタイプともいえます。
モノの所有権を生産者(供給者)から消費者に移転させないという観点からいうと、タイプ1は厳密な意味でのサービサイジングです。タイプ2は消費者が所有権を持ちますが、モノを長く使う(モノの生産を少なくする)ためにサービスが供給されるもので、広義のサービサイジングといえます。

図1 様々なタイプのサービサイジング(脱物質化)

出典)白井信雄(2020)「持続可能な社会のための環境論・環境政策論」の図を修正

タイプ1:モノではなく、サービスを売る(PaaS: Product as a Service)

タイプ1の最も徹底したタイプは、モノをサービスで完全に代替させる方法で、音楽・映像・書籍等の電子配信、チケットや通帳等の電子化などがあります。これらは既に普及してきていますが、次は何が代替されるでしょうか。広く捉えれば、リモートワークの普及・定着化によるオフィスの省スペース化・オフィスレス、Eコマースによる店舗レス化等もこのタイプに相当します。

これ以外に、タイプ1には、外部サービスの利用、モノを所有しない使用(レンタル・リース)、モノの共有(シェア)があります。これらは初期投資が高いモノの費用負担を軽減するとともに、使用頻度の低いモノを使用しやすくする方法でもあります。

モノを所有しない使用(レンタル・リース)の新しい例をあげてみましょう。パナソニックの「あかりの機能提供型サービス あかりEサポート」は、LED照明器具をリースにして、メンテナンスなどのサービスも合わせたサービスを提供しています。タイヤメーカーからも、走行距離に応じた料金をタイヤのリース費として払うTire as a serviceというサービスが提供されています。

モノの共有(シェア)の例として代表的なのがカーシェアリングです。日本国内のカーシェアリング上位6社のスポットが全国で2万ヵ所に迫る、という報告もあります。サイクル(自転車)シェア、ホームシェアも実験段階から普及段階になってきています。

カーシェアリングと似たサービスに、ライドシェアがあります。ライドシェアは、アプリを利用して、自動車の相乗りをマッチングするサービスのことです(後述のシェアリング・エコノミー参照)。カーシェアリングが車の貸出を目的にドライバーと自動車をマッチングさせるのに対して、ライドシェアではドライバーと同じ目的地に移動したい人をつなぎ、相乗りでのドライブを支援します。カーシェアリングは自動車の共有、ライドシェアは移動の共有ということができます。

タイプ2:高付加価値なモノを少なく、長く使う

物理的・社会的に長く使える製品を生産し、高付加価値の製品として販売すること、すなわちモノの生産を少なくすることとを前提として、そのうえでモノの長寿命化をサポートする様々なビジネスがあります。メンテナンスの他、リペア・リフォーム、リユースなどがそれにあたります。

メンテナンスは「長寿命なモノの生産とメンテナンス」を生産者が行うものです。これに対して、リペア・リフォーム、リユースは生産者以外の専門事業者によるビジネスです。
リペア・リフォームは「同じ所有者によるモノの長寿命使用のサポート」を行うビジネスで、、本来の機能が果たせなくなったものを、再び使えるように直す【修理】、外見的な傷などを直す【補修】、使用に差し障りはないが、長期使用に備えたメンテナンス・手入れを行う【維持】、本来の性能に戻すだけでなく、さらに強化や工夫を加える【改良】があります。
リユースは「所有者を変え、社会全体での長寿命使用」をサポートするビジネスです。リユースにおいては、リユース事業者がリペア・リフォームを担うことになります。

各々に対応する産業分類上の業種を表に整理しました。住宅や自動車等を除けば、市場規模が小さく、零細事業者が多いこと、専門的技術が要求されるが技術継承が困難になってきていることなどが課題となっています。

表1 モノを少なく、長く使うビジネスに対応する産業分類上の業種

注)相当する産業分類はないが、中古住宅の販売もリユース事業になる。

サーキュラーエコノミーとシェアリングエコノミー

サービサイジングとよく似た概念として、サーキュラーエコノミーとシェアリングエコノミーがあります。これらはDX(Digital Transformation)の進展により、活発化してきました。

サーキュラーエコノミーは、循環システムをつくるという点では新しい概念ではないですが、循環により経済を発展させることに力点があるといえます。EUは2020年3月に、新たな「サーキュラーエコノミー行動計画」を発表しました。これは環境を軸としたEUの新成長戦略「欧州グリーンディール」の思想を具体化するものになっています。つまり、循環と経済成長の両立を図るもので、サービサイジングの視点がないわけでありませんが、デジタル技術の導入とグローバルなレベルで横断連携を進めることに力点があります。大企業を中心としたグローバルな視点での経済政策という色合いが強いといえます。

シェアリングエコノミーは、インターネットを介して個人と個人・企業等の間でモノ・場所・技能などを売買・貸し借りする等の経済モデルです(シェアリングエコノミー協会)。シェアリングエコノミーは、モノをサービスで代替していくというサービサイジングではなく、非稼働・遊休の資源の効率的な使用を促すことに主眼があります。
車、空き部屋、ペット、自動車、ボート、家、工具等に特化して、インターネット上での売買・貸し借りを行うビジネスが創出されています。また、企業の持つ倉庫、トラック、オフィスといった非稼働・遊休の資源の交換、個人の持つスキル・空き時間等も交換の対象になります。
シェアリングエコノミーと言われるビジネスモデルは、インターネットを活用するマッチングであること、定額制(サブスクリプション)で契約してお得感を出すこと、個人間での資源の交換を促すこと等に特徴があります。

図2にサービサイジングとサーキュラーエコノミー、シェアリングエコノミーとの関係を示しました。共有点が多い考え方ですが、力点の置き方が異なります。サービサイジングはモノの削減を通じて環境負荷を減らすという側面を重視しますが、シェアリングエコノミーでは資源の有効利用を行う結果として、活動量が増え、環境負荷が増えるという場合もあります。シェアリング=環境配慮型ではないことに注意が必要です。

図2 サービサイジングとサーキュラーエコノミー、シェアリングエコノミー

サービサイジングの効果・意義

ここまでの整理を踏まえて、サービサイジング(脱物質化)とSDGsの17の目標との関連を整理しました(表2)。
サービサイジングを導入することによる効果としては、モノの使用量の適正化・削減による資源とエネルギーの消費量、廃棄物の発生量・処理・処分量、二酸化炭素の排出量等の環境負荷を減らすことができます。
これに加えて、経済面の効果、社会面の効果も期待でき、サービサイジングはSDGsに多面的に貢献する方法です。また、SDGs の目標と直接対応づけられないものの、「古いものを長く大切に使うことで、モノへの愛着、暮らしの充足感を高める」といった暮らしの質(ウエルビーイング)を高める効果も重要です。

表2 サービサイジング(脱物質化)とSDGsの目標との関連



サービサイジングによる地域活性化(ローカル・サービサイジング

サービサイジングは、グローバリゼーションとローカリゼーションの2つの方向で展開されます。前者の例としては、大企業である生産者が川下の消費者に関わる取り組み(例:自動車メーカーのカーシェアリング事業の展開)やDXによりインターネットを活用して属地的な制約を超えてサービスの交換(例:オンラインでのフリーマーケット)等があげられます。
本連載では、地域活性化の観点から地域の主導性が強いサービサイジング(ローカル・サービサイジング)に注目し、3つの方向性を紹介します。

1つめは、ローカルな生産者とローカルな消費者の関係のサービサイジングです。地元工務店が施工後の住宅のメンテナンスやリフォームを考慮して、住宅を設計し、アフターケアに力を入れるといったビジネスが考えられます。
2つめは、ローカルなリペア・リフォーム等のサービス事業者とローカルな消費者との取引を活性化させるサービサイジングです。例えば、京都市ごみ減量推進会議が運営している修理ナビサイト「もっぺん」は、市内の洋服や家具などの日用品からパソコン・時計といった家電の修理やリメイクやリユース(リサイクル)に携わるお店を紹介しており、毎月1万件以上のページビューがあります。
3つめは、ローカルな消費者間でのモノの交換により、リユースを進めるというサービサイジングです。シェアリングエコノミーにおける個人間のモノの交換を、地域内を中心に進めることで、地域内のコミュニティを活性化させることができるでしょう。

修理ナビサイト「もっぺん」のトップページ

今回は、「サービサイジング(脱物質化)」という産業構造・ライフスタイルの転換の取り組みをまとめました。
サービサイジングには、製品が長寿命での使用やメンテナンス、リペア・リユースなどを前提にして設計されていない場合、製品の設計を変えないと進まないという問題点があります。しかし、DXの進展によるシェアリングが活発化する中、製造事業者もサービサイジングに踏み出さざるを得ない状況になってきています。地域の事業者や行政、そして市民が、持続可能な地域づくりの方策としてサービサイジングを位置づけ、その普及推進に取り組むことが期待されます。
次回は「カーボンゼロ(脱炭素)」を目指す地域社会の転換をとりあげます。

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SDGsの基礎知識