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【2025年版】 ウェルビーイングとは? 意味や事例、SDGsと経営の視点からみた重要性|SDGsにまつわる重要キーワード解説

2025年01月08日

企業のあり方や個人のワークライフバランスが見直される中、これからの時代の中心的な考え方として注目されているのが「ウェルビーイング」です。
本記事では、ウェルビーイングの基礎知識やSDGsとの関係、事例などの最新情報を紹介しています。ここでウェルビーイングの全体像を知り、企業経営に取り入れるヒントとしてください。

ウェルビーイングイメージ画像

ウェルビーイングとは

ウェルビーイングの意味と定義

「ウェルビーイング(well-being)」は、健康、幸福、福祉などに直訳されます。このことばが初めて登場したのは、1946年の世界保健機関(WHO)設立時です。

世界保健機関憲章では、「健康とは、単に疾病がない状態ということではなく、肉体的精神的、そして社会的に、完全に満たされた状態にある」とするなかで「ウェルビーイング」を使用しています("Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.")。

Health:健康」は、狭い意味での心身の健康のみを指すのではなく、感情として幸せを感じたり、社会的に良好な状態を維持していることなど、全てが満たされている広い意味での「健康」である、と解釈できます。
また「Social well-being」は、広い意味でよい社会であると同時に、家族や友人、職場の仲間などごく近しい人間関係においても良好である、と考えるのが適切でしょう。

似たようなことばとの違いについて見てみましょう。満たされた状態が持続することがウェルビーイングであるのに対し、Happiness「幸福(Happiness)」は、一時的な幸せの感情を指すことばです。

また、医療や福祉の分野で使われる「ウェルフェア」ということばもあります。ウェルフェアは福祉という意味ですが、福利厚生という意味で使われることも多くあります。社会弱者を救済するという保護的な考えが含まれており、ひとりひとりが尊重され自己実現していくウェルビーイングとはやや意味合いが異なります。ウェルフェアは手段でウェルビーイングは目的、という文脈で使い分けられることも多いようです。

ウェルビーイングを感じる若者イメージ

「主観的ウェルビーイング」と「客観的ウェルビーイング」

ウェルビーイングは、「主観的ウェルビーイング」と「客観的ウェルビーイング」に大別することができます。
主観的ウェルビーイングは、自分がどう感じているかを軸とする考えかたで、「自分がいま幸せと感じているか」「自分の仕事や家庭に満足を感じているか」「仕事や私生活において活力や熱意を持てているか」などがその評価基準となっています。

一方の「客観的ウェルビーイング」は、数値によって客観的に判断できるウェルビーイングの評価です。たとえば平均賃金や生涯賃金、平均寿命や健康寿命、GDP、失業率、労働時間や有休取得率など、「これが高ければ(あるいは低ければ)幸せだろう」と考えられる数値によって判断するものです。

社会全体が物質的な豊かさよりも心の豊かさに価値を置くようになったことから、近年では主観的ウェルビーイングがより重視されるようになりました。

主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイング

国民の幸福度や生活の質を評価するGDW

客観的ウェルビーイングの国レベルの指標として最近語られるようになった、GDP(国内総生産)ならぬGDW(国内総充実)についても触れておきます。
GDPが国民の物質的な豊かさの評価基準となるのに対し、GDWは国民の幸福度や生活の質を評価する指標です。国民に必要なのは経済成長だけでなく、質の高い生活によって幸福度が高まることがより大切だという意識の高まりから生まれました。
GDWの要素としては、生活環境・健康・教育・雇用・所得・治安・社会的コミュニティなどが含まれ、これらによって包括的な評価がなされます。

どのような状態が"ウェルビーイング"なのか


ウェルビーイングは「満たされた」という大きな状態を表していますが、これだけでは漠然としすぎており、さらに掘り下げないとその実体がはっきりと見えてきません。
ウェルビーイングであるには実際に何が必要とされるのかを示した、ふたつの考え方を紹介します。

心理学者マーティン・セリグマンが示した「PERMA(パーマ)」

「ポジティブ心理学」という自己実現理論を唱え発展させた心理学者マーティン・セリグマンは、「PERMA」というウェルビーイングの指標を考案しました。

PERMAは、「人間は以下の5つの要素を満たしていると幸せである」とするもので、各要素の頭文字をとって「PERMA」と呼ばれています。

  • Positive Emotion うれしい、楽しい、ありがたいなどのポジティブな感情を持っている
  • Engagement 何かに没頭することができている
  • Relationship 他社との良い関係が築けている
  • Meaning and Purpose 人生についての意義や目的を感じることができている
  • Achievement/ Accomplish 何らかの達成感を感じることができている

米ギャラップ社が定義した5つの要素

また、世論調査やコンサルティング業務を行うアメリカのギャラップ社が定義した5つの要素もよく知られています。

  • キャリア ウェルビーイング Career Wellbeing
    仕事に限らず、自分で選択したキャリアに幸せを感じているか
  • ソーシャル ウェルビーイング Social Wellbeing
    どれだけ人と良い関係を築けているか
  • ファイナンシャル ウェルビーイング Financial Wellbeing
    経済的に満足できているか
  • フィジカル ウェルビーイング Physical Wellbeing
    心身ともに健康であるか
  • コミュニティ ウェルビーイング Community Wellbeing
    地域社会とのつながりを感じることができているか

この2種類は、いずれも主観的ウェルビーイングに属する要素で構成されています。「ウェルビーイングは、自分の考え方や行動によって高めることができる」ということを示唆しているともいえます。

なおこの分野の研究はこれまで欧米がリードしてきましたが、近年は日本でも東洋と西洋、集団主義と個人主義などの違いに着目し、また日本の国民性を考慮に入れたウェルビーイング研究が進められています。

ウェルビーイングが注目されている政治的・社会的背景

次に、ウェルビーイングにいっそうの注目が集まってきた要因や背景についても考えてみます。

価値観の変化

ウェルビーイングが注目されるようになった第一の理由に「モノ」から「心の豊かさ」へと価値観が変化してきたことがあげられます。

効率や利益、売り上げなどの経済指標を優先してきた結果、格差の拡大や地球環境の悪化、貧困などさまざまな問題が起きました。これらはこれまでの「モノ」の価値観では解決できない課題ばかりで、成長を追い求めることに限界がきていると認識され、地球規模で調和やよりよい社会をつくる方向へと変わろうとしてきたのです。

働き方改革

日本では高度経済成長期を経て、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少に直面し、さらにブラック企業の社会問題化もあって、働き方の多様化が進みました。政府は一億総活躍社会の実現を掲げ、2019年から働き方改革関連法の施行を開始しました。

この法律は、働くひとりひとりが多様な働き方を選択でき、より良い将来の展望を持てるようになることを目指したものです。長時間労働の是正、雇用形態にかかわらない公正な待遇、高齢者や女性の就労促進などが掲げられています。ただし、働き方改革の関連法案にはウェルビーイングということばは入っていません。

健康経営

経済産業省が推奨する「健康経営」によって、企業の健康への関心も高まりました。健康経営とは、健康管理を経営的な視点でとらえ、従業員への健康投資が生産力の向上、ひいては企業の業績向上につながることを期待する経営手法をいいますが、当初は心身の健康増進にとどまる傾向がありました。

新型コロナウイルス感染拡大

働き方改革や健康経営によって取り入れられるようになったウェルビーイングの視点が、より重要視されるようになった背景に、コロナ禍における価値観の変化があります。リモートワークが普及し、自分らしい働き方を考え直す人も増えました。しかしその一方でコミュニケーション不足やメンタルヘルスの問題も指摘されています。

大阪万博のテーマにも

これらの時代背景とともに計画が進められてきた大阪万博(2025年開催予定)のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」です。そのままウェルビーイングの考え方と重なるこのテーマが、どのように万博に反映されていくのかが注目されます。

国内の大きな動きとしては、2021年に政府が毎年発表する「成長戦略実行計画」において、「国民がwell-beingを実感できる社会の実現」という文脈でウェルビーイングが登場しています。またイギリスに続き、世界で2番目に「孤独・孤立対策」の担当大臣が任命されました。

さらに2021年9月には、「日経Well-beingシンポジウム」が開催され、政府や企業関係者、有識者等によって、ウェルビーイングの実現へ向けた議論が行われています。2021年は、日本におけるウェルビーイング元年となりましたが、今後もウェルビーイングに向かう時代の流れは進んでいくでしょう。

笑顔イメージ

「2024年世界幸福度ランキング」に見る日本の現状

国際連合の「持続可能開発ソリューションネットワーク」が毎年発行している世界各国の幸福度を調査した「世界幸福度報告」は、ニュースなどで目にした方も多いことでしょう。

低迷が続く日本の幸福度ランキング

その最新となる2024年の世界幸福度ランキングで、日本は対象となった143か国の中で51位に位置しています。2022年の54位から2023年には47位とやや上昇しましたが、24年はまたランクダウンしてしまいました。
1位がフィンランド、2位がデンマーク、3位がアイスランド、4位がスウェーデンで、上位4カ国を北欧の国々が独占しています。

日本は相変わらず先進国の中で下位にとどまり、G7では最下位という結果でした。アジアではシンガポールが30位でトップです。調査された項目のうち、前回よりも数値が下降したのが「一人当たりの国内総生産」「社会的支援」「人生の主観的満足度」でした。
また他の上位国と比較した場合に「健康寿命」は上位に位置するものの、「人生の主観的満足度」「寛容さ」などの項目で大きく下回っている傾向が見られました。

世界幸福度ランキング2024の上位100国

世界幸福度ランキング2024の上位100国(青字はG7加盟国)

経済的な裕福さだけではない、本当の幸福とは何か

この世界幸福度ランキングは世論調査によるもので、アンケートの表記内容や国ごとの価値観、経済規模などの影響を受けるため主観的な傾向があり、この結果がすべてではありません。
たとえば経済的にあまり裕福な国でなくても、身近な仲間と毎日楽しく過ごせれば幸せであると考える国もあるはずです。逆に日本の場合は、客観的には幸福に見える人でも隣の芝生が青く見えて周りをうらやみ、幸せを感じにくい人も多いのかもしれません。

しかしその一方で、個々の事情に合った働き方ができる労働環境が充分でない、ジェンダーや学歴などの属性が生活に影響することも多い、他人に対する寛容さに乏しい、といった印象が強い日本において、この結果が納得しやすいものである側面も見逃せません。
いずれにせよ、日本のウェルビーイングが世界のトップクラスになるためには、まだまだ長い道のりが待っていそうです。

SDGsとの関連

ウェルビーイングと、世界の共通目標であるSDGsは、ともに現代社会に必要不可欠なものです。

SDGsの目標3には、
「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」―あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
とあります。

ここでのウェルビーイングは「福祉」と訳され、ターゲットを見ても、妊産婦や新生児の死亡率、感染症対策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジなどについて示されているように、「健康」「福祉」などの意味あいが強く感じられます。

しかし全体で捉えると、SDGsは「地球上の誰一人取り残さない」、経済・社会・環境の3つのバランスがとれた社会を目指すものです。

ウェルビーイングも、単に個人が幸せであればいいのではなく、個人と社会、ひいては地球全体が満たされた状態とは何かを考えるべきものです。ウェルビーイングは、SDGsを達成するための価値観の基準であるとも言えるでしょう。貧困がなくなり、質の高い教育を受けることができ、人や国の不平等がなくなり、17の目標を達成した先にあるのが、地球全体のウェルビーイングであるはずです。

また2030年までとされているSDGsのさらに先の目標として、「SWGs」を掲げようという動きもあります。
SWGs(サステナブル・ウェルビーイング・ゴールズ:Sustainable Well-being Goals)は、持続可能な「開発」を目指したSDGsの目標を福祉や幸福にまでに進め、「持続可能なウェルビーイング」をゴールとする考えかたです。

ウェルビーイングと経営


VISION ZERO(ビジョンゼロ)活動とは

2017年のINTERNATIONAL SOCIAL SECURITY ASSOCIATION(国際社会保障協会)で、「『安全・健康・ウェルビーイング』の3つの次元で職場における事故と疾病を予防する革新的アプローチ」として定められ、ゼロアクシデントを目指すのがVISION ZERO(ビジョンゼロ)の活動です。

国際労働機関の報告によれば、世界中で毎年3億1700万件もの事故が職場で発生し、その経済的負担は各年の世界全体の国内総生産の4%に相当しています。そして、「安全と健康への働く環境・条件を整えることは、企業にとって最も大切な資産である従業員の身体、精神の健康バランスを守り、モチベーションの向上、ディーセントワークを生み出すことになる」としています。

産業の安全化を推進する一般社団法人 セーフティグローバル推進機構では、VISION ZEROの活動が企業のリスク回避、製品の品質・サービスひいては顧客満足度のアップ、企業価値の向上へと繋がり、良好な循環となって社会・経済・ビジネスに大きなプラスとなることを強調しています。

そして、企業が「VISION ZERO宣言」を掲げ、トップを始めとしたリーダーがその重要性を認識し、信頼関係のもとでオープンなコミュニケーションができる雰囲気作りをすることが重要である、としています。

経営にもたらすメリット

それでは、企業が経営にウェルビーイングの考え方を積極的に取り入れることによって、どのようなメリットがあるのかあらためてまとめてみましょう。

・生産性/品質サービス/顧客満足度などの向上
従業員が心身ともに健康になり、ひとりひとりが意欲的に業務に取り組むことができれば、企業の生産力、製品の品質、サービスなどがアップし、顧客満足度の向上につながります。

・人材の確保
ワークライフバランスや多様な働き方が実現できる企業であれば、人材の流出を防ぐことができると同時に、優秀な人材の確保にもつながります。就職や転職活動をする際、以前のように給与ばかりが重要視されているわけではありません。ひとりひとりが自分らしい働き方を実現できる企業であることは、大きな強みになります。

そして心身ともに健康で多様な人材が確保できれば、さまざまな角度からのアイデアが集まり、イノベーションの可能性も広がります。幸福感の高い社員はそうでない社員に比べ、創造性は3倍、生産性は31%高いという研究レポートもあります。企業にとって、ウェルビーイングがどれだけ重要であるかを示唆する報告といえるでしょう。

・企業価値の向上
近年ESG投資、つまりEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)に配慮している企業に積極的に投資する動きが活発になっています。特にこの中でも「Social」には、ジェンダー格差の撤廃や労働者の権利の保護、ダイバーシティやワーク・ライフ・バランスの確保などが含まれており、ウェルビーイングと重なる部分が多くあります。

ウェルビーイング経営への取り組み

ウェルビーイング経営を実現させるために検討してみるとよいとされる取り組みとしては、次のようなものが挙げられます。

・良いコミュニケーション環境をつくる
良好な人間関係が築けている職場は、そうでない場合に比べて生産性が高いと言われます。より良いコミュニケーションを取れるような機会やスペースを作ったり、社員用のコミュニケーションツールを導入するとよいでしょう。もちろん場所だけでなく、誰もが発言しやすい環境をつくることも大切です。

職場のコミュニケーション風景

・健康増進
やりがいを持って働くためには心身が健康であることが重要です。健康診断や予防接種の実施はもちろん、ストレスチェック、産業医への相談窓口やフィットネスなどの健康施設の設置も有効です。

・労働環境の見直し
長時間労働の是正はもちろんですが、仕事や個人に合った多様な時間・場所などの勤務形態、有給休暇や育児休暇取得がしやすい雰囲気づくりなど、柔軟な働き方ができる労働環境を作ることが望まれます。

・ヴィジョンの共有
働き方や組織の多様化が進む中では、企業の存在意義や長期的なビジョンなどを経営者が積極的に発信し、共に向かう方向を示すことが必要です。

デジタルウェルビーイングの取り組み

デジタル技術に多くかかわる私たちの心や体の健康を保つ、「デジタルウェルビーイング」についても触れておきます。
スマートフォンなどのデジタル機器は、利用方法や依存しすぎることなどによって、心身の健康に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。
そこで、デジタル機器への依存やデジタル技術による負担を軽くし、うまく利用する施策を進めることで、社員の健康的な生活を保とうという活動を始める企業が出はじめています。
仕事の生産性向上だけを重視するのではなく、プライベートな時間を守るための通知設定の見直しや使用ルールの策定、デジタル機器から離れる時間を確保する施策、SNSによって疲弊してしまわないための指導などが検討されています。

スマホを見るビジネスウーマン

ウェルビーイング取り組む場合の注意点

ウェルビーイングは、時代によって定義が変化していくものと考えられます。多様性の時代では、満たされている状態がどのような状態であるか、人によってさまざまです。決めつけによる価値観で取り組むのではなく、進めていく中で時代の変化や個々の事情を取り込みつつ、柔軟に対応していくことが大切になるでしょう。

企業や自治体の取り組み事例


丸井グループ

丸井グループは「応援投資」というサービスを開始し、「ウェルビーイング・アワード2024」の「商品・サービス部門」のグランプリを獲得しました。
これは顧客の資産形成と社会貢献の両立をめざすサービスで、マイクロファイナンスの仕組みを通じて、預かった資金を新興国・途上国の女性就労支援や、従来の金融サービスを受けられない人たちの事業資金融資などの゙支援に利用するという内容です。
預かった資金が実際どのように活かされているかを丸井グループのウェブサイトや統合報告書で定期的に公開し、社会貢献への参画が実感できるようになっており、「誰かの未来を応援したい」「資産形成をしたい」という顧客の思いと、融資先の幸せをともにかなえようという取り組みです。
丸井グループはウェルビーイング・アワード2024の「活動・アクション部門」でも受賞したほか、グループ全体の「Well-being 経営」にも意欲的に取り組んでいます。

積水ハウス

「相手の幸せを願い、その喜びを我が喜びとする」という企業理念のもとで運営してきた積水ハウスは、2020年に"「わが家」を世界一 幸せな場所にする"というグローバルビジョンを掲げました。そして「幸せ」という抽象的な表現を「健康」「つながり」「学び」という価値に因数分解し、「住めば住むほど健康になる」「家族とつながる」などの高い付加価値を内外に提供していくことを推進しています。
そのひとつが、社員と職場の「幸せ」であり、そのベースとなるDEIを中心とした施策が経営戦略に盛り込まれています。具体的には、男性中心の建設会社で女性活躍を推進するため、女性管理職を育成する研修カリキュラム「ウィメンズ カレッジ」の運営、「男性は全員1ヵ月以上育休を取る」を定め、実際に100%の取得を達成した男性育児休業制度など、社会全体や業界に先駆けた施策を進めています。

岩手県

最後に、自治体におけるウェルビーイングの取り組み事例を紹介します。
東日本大震災に直面し、さまざまな課題や問題に対応するために作られた岩手県の「いわて県民計画(2019~2028)」は、「県民一人ひとりの幸福追求権を重視する政策」として推進されてきました。

そしてその政策策定のための独自の指標、「いわて幸福関連指標」を策定し、目標値や各年の実績値などを公開しています。政策は「健康・余暇」「家族・子育て」「教育」「居住環境・コミュニテイ」などの8分野に分類したうえで推進しています。
2024年の「いわて幸福白書」では、たとえば「家族・子育て」分野では結婚サポートセンター「i‐サポ」の運営、「教育」分野では「岩手県高校魅力化事業」、「居住環境・コミュニテイ」ではUターン促進のための「いわておかえりプロジェクト」など、幅広い政策が多数紹介されています。

Z世代とウェルビーイング

今後の企業活動や消費の中心となっていくいわゆるZ世代は、ウェルビーイングな社会づくりの中心となる可能性を持っています。

そもそもZ世代は、その前のミレニアム世代から上の世代と違い、自分らしい生き方へのこだわりが強く、また依存関係が強かった企業への帰属意識もこれまでとは異なります。個々を尊重するウェルビーイングの考え方に共鳴する部分が多い世代といえるでしょう。

また「モノよりも、体験をはじめとした精神的な充足を重んじる」Z世代の特徴も、ウェルビーイングの概念と近いものです。Z世代が企業活動の中心世代となっていく過程が、そのままウェルビーイングな企業の増加や発展につながっていくかもしれません。

ウェルビーイングを知るための本

「幸せなチームが結果を出す」 書影
「幸せなチームが結果を出す  ウェルビーイング・マネジメント7か条」  
及川 美紀・前野 マドカ(著)/日経BP

ウェルビーイング・マネジメントでメンバーが幸せに働き、社会にその幸せを広げていくことで、未来も必要とされ続ける組織をつくる。そのための基本知識や最新の知見、そしてどう実践していけばいいのかを紹介しています。ポーラ幸せ研究所が行った調査と分析から明らかになった「幸せなチームづくり7か条」も紹介されています。

詳しくはこちら>>
「ウェルビーイング」 (日本経済新聞出版)書影
「ウェルビーイング」  
前野 隆司・前野 マドカ(著)/日本経済新聞出版

夫婦でウェルビーイングの研究を10年以上続ける著者が、ウェルビーイングとは何か、基本的知識をわかりやすく解説した一冊。ウェルビーイングの多彩な研究や、企業の取り組み事例も多く紹介されています。

詳しくはこちら>>
「ウェルビーイングビジネスの教科書 」  (アスコム)書影
「ウェルビーイングビジネスの教科書 」  
藤田 康人・インテグレートウェルビーイングプロジェクト(著)/アスコム

自分らしく、心も体も健やかに生きるウェルビーイングの世界的なムーブメント。この本では、ウェルビーイングの視点から商品の価値を見直し、開発やマーケティングに活かす「関係性のリデザイン」を行うこと、それがビジネスの成功につながることを提言しています。

詳しくはこちら>>

ウェルビーイングは、個人が肉体的、精神的、社会的に満たされた状態です。そして、そのような人々が集まることによって企業や社会全体のウェルビーイングにつながります。
価値観の大きな転換期を迎えているいま、ウェルビーイングの取り組みはこれまでのやり方では行き詰っていた課題を解決し、新たな価値を生み出す可能性を持っています。持続可能な経営のため、企業はウェルビーイングに積極的に取り組むべきであることは間違いないでしょう。

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。

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SDGsの基礎知識