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【2023年版】 ウェルビーイングとは? いま注目される理由と、SDGsや経営の視点からみた重要性|SDGsにまつわる重要キーワード解説

2023年06月30日

企業のあり方や個人のワークライフバランスが見直される中、これからの時代の中心的な考え方として注目されているのが「ウェルビーイング」です。
本記事では、ウェルビーイングの基礎知識やSDGsとの関係、事例などを紹介しています。ここでウェルビーイングの全体像を知り、企業経営に取り入れるヒントとしてください。

ウェルビーイングイメージ画像

ウェルビーイングとは

ウェルビーイングの意味と定義

「ウェルビーイング(well-being)」は、健康、幸福、福祉などに直訳されます。このことばが初めて登場したのは、1946年の世界保健機関(WHO)設立時です。

世界保健機関憲章では、「健康とは、単に疾病がない状態ということではなく、肉体的精神的、そして社会的に、完全に満たされた状態にある」とするなかで「ウェルビーイング」を使用しています("Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.")。

Health:健康」は、狭い意味での心身の健康のみを指すのではなく、感情として幸せを感じたり、社会的に良好な状態を維持していることなど、全てが満たされている広い意味での「健康」である、と解釈できます。
また「Social well-being」は、広い意味でよい社会であると同時に、家族や友人、職場の仲間などごく近しい人間関係においても良好である、と考えるのが適切でしょう。

似たようなことばとの違いについて見てみましょう。満たされた状態が持続することがウェルビーイングであるのに対し、Happiness「幸福(Happiness)」は、一時的な幸せの感情を指すことばです。

また、医療や福祉の分野で使われる「ウェルフェア」ということばもあります。ウェルフェアは福祉という意味ですが、福利厚生という意味で使われることも多くあります。社会弱者を救済するという保護的な考えが含まれており、ひとりひとりが尊重され自己実現していくウェルビーイングとはやや意味合いが異なります。ウェルフェアは手段でウェルビーイングは目的、という文脈で使い分けられることも多いようです。

ウェルビーイングを感じる若者イメージ

5つの要素による構成

ウェルビーイングの概念として有名なものに、「PERMA」という指標があります。これは、「ポジティブ心理学」という自己実現理論を唱え発展させた、マーティン・セリングマンによって考案されたものです。
人は以下の5つの要素を満たしていると幸せである、とするもので、頭文字をとって「PERMA」と呼ばれています。

  • Positive Emotion(ポジティブな感情)
  • Engagement(何かへの没頭)
  • Relationship(人との良い関係)
  • Meaning and Purpose(人生の意義や目的)
  • Achievement/ Accomplish(達成)


また、世論調査やコンサルティング業務を行うアメリカのギャラップ社が定義した5つの要素もよく知られています。

  • Career Wellbeing:仕事に限らず、自分で選択したキャリアの幸せ
  • Social Wellbeing:どれだけ人と良い関係を築けるか
  • Financial Wellbeing:経済的に満足できているか
  • Physical Wellbeing:心身ともに健康であるか
  • Community Wellbeing:地域社会とつながっているか

この分野の研究はこれまで欧米がリードしてきましたが、近年は日本でも東洋と西洋、集団主義と個人主義などの違いに着目し、また日本の国民性を考慮に入れたウェルビーイング研究が進められています。

注目されている政治的・社会的背景

ここのところ、ウェルビーイングにいっそうの注目が集まってきた要因や背景についても考えてみます。

・価値観の変化
ウェルビーイングが注目されるようになった第一の理由に「モノ」から「心の豊かさ」へと価値観が変化してきたことがあげられます。

効率や利益、売り上げなどの経済指標を優先してきた結果、格差の拡大や地球環境の悪化、貧困などさまざまな問題が起きました。これらはこれまでの「モノ」の価値観では解決できない課題ばかりで、成長を追い求めることに限界がきていると認識され、地球規模で調和やよりよい社会をつくる方向へと変わろうとしてきたのです。

・働き方改革
日本では高度経済成長期を経て、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少に直面し、さらにブラック企業の社会問題化もあって、働き方の多様化が進みました。政府は一億総活躍社会の実現を掲げ、2019年から働き方改革関連法の施行を開始しました。

この法律は、働くひとりひとりが多様な働き方を選択でき、より良い将来の展望を持てるようになることを目指したものです。長時間労働の是正、雇用形態にかかわらない公正な待遇、高齢者や女性の就労促進などが掲げられています。ただし、働き方改革の関連法案にはウェルビーイングということばは入っていません。

・健康経営
経済産業省が推奨する「健康経営」によって、企業の健康への関心も高まりました。健康経営とは、健康管理を経営的な視点でとらえ、従業員への健康投資が生産力の向上、ひいては企業の業績向上につながることを期待する経営手法をいいますが、当初は心身の健康増進にとどまる傾向がありました。

・新型コロナウイルス感染拡大
働き方改革や健康経営によって取り入れられるようになったウェルビーイングの視点が、より重要視されるようになった背景に、コロナ禍における価値観の変化があります。リモートワークが普及し、自分らしい働き方を考え直す人も増えました。しかしその一方でコミュニケーション不足やメンタルヘルスの問題も指摘されています。

・大阪万博のテーマに
これらの時代背景とともに計画が進められてきた大阪万博(2025年開催予定)のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」です。そのままウェルビーイングの考え方と重なるこのテーマが、どのように万博に反映されていくのかが注目されます。

国内の大きな動きとしては、2021年に政府が毎年発表する「成長戦略実行計画」において、「国民がwell-beingを実感できる社会の実現」という文脈でウェルビーイングが登場しています。またイギリスに続き、世界で2番目に「孤独・孤立対策」の担当大臣が任命されました。

さらに2021年9月には、「日経Well-beingシンポジウム」が開催され、政府や企業関係者、有識者等によって、ウェルビーイングの実現へ向けた議論が行われています。2021年は、日本におけるウェルビーイング元年となりましたが、今後もウェルビーイングに向かう時代の流れは進んでいくでしょう。

笑顔イメージ

2023年の世界幸福度ランキング

国際連合の「持続可能開発ソリューションネットワーク」が毎年発行している世界各国の幸福度を調査した「世界幸福度報告」は、ニュースなどで目にした方も多いことでしょう。

その最新となる2023年の世界幸福度ランキングで、日本は世界47位に位置しています。2021年は56位、2022年は54位で上昇は見られるものの、先進国の中ではまだまだ下位にとどまる(G7では最下位)という結果でした。アジアではシンガポールが25位でトップでした。

調査された項目のうち、ランキング上位の国々と比べると「健康寿命」は上回っているものの、「人生の自由度」「他者への寛容さ」「社会的支援」「経済水準」など、多くの項目で下回っている傾向が見られました。

この世界幸福度ランキングは世論調査によるもので、アンケートの表記内容や国ごとの価値観、経済規模などの影響を受けるため、主観的な傾向があり結果がすべてではありません。しかし、個々の事情に合った働き方ができる労働環境が充分でない、ジェンダーや学歴などの属性が生活に影響することも多い、といった印象が強い日本において、この結果は納得しやすいものであるでしょう。

日本のウェルビーイングは、まだスタート地点に立ったばかりだと言えるかもしれません。

世界幸福度ランキング2023上位国

世界幸福度ランキング2023の上位国(World Happiness Report 2023より抜粋)

SDGsとの関連

ウェルビーイングと、世界の共通目標であるSDGsは、ともに現代社会に必要不可欠なものです。

SDGsの目標3には、
「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」―あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
とあります。

ここでのウェルビーイングは「福祉」と訳され、ターゲットを見ても、妊産婦や新生児の死亡率、感染症対策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジなどについて示されているように、「健康」「福祉」などの意味あいが強く感じられます。

しかし全体で捉えると、SDGsは「地球上の誰一人取り残さない」、経済・社会・環境の3つのバランスがとれた社会を目指すものです。

ウェルビーイングも、単に個人が幸せであればいいのではなく、個人と社会、ひいては地球全体が満たされた状態とは何かを考えるべきものです。ウェルビーイングは、SDGsを達成するための価値観の基準であるとも言えるでしょう。貧困がなくなり、質の高い教育を受けることができ、人や国の不平等がなくなり、17の目標を達成した先にあるのが、地球全体のウェルビーイングであるはずです。

ウェルビーイングと経営


VISION ZERO(ビジョンゼロ)活動とは

2017年のINTERNATIONAL SOCIAL SECURITY ASSOCIATION(国際社会保障協会)で、「『安全・健康・ウェルビーイング』の3つの次元で職場における事故と疾病を予防する革新的アプローチ」として定められ、ゼロアクシデントを目指すのがVISION ZERO(ビジョンゼロ)の活動です。

国際労働機関の報告によれば、世界中で毎年3億1700万件もの事故が職場で発生し、その経済的負担は各年の世界全体の国内総生産の4%に相当しています。そして、「安全と健康への働く環境・条件を整えることは、企業にとって最も大切な資産である従業員の身体、精神の健康バランスを守り、モチベーションの向上、ディーセントワークを生み出すことになる」としています。

産業の安全化を推進する一般社団法人 セーフティグローバル推進機構では、VISION ZEROの活動が企業のリスク回避、製品の品質・サービスひいては顧客満足度のアップ、企業価値の向上へと繋がり、良好な循環となって社会・経済・ビジネスに大きなプラスとなることを強調しています。

そして、企業が「VISION ZERO宣言」を掲げ、トップを始めとしたリーダーがその重要性を認識し、信頼関係のもとでオープンなコミュニケーションができる雰囲気作りをすることが重要である、としています。

経営にもたらすメリット

それでは、企業が経営にウェルビーイングの考え方を積極的に取り入れることによって、どのようなメリットがあるのかあらためてまとめてみましょう。

・生産性/品質サービス/顧客満足度などの向上
従業員が心身ともに健康になり、ひとりひとりが意欲的に業務に取り組むことができれば、企業の生産力、製品の品質、サービスなどがアップし、顧客満足度の向上につながります。

・人材の確保
ワークライフバランスや多様な働き方が実現できる企業であれば、人材の流出を防ぐことができると同時に、優秀な人材の確保にもつながります。就職や転職活動をする際、以前のように給与ばかりが重要視されているわけではありません。ひとりひとりが自分らしい働き方を実現できる企業であることは、大きな強みになります。

そして心身ともに健康で多様な人材が確保できれば、さまざまな角度からのアイデアが集まり、イノベーションの可能性も広がります。幸福感の高い社員はそうでない社員に比べ、創造性は3倍、生産性は31%高いという研究レポートもあります。企業にとって、ウェルビーイングがどれだけ重要であるかを示唆する報告といえるでしょう。

・企業価値の向上
近年ESG投資、つまりEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)に配慮している企業に積極的に投資する動きが活発になっています。特にこの中でも「Social」には、ジェンダー格差の撤廃や労働者の権利の保護、ダイバーシティやワーク・ライフ・バランスの確保などが含まれており、ウェルビーイングと重なる部分が多くあります。

ウェルビーイング経営への取り組み

ウェルビーイング経営を実現させるために検討してみるとよいとされる取り組みとしては、次のようなものが挙げられます。

・良いコミュニケーション環境をつくる
良好な人間関係が築けている職場は、そうでない場合に比べて生産性が高いと言われます。より良いコミュニケーションを取れるような機会やスペースを作ったり、社員用のコミュニケーションツールを導入するとよいでしょう。もちろん場所だけでなく、誰もが発言しやすい環境をつくることも大切です。

職場のコミュニケーション風景

・健康増進
やりがいを持って働くためには心身が健康であることが重要です。健康診断や予防接種の実施はもちろん、ストレスチェック、産業医への相談窓口やフィットネスなどの健康施設の設置も有効です。

・労働環境の見直し
長時間労働の是正はもちろんですが、仕事や個人に合った多様な時間・場所などの勤務形態、有給休暇や育児休暇取得がしやすい雰囲気づくりなど、柔軟な働き方ができる労働環境を作ることが望まれます。

・ヴィジョンの共有
働き方や組織の多様化が進む中では、企業の存在意義や長期的なビジョンなどを経営者が積極的に発信し、共に向かう方向を示すことが必要です。

取り組む場合の注意点

ウェルビーイングは、時代によって定義が変化していくものと考えられます。多様性の時代では、満たされている状態がどのような状態であるか、人によってさまざまです。決めつけによる価値観で取り組むのではなく、進めていく中で時代の変化や個々の事情を取り込みつつ、柔軟に対応していくことが大切になるでしょう。

企業の取り組み事例


海外先進企業の取り組み

・グーグル
グーグルは、チームの生産性を高めるために4年をかけて「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれる調査を行いました。その結果、チームに必要ないくつかの要素のうち、「心理安全性」が最も重要という結果を導き出しました。

心理安全性とは、チーム内では対人関係においてリスクのある行動をしても安全である、という思いが共有されていることです。この「心理安全性」によって、積極的にアイデアを提案できるようになったり意見交換が活発に行われるようになり、生産性の向上へつながるのです。グーグルでは、心理安全性を高めるため、リーダーとメンバーが定期的に面談を行い、仕事の悩みや今後のキャリア、目標などについて対話を行っています。

日本企業の取り組み

・楽天
創業メンバーである小林正忠氏が、CWO(チーフ・ウェルビーイング・オフィサー)の役割を担い、カフェテリアやフィットネスなど健康を支える事業を行う「ウェルネス部」、従業員と組織のつながりを高める「エンプロイーエンゲージメント部」、情報発信などに係る「サスティナビリティ部」の3つの部署を設け、個人、組織、社会のウェルビーイングに取り組んでいます。

また「持続可能なチームを作るためには、「仲間・時間・空間の『三間(さんま)』に余白を設ける」ことの重要性を提唱するなど、独自に行ったさまざまな研究成果を企業や個人に向け公開しています。

・味の素
「味の素グループで働いていると、自然に健康になる!」を目指し、さまざまな取り組みを行っています。従業員が自分の健康状態を確認できる専用ウェブサイト「My Health」の設置のほか、「全員面談」を掲げ、個々の状態に合わせたフィジカルヘルスとメンにタルヘルスをサポートしています。
さらに働き方改革として、時間帯や場所を選ばない「どこでもオフィス」の導入や、所定労働時間の短縮、質と効率を高める会議の見直しなどを行っています。

Z世代とウェルビーイング

今後の企業活動や消費の中心となっていくいわゆるZ世代は、ウェルビーイングな社会づくりの中心となる可能性を持っています。

そもそもZ世代は、その前のミレニアム世代から上の世代と違い、自分らしい生き方へのこだわりが強く、また依存関係が強かった企業への帰属意識もこれまでとは異なります。個々を尊重するウェルビーイングの考え方に共鳴する部分が多い世代といえるでしょう。

また「モノよりも、体験をはじめとした精神的な充足を重んじる」Z世代の特徴も、ウェルビーイングの概念と近いものです。Z世代が企業活動の中心世代となっていく過程が、そのままウェルビーイングな企業の増加や発展につながっていくかもしれません。

ウェルビーイングを知るための本

「ウェルビーイング」 (日本経済新聞出版)書影
「ウェルビーイング」  
前野 隆司・前野 マドカ(著)/日本経済新聞出版

夫婦でウェルビーイングの研究を10年以上続ける著者が、ウェルビーイングとは何か、基本的知識をわかりやすく解説した一冊。ウェルビーイングの多彩な研究や、企業の取り組み事例も多く紹介されています。

詳しくはこちら>>
「ウェルビーイングビジネスの教科書 」  (アスコム)書影
「ウェルビーイングビジネスの教科書 」  
藤田 康人・インテグレートウェルビーイングプロジェクト(著)/アスコム

自分らしく、心も体も健やかに生きるウェルビーイングの世界的なムーブメント。この本では、ウェルビーイングの視点から商品の価値を見直し、開発やマーケティングに活かす「関係性のリデザイン」を行うこと、それがビジネスの成功につながることを提言しています。

詳しくはこちら>>

ウェルビーイングは、個人が肉体的、精神的、社会的に満たされた状態です。そして、そのような人々が集まることによって企業や社会全体のウェルビーイングにつながります。
価値観の大きな転換期を迎えているいま、ウェルビーイングの取り組みはこれまでのやり方では行き詰っていた課題を解決し、新たな価値を生み出す可能性を持っています。持続可能な経営のため、企業はウェルビーイングに積極的に取り組むべきであることは間違いないでしょう。

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

SDGsをより深く理解し、その実現のために少しでも役立てていただけるよう、関連する知識や事例などの情報をお届けします。

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