2022年06月08日
大量生産・大量消費の時代から、持続可能なモノづくりの時代へとシフトする中、SDGs達成のための手段として注目されているのがアップサイクルです。本記事では、アップサイクルの意味や、リサイクルやダウンサイクルなどとの違い、さまざまな業界の事例などを紹介しています。SDGsへのアプローチの方法のひとつとして参考にしてください。
アップサイクルは、本来は捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生することで、「創造的再利用」とも呼ばれています。デザインやアイデアによって付加価値が与えられることで、ものとしての寿命が長くなることも期待できるため、製品のアップグレードと捉えることもできます。
アップサイクルという言葉は、1994年にドイツの企業「ピルツ」のレイナー・ピルツ氏がメディアに向けて語ったのが始まりとされていますが、アップサイクルの考え方自体は、もっと以前からありました。1800年代には、アメリカの思想家ラルフ・ワルド・エマソンが「自然界には寿命を終えて捨てられるものはない。そこでは最大限利用された後も、それまで隠れていた全く新しい次のサービスに供される」と語っています。
資源の乏しい日本では、再利用する文化は古くから根付いていました。例えば、陶器などの割れやひびを漆でつなぎ、継ぎ目を金や銀で装飾する伝統技法「金継ぎ」は、室町時代から行われていたと言われます。「もったいない」は、今や世界の共通言語となった日本の文化です。
大量廃棄を生み出す大量生産、大量消費の社会に代わり、持続可能な社会への転換が差し迫った課題となっている今、アップサイクルがあらためて注目されています。
リサイクルは、廃棄されるものの中から使えるものを取り出し、原料や材料として再利用することです。廃棄されるものを再利用するという点ではアップサイクルもリサイクルも同じですが、アップサイクルは原料や材料に戻すのではなく、元の製品の素材をそのまま生かすという特徴があります。
アップサイクルは、製品を原料に戻す際にエネルギーを必要とするリサイクルより、さらに持続可能な再利用の手法であると言えます。リサイクルの代表例としては、ペットボトルを原料にした繊維で作られる衣類や、紙ごみから作る再生紙、トイレットペーパーなどがあります。
アップサイクルと反対の意味を持つのがダウンサイクルです。ダウンサイクルも新たな価値を生み出しますが、その価値は元の製品よりも下がってしまうことが、アップサイクルと異なる点です。たとえば、古くなった洋服を雑巾にすることなどが該当します。ダウンサイクルは、近いうちにゴミになる可能性が高いため、持続性の低い再利用であり、製品のダウングレードと捉えることもできます。
その他に混同しやすい言葉として、リメイク、リユース、リデュースがあります。
リメイクは、古い製品にアレンジを加える方法です。廃棄されるはずの元の製品の特性や素材を生かすという点では同じです。しかし、リメイクでは必ずしも価値が高まるわけではなく、価値の上昇に重点を置くアップサイクルとは異なります。
リユースは、一度使われた製品にアレンジを加えることなく、そのまま繰り返し使うことを言います。不要になった服を必要としている人に譲ったり、フリマアプリで販売したりして他の人に使ってもらうことや、壊れた家電製品を修理して使うことがリユースです。
リデュースは、そもそも廃棄物を出さないようにすることを言います。買い物の際にレジ袋ではなくエコバッグを使用することや、無駄な買い物はしない、買った製品は長く大切に使うことなどがリデュースです。企業が製品を作るときに、使う資源を少なくしたり、耐久性を向上させたりすることもリデュースに含まれます。
リメイク、リユース、リデュースを合わせて3Rと呼び、環境を守るためのごみ削減の取り組みとしてよく知られています。3Rには優先順位があり、まず第一にゴミを減らすリデュース、そしてできる限りゴミにしないリユース、最後に再利用できるものを再利用するリサイクル、と続きます。3Rは循環型経済システム(サーキュラー・エコノミー)を構築するための基本的な考え方とされています。
SDGsの17の目標のうち、アップサイクルと一番関わりが強いのが、目標12「つくる責任 つかう責任 ──すべての人の意識と行動をシフト」です。
これまで私たちは、大量の資源やエネルギー使って大量の製品を生み出し、消費して廃棄するという経済システムに身を置いてきました。しかし世界の人口が増加し、限られた地球の資源は枯渇しつつあります。持続可能な生産消費形態を確保するため、商品やサービスを生産する側も消費する側も、行動を変えていく必要があります。
ターゲットを見てみると、
12.2「2030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する」
12.5「2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する」
とあります。また、
12.8「2030年までに、人々があらゆる場所において、持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つようにする」
とあるように、すべての人に意識を変え行動を起こしていくよう、呼びかけています。
プラスチックゴミの削減は、目標14「海の豊かさを守ろう ──海洋保全から廃プラ問題まで」、生産や廃棄に関わるエネルギーが削減できれば、目標13「気候変動に具体的な対策を ──広い視野で身近なアクションから」の達成につながります。アップサイクルのために生まれるイノベーションや働く環境は、目標8「働きがいも経済成長も ──豊かに生きるベースづくり」にも関わります。
SDGsは目標であり、どのようにしたら達成できるのかという手法は示されていません。アップサイクルは持続可能な社会のための、具体的な手段のひとつと言えるでしょう。
ここ数年、SDGsの認知度が広がるとともに、資源の有効活用やゴミ削減への意識も高まっています。アップサイクルは、持続可能なものづくりという側面だけでなく、デザインやアイデアによって、さまざまな価値をプラスすることができる手段です。
またコロナ禍によるライフスタイルの変化は、必要以上にモノを持たない、購入しないという意識の変化をもたらしました。人や社会、環境、地域などに配慮したエシカル消費を取り入れている人も多いでしょう。
このような背景から、アップサイクルされた商品を購入するのはもちろん、個人でアップサイクルを試みる人も増えているようです。
新たな発想でアップサイクルに取り組むことは、価値のアップグレードだけでなく、他業界への進出や、他業界とのパートナーシップなど、企業の成長戦略としても重要なポイントになりそうです。
たとえば独自の発酵技術を持つ企業ファーメンステーションは、他企業とのパートナーシップによって、未利用資源 再生・循環に取り組む企業です。カルビーから提供された規格外のじゃがいもを原料とした発酵アルコールで、天然由来成分99%の「じゃがいもとお米の除菌ウエットティッシュ」を商品化しています。スナック菓子メーカーの廃棄物が、日用品という別の事業につながった一例です。
新しい技術で、アップサイクルまたはアップサイクルをサポートするビジネスを展開する企業の動きも出てきました。
AIとブロックチェーンというIT技術によって、廃棄物を出す企業とそれを素材として活用したい企業を結びつけるマッチングプラットフォームを開発したのが、アムステルダムの「Excess Materials Exchange」です。オレンジの皮をバイオガスやフレグランス、家畜飼料などに活用するなど、多くの事例を生み出しています。
ここでは、業界を超えて、素材の価値を最大化し再利用できる選択肢が提案されていますが、さらにブロックチェーン技術によるトレーサビリティも確保されています。
・省エネルギー効果
アップサイクルは、製品をそのまま生かす方法です。そのためリサイクルのように、分解したり溶かしたりして原料に戻す際のエネルギーが不要です。これは地球への負荷の軽減にもつながります。
・コスト削減
アップサイクルは、原料に戻すためのコストがかからず、そのための工場も必要ないため、再利用におけるコストを抑えることができます。また、代替素材として活用することで、素材の仕入れコストの削減が叶うこともあります。
・企業のPR効果
近年、環境、社会、ガバナンスに関わるさまざまな問題を解決しながら、持続可能な経済成長を目指すESG経営が広まっています。アップサイクルによる製品を展開することは、環境負荷を考慮した持続可能なモノづくりを行っていることの表れです。消費者や投資家の目に触れやすくなり、社会的な評価を高めることにもつながるでしょう。
廃棄物を価値あるものへアップグレードするということは、見方を変えれば、廃棄物があることが前提になっていると言えます。アップサイクルは持続可能な社会のために重要な役割を持つと考えられますが、廃棄物があるという現状に対する解決策のひとつです。また、安定した廃棄物(素材)を回収できるかどうかも関わってきます。アップサイクルは手段であり、前述した資源が循環する経済システム、いわゆる「サーキュラー・エコノミー」を構築していくことが求められています。
サーキュラー・エコノミーの3原則として、推進団体であるエレン・マッカーサー財団は以下を掲げています。
「自然を再生させる」とは、製品を自然が持つ循環に戻していくことが必要だ、という考え方です。
アップサイクルは、製品の価値を高め寿命を伸ばすとはいえ、モノはいずれ破棄されます。製品を自然の持つ循環に戻していくためには、もとの製品の素材が環境に負荷をかけるものであってはならない、という視点も忘れないようにしなければなりません。
生産時の二酸化炭素排出量や水の使用料、シーズンごとの大量廃棄などの問題を受け、特にアップサイクルに力を入れているのがアパレル業界です。
FREITAG
アップサイクルの元祖とも言えるのが、マーカス・フライターグとダニエル・フライターグ兄弟が創立したスイスの企業「FREITAG(フライターグ)」です。フライターグの製品は、中古のトラックの幌と捨てられた自転車のチューブとシートベルトで作ったメッセンジャーバッグから始まりました。使用されるトラックの幌はヨーロッパ各地からチューリッヒに集められ、手作業でカッティングされます。生地に浸み込んだ汚れも傷もそのままデザインとして利用する、オンリーワンの製品です。トラックの荷物を守るための布ですので、強度や撥水性はお墨付きです。
ビームス
日本を代表するセレクトショップである「ビームス(BEAMS)」から、アップサイクルのブランドとして2017年にデビューしたのが「ビームス クチュール(BEAMS COUTURE)」です。
倉庫に抱えていたデッドストック品に古着やリボンのパーツなどを取り入れるユニークな発想と丁寧な手仕事で、「新たな価値を持った一点モノ」によみがえらせています。2021年には、このプロジェクトに共感を寄せた、ニューヨーク発のグローバル・ライフスタイルブランド「kate spade new york」とのコラボーレーションも実現しました。
また廃棄衣料削減に向けたさらなる取り組みとして、デッドストック品を新たな商品へとアップサイクルさせるプロジェクト「リ・ビームス(ReBEAMS)」もスタート。デッドストック品から作った完全一点モノのトートバッグ販売などを進めています。
フードロスが問題となっている食品業界でも、さまざまなアップサイクルの取り組みが進められています。
ミツカン
スローガンである「やがて、いのちに変わるもの。」の視点を通して、ミツカンが10年後の人と社会と地球のために始動したプロジェクトが「ZENB」です。ここでベースとなっているのは、野菜、豆、穀物などの素材を可能な限りまるごと使い、旨味と栄養を引き出す技術開発です。
このプロジェクトからは、増粘剤などのつなぎを使わず、うす皮もまるごと使った黄えんどう豆100%の「ZENBヌードル」や、素材の特性に合わせて濃縮する方法で本来持つおいしさを引き出した「ZENBペースト」などの商品が生まれています。資源の有効活用による地球環境への貢献はもちろん、栄養素をしっかり摂ることで人の健康につながることを目指しています。
オイシックス・ラ・大地
「これからの食卓、これからの畑」の経営理念のもと、フードロス削減につながる活動を積極的に進めているのが、オイシックス・ラ・大地です。なすのヘタをココナッツオイルでカリッと揚げ、黒糖でかりんとうのように仕上げた新感覚のチップスや、加工時に廃棄されていた有機バナナの皮を使用したジャムなど、より環境負荷の低いアップサイクル商品を開発しています。一製品あたりの食品ロス削減量も表示しており、削減効果を数値で実感することができます。
オイシックス・ラ・大地「フードロス削減アクション」で紹介されているアップサイクル食品の取り組み
海外では、アップサイクル食品の認証制度もスタートしています。アメリカに本部を置くアップサイクル食品協会(UFA)は、アップサイクル食品について「本来であれば人間の消費にまわらない原材料を使い、検証可能なサプライチェーンにおいて調達し生産された、環境に良い影響を与えるもの」と定義しています。認証された企業やブランドの製品には、認証マークをつけることができます。(参考:https://www.upcycledfood.org/)
コーセー
コーセーは、使わなくなった化粧品を色材へとアップサイクルする「SminkArt」(株式会社モーンガータ)事業に賛同し、製品の廃棄を減らしながら新たな価値を持たせる取り組みを進めています。また、メイクアップアーティストブランド「アディクション」2022年サマーコレクションでは、リサイクル素材を使用してひとつとして同じ模様にならない"アップサイクルなコンパクトケース"が限定発売されました。国籍、年齢を問わず自分らしいスタイルを求めるすべての人たちへ向けたブランドから、「世界に1つの自分だけのもの」を提案しています。
upcycle intetior
upcycle intetiorは、家具やインテリアのアップサイクル商品に特化したセレクトショップです。捨てられるものを遊び心で再定義し、新品には出せない「味」と「物に込められた思い」を楽しむライフスタイルを提案しています。学生時代に使っていた懐かしい学校の備品をインテリア製品にアップサイクルするオリジナルブランド「tumugu upcycle furniture」の展開のほか、全国のデザイナーやブランドから厳選した素材1点1点に物語のある商品を扱っています。
K i N a K o
アクセサリーブランド「KiNaKo(きなこ)」は、建築物の端材や、取り壊すときに出る廃材を、一点もののピアスやリングなどに生まれ変わらせています。愛着のある家や思い出のつまった空間のカケラを身に着けることで、記憶や思いを受け継ぐことを意図しています。それぞれのストーリーと、どこにもないデザインが魅力の製品となっています。
環境問題への取り組みやライフスタイルの変化などで、消費者の意識や行動に変化が起き始めています。私たちの目指す持続可能な社会において、アップサイクルの市場はさらに広まることが予想されます。
アップサイクルには課題もありますが、これに取り組むことは新たなビジネスチャンスを見出すことにつながるかもしれません。アップサイクルは、今後の企業戦略に欠かせないキーワードの一つとなりそうです。