温室効果ガス問題を中心に考える、住まいとSDGsの関係|SDGsと衣食住【第4回】

2022年12月08日

SDGsのアプローチは、ともすれば国際機関や国家、あるいは大企業といった大きな主体が取り組むべきものと思われがちです。
しかし、将来の世代に持続可能な地球を残すために、私たちの暮らしは変わらざるを得ません。政治や行政、ビジネスの変化をただ待つだけではなく、市民の生活や消費のスタイルも変化させる必要があります。
本連載では、私たちの日々の衣食住とSDGsの各目標との関係を整理し、持続可能な未来のためのライフスタイルについて想い描きます。


私たちのくらしを支える三大要素である衣食住をSDGsの視点から検討する本連載。今回と次回は「住」について考えていきたいと思います。SDGsの17の目標は、私たちの住まいとどう関連するでしょうか。

「1.5℃ライフスタイル」と住

住まいとSDGsの関連について考える際、公益財団法人地球環境戦略機関が2020年に公表した「1.5℃ライフスタイル」という報告書がひとつの手がかりとなります。

1.5℃目標とは気候変動に関する目標で、「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える」ことを意味します。2015年12月に採択されたパリ協定では努力目標として掲げられましたが、2021年11月にイギリスのグラスゴーで開催された気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では、締約国が共通して取り組む目標として合意されました。先日までエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されていたCOP27においても、引き続き1.5℃目標達成に向けた取り組みが必要であると合意されました。

「1.5℃ライフスタイル」報告書では、ライフスタイル・カーボンフットプリント※という指標を用いて、日常生活での消費や行動が気候変動に与える影響を推定しています。そこで日本、フィンランド、中国、ブラジル、インドを対象として日常生活と温室効果ガスの排出について推定された結果をみると、日本のライフスタイルで排出に最も大きな関わりをもつ領域は、住居であることが示されています。では、住居のどの部分で排出が大きいのでしょうか。

※カーボンフットプリント:温室効果ガスの排出量を可視化するしくみ

家庭におけるエネルギー消費の実状とその見直し

報告書を読み進むと、住居に関連するカーボンフットプリントの約8割は、直接的なエネルギー消費から発生していることがわかります。つまり、建造や維持管理のプロセスではなく、住宅内で、日々どのようにエネルギーを消費しているかというライフスタイルの部分が大きく関与しているのです。

住宅に関連して排出量が大きくなる要因としては、2つを指摘することができます。ひとつは、エネルギー源の問題です。家庭におけるエネルギー源別消費の推移を示すと図1のようになります。

図 1 家庭部門におけるエネルギー源別消費の推移

※エネルギー白書(2022)をもとに筆者作成

1965年、1973年、2020年の3か年を比較すると、右肩上がりで家庭におけるエネルギー消費量が増えています。また、種類に目を向けると、1965年には石炭が大きな割合を占めていましたが、次第に電気の割合が大きくなり、2020年にはおよそ半分が電力に由来する一方で、石炭は全く利用されていません。現在の家庭のエネルギー消費は、主に電気、ガス、灯油が源であり、太陽熱他はまだまだわずかな割合に留まっています。

およそ60年間のライフスタイルの変遷の結果、家庭で直接的に化石燃料を消費する割合は減りました。しかし、日本では系統電力の大半が化石燃料発電で供給されているため、住まいの中で消費されるエネルギーは、依然としてその多くを化石燃料に頼っているといえるでしょう。

では脱炭素に向け、家庭におけるエネルギー消費で化石燃料への依存度を下げるにはどうすればよいでしょうか。それには、(1)電力契約を切り替える、(2)系統電力によらず住宅内でエネルギーをつくる、(3)薪ストーブを取り入れる などの対策が考えられます。

電力契約の切り替えはもっともハードルの低い対策です。生活はそのままに、ただ家庭に供給される電力の契約を見直すだけです。2016年に電力小売事業が全面自由化されて以来、電力の契約先には多くの選択肢が生まれました。東京電力や関西電力など、いわゆる大手の電力会社でも、個人向けに再生エネルギーに由来する電力を供給するメニューを用意していますし、地域内で再生エネルギーによる発電を行い、それを販売する事業者も増えています。

電力メニューを切り替える消費者が増えれば、電力会社に対するアピールとなります。また、大手電力から地域新電力への契約変更は、地域内経済循環にも寄与します。

住宅内でエネルギーを作る取り組みは、創エネと呼ばれ、最近、注目を集めています。太陽光パネルを屋根に設置したり、都市ガスを用いて電気と熱を同時に生み出すコジェネレーションなどの設備は広く普及しています。電気自動車を導入すれば、ガソリンの利用を削減できますし、作ったエネルギーをためておく蓄電池としても利用できます。既存の電力網から独立した電力自給の仕組みをもつことは、災害時の備えとしても心強いでしょう。

薪を燃やして家を暖める薪ストーブは古くからある暖房器具ですが、ここ数年、静かなブームとして愛好者が増えています。子どものころに、家庭や小学校で薪ストーブを使ってあまり快適ではなかった覚えのある方もいらっしゃるかもしれませんが、現代の薪ストーブは格段に性能が向上したうえ取り扱いもしやすくなり、さらにデザイン性に優れた機種が多く販売されています。

燃料となる薪についても、販売拠点が増えてきました。日本の森林では戦後の復興期に植えられた木が、十分に利用されておらず、手入れ不足になっていることが多いですが、薪を作って販売することは地域の森林の手入れを進めつつ新たな収入の手段を作る試みになりえます。全国各地で森林組合などの林業事業者や、自伐林家と呼ばれる自営型の林業を営む人たちによって、薪づくりの事業化が行われており、薪ストーブ販売店と連携した取り組みもよく見られます。

このように家庭で消費されるエネルギーを見直し、代替手段へとシフトする取り組みは、第一にはSDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」を、そして目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」を目指すものです。

同時に地域新電力への切り替えや地域で生産される薪を燃料として利用することは、地域内経済循環への貢献でもあります。消費を通じて持続可能性の高い製品やサービスを積極的に選択していることから、目標12「つくる責任、つかう責任」にもつながっています。さらに薪の積極的な利用は森林整備を進め、目標15「陸の豊かさも守ろう」にも貢献します。

家庭における省エネ

図1に示すように家庭におけるエネルギー消費量は年々増えていますが、電化製品の普及を考えればこれは当然のことと思われるかもしれません。しかし、この中で特に見過ごせないのが空調です。エネルギー白書によれば、家庭におけるエネルギー消費のうち、暖房(25.1%)や給湯(27.8%)が大きい割合を占めています。これに対し、冷房(2.4%)はそれほど大きくありません。前述のエネルギー源構成にみられるガスや灯油も、多くは暖房や給湯のために利用されています。

筆者のように、徒然草に「家の作りようは夏をもって旨とすべし」とあることを思い出し、「温暖湿潤な日本の気候風土では、住宅建築には暑さ対策が最重要」と、思っていた方も多いのではないでしょうか。

実際に日本では、住宅における断熱の取り組みはなかなか普及せず、意識啓発も長らく進みませんでした。北海道の方はよく「東京や大阪では家の中が寒い!」とおっしゃるように、特に本州の寒冷地とまではいえない地域では、住宅の断熱に対する感覚が希薄であるように感じます。家を温めたりお湯を使う際に排出が大きくなっていることから考えると、隙間風が吹くような寒い家では排出が下がるわけはありません。

住宅は個人の財産ですが、街並みを構成し、所有者だけでない多くの人に影響を及ぼす存在です。そのため国は建築基準法を定め、「国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資する」ことを目的として、住宅についても最低限適合するべき基準を定めています。たとえば地震や台風などの自然災害、あるいは火災などに対する基準があることはよく知られています。

しかし日本は、1973年のオイルショック以降さまざまな分野で省エネに取り組んだ省エネ先進国でありながら、住宅の省エネ基準についてはずっと義務付けのないまま来ていました。諸外国では、建築基準のひとつとして住宅の断熱性能について義務化されています。その結果「先進国においてどこでも無断熱の住宅を建てることができるのは日本だけ」とまで言われるようになってしまいました。

国土交通省もこの問題を座視していたわけではなく、省エネ住宅や低炭素住宅など複数の検討会を立ち上げ、いくつかの枠組みを作ってきました。これらはもっぱら自主的な取り組みとして推奨されるにとどまり、義務化には至っていなかったものの、2022年6月にようやく建築物省エネ法が改正され、省エネ基準における「断熱等級4」の適合が定められました。2025年以降はこれを下回る性能の住宅は建てられなくなったのです。持続可能な住まいの普及に向け、法によるこの義務化は大きな一歩と言えます。

ただし、新たに適合が求められる「断熱等級4」は、内容としては1999年に定められた省エネ基準を踏襲したものであり、この20年間で断熱性能に関する技術向上が進んでいること、また猛暑日の増加など異常気象が頻発化していることを考えると「もっと高い基準を求めるべきではないか」という意見も出ています。

実際に、国より進んだ取り組みを行う自治体もあります。山形県では2018年に「やまがた健康住宅制度」を、また鳥取県では2020年に「とっとり健康省エネ住宅」という制度を策定しています。これらの制度では、国の基準よりも厳しい断熱性能を提示しており、それに適合する住宅の建築を推奨するために、住宅ローンの利子補給や補助金の給付などの支援措置を設けています。

では、なぜ都道府県が独自にこのような取り組みを行うのでしょうか。

断熱性能の向上は省エネや脱炭素につながりますが、それは家計にとっては「光熱費の削減」という形で現れます。加えて、健康面でも大きな意義があります。屋内に寒い場所と暖かい場所があると、両者を移動する際に温度差で血圧が上下し、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こすヒートショックという健康被害が生じます。日本の家屋ではもっぱら部屋ごとに暖房が行われているため、トイレや脱衣場などは温度が低いことが多く、東京都健康長寿医療センター研究所による調査では、「ヒートショックに関連した入浴中急死」による被害は、年間の交通事故による死者数の3倍を超えるともいわれています。

つまり、高断熱住宅を推奨することは、家計を守り健康を守るための施策となるのです。これはSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」や、目標11「住み続けられるまちづくりを」にも関わります。

持続可能な「住」への転換を誰が進めるのか

気候変動やその対策としての脱炭素をめぐって、ともすれば「エネルギー源をどう考えるか」という議論が先行しがちです。化石燃料の利用を縮小せざるを得ないのであれば、それをどう代替していくのか。自然エネルギーや再生可能エネルギーを一層拡大するべきか、あるいは原子力発電の再開もやむを得ないとするのか。ロシアのウクライナへの侵攻をきっかけに、エネルギー資源をめぐる地政学リスクに関する議論も高まっています。

しかし、この問題には魔法の解決はありません。どのエネルギー源にも長所と短所があり、また各支持者の意見もさまざまで、短期間に全員が納得できる解決に至ることは難しいでしょう。

一方「住宅や建築物の断熱性能の向上」は、利用するエネルギー源の種類によらず省エネルギーを実現する、即効性の高い取り組みです。住宅の場合、新築や断熱改修を行うと初期投資こそ大きくなりますが、長い目で見れば光熱費の削減につながり、家計にも貢献します。

脱炭素対策は、エネルギー源のシフトだけでなくエネルギー利用の効率化とセットで行われるべきですが、こと私たちの衣食住に関連する領域においては、建築物の断熱性能向上にはこれまであまり手が付けられておらず、潜在的な削減可能性が高い部分といえるでしょう。

前回まで見てきた「食」の領域と異なり、「住」の領域は公と私の双方にまたがっています。よって、規制や優遇措置等を通じて、政府や自治体による介入が効果を発揮しやすいと考えられます。断熱性能基準の引き上げや、省エネ・創エネ住宅への支援については上に述べた通りですが、公共建築物を通じた取り組みも、もっと広がるべきではないかと思います。
たとえば公営住宅の建て替え時に、断熱や創エネといった性能をもっと取り入れることができれば、光熱費負担の少ない住居を提供することができます。また、公立学校、児童館、病院、社会福祉施設などの公共建築物においても、省エネや創エネの設備を組み入れることで、人々が安心して集まる場所をつくることができますし、災害時の避難場所としての機能も高まります。

燃料費が高騰した際に、もっとも影響を受けるのは低所得者など弱い立場の人たちです。生活する上で基礎的なエネルギー需要を満たすことができない状態を「エネルギー貧困」と呼びますが、日本でも今後この問題が深刻化することが予見されています。実際、この冬はすでにかなりの燃料価格の上昇があり、多くの世帯で負担が増しています。

住宅は、本来、すべての人にとって、安心してくつろげる安全な場所であるべきものです。住宅におけるエネルギーのシフトや断熱性能の向上は、決して富裕層向けの贅沢や流行ではなく、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」に直結するテーマです。住みやすい街をつくるための公共の選択であるとして、多くの自治体で取り組みが広がることを願っています。

表 1 「住」領域とSDGsの主な関係


今回は主に住宅のありかたや家庭におけるエネルギー消費など、個々の生活のなかの「住」に着目してSDGsとの関係を見てきました。次回はもう少し視野を広げ、コミュニティやまちづくりに関わる「住」について考えます。

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SDGsの基礎知識