グリーントランスフォーメーション(GX)とは? 脱炭素と経済活性化の両軸で急ぐ変革

2023年05月19日

GXは、脱炭素と経済活性化を同時に実現する、持続可能な未来へ向けた取り組みです。大企業だけでなく、中小企業にも対応が求められるようになっているテーマで、政府もさまざまな支援策を打ち出しています。本記事では、GXの定義や政府の取り組み、そしてさまざまな事例など、GXと向き合うために知っておきたい基礎知識を解説します。

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グリーントランスフォーメーション(GX)とは

グリーントランスフォーメーションの定義

グリーントランスフォーメーション(GX)とは、脱炭素社会を目指す取り組みを通じて経済社会システムを変革させ、持続可能な成長を目指すことを意味しています。

経済産業省は「GX基本リーグ構想」において、GXを「2050 年カーボンニュートラルや、2030年の国としての温室効果ガス削減目標の達成に向けた取り組みを経済の成長の機会と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けた経済社会システム全体の変革」と定義しています。

GXは、産業革命以来続いてきた化石エネルギーに依存する産業構造を、グリーンエネルギー中心へと転換し、経済成長や雇用・所得の拡大につなげていくための最重要課題と位置づけられています。温室効果ガスの削減や再生可能エネルギーへの転換を経済的にネガティブなものとして捉えるのではなく、成長戦略として取り組み、環境保全と経済成長を同時に実現させようとするものです。

2050年カーボンニュートラルイメージ写真

グリーントランスフォーメーションとカーボンニュートラルの違い

カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引いて、排出量を実質ゼロにすることを指しています。カーボンニュートラルは脱炭素社会を目指すもので、ここに社会システムの変革や経済成長の意図は含まれていません。

GXは環境問題の課題解決だけにとどまらず、取り組みを進める中で社会を変えていくという、カーボンニュートラルを包括した持続可能な未来への成長戦略と捉えることができます。


SDGsの課題との関係性

17のゴールで構成されるSDGsは、脱炭素に限らず貧困や教育、ジェンダー平等など多様な課題を含んでいます。この中でGXと直接関わるのが、目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」です。また、気候変動への対策のひとつが脱炭素による地球温暖化の抑制であることから、目標13「気候変動に具体的な対策を」、GXによって経済成長と新たな雇用が生み出されることになれば、目標8「働きがいも経済成長も」も関連するでしょう。

世界が抱える課題は、それぞれが独立して存在するものではありません。GXに取り組む過程の中でも、環境だけでなく街、雇用、教育、福祉などさまざまな課題を同時に解決していく必要があります。GXは、SDGs達成に向けた取り組みにおける横断的なテーマのひとつだといえるでしょう。

なぜ注目を集めているのか

・地球温暖化による影響の深刻化

世界の温室効果ガス排出量は、2030年から2050年には、急速かつ大幅に削減が続くと予測されるものの、2020年末までにこれまで以上の政策強化をしなければ、21世紀末の世界の平均気温は20世紀末と比べ2.2~3.5℃上昇すると想定されています。(IPCC第6次評価報告書

地球温暖化が進み、豪雨や大規模な山火事、干ばつなど、世界中で自然災害が頻発していることはご存じの通りです。これらは食料や資源の不足、物流機能の遮断、住環境の悪化など世界にさまざまな悪影響を及ぼしています。経済を発展させながら安心して暮らしていくために、GXの推進は世界中で緊急課題となっています。

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・世界中で表明されるカーボンニュートラル宣言

日本政府は、成長戦略の一環としてGXの実現を掲げています。2020年、菅内閣総理大臣(当時)は所信表明演説において、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言しました。そしてその実行策として「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」をまとめ、対策が不可欠で成長が期待される14の重要分野を設定しました。

グリーン成長戦略は、経済と環境の好循環を実現させるための施策として、DXとともに認知されるようになり、2022年には岸田内閣が「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を閣議決定しました。その中で、GXを重要投資分野として位置づけ、今後10年間に官民協調で150兆円規模の投資を実現することを示し、目標へ挑戦する企業への後押しとしています。

世界でもカーボンニュートラルを表明する国が急増しており、そのGDP総計は世界全体の約90%を占めるといわれます。またGX投資の推進に向けた取り組みも始まっており、EUでは官民協調で10年間に約140兆円程度の投資を目標にした支援策を、米国では10年間で約50兆円程度の国による対策を決定。GXは今や企業や国家の成長と競争力に必要不可欠なものであると認識されているのです。

では次に、日本政府のGX推進への取り組みについて見ていきましょう。

経済産業省主導による政策

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

「2050年カーボンニュートラル」を踏まえ、その実現のために経済産業省が策定したのが「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」です。

このグリーン成長戦略は、気候変動への対応を経済と環境の好循環につなげていく産業政策であり、これに積極的に取り組む民間企業の挑戦を政府が応援するための施策です。洋上風力・太陽光・地熱産業、水素・燃料アンモニア産業、自動車・蓄電池産業など、今後成長が期待される14の分野を設定し、分野を横断する政策ツールとして、2兆円のグリーンイノベーション基金の創設やカーボンニュートラルに向けた投資促進税制などが用意されています。

カーボンニュートラルの本質は企業と人々の行動の変革である、という考えから、実現後の国民生活のメリットが表記されていることも特徴です。

洋上風力発電イメージ写真

GXリーグ

2022年、経済産業省が設立を発表した「GXリーグ」は、2050年のカーボンニュートラル実現と社会変革を見据え、「GXヘの挑戦を行い、現在および未来社会における持続的な成長実現を目指す企業」が、同様の取り組みを行う企業群と連携し、官・学と共に協働する場、とされています。

GXリーグがどのような世界観を目指し、どのような企業群と一緒に取り組んでいくか基本方針を示したものが「GX リーグ基本構想」です。GXリーグに参画する企業には、 1.自らの排出削減への取り組み 2.サプライチェーンでの炭素中立に向けた取り組み 3.市場のグリーン化を牽引する ことを求め、2023年1月31日までに679社の企業から賛同を得たことが公表されています。

岸田内閣の取り組み(GX実行会議)

GX実行会議は、2022年7月に岸田内閣総理大臣を議長として設置され、2022年12月まで5回にわたり開催されました。

世界共通の課題として脱炭素を掲げる国が増えている中、2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、世界のエネルギー事情を大きく変えてしまいました。こうした状況下、エネルギーの安定確保と経済成長を実現するために、GX実行会議を経て2023年2月に閣議決定されたのが「GX実現に向けた基本方針」です。

この中で提示されているのは、主に2つの取り組みです。ひとつは、エネルギーの安定確保を大前提とした省エネの推進、再生可能エネルギーの主力電源化、原子力の活用。もうひとつは、「成長志向型カーボンプライシング(CP)構想」の実現と実行です。

「カーボンプライシング(CP)」は企業などの排出するCO2に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるための政策手法です。この成長志向型CP構想では、炭素排出に値付けすることでGX関連製品や事業の収益性を向上させ、投資を促進することを見込んでおり、今後10年間に官民協調で150兆円規模のGX投資を実現するための具体策として示されています。

GXと投資

ESG投資の広がりも、GXが注目されている要因のひとつです。

ESGはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)の3つから成る、企業が持続可能な成長を目指すうえで重要とされる要素です。ESG投資は、財務状況だけでなくこの3つの要素に配慮した企業に対して投資を行うことをいいます。

2020年の世界のESG投資総額は35兆3千億ドルに達し、2018年から15%増加したとされ、今後も増加することが予想されます。環境や社会への意識が低い企業は、株価の下落が懸念されることから、ESGと密接に関わるGXに注目が集まっているのです。

ESG投資の参考になるものとして、世界ではさまざまな評価基準が設けられています。

・カーボンディスクロージャープロジェクト(CDP)

CDPは、英国の非営利団体が管理する、企業や地方自治体が自らの温室効果ガス排出量、気候変動への対策や温室効果ガスの排出量などの情報を自主的に開示することを求めるプロジェクトです。CDPに参加する企業は、情報を公開することで投資家や消費者からの信頼を得ることができ、投資家にとっても企業価値を測る指標のひとつとなります。

・自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)

TNFDは、自然に関する企業のリスク管理と開示のフレームワークを構築するため、2021年に設立された国際組織です。世界的な事業活動を展開している企業を中心に、TNFDの枠組に基づいた情報開示が進むことが期待されており、投資判断の助けとなると思われます。

・インターナルカーボンプライシング(ICP)

カーボンプライシング(CP)は政府が進める「GX実現に向けた基本方針」にも登場することばですが、日本語では「炭素の価格付け」という意味になります。企業が行うCPをICPと呼び、企業が自主的に二酸化炭素排出量を見える化して価格付けを行うことを指します。ICPは企業脱炭素経営に役立つとともに、投資家へアピールするための手段ともなります。

・サイエンスベースドターゲット(SBTi)

SBTiは、世界資源研究所(WRI)、国連グローバル・コンパクトにより設立され、企業が温室効果ガスの排出をどのくらい抑えれば気候変動の影響を抑えることができるのかなど、科学的根拠に基づいた炭素排出削減目標設定を支援する組織です。脱炭素へ向けた自主的な取り組みを促進し、適合していると認められた企業は認定を受けることができます。

・EUタクソミー

EUが独自に開発した分類システムで、企業の経済活動が地球環境にとって持続可能であるかを識別するために使用されます。「気候変動の緩和」「気候変動への適応」「水資源の持続可能な使用と保護」「サーキュラーエコノミーへの移行」「環境汚染の防止と制御」「生物多様性と生態系の保護と回復」の6つを目標とし、投資判断を行う際の基準をとして提供しています。

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GXと企業

企業戦略とGX

企業にとって、GXへの取り組みはコスト低減以外にも企業活動の活性化やイメージの向上、人材確保が容易になるなどのメリットをもたらす可能性を持っています。

・コストの低減

再生可能エネルギーへの取り組みによって、これまで必要だった光熱費や燃料費などを削減することができます。また自社で再生可能エネルギーの生産が実現すれば、他社へ販売することもできます。再生可能エネルギーへの転換は初期投資が必要になるため、短期的にはコストが高くなってしまう課題もありましたが、近年政府が積極的に支援に乗り出していることもあり、新エネルギーの低コスト化が想定されています。

・企業活動の活性化やイメージの向上

地球環境に配慮しながら、同時に成長も期待できることは、企業にとって大きなメリットです。再生可能エネルギーによってコストの削減が叶えば、その費用を新たな事業に投資して成長を目指すこともできるでしょう。また取り組みを公表することで企業へのポジティブなイメージが認知されれば、投資家や消費者に対するブランドイメージが高まります。

・人材確保が容易に

企業がGXに取り組むことで認知度や期待値が高まれば、その企業で働きたいと願う求職者も増え、人材確保のための費用も抑えることができます。また、企業の考えに賛同して入社した人材は、離職率が低くなることも期待できます。

中小企業とGX

気候変動へのリスク管理や新しいビジネスチャンスと捉えて、GXへの取り組みを検討する中小企業も増えています。そして政府は企業に向けた補助金や税制の整備、革新的な技術等が正しく評価される環境整備など、さまざまな支援策を用意しています。

しかし、GDXリサーチ研究所編によるレポートでも示されているように、特に中小企業ではまだ充分にGXに取り組めていないことが課題となっています。GXの取り組みにはより専門的な知識や技術が必要になることもあり、「どうやって進めればいいか分からない」「対応する人材が不足している」などの問題点が挙げられています。

今後も世界中で加速していくと予想されるGXへの取り組みには、国や自治体によるサポートや情報共有の仕組みづくりが求められています。企業側も、自社がGXに取り組む意義や手段を検討し直し、積極的に進めようとする姿勢が必要となるでしょう。

企業の取り組み事例

Appleの事例

Appleは、使用する電力を100パーセント風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーでまかなっていることで知られています。また2022年には世界各地のサプライヤーに脱炭素の取り組みを早めるよう要請しており、2030年までに自社製品の生産や利用を通じて排出する二酸化炭素排出を実質ゼロにすることを掲げています。

再生可能エネルギーの利用の他にも、低炭素の再生材料を使用した製品デザインや、エネルギー効率の拡大、二酸化炭素除去のための自然ソリューションの保護など多面的に取り組んでいます。

日産自動車の事例

EV自動車のパイオニアである日産自動車は、EV自動車の普及や電動化によるソリューション提供を通じ、2018年より環境や交通の課題を解決するための「ブルー・スイッチ」活動に取り組んでいます。

具体的には、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーのみでEVの充電を目指す取り組みや、EVで訪れる観光客への優遇策を通じた観光促進と地域活性化、地方におけるオンデマンド乗合EVタクシーの導入などがあり、その取り組みは多岐に渡ります。

ユニ・チャームの事例

衛生的で便利な商品・サービスの提供と、地球環境への貢献、両方の実現を目指し、環境配慮型の製品開発や再生可能エネルギー比率を100%にすること、商品のリサイクルの推進などに取り組んでいます。

特に「紙おむつメーカーが果たすべき責任」という考えから、回収した使用済み紙おむつを洗浄・分離し、独自のオゾン処理によって未使用と同等の衛生的で安全なパルプとしてリサイクルするシステムを実現。2022年には介護施設向けの紙おむつ商品の材料として一部実用化されています。

GXと自治体

地域経済を担う中小企業の存在は、GX推進にとっても重要です。政府の中小企業への支援としては、低利融資制度や脱炭素アドバイザー資格認定制度など、さまざまな制度が用意されています。

ただ大企業と比べてGXへの取り組みが十分に進んでいないとされる中小企業に対しては、政府だけでなく、自治体レベルでの支援も欠かせないでしょう。地域の企業がGXを新たな成長の機会と捉え挑戦できるよう、各自治体における助成金制度や支援体制の構築も進められています。

自治体の取り組み事例

静岡県浜松市の事例

浜松市では、原油価格や物価高騰の影響によるコスト増に直面している中小企業に向け、2022年に「浜松市中小企業等グリーントランスフォーメーション支援補助金」の申請を受け付けました。これは、省エネルギーとコスト削減につながる製品等を事業者が購入することで、カーボンニュートラルに対する今後の取り組みを促すことが目的とされています。

上限金額を200万円とし、温室効果ガス排出量診断や空調等配管のエア漏れ点検など、温室効果ガス排出量の見える化を補助するほか、老朽化した設備の更新、省エネ機器導入の費用を補助するなどの支援メニューが用意されました。

福岡県北九州市の事例

再生可能エネルギー100%の電力の地産地消や、第三者所有方式によるPV・EV・蓄電池などの導入、中小企業の脱炭素化など、産官学が連帯してエネルギーの脱炭素化とイノベーションの推進に取り組んでいるのが北九州市です。

市民一人ひとりの脱炭素アクションを促進する「KitaQ Zero Carbonプロジェクト」の実施や、「アジア低炭素化センター」を中心とした脱炭素まちづくりノウハウの海外マーケット展開など、積極的な活動を続けています。

滋賀県米原市の事例

米原市では、企業と自治体が一体となって農山村の脱炭素に取り組んでいます。「ECO VILLAGE構想」では、耕作放棄地に太陽光発電設備を設置し、地域課題を解決しながら脱炭素を図る取り組みを進めています。

また農業と太陽光発電を両立させるソーラーシェアリングは、土地を有効に活用し、食糧問題と環境問題を同時に解決できるとして注目されています。さらにAI・IoTなどを実装した環境配慮型園芸施設により、障がい者などが農業分野で活躍できる「農福連携」、女性や若者が活躍できる魅力ある雇用創出などを目指しています。

太陽光発電イメージ写真

今後の課題

GXは政府が両軸で考えているDXと比較するとまだ注目度は低く、さらに効果検証が難しいなどの課題もあります。中小企業の項でも挙げたように、専門知識を持つ人材の育成や資金の確保などに、国や自治体のサポートは欠かせないでしょう。

さらに課題として指摘されていることのひとつに、財源の問題があります。政府は、今後10年で投資するとした150兆円のうち、20兆円を新たな国債「GX経済移行債(仮称)」による調達を検討しています。これは将来、国民の負担になってしまう可能性もあり、脱炭素と経済成長がどの程度達成されるかが問われることになるでしょう。

いずれにしても、2020年のカーボンニュートラル宣言からロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー情勢の変化を経て、今後GXの具体的な取り組みはさらに加速していくと考えられます。初期投資のコストや人材不足などの課題もありますが、世界で成長を続けていくために、いまが向き合わねばならない機会と捉え、真剣に検討すべきテーマであることに間違いないでしょう。

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

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SDGsの基礎知識