SDGsアクションプラン2023とは? 概要と2022年からの変化を解説

2023年06月26日

SDGsの目標に対し、優先課題分野ごとにどう取り組むのかを政府がまとめた「SDGsアクションプラン」。その年の状況を踏まえ、毎年アップデートされています。本記事では、ポストコロナ、ウクライナ侵攻、気候変動など多くの課題を抱えるなかで新たに加えられた内容を中心に、アクションプランを見ていきます。

SDGsアクションプランとは

SDGs実施指針に基づき、SDGs達成に向けた政府の具体的な施策をとりまとめたものが、SDGsアクションプランです。2018年版から毎年更新され、それまでの施策を継続しつつ特にその年に重点的に取り組む内容が示されています。

SDGs実施指針は、SDGsの目標を達成するための中長期的な国家戦略として位置づけられているもので、日本独自の取り組みの柱として次の8つの優先課題を掲げています。

①あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
②健康・長寿の達成
③成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
④持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備
⑤省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
⑥生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
⑦平和と安全・安心社会の実現
⑧SDGs 実施推進の体制と手段

これらはSDGsの17のゴールと169のターゲットのうち、日本が特に注力すべきものと位置づけられます。また各優先課題は、それぞれ2030アジェンダに掲げられている以下の5つの「P」に対応しています。

People 人間:多様性ある包摂社会の実現とウィズ・コロナの下での取組
①あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
②健康・長寿の達成

Prosperity 繁栄:成長と分配の好循環
③成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
④持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備

Planet 地球:人類の未来への貢献
⑤省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
⑥生物多様性、森林、海洋等の環境の保全

Peace 平和:普遍的価値の遵守
⑦平和と安全・安心社会の実現

Partnership パートナーシップ:官民連携・国際連携の強化
⑧SDGs 実施推進の体制と手段

SDGsの17のゴールと169の解決すべき課題は、それぞれ個別にではなく包括的に取り組む必要があるのと同じく、SDGs実施指針における8つの優先課題も「欠けるものがあってはビジョンは達成されない」という認識で取り組むことが示されています。

SDGsアクションプラン2023の基本的な考え方

SDGsアクションプランは、2018年版から毎年更新される形で発表されています。そのため、目まぐるしく変わる世界情勢の大枠を把握したり、日本の政策がどこを向いているのかを確認したりするときにも役立ちます。

初めに「SDGsアクションプラン2023」の作成に当たっての基本的な考え方を見てみましょう。

まず冒頭で現在の状況について、
「2015年に策定され、2030年を達成年限とする持続可能な開発目標(SDGs)の『中間年』を迎える今、世界は歴史的な分水嶺に立ち、新たな挑戦に直面している。新型コロナウイルス感染症、気候変動に加え、ロシアによるウクライナ侵攻、食料やエネルギー安全保障問題などが相互に結びつき、これまでにないほど多くの人々の安全が脅かされている」
と説明しています。

日本のSDGsの認知率や達成度については、国内における「SDGsの認知率が8割を超えている」というデータがある一方、「日本のSDGs達成度は世界19位」に留まっているとし、「特にジェンダーや気候変動、海洋資源、陸上資源及び実施手段について、引き続き大きな課題がある旨指摘されている」ことが記されています。

また今回のアクションプランのポイントとして、これまでになかった「GX」の概念が組み込まれたことがあげられます。本文中では次のように記されています。

「成長と分配を共に高める『人への投資』、科学技術・イノベーションへの投資、スタートアップへの投資、グリーントランスフォーメーション(GX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)への投資を柱とする新しい資本主義の旗印の下、民間の力を活用した社会課題解決に向けた取組を推進すると同時に、多様性に富んだ包括的な社会の実現、一極集中から多極化した社会を作り、地域を活性化する必要がある」

「投資」という文言も、2022年にはESG投資やインフラ投資、エネルギー分野への投資などの文脈で用いられていましたが、今回改めて4つの重点投資分野を明確に示しています。
2022年に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、人への投資、科学技術・イノベーションへの投資、スタートアップへの投資、GX及びDXの4本柱を重要投資分野として位置づけており、それが反映された形となっています。

基本的な考え方は、
「SDGsの達成に向けた取組を加速化するとともに、新しい資本主義の下、『誰ひとり残さない』持続可能な経済社会システムを作り挙げていく」
と、締られています。

2022年には「取組を加速する」とのみ書かれていましたが、今回は「経済社会システムの構築」が加えられています。アクションプラン2023の副題に、「SDGs達成に向け、未来を切り拓く」とあるように、持続可能な成長のためには、経済社会システムの変革が必要であるという考えが明示されたといえそうです。

2022年アクションプランからの変更点

それでは次に、8つの重点課題分野ごとに、新たに追加された内容を見ていきましょう。なおSDGsアクションプランは、特に重点的に取り組むものとして記載されていますが、以前から継続的に実施されている案件は記載がなくとも引き続き推進される予定であるとしています。


People人間:多様性ある包括社会の実現とウィズ・コロナの下での取組

①あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現

今回新たに追加されたのが「ビジネスと人権」についての内容です。

「『ビジネスと人権』に関する行動計画の着実な実施を通じ、企業に対し『ビジネスと人権』に関する認識を高め、日本企業の人権デュー・ディリジェンス推進に向けて取り組む。また、日本企業進出先国の政府による責任ある企業行動実現に向けた取組を促進し、グローバル・サプライチェーンにおける労働者のディーセント・ワークの実現を支援する。(中略)国際社会を含む社会全体の人権の保護・促進に貢献し、日本企業の企業価値と国際競争力の向上及びSDGs達成への貢献を図る」


人権デュー・ディリジェンスとは、企業活動における人権への影響の特定、予防・軽減、対処、情報共有を行うことを表します。2011年に国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が支持され、G7やG20で行動計画への言及が行われるなど、国際的な要請が高まっています。投資家からの求めという背景もあり、企業自らが、人権に関するリスクに対応する必要性が重要視されています。日本では2020年に「ビジネスと人権」に関する行動計画が策定されています。

「ビジネスと人権」に関する行動計画

また2022年には、目指すべき外国人との共生社会のビジョンを示した「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」が各閣議決定されており、
「我が国の目指すべき外国人との共生社会のビジョン及びその実現に向けて、(中略)政府一丸となって外国人との共生社会の実現に向けた環境整備を一層推進していく」
ことも追加されています。

外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ

②健康・長寿の達成

この項目では、次の内容が追加されています。
「グローバル・ファンド、Gavi、GHIT、UNITAID 等の官民連携基金を通じた貢献や二国間支援を通じて、新型コロナ対策を継続するとともに、(中略)将来の健康危機に備えるための強靱かつ持続可能な保健システムの構築へ貢献する」
実際に追加されたのが、以下の項目です。

  • 将来への健康危機の予防・備え・対応の強化に向けた、「グローバルヘルス・アーキテクチャーの構築・強化、新たなヘルスイノベーションの促進」への貢献。
  • 「今後の新興感染症等の発生時に備えた体制を強化するため」の施策の推進。「ワクチン・治療薬等の公衆衛生に関わる研究開発の推進」また「司令塔機能の強化、日本版 CDC の創設」への取組。
  • 「日本の医療製品・医療技術を用いて低中所得国の人材育成」を行い、「母子保健や感染症への対応等を含む相手国の公衆衛生水準及び医療水準の向上」への貢献
  • 「パンデミックに対する予防・備え・対応のための基金(Pandemic Fund)」の適切な執行

2022年版と比較し、項目が追加されてより具体的に記されています。また日本はもとより、世界の人々への日本の役割も盛り込まれていることが特徴です。新型コロナウイルスの感染拡大を経験し、2022年には政府から「グローバルヘルス戦略」が策定されました。ここではグローバルヘルス・アーキテクチャーの構築とともに、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC:全ての人が、効果的で良質な保健医療サービスを負担可能な費用で受けられること)の達成が急がれています。

グローバルヘルス戦略


Prosperity 繁栄:成長と分配の好循環

③成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション

2022年のアクションプランでは、成長と分配の好循環の起爆剤として、「デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーン分野の成長を含めた科学技術立国を推進し、イノベーション力を抜本的に強化する」とありました。

2023年版では、すでに紹介したように「デジタルトランスフォーメーションと、科学技術・イノベーション、スタートアップ、グリーントランスフォーメーション(GX)の四分野に重点を置いて、官民の投資を加速させる」ことが示されています。

新たに追加された内容に、次の文言があります。

  • 日本企業と海外スタートアップ等とのオープンイノベーションや若手研究者等によるビジネスシーズ創出を推進する
  • 我が国中堅・中小企業、現地日系企業やスタートアップ等の途上国等への進出・ビジネス展開を支援する
  • 地方公共団体によるSDGs達成に向けた取組を促進するため、地方公共団体職員を対象とした人材育成を行う

これらが示すように、スタートアップやイノベーション、人材への投資に重点が置かれていることがうかがえます。

④持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備

気象災害については
「激甚化・頻発化し、南海トラフ巨大地震等の大規模地震の発生が切迫する中」
と危機感を強めており、
「国民の生命・財産を守り、災害の被害に遭う方を一人でも減らすため、5か年加速化対策を推進するとともに、2023年夏を目途に新たな国土強靭化基本計画を策定し、中長期的かつ継続的に、防災・減災、国土強靭化に取り組む」
と、より積極的な姿勢を示しています。

国土強靭化基本計画が閣議決定されたのは2014年で、継続して取り組みが行われている分野ですが、
「デジタル等新技術の活用や官民の連帯強化により、防災・減災、国土強靭化の取組の加速化・深化を図り、災害に強い国づくりを強力に推進する」
と、より強く表現されています。


Planet 地球:人類の未来への貢献

⑤省・再生可能エネルギー、気候変動対策、循環型社会

この項目ではまず、
「温暖化への対応は経済成長の制約はなく、積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要」
と、経済と環境の好循環を作り出すことが必要であることを示しています。

また次のように、GXについての内容が追加されています。

「経済・社会・産業の大変革であるGX推進に向けて、『GX実現に向けた基本方針』に基づき、成長志向型カーボンプライシング、規制・支援一体型の投資促進策、トランジション・ファイナンス、アジア・ゼロエミッション共同体構想などの必要な施策を着実に実行していく」

「成長が期待されるグリーン分野で、日本のアカデミアが強みを持つ重要技術領域において、革新的GX技術創出に向けた大学等の基盤研究開発と将来技術を支える人材育成を推進する」


⑥生物多様性、森林、海洋等の環境保全

2022年版で多く言及されていた海洋プラスチックごみ対策については、2050年までにゼロにすることを目指す「大阪ブルーオーシャン・ビジョン」を主導するとしています。
さらに、主に2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」に言及しており、「2030 年までに陸域・海域の 30%以上の保全(30by30 目標)実現に向けた取組を推進」していくことが記されています。

以下も新たに追加された内容です。
「国立公園の保護と利用の好循環を通じて、優れた自然を守りつつ、地域活性化を図るため、関係省庁や関係地方公共団体との連帯の下、国立公園満喫プロジェクトに取り組み、美しい自然の中での感動体験を柱とした滞在型・高付加価値観光を推進する」


Peace 平和:普遍的価値の遵守

⑦平和と安全・安心社会の実現

この項目では、まず「紛争、気候変動、新型コロナ、ロシアによるウクライナ侵攻に起因する食料・エネルギー価格の高騰等の影響」など世界の人道状況に触れ、「必要な緊急人道支援を提供するとともに、国連機関、開発機関等様々なアクターと強力して、人間の安全保障の観点から、平和構築・復興支援・地域の安定のため人道・開発・平和の切れ目のない支援を継続する」としています。

さらに子どもに対する暴力撤廃のため、
「スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置充実、SNS等を活用した相談体制の整備推進等により、地方公共団体におけるいじめ問題等への対応を支援するとともに、グローバルな取組にも参画する」
と具体的な内容が追加されています。

「総合法律支援の充実や日本法令の外国語訳等により、国際取引の円滑化や外国人を含む全ての人の司法アクセスの確保を図る」
も新たに追加された内容です。


Partnership パートナーシップ:官民連携・国際連携の強化

⑧SDGs実施推進の体制と手段

この項目では、次の内容が追加されています。

「国際情勢が大きく変化する中、外交の最も重要なツールの一つであるODAの一層の戦略的活用を図る観点から、2023年前半を目途に開発協力大網を改定する。SDGsも掲げる国際目標であるODA実績の対GIN比0.7%の達成を目指すとともに、ODAの質量の更なる拡充を図り、途上国のSDGs達成に向けた取組を後押しする」

これを受けて、2023年6月に新たな「開発協力大綱」が閣議決定されました。見直された重点政策として以下の2点が挙げられます。

  • 新しい時代の「質の高い成長」(途上国の喫緊の課題である気候変動・保健・人道危機等に加え、デジタルや食料・エネルギー等経済強靭化にも取り組む)
  • 法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化(自由で開かれたインド太平洋(FOIP)実現のための取組推進を明記)

開発協力大綱

SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」のターゲットとして、「先進国は、開発途上国に対するODA(政府開発援助)をGNI(国民総所得)比0.7%にする」という目標が掲げられています。

SDGsアクションプラン2023では、SDGs達成のためには各国・地域や国際機関との連帯強化が不可欠であることが、より強く示されています。


以上、SDGsアクションプランについて2022年版からの変更点を中心に説明してきました。
今回特に目をひいたのは、人、GX・DX、科学技術・イノベーション、スタートアップへの投資などの関する追加です。また、日本だけでなく世界と連帯してSDGsに取り組むという姿勢も強く打ち出されていました。

ビジネスの視点で見ると、アクションプランの中から自社のビジネスと関わる項目を見つけ、企業戦略に取り入れていくことが、SDGsの達成にも企業の成長にとっても極めて重要になってくるでしょう。SDGsアクションプランを、SDGsに取り組むための具体的な指針としてご活用ください。

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筆者プロフィール
講談社SDGs編集部

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SDGsの基礎知識